4 / 15
メインストーリー
あいつは牧師
しおりを挟む
俺は重たい足取りで、目的地に向かう。どうしたらいい。だって、女体変幻ができないのに…男を興奮させて、絞りとらなきゃならないんだろ?絶望的じゃん。
ぱらり、と書類を捲る。イヴァンという名の横に、顔写真と経歴が載ってる。黒髪の好青年がカソックをきて、ふんわりと微笑んでいる写真が目に入る。はん、腑抜けた顔だ。魔界じゃこんな笑顔…いや、他の人間だってこんな顔しねぇよ。
「はーぁ、どうするかな。」
男は環境に恵まれてて、親子関係も友人関係も良好。ある日自分の人生の指標になるものはないかと、数々の宗派を辿る。そしてたまたま本物の神様を信仰してる宗教にたどりついた。教会の洗礼を受けて、今は小さな村の牧師をしているらしい。
教会本部自体は…免罪符交付で信者からの信仰心を失くしたし……中枢神官どもも汚職まみれなのに……なんでそんなとこに入会したんだこの坊ちゃんは……。
村の外へ行く道を進むと、少し古臭い蔦の絡んだ教会にたどり着く。日はすっかり落ちてあたりは暗くなっていた。教会のドアの手すりを握り、手を離す。手が震えていた。
ハードルたけぇよ!だって、初めてなんだぞ男を襲うの!
男の人間に化け、教会の戸の前に居座る。「ベッドにそのまま転送もできるよ」という社長の提案を断ったことをオレは今更ながら後悔した。すぐベッドに潜って、拒否られちゃいましたーつって帰ってくりゃよかったんだよ…。
びゅぅ、と風が吹き荒ぶ。夜はすっかり冷え込んで、座り込んだ石畳は俺から熱をじわじわ奪っていった。
ーー
「だ…か…。大丈夫か」
「ん、んぅ?」
肩を揺すられ目を開くとあの黒い髪の人がこちらを覗いていた。和かな笑みはそのままだったが……写真では黒いだけだと思った瞳は、近くで見ると青い色がさしている。黒髪の男が持っていた燭台の柔らかな光が、彼の瞳に入ると朝焼けの空にそっくりになった。
「なぜ、ここに…」
「ん、綺麗な目」
近づいてきた男にそういうと、彼は一度目を見開いてパチクリとした。くくっと喉から笑いが漏れる。オレの一声で、目の前の難攻不落な不能男が表情を変えたってだけで優越感っていうの?愉快だった。
「…っ? 寝ぼけてないで答えて欲しい。あなたは、行く宛がないのか?」
「寒い。ね、あんたの部屋に連れてってよ」
「……。立てるか?」
差し出された手を握り、石畳にあぐらを組んでいた脚を動かそうとする。が、痺れてうまく動かない。
「ダメ、しびれてる。ね、あんただっこして連れてってよ。」
ねぇ、と再度甘えるような声を出して男に擦り寄る。
「悪魔も足が痺れるのか」
「へ」
ぎくりと体が跳ね、自分の頭に両手を当てる。ツノは生えてない。尻尾も生えてない。なのに、どうしてこいつはオレが悪魔の類だってわかったんだ。寝ぼけていた頭が急に冴え渡る。
男がオレに手を伸ばす。さっきまで、普通に握ってた手が怖くなった。『死神が消された』って、社長の言葉を思い出してしまったから。
「っごめん!オレ何も悪いことしない、消さないで」
思わず目を閉じる。降伏して、そんでもしまだ絡んでくるようなら殴る…いや、悪意持った行動をとったら消されるんだっけ?どうする、脚はまだ動かないのに。そうこうしてるうちに、牧師はオレの手を握った。
「…わたしは、あなたに危害を与えない。」
牧師の手は凸凹としていて、しかし暖かかった。冷たく赤くなったオレの指先を牧師は両手で包んだ。
「あなたは凍えていて、心まで乏しく貧しい気持ちになっているだけだ。暖をとって、安らいだら、話を聞かせてくれるか?」
オレと牧師を照らしていた燭台の火が、夜の風に吹かれて消えてしまった。オレはゆっくり頷くと、牧師の手を握り返した。
ぱらり、と書類を捲る。イヴァンという名の横に、顔写真と経歴が載ってる。黒髪の好青年がカソックをきて、ふんわりと微笑んでいる写真が目に入る。はん、腑抜けた顔だ。魔界じゃこんな笑顔…いや、他の人間だってこんな顔しねぇよ。
「はーぁ、どうするかな。」
男は環境に恵まれてて、親子関係も友人関係も良好。ある日自分の人生の指標になるものはないかと、数々の宗派を辿る。そしてたまたま本物の神様を信仰してる宗教にたどりついた。教会の洗礼を受けて、今は小さな村の牧師をしているらしい。
教会本部自体は…免罪符交付で信者からの信仰心を失くしたし……中枢神官どもも汚職まみれなのに……なんでそんなとこに入会したんだこの坊ちゃんは……。
村の外へ行く道を進むと、少し古臭い蔦の絡んだ教会にたどり着く。日はすっかり落ちてあたりは暗くなっていた。教会のドアの手すりを握り、手を離す。手が震えていた。
ハードルたけぇよ!だって、初めてなんだぞ男を襲うの!
男の人間に化け、教会の戸の前に居座る。「ベッドにそのまま転送もできるよ」という社長の提案を断ったことをオレは今更ながら後悔した。すぐベッドに潜って、拒否られちゃいましたーつって帰ってくりゃよかったんだよ…。
びゅぅ、と風が吹き荒ぶ。夜はすっかり冷え込んで、座り込んだ石畳は俺から熱をじわじわ奪っていった。
ーー
「だ…か…。大丈夫か」
「ん、んぅ?」
肩を揺すられ目を開くとあの黒い髪の人がこちらを覗いていた。和かな笑みはそのままだったが……写真では黒いだけだと思った瞳は、近くで見ると青い色がさしている。黒髪の男が持っていた燭台の柔らかな光が、彼の瞳に入ると朝焼けの空にそっくりになった。
「なぜ、ここに…」
「ん、綺麗な目」
近づいてきた男にそういうと、彼は一度目を見開いてパチクリとした。くくっと喉から笑いが漏れる。オレの一声で、目の前の難攻不落な不能男が表情を変えたってだけで優越感っていうの?愉快だった。
「…っ? 寝ぼけてないで答えて欲しい。あなたは、行く宛がないのか?」
「寒い。ね、あんたの部屋に連れてってよ」
「……。立てるか?」
差し出された手を握り、石畳にあぐらを組んでいた脚を動かそうとする。が、痺れてうまく動かない。
「ダメ、しびれてる。ね、あんただっこして連れてってよ。」
ねぇ、と再度甘えるような声を出して男に擦り寄る。
「悪魔も足が痺れるのか」
「へ」
ぎくりと体が跳ね、自分の頭に両手を当てる。ツノは生えてない。尻尾も生えてない。なのに、どうしてこいつはオレが悪魔の類だってわかったんだ。寝ぼけていた頭が急に冴え渡る。
男がオレに手を伸ばす。さっきまで、普通に握ってた手が怖くなった。『死神が消された』って、社長の言葉を思い出してしまったから。
「っごめん!オレ何も悪いことしない、消さないで」
思わず目を閉じる。降伏して、そんでもしまだ絡んでくるようなら殴る…いや、悪意持った行動をとったら消されるんだっけ?どうする、脚はまだ動かないのに。そうこうしてるうちに、牧師はオレの手を握った。
「…わたしは、あなたに危害を与えない。」
牧師の手は凸凹としていて、しかし暖かかった。冷たく赤くなったオレの指先を牧師は両手で包んだ。
「あなたは凍えていて、心まで乏しく貧しい気持ちになっているだけだ。暖をとって、安らいだら、話を聞かせてくれるか?」
オレと牧師を照らしていた燭台の火が、夜の風に吹かれて消えてしまった。オレはゆっくり頷くと、牧師の手を握り返した。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる