エルフに転生したら花吐き病になりまして、生薬素材のために思い人に飼われています

ひやむつおぼろ

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花吐くエルフ

三話 赤いオダマキ

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 たとえば、赤い朝焼けを見た時。

 たとえば、誰かが笑った時。

 たとえば、戦場でオレよりガタイのいい、あいつと同じ背丈の兵士を見かけた時。

「ぐ、ゲェ。」

 蹲って、小さな赤い花を吐き出すんだ。

ーー

 症状が出たのはあいつにあった日の夜のことだ。家にテレポートで帰り、寝台に乗り上げた時、不安になった。

ーー夜にあの拠点を襲うような真似をもし嫌人間思想のエルフたちがやってしまったら?あいつが死ぬのを想像して、胃がひっくり返るような気持ち悪さを感じたのだ。

 寝台にうずくまり、ゲェッと吐き出す。名前も知らない、小さな赤い花弁が口から出てくる。

「花吐き病…なんでだよ!あの後クリーンの魔法もかけたのに…。」

 間に合わなかったのか、それとも飛沫感染か、空気感染か……抗体を持ってなかったからか?わからない。戦場で恋に死んだ少年のあの苦しげな顔を思い出す。冗談じゃない。あの一瞬だけでこんな思い悩むほど好きになるわけないだろう。

 その後も、当てつけのように赤い花がゲェゲェ出てくるのだ。お前は片想いをしていると、体が、病原体が、花が、お節介にも伝えてくるのだ。

 なんで人間のあいつを?里のみんなにも人間たちにも非難されること間違いない……。……いや、ちがう、あいつは男だぞ。いつホモになっちまったんだ。

 エルフは長寿だから繁殖する必要がなく性欲が薄いと聞いていた。スピカとして生きてきて、まだ恋はしたことがなかった。同年代の女の子が周りにいなかったのもあるが……それでも男を恋愛対象にするのはおかしいだろう。

 そうあいつ男だよ。やっぱり何かの間違いだ。そう言い聞かせながら、口元を押さえる。それでも小さな花がたくさん口から漏れ出してくるものだから…オレは認めざる得なくなった。

ーー

 ある日の戦のことである。オレはあいも変わらず前線から少し離れたところで人のケアをしていた。すると、前線から少し離れた場所に、人が倒れてるのを見つける。

「耳長の低俗が私に触るな!!」

「興奮するな、動くな。血がなくなれば治癒能力も下がる。それに、他のエルフに見つかったら確実に死ぬぞ。」

 彼は意識がはっきりとしているらしく、思いっきり声を荒上げる。泥に塗れた金髪がベッタリと額に張り付いていて、息は短く荒い。

「手当をさせてくれ。」

「なぜエルフが人間の傷を癒やそうとするのだ。」

「……人間に死んで欲しくないから。血塗れでこの森に捨てられてたら……困る」

「……つまりなにか?ルドウィッカの高貴なる血が不毛の地に染み入るのを放ってはおけんということか?」

 前世に置いてきた幼馴染が、『あなるの弱そうな気の強いお姉さん?』と呪文を唱える。うるさいなこいつ。

「どんなポジティブ理論なんだ…?とにかく目の前で死なれたら夢見が悪いから手当をする。それだけだ。」

「……ふん、よかろう。近うよれ」

 口から血が垂れ腹部と胸部に刺し傷がある。金のブロンドは泥と血で染まり眉間には深い皺が刻まれている。歯を食いしばっている様子から、だいぶ体力を消耗していることがわかる。緑の瞳の焦点がたまに合わなくなっていて、満身創痍と言った様子だ。

「なんで、こんなにボロボロなのに見栄を張るんだ?お前の国のものも、今は近くにいないぞ?」

 ポーションを塗布し止血ようの包帯を巻く。

「公爵家の高貴な血の生まれである私は、いついかなる場でも気品ある態度でなければならない。それだけだ。」

「お前、貴族なのか?」

 言われてみれば、仕立てのいい服を着ている……いや、待てよ。メイルや、鎖帷子、アーマーベストもない軽装をした公爵がなぜここにいるんだ。護衛もなしに。

「お前、護衛はどうした。」

「……みなまで聞くな。私の死を望むものなど王宮を歩けば三歩でぶつかる。」

「……これからどうやって生きていくつもりだ?」

「包帯を巻くことは許したが、私の今後を詮索することを許したわけではないぞ。」

「……。」

 包帯からはもう血が滲まない。瞳孔も閉じていて、焦点もブレていない。ポーションがちゃんと効いた証であり、死にたいという願望がない証でもある。あの少年のように諦めてはいない。

「あてはあるのか。」

「口出し無用だと言ったのだが……その耳は飾りか?」

 ハハッと渇いた笑いを漏らし腹の傷に響いたのか眉を顰める。

「私は腹心からの連絡を待つ。それだけだ。」

 翠が揺らぐ。歯を思い切り食いしばり、迫り来る不安に耐えている。

「こんな森の中で野宿するつもりなのか?」

「ふん、ルドウィッカ家の時期当主様だぞ。何週間だって何ヶ月だって生き延びてやるさ。」

「……ハァ。」

 無茶なことを言っていることを自覚しているのか、震える声を抑えながら片頬だけをあげ、ニヒルに微笑む貴族様。思わずため息をついてしまった。エルフの里の周りの大きな森は、樹海と平原を繰り返すような不思議な地形をしていてエルフでさえ迷うほどだ。こんな森で人間にもエルフにも見つかることなく、腹心さんの連絡を待とうなんて無謀すぎる。

「なぁ、貴族様。オレと取引してくれないか。」





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