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陸、謝漣華は欲情する。 *R15*
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朝議が進められていく中で、漣華は胎内に息づく小さな快楽の炎に炙られて、ほんのりと顔を紅く染めていた。
それが恥ずかしくて、前を向かずに軽く顔をうつむけるようにして赤くなった顔を見られないように気を付ける。
右側には技官の長である瑯炎が並ぶ。
そしてそのまま宦官が読み上げる畏きところの方針や他の官たちからの報告をそのまま聞き流していた。
今は、とにかく何だか身体が疼く。
このまま仕事になるのだろうか。
漣華は胎内の深いところで徐々に大きくなる淫らな炎を誤魔化すべく、ぎゅっと手を握りこんだ。
そしてそのまま手のひらに爪を立てる。
すると、その痛みで少しは気がまぎれる気がするのだ。
始めはそれでなんとか誤魔化せている気がしたが、段々を胎内の炎が強くなってきている気がする。
漣華はきゅっと唇を噛み締める。
それで、もう一度胎内で荒れ狂う炎が少し小さくなった気がした。
はやく、早く。
漣華は朝議の終わりをただ待ち望んでいた。
それが永遠に続くのだろうか、と思われた時、朝議の終了を知らせる銅鑼が鳴り渡る。
漣華はそれを聞いてほっと息を吐いた。
やっと終わった。
身体の感覚を誤魔化すべく、妙に力を入れていたせいか特に足が痺れるような感覚がある。
季節は秋に差し掛かり、段々と冷えてくる時期、筋肉を緩めるように意識をすると妙に寒さが沁みてきてぶるりと身体を震わせた。
横を向くと瑯炎の顔にちょうど昇ってきた朝陽が射す。
瑯炎の目が朝陽を透かして黄金色に見えた気がして、漣華は思わず目を瞬かせる。
気のせいだろうか。
瑯炎が漣華の方を向いて、話しかけてくる。
「さ、行くぞ。仕事だ仕事」
肩に手をぽん、と置かれてそこから刹那の間忘れていた快楽の炎が再び暴れだした。
「あふぅんっ! 」
思わずしまった! と慌てて手で口元を押さえて隠すも、その声が聞こえたであろう瑯炎は目を丸くして、頭をぽりぽりと掻いた。
「お前……」
まじまじと見てくる瑯炎の視線から気まずげに顔を逸らす。
「ふぅん? 」
その様子に瑯炎はにやり、と人の悪い笑みを浮かべると、自分の頭を掻いていた手を漣華の頭にぽん、と置いて言い渡した。
「お前、俺の部屋の仮眠室で寝てろ。後で様子を見に行く」
思わぬ上司兼師匠の言葉に漣華はぽかんとした間抜けな表情を晒した。
「え?」
「え、じゃねぇ。お前、身体の調子おかしいだろ。多分ちょっと効きすぎてんだわ」
「え」
「だから抜けるまで寝てろ。そう時間は掛からんはずだ」
瑯炎はそう言うと漣華の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
「後で様子を見に行くから」
漣華の本日の予定は半分ほど白紙になった瞬間であった。
*
漣華は職場に付くと有無を言わさず瑯炎の執務室に引きずられていく。
瑯炎は漣華をそのまま執務室に繋がる仮眠室へ放り込んで寝てろ、と命じた。
「俺はこのまま近衛府に行ってくる」
瑯炎は漣華から書類の保管庫の鍵を受け取ると中から取り出した近衛府の注文内容にざっと目を通す。
そしてそのままざざっと簡単に設計図を引いて、必要な文具類をまだここに配属されたばかりの一番若い技官見習いに持たせて近衛府に赴いた。
もちろんその間漣華は寝台に放り込まれたままほったらかしだ。
どうせすぐに戻ってくることもないだろう。
漣華は何とはなしに感じていた眠気を優先させてそのまま眠りに意識を切り替え、目を瞑る。
呼吸を僅かにゆっくりと吸っては吐いて、肺の動きと腹筋の動きを睡眠の邪魔にならない程度に深いものにしていく。
これで、眠れるはずだ。
起きたらこの衝動や身体を舐めるように炙るこの炎のような熱さも消えているはずだ。
それも意識の片隅に追いやり、身体の力を抜いてひたすらゆったりと呼吸を吐く。
それを数回繰り返せば、眠れるはずだ。
いつもなら。
漣華は瞼を通して入ってくる一日のうちで最も清冽な朝陽を、徐々に黒い何かが覆い尽くして意識も何も心地よい睡眠に導いてくれるのを期待していた。
それが。
あっさりと裏切られる。
眠れないのである。
むしろ眠れるわけがない。
昨夜妓楼で飲み食いした中に薬でも盛られたのか、それとも莱玲と名乗ったあの刺激的な恰好をした按摩が使った香油に何か含まれていたのか。
眠ろうとすればするほど体の奥でちろちろと炎をあげる淫らな感覚が眠りに入ろうとするとそこから漣華の意識を引き上げるのだ。
つまり。
眠れない。
全然。
まったく。
ね む れ な い 。
漣華は熱くなった呼気を吐き出した。
諦めて、横たわった寝台の上で寝返りを打つと、先ほど髷から解いた髪が枕に散っているのが目に入る。
瑯炎がゆっくり寝てろ、と言って出て行ったので、本当に熟睡するつもりでお仕着せも脱いでしまって身に着けているのは単衣と下帯くらいだ。
身内に燻る炎は全く治まる気配がなく、身体の内を舐めている。
少しでも掛け布や敷き布が触れただけで、炎は煽られ、下帯の中で漣華の雄は簡単に天を向く。
これはもう眠るどころではない。
漣華は知らず、じわりと涙を浮かべた。
もう、どうにかしてほしい。
先ほど出て行ったばかりに瑯炎は何か中和剤的なものは持ち合わせてはいないだろうか。
漣華は後宮にも様々なものを納める技官だから、畏きところが後宮の妃嬪さま方とお楽しみになる為にお使い遊ばす道具などもそれなりに作ったことも設計したこともある。
その為に使う潤滑剤や様々な媚薬はそこは医官の管轄だから扱ったことはないが、いわゆる淫具の類は見慣れている。
だが、そう言った淫具の類は潤滑剤があって初めて役に立つのだ。
工房だから道具はあるが、それに使うものがない。
漣華は段々と強張りを増して存在を主張して来る下肢に手をやると、そっとそこに触れた。
指先で少し触れただけなのにびくんっと腰が跳ね上がる。
下帯の布が雄の先で押し上げられて張り詰め、その形が見なくてもわかるくらいにぱんぱんになっていた。
それを少し触っただけで腰から脳を灼くかと思うほどの熱を発したモノを、今度は下の方からゆっくりとそっと指先で撫でる。
それだけで脳に真っ白な雷が走った。
余りに気持ちが良すぎて刺激が強い。
もうそれ以上触れればきっと脳は灼けてしまって使い物にならないどころか、死んでしまうかもしれないと言う恐怖すら覚える。
漣華とて、独りで熱を吐き出す行為をしたことはいくらだってある。
成人に近く、それなりに健康体でいつか結婚できればいいなと思っているのだ。
可愛い気立てのいい女性と穏やかな家庭を作れたら、それはきっと幸せなのだろうと思う。
だけれど。
いずれ妻に迎える人と官能のひと時を共に過ごすのだろうけれど、漣華が想定していたのはもっと穏やかでゆったりとした優しいものだった。
こんな激しく脳が溶けるどころか灼き尽くすような激しいものではない。
漣華は途方に暮れた。
熱を吐き出せばその向こうに見える穏やかな眠りは即漣華を夢も見ない深い眠りへと連れて行ってくれるに違いない。
問題は。
このいつになく敏感に大きく膨らみきった己の臍にまで届かんとするほどに張り詰めた、雄だ。
そして先ほどから、後孔の奥底で火が点りそれが荒れ狂って孔もそこから続く二つの宝珠を含んだ袋も、さらにその先にある雄も今にも限界が来そうなのだ。
「誰か、助けてっ……!」
漣華は知らず敷き布を握りしめ、膝を曲げて腰を高く上げて、雄が敷き布と擦れないようにした。
もう触れるだけで脳が灼けて下半身が燃えてしまいそうな感覚がある。
それにいつの間にかぷくりと立ち上がった胸先に赤く色づいた小さな飾りもじんじんとした感覚を漣華に伝え、それが後孔に直結したかのように感覚が伝わってひくひくと蠢めかせるのだ。
さらにその動きも腰に快楽を矯め、脳に灼けるような快感が伝わる。
目じりに浮かんだ涙が、敷き布にぽろり、と落ちた時漣華が今朝がた耳にした声が戸惑い気味の色を含んで聞こえてきた。
「漣華どの?」
思わずはっとして身を起こすと、視界に金茶の髪が散る。
それが顔に掛かり、青狼湖色の瞳に僅かに影を落とした。
声が聞えてきた方向に目をやると、天幕の向こうに人影が見えた。
開けた扉の向こうから差し込む光で影になっていて良くは見えないが、着ている衣装を見る限りでは武官だろうか。
眩しさに目を眇め、片手で光から目を守るべく影を作ると段々と光に慣れてきた。
それを自らが開けた扉の向こうからの光のせいだと悟った人影は、扉を閉めて大股に漣華に近づいてくる。
扉から寝台までは数歩の距離しかなく、また薄闇に慣れるべく目を瞬かせた漣華の居る寝台に人影は腰かけるようにして覗き込んできた。
「どなた?」
「礼記です。今朝、お目に掛かりましたね」
そう名乗る男の低い声が耳に心地いい。
漣華はうっとりとその心地よさに目を閉じた。
「揮将軍であらせられましたか」
漣華は礼記よりも職位も身分も下に位置し、本来であればこのようなろくに衣類も纏っていない状態で会うのは失礼極まりない。
だが、状況として漣華は仮眠中だったはずでそこに許可もなく礼記は踏み込んできたのだ。
衣装の乱れなどはここは勘弁してもらわねばならない。
「どうぞ、礼記と」
なんだろうか。
礼記と呼べと言う男の声に甘さが含まれているような気がする。
漣華は、この男なら身体を灼く熱をどうにかしてくれるのではないかと本能的に思った。
この身を喰らわんとする、熱をどうにかしてほしい。
漣華の脳裏には既に目の前の男が取引先の重鎮であると言う事実すら消えている。
身の内で荒れ狂う淫らな炎は漣華から思考能力さえ奪った。
「礼記さま」
けぶるような睫毛を震わせ、青狼湖色の瞳で礼記を誘うように見る。
いまはただひたすら目の前の雄が欲しい。
「たすけて、くださいませ」
既に単衣は肌蹴て胸に色づく飾りが尖り切っているのも、単衣を漣華の雄が押し上げているのも礼記には見えているはずだ。
唇は充血して赤く色づき、今にも食べてと主張する。
きっとこの男はこの身体の熱を、欲しがるはず。
漣華には確信があった。
「いや、このような場所で」
礼記は目の前で欲情に身を灼く漣華から目を逸らす。
だが、その目は逸らしながらも漣華から結局目を逸らせずに戻しては逸らしを繰り返し、顔は赤く染まり息が浅く早くなっている。
漣華は目の前の獲物を逃すまいとぺろりと唇を舐めあげた。
そして赤く濡れた唇を見せつけるようにしながら、男の身体に触れると、電流でも走ったかのようにびくんと震える。
つ か ま え た。
漣華はどこかに残っていた冷静な部分でそう思う。
もう脳は灼けて炙られてまともな思考などほとんど残っていない。
この身体の熱をどうにかしてさえしてくれれば。
寝台から少し伸びあがって男の唇に軽く口づけを施した。
「……っ! 漣華どのっ……!? 」
礼記は慌てるが、男の心情などどうでもいい。
欲をとにかく吐き出したい。
この身を灼く熱をどうにかしてくれればあとはどうなってもいい。
「れいきさま。おねがいです」
昨夜の香油に含まれた何かの薬剤か、それとも口にしたものに含まれていたのか。
それが漣華の身体に作用し、今は理性を焼き尽くして言葉すら舌足らずだ。
それは礼記の瞳は目の前の真っ白な肌をした佳人の紅い唇だけが浮いて見えるような錯覚を起こす。
その唇が、思いもよらぬ言葉を呟いた気がした。
夢だろうか。
そう思った時。
「だいてくださいませ」
礼記の耳にも同じ言葉が聞こえた。
礼記は乱暴とも思えるしぐさで漣華を掻き抱き、その唇を貪る。
何度も方向を変え、舌を、口腔を、歯を、歯茎を。
余すところなく舐め尽くした。
「漣華どの。わたしは」
とろりと蕩けた表情の漣華の二の腕を掴み、礼記は心の内をつむいだ。
「あなたが、好きだ」
熱に浮かされたような顔、欲に溶けた瞳。
もしかすると滾る熱が去った後は漣華は泣くかもしれない。
それでもいい、と礼記は思った。
我が心のうちを目の前の佳人に知ってもらいたい。
「愛している」
その次の言葉を紡ぐかどうかのうちに、礼記の背後にあった扉が乱暴に音を立てて開かれた。
「俺の弟子に何をしている」
背中に猛吹雪のタイガが見えたのはきっと気のせいではないだろう。
欲の熱に炙られていた室内の気温が一気に下がって、礼記がすっと半分浮かれた意識を取り戻したのは、瞬時だった。
それが恥ずかしくて、前を向かずに軽く顔をうつむけるようにして赤くなった顔を見られないように気を付ける。
右側には技官の長である瑯炎が並ぶ。
そしてそのまま宦官が読み上げる畏きところの方針や他の官たちからの報告をそのまま聞き流していた。
今は、とにかく何だか身体が疼く。
このまま仕事になるのだろうか。
漣華は胎内の深いところで徐々に大きくなる淫らな炎を誤魔化すべく、ぎゅっと手を握りこんだ。
そしてそのまま手のひらに爪を立てる。
すると、その痛みで少しは気がまぎれる気がするのだ。
始めはそれでなんとか誤魔化せている気がしたが、段々を胎内の炎が強くなってきている気がする。
漣華はきゅっと唇を噛み締める。
それで、もう一度胎内で荒れ狂う炎が少し小さくなった気がした。
はやく、早く。
漣華は朝議の終わりをただ待ち望んでいた。
それが永遠に続くのだろうか、と思われた時、朝議の終了を知らせる銅鑼が鳴り渡る。
漣華はそれを聞いてほっと息を吐いた。
やっと終わった。
身体の感覚を誤魔化すべく、妙に力を入れていたせいか特に足が痺れるような感覚がある。
季節は秋に差し掛かり、段々と冷えてくる時期、筋肉を緩めるように意識をすると妙に寒さが沁みてきてぶるりと身体を震わせた。
横を向くと瑯炎の顔にちょうど昇ってきた朝陽が射す。
瑯炎の目が朝陽を透かして黄金色に見えた気がして、漣華は思わず目を瞬かせる。
気のせいだろうか。
瑯炎が漣華の方を向いて、話しかけてくる。
「さ、行くぞ。仕事だ仕事」
肩に手をぽん、と置かれてそこから刹那の間忘れていた快楽の炎が再び暴れだした。
「あふぅんっ! 」
思わずしまった! と慌てて手で口元を押さえて隠すも、その声が聞こえたであろう瑯炎は目を丸くして、頭をぽりぽりと掻いた。
「お前……」
まじまじと見てくる瑯炎の視線から気まずげに顔を逸らす。
「ふぅん? 」
その様子に瑯炎はにやり、と人の悪い笑みを浮かべると、自分の頭を掻いていた手を漣華の頭にぽん、と置いて言い渡した。
「お前、俺の部屋の仮眠室で寝てろ。後で様子を見に行く」
思わぬ上司兼師匠の言葉に漣華はぽかんとした間抜けな表情を晒した。
「え?」
「え、じゃねぇ。お前、身体の調子おかしいだろ。多分ちょっと効きすぎてんだわ」
「え」
「だから抜けるまで寝てろ。そう時間は掛からんはずだ」
瑯炎はそう言うと漣華の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
「後で様子を見に行くから」
漣華の本日の予定は半分ほど白紙になった瞬間であった。
*
漣華は職場に付くと有無を言わさず瑯炎の執務室に引きずられていく。
瑯炎は漣華をそのまま執務室に繋がる仮眠室へ放り込んで寝てろ、と命じた。
「俺はこのまま近衛府に行ってくる」
瑯炎は漣華から書類の保管庫の鍵を受け取ると中から取り出した近衛府の注文内容にざっと目を通す。
そしてそのままざざっと簡単に設計図を引いて、必要な文具類をまだここに配属されたばかりの一番若い技官見習いに持たせて近衛府に赴いた。
もちろんその間漣華は寝台に放り込まれたままほったらかしだ。
どうせすぐに戻ってくることもないだろう。
漣華は何とはなしに感じていた眠気を優先させてそのまま眠りに意識を切り替え、目を瞑る。
呼吸を僅かにゆっくりと吸っては吐いて、肺の動きと腹筋の動きを睡眠の邪魔にならない程度に深いものにしていく。
これで、眠れるはずだ。
起きたらこの衝動や身体を舐めるように炙るこの炎のような熱さも消えているはずだ。
それも意識の片隅に追いやり、身体の力を抜いてひたすらゆったりと呼吸を吐く。
それを数回繰り返せば、眠れるはずだ。
いつもなら。
漣華は瞼を通して入ってくる一日のうちで最も清冽な朝陽を、徐々に黒い何かが覆い尽くして意識も何も心地よい睡眠に導いてくれるのを期待していた。
それが。
あっさりと裏切られる。
眠れないのである。
むしろ眠れるわけがない。
昨夜妓楼で飲み食いした中に薬でも盛られたのか、それとも莱玲と名乗ったあの刺激的な恰好をした按摩が使った香油に何か含まれていたのか。
眠ろうとすればするほど体の奥でちろちろと炎をあげる淫らな感覚が眠りに入ろうとするとそこから漣華の意識を引き上げるのだ。
つまり。
眠れない。
全然。
まったく。
ね む れ な い 。
漣華は熱くなった呼気を吐き出した。
諦めて、横たわった寝台の上で寝返りを打つと、先ほど髷から解いた髪が枕に散っているのが目に入る。
瑯炎がゆっくり寝てろ、と言って出て行ったので、本当に熟睡するつもりでお仕着せも脱いでしまって身に着けているのは単衣と下帯くらいだ。
身内に燻る炎は全く治まる気配がなく、身体の内を舐めている。
少しでも掛け布や敷き布が触れただけで、炎は煽られ、下帯の中で漣華の雄は簡単に天を向く。
これはもう眠るどころではない。
漣華は知らず、じわりと涙を浮かべた。
もう、どうにかしてほしい。
先ほど出て行ったばかりに瑯炎は何か中和剤的なものは持ち合わせてはいないだろうか。
漣華は後宮にも様々なものを納める技官だから、畏きところが後宮の妃嬪さま方とお楽しみになる為にお使い遊ばす道具などもそれなりに作ったことも設計したこともある。
その為に使う潤滑剤や様々な媚薬はそこは医官の管轄だから扱ったことはないが、いわゆる淫具の類は見慣れている。
だが、そう言った淫具の類は潤滑剤があって初めて役に立つのだ。
工房だから道具はあるが、それに使うものがない。
漣華は段々と強張りを増して存在を主張して来る下肢に手をやると、そっとそこに触れた。
指先で少し触れただけなのにびくんっと腰が跳ね上がる。
下帯の布が雄の先で押し上げられて張り詰め、その形が見なくてもわかるくらいにぱんぱんになっていた。
それを少し触っただけで腰から脳を灼くかと思うほどの熱を発したモノを、今度は下の方からゆっくりとそっと指先で撫でる。
それだけで脳に真っ白な雷が走った。
余りに気持ちが良すぎて刺激が強い。
もうそれ以上触れればきっと脳は灼けてしまって使い物にならないどころか、死んでしまうかもしれないと言う恐怖すら覚える。
漣華とて、独りで熱を吐き出す行為をしたことはいくらだってある。
成人に近く、それなりに健康体でいつか結婚できればいいなと思っているのだ。
可愛い気立てのいい女性と穏やかな家庭を作れたら、それはきっと幸せなのだろうと思う。
だけれど。
いずれ妻に迎える人と官能のひと時を共に過ごすのだろうけれど、漣華が想定していたのはもっと穏やかでゆったりとした優しいものだった。
こんな激しく脳が溶けるどころか灼き尽くすような激しいものではない。
漣華は途方に暮れた。
熱を吐き出せばその向こうに見える穏やかな眠りは即漣華を夢も見ない深い眠りへと連れて行ってくれるに違いない。
問題は。
このいつになく敏感に大きく膨らみきった己の臍にまで届かんとするほどに張り詰めた、雄だ。
そして先ほどから、後孔の奥底で火が点りそれが荒れ狂って孔もそこから続く二つの宝珠を含んだ袋も、さらにその先にある雄も今にも限界が来そうなのだ。
「誰か、助けてっ……!」
漣華は知らず敷き布を握りしめ、膝を曲げて腰を高く上げて、雄が敷き布と擦れないようにした。
もう触れるだけで脳が灼けて下半身が燃えてしまいそうな感覚がある。
それにいつの間にかぷくりと立ち上がった胸先に赤く色づいた小さな飾りもじんじんとした感覚を漣華に伝え、それが後孔に直結したかのように感覚が伝わってひくひくと蠢めかせるのだ。
さらにその動きも腰に快楽を矯め、脳に灼けるような快感が伝わる。
目じりに浮かんだ涙が、敷き布にぽろり、と落ちた時漣華が今朝がた耳にした声が戸惑い気味の色を含んで聞こえてきた。
「漣華どの?」
思わずはっとして身を起こすと、視界に金茶の髪が散る。
それが顔に掛かり、青狼湖色の瞳に僅かに影を落とした。
声が聞えてきた方向に目をやると、天幕の向こうに人影が見えた。
開けた扉の向こうから差し込む光で影になっていて良くは見えないが、着ている衣装を見る限りでは武官だろうか。
眩しさに目を眇め、片手で光から目を守るべく影を作ると段々と光に慣れてきた。
それを自らが開けた扉の向こうからの光のせいだと悟った人影は、扉を閉めて大股に漣華に近づいてくる。
扉から寝台までは数歩の距離しかなく、また薄闇に慣れるべく目を瞬かせた漣華の居る寝台に人影は腰かけるようにして覗き込んできた。
「どなた?」
「礼記です。今朝、お目に掛かりましたね」
そう名乗る男の低い声が耳に心地いい。
漣華はうっとりとその心地よさに目を閉じた。
「揮将軍であらせられましたか」
漣華は礼記よりも職位も身分も下に位置し、本来であればこのようなろくに衣類も纏っていない状態で会うのは失礼極まりない。
だが、状況として漣華は仮眠中だったはずでそこに許可もなく礼記は踏み込んできたのだ。
衣装の乱れなどはここは勘弁してもらわねばならない。
「どうぞ、礼記と」
なんだろうか。
礼記と呼べと言う男の声に甘さが含まれているような気がする。
漣華は、この男なら身体を灼く熱をどうにかしてくれるのではないかと本能的に思った。
この身を喰らわんとする、熱をどうにかしてほしい。
漣華の脳裏には既に目の前の男が取引先の重鎮であると言う事実すら消えている。
身の内で荒れ狂う淫らな炎は漣華から思考能力さえ奪った。
「礼記さま」
けぶるような睫毛を震わせ、青狼湖色の瞳で礼記を誘うように見る。
いまはただひたすら目の前の雄が欲しい。
「たすけて、くださいませ」
既に単衣は肌蹴て胸に色づく飾りが尖り切っているのも、単衣を漣華の雄が押し上げているのも礼記には見えているはずだ。
唇は充血して赤く色づき、今にも食べてと主張する。
きっとこの男はこの身体の熱を、欲しがるはず。
漣華には確信があった。
「いや、このような場所で」
礼記は目の前で欲情に身を灼く漣華から目を逸らす。
だが、その目は逸らしながらも漣華から結局目を逸らせずに戻しては逸らしを繰り返し、顔は赤く染まり息が浅く早くなっている。
漣華は目の前の獲物を逃すまいとぺろりと唇を舐めあげた。
そして赤く濡れた唇を見せつけるようにしながら、男の身体に触れると、電流でも走ったかのようにびくんと震える。
つ か ま え た。
漣華はどこかに残っていた冷静な部分でそう思う。
もう脳は灼けて炙られてまともな思考などほとんど残っていない。
この身体の熱をどうにかしてさえしてくれれば。
寝台から少し伸びあがって男の唇に軽く口づけを施した。
「……っ! 漣華どのっ……!? 」
礼記は慌てるが、男の心情などどうでもいい。
欲をとにかく吐き出したい。
この身を灼く熱をどうにかしてくれればあとはどうなってもいい。
「れいきさま。おねがいです」
昨夜の香油に含まれた何かの薬剤か、それとも口にしたものに含まれていたのか。
それが漣華の身体に作用し、今は理性を焼き尽くして言葉すら舌足らずだ。
それは礼記の瞳は目の前の真っ白な肌をした佳人の紅い唇だけが浮いて見えるような錯覚を起こす。
その唇が、思いもよらぬ言葉を呟いた気がした。
夢だろうか。
そう思った時。
「だいてくださいませ」
礼記の耳にも同じ言葉が聞こえた。
礼記は乱暴とも思えるしぐさで漣華を掻き抱き、その唇を貪る。
何度も方向を変え、舌を、口腔を、歯を、歯茎を。
余すところなく舐め尽くした。
「漣華どの。わたしは」
とろりと蕩けた表情の漣華の二の腕を掴み、礼記は心の内をつむいだ。
「あなたが、好きだ」
熱に浮かされたような顔、欲に溶けた瞳。
もしかすると滾る熱が去った後は漣華は泣くかもしれない。
それでもいい、と礼記は思った。
我が心のうちを目の前の佳人に知ってもらいたい。
「愛している」
その次の言葉を紡ぐかどうかのうちに、礼記の背後にあった扉が乱暴に音を立てて開かれた。
「俺の弟子に何をしている」
背中に猛吹雪のタイガが見えたのはきっと気のせいではないだろう。
欲の熱に炙られていた室内の気温が一気に下がって、礼記がすっと半分浮かれた意識を取り戻したのは、瞬時だった。
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キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
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