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肆、謝漣華は羞恥する。 *R18*
しおりを挟む 漣華はぬるめの湯で身体がほぐれていくのを実感し、天井を見上げて息をついた。
そして目を閉じて湯船に身を預けて身体に力を抜いていく。
漣華が使う浴室はさすが最高位の太夫を張る妓女の部屋だ、と感心するほどに広く豪奢な造りになっている。
全体に高価な陶磁器の薄板を壁や床に貼り、天井は漆喰で塗られ、壁の一部を大きく切り取ってそこから広がる下界を見渡せる。
この妓楼は延琉においても高層の造りで、外から太夫の入浴姿を見たがる不埒者は多いだろうが、実際にこんな高層階を持てる建物は他には宮城や遠くに見える貴族の屋敷などになるので、そうそうのぞかれる心配もない。
滅多に観ることもできない高層階からの景色を湯船に浸かりつつながめ、上がり際にざっと冷水を頭からかぶって浴室から出る。
柔らかな綿布で水分を拭き取ると、目の前に石作りの洗面台とその上に横長に大きな鏡に映った自分の姿が目に入る。
ざかざかと水分を拭き取りつつ、何とはなしにその鏡像に見入る。
西域特有の金にも見える薄茶の髪は今は水を含み、背中に垂れ、瞳は青狼湖の色と時には褒められることもある、澄んだ青色。
肌は西域と延琉では違い、白みが強い。
延琉に住む人はどちらかと言うと柔らかな黄みを含んだ象牙のようなとろりとした色合いを肌に持っていることが多いのだが、漣華は黄みは限りなく薄く、白いのだ。
炎天下での作業をしてもほんのりと赤く色づく程度で、黒くもならないしすぐに元の白に戻ってしまう。
まるで雪花石膏でできた人形の肌のようで、それがいいと言い寄られることもある。
先日そうやって言い寄ってきた脂ぎってでっぷりと太った上級官吏や後宮から宿下がりしてきたと言う高位女官からほうほうの体で逃げ出したことを思い出した。
漣華は自嘲気味に嗤う。
この身は真実自らのみの身体ではない。
あのななつの折に買い取った瑯炎のものなのだ。
瑯炎は漣華からは不可思議な人物に見える。
飢えてあとは死に絶えるだけだった我が家の前に突然現れ、食料と新たな生計の術を与え、子供を売るかどうかと額を寄せ合って話し合っていた両親に自分を買い取る事を申し出て、漣華は流涎に連れてこられた。
その際に瑯炎の親類の養子として手続きを済まされたとかで、漣華は謝家の末席に名を連ねることになったのだ。
漣華は実は瑯炎の名を知らない。
便宜上、瑯炎と呼んではいるもののその名は通り名のようなもので、字ですらない。
姓すら知らないのだ。
それなのに技官を統括し、更にその上位組織である部署を取りまとめているのだと言う。
物思いにふけりながらざっと身体の水分を拭ってしまう。
棚に置いてあった同布の浴衣を肩から引っ掛けて、適当に帯を締めてしまう。
下着がないがこういう妓楼では泊りならば朝までにきちんと洗って乾かし、火熨斗まで当てて戻してくれると言うから、漣華の着てきたお仕着せもそうやって戻されるはずだ。
妓楼で遊ぶ花代は高いのが当たり前だが、妓女たちのもてなしだけではなくてこういったこまごまとしたものも夢の世界を形作るもののひとつなのだ。
高い、といちゃもんを付ける客は野暮だと言われ、妓女には袖にされた挙句、妓楼への出入りは禁止になる。
夢を買うにはそれなりのものは必要で、それを承知の上で遊ぶのは男の甲斐性。
瑯炎に半ば無理矢理に連れてこられはしたものの、漣華はそう薄給に喘いでいるわけではない。
見習い時代ならいざ知らず、高級官吏を向こうに対等に話をする位には身分も高い。
それなりに給与も入ってくるのだ。
それに、と漣華は思う。
無理矢理連れてきたのだ、払いなど瑯炎に押し付けてしまえばいい。
それなりの地位にあるのだから、それなりに懐も潤っているだろう。
決して押し付けられたからと言って支払いに困りはすまい。
女将からの話だとどうも三日も空けずに蜃気楼に出入りしている様子だから、きっとツケをため込んでいるということもないだろう。
綿布で髪をわしわしと乱暴にふき取りながら脱衣所から出ると、そこには禿たちが待機していた。
それぞれに漣華の着ている浴衣の袖をつかんでそこから別室へ誘導する。
されるがままに付いて行くと、少し明るさを落とした照明がともされた部屋に連れていかれた。
革製の寝台が設えてあってそこでうつ伏せになるように言われる。
言われるがままに横になると、浴衣を締めていた帯を解かれ、漣華は裸にさせられた。
目をぱちくりと瞬かせていると、これから香油を擦りこみながら筋肉をほぐしていくのだと言う。
禿たちが下がるとそれはそれはたわわな胸を揺らし、少々露出多めな按摩だと言う女が垂れ絹の向こうから現れた。
……按摩だと名乗ってはいるが、違う意味の按摩ではなかろうな。
漣華がそう思っても罪はない。
そう一瞬思うような花街にあっても過激と言える恰好をしていたからだ。
花街の妓女たちは基本的に露出の多い衣装を身に纏う。
それは彼女たちの戦闘服であり、客の欲を刺激してよりその懐から銭を吐き出させる衝動へとつながらせるものだからだ。
按摩の衣装はその豊満な胸をギリギリ乳輪がのぞくかのぞかないか、と言う幅くらいしかない最早紐と言ってもいい革を鞣したものでそこの部分だけを隠すようにしている。
おかげで豊満な乳房はその紐でギリギリ支えられてはいるものの、非常に柔らかそうでその重さに耐えかねかけている、と言った風情である。
その紐は一旦下乳を支える後背部へと繋がる同じ素材でできた革帯へと繋がり、それが細い腰をこれでもかと締めあげているのだ。
その革も黒で染め抜かれ、真っ白な肌との対比がなんとも妖艶である。
その革帯から下は今度はその帯から連なるようにしてゆったりとした身幅が取られて、両脚の片方には大きく切れ目を入れて動きやすさを重視してはいるのだろうが、もう片方の脚は決して見せまいとするようにしっかりと覆い隠している。
見える方の脚には上質な絹でできているのだろう、薄絹でできた靴下が腿辺りまでその脚を覆い隠してはいるものの、按摩の白い肌をその黒い紋様が浮き出た薄絹では覆い隠すのは無理があった。
「では、お身体揉みほぐさせて頂きますわね」
そんな煽情的な身体を目の前にして、漣華の雄は徐々に天を向く。
花街ではあるが、未だ女の身体を知らぬ漣華は、その反応が恥ずかしく、自身がうつ伏せの状態にあるのに安堵した。
按摩は二の腕まである漆黒に染められた革製の手袋にとろりと香油を落とし、何度かそれを手のひらになじませた後、漣華の背中や肩に塗り広げていく。
そして絶妙な力加減で凝り固まった筋肉を優しく揉み解していく。
その快感に漣華はほうっと息を吐き、やがてとろとろと微睡み始める。
その間にも按摩による施術は施され続け、連日の激務の疲れもあって漣華は簡単に意識を手放したのだ。
*
妙に尻の辺りを念入りに解されているなあ、と夢うつつに思ったのは間違いではない。
さらりとした敷布がその肌を優しく受け止めているのが心地いい。
尻の辺りを念入りに解され、後ろの孔にやんわりと何か柔らかくて芯のあるものが挿し入れられる。
そこを誰かに触られるのも、何かを挿れられるのも初めての経験だったが、忌避感も嫌悪感もない。
ただひたすらに気持ちが良くて、中を擦られいいところに当たると甘えたような声が出るのが恥ずかしい。
そのうち前で寂しく勃っていた雄にも細い指が回り、扱かれ始めた。
それだけでもものすごく気持ちが良くて、漣華は声を上げてその刺激をもっと、とねだる。
その声は甘く、きっと漣華の意識がきちんとあったならその声を上げたことに羞恥していただろう。
ぷくりと勃った乳首もいじられ、こねくり回されてじんじんと痺れるようなそれでいて快感を拾う。
今はただひたすらに気持ちが良くて、それなのに意識は眠さと心地よさで夢うつつだ。
きゅっきゅっと少し張りの有るような柔らかなものに包まれた手で雄を扱かれ、時に乳輪を責められ、後ろの孔は解されて中に指でも入れられたのか、それが中でてんでばらばらに動いてあちこちを責める。
半分意識がないような状態でひたすらに気持ちよさを与えられ、それに対する警戒心もない中で延々快楽を与えられる。
後ろの孔に挿しいれられた細い指がいいところに当たり、腰がびくびくと震える。
その気持ちよさで、ずっとだらしなく喘いでいた口の端から涎が垂れ落ち、すっと温度を失った。
その気持ちいいところに気づいたのか、奥の柔らかい場所をくにくにと刺激されると漣華はたまらず欲を放った。
そして意識は再び甘やかに身体を支配する快楽と共に闇に沈む。
*
くったりと敷布に身体を預けて、再び深い眠りについた漣華を見て莱玲は舌なめずりをした。
身体にぴったりと添うように仕立てられた襦裙のぱっくりと割れて片脚がさらけ出された側から、ずるりと天を指して血管がどくどくと波打つ長大な陰茎を取り出した。
それをその細い指先で丸い先をくるりと撫でると、快感が背筋を走り陰茎がびくびくと震える。
さらにそれを数回扱いて死んだように眠る漣華の後孔に狙いを定めた。
今まさにそこに突き刺さんとした時に、莱玲に声がかかる。
「それだけはやめてやってくれんか」
莱玲が後ろを振り返るとそこにはいつのまにやら瑯炎が垂れ絹にもたれるようにして立って莱玲と眠る漣華を見ていた。
「それは俺の弟子でな。流石に眠っている間に後ろの処女を奪われるのはかわいそうだ」
瑯炎はそう言うと、寝台に眠る漣華に近づき頭を撫でる。
額にかかった薄い金茶の髪を払うと頬に長い睫毛が影を落としているのが見えた。
「ここは花街、無防備に眠りこめばそういうこともあるのはご承知でしょうに」
莱玲の声は涼やかに告げる。
蜃気楼が置くのは妓女だけではない。
陰間もそれなりに居て、そう言った趣向が好みの客の相手をする。
陰間だからこそできることもあり、そう言った調教も行うこともあるのだ。
「こいつを仕込んでほしいわけではないからな」
「では何のために」
それを聞くと瑯炎はふっと笑う。
「見ろ」
そう言って瑯炎がつかんだのは漣華の手だ。
指先を莱玲に見えるように明かりにかざす。
「先ほど蘭秀の新造や禿たちが手入れをしてくれた。こいつの手はものを生み出す手だ。荒れ放題だったんでな、手入れを頼んだ」
そう言われて莱玲は目の前の客が技官の長だったのを思い出した。
「あ……」
思わずと言った風情で漏れた莱玲の声に瑯炎はにやりと笑う。
「そういうこった。手が荒れて指先の感覚が鈍ればいいものは作れん。手入れをしてやらねばならん。そんでいいものを作るには女の身体にも慣れさせにゃならん」
俺らの作るものは半分は女が使うからな、とひとりごちるように呟いた。
「そのうちにそういう機会もあるかもしれんし、こいつが望んだら相手をしてやればいい。お前は、不服か?」
そう言いながらも瑯炎の目は漣華の姿を視界から外さない。
さりげなく漣華から離され、瑯炎によって漣華の姿を視界から遮られた莱玲は一礼した。
「では、いずれと言うことで。せっかくの初物でしたのに」
莱玲は舌でその赤く彩られた唇をぺろりと舐めあげてみせる。
「では俺が、と言いたいところだがおれの敵娼は蘭秀だ。今度こいつではないが部下を連れてきてやるよ。そいつが気に入ったなら存分にヤッてやればいい」
瑯炎は事もなげに言い放つが、次の登楼時には誰かが犠牲になることは決定となった。
それを気の毒だと思う気持ちは二人にはさらさらない。
嫌だと思うのであれば袖にすればいい事だし、そうやって手練手管で客と恋を仕掛け合うのが妓女や陰間の仕事だからだ。
それに本気になるのであれば、相手に尻の毛までむしり取られる勢いで金をしぼり取られるし、そういう遊びだと割り切ればほどほどに楽しく遊べる。
それが花街での決まりであり、遊び方なのだ。
「できれば馴らしてやるのも俺がやってやりたかったが、莱玲。うまくやったな」
眠る漣華の身体を点検するようにあちこち撫でていた瑯炎は莱玲の手腕を褒めた。
後孔から通じる腸は薄くできていて、下手にいじくると破れてしまい命に関わることもある。
それもあって瑯炎は漣華には未だ手を出していなかったのだ。
男はここの陰間を何度か抱いて経験を積んではいたが、そういう細かい世話はまだ慣れない。
瑯炎は妓女を相手にするのは慣れていて、主に蘭秀が敵娼を務めるのだが、どうしても相手ができない時には新造を相手にすることもある。
そして新造でもなく時たま陰間を指名することもあって、その時の相手が莱玲だった。
「まあ、本職ですし?」
莱玲はそう言うと長い髪を払う。
妓女は基本的に蝶を模した髪型や様々な髷を結って客の目を楽しませるが、陰間は割と簡素に髪を結う。
それに漏れず、莱玲も簡素に輪の形に結って大きな飾り櫛を挿して残りの髪は背に流している。
髪をすべて結わないと言うのは花街共通の髪型の流行だった。
二人がそうやって見えない火花を散らしていると、漣華が悩まし気な声を漏らしつつ、ぼんやりと目を開けた。
そうしてまだはっきりと動かない思考で二人を見る。
しばらくすると頭が働いてきたのか、寝台に手をついて起き上がろうとした。
そこに、未だ力強く雄々しく天を向いた莱玲の雄が目に入る。
それにぎょっとして起き上がると、素っ裸にされた自身の身体とそこに散った白濁が目に入り、漣華は一瞬のうちに羞恥に顔を染めてきゃああ、と絹を裂くような叫び声を上げたのだった。
そして目を閉じて湯船に身を預けて身体に力を抜いていく。
漣華が使う浴室はさすが最高位の太夫を張る妓女の部屋だ、と感心するほどに広く豪奢な造りになっている。
全体に高価な陶磁器の薄板を壁や床に貼り、天井は漆喰で塗られ、壁の一部を大きく切り取ってそこから広がる下界を見渡せる。
この妓楼は延琉においても高層の造りで、外から太夫の入浴姿を見たがる不埒者は多いだろうが、実際にこんな高層階を持てる建物は他には宮城や遠くに見える貴族の屋敷などになるので、そうそうのぞかれる心配もない。
滅多に観ることもできない高層階からの景色を湯船に浸かりつつながめ、上がり際にざっと冷水を頭からかぶって浴室から出る。
柔らかな綿布で水分を拭き取ると、目の前に石作りの洗面台とその上に横長に大きな鏡に映った自分の姿が目に入る。
ざかざかと水分を拭き取りつつ、何とはなしにその鏡像に見入る。
西域特有の金にも見える薄茶の髪は今は水を含み、背中に垂れ、瞳は青狼湖の色と時には褒められることもある、澄んだ青色。
肌は西域と延琉では違い、白みが強い。
延琉に住む人はどちらかと言うと柔らかな黄みを含んだ象牙のようなとろりとした色合いを肌に持っていることが多いのだが、漣華は黄みは限りなく薄く、白いのだ。
炎天下での作業をしてもほんのりと赤く色づく程度で、黒くもならないしすぐに元の白に戻ってしまう。
まるで雪花石膏でできた人形の肌のようで、それがいいと言い寄られることもある。
先日そうやって言い寄ってきた脂ぎってでっぷりと太った上級官吏や後宮から宿下がりしてきたと言う高位女官からほうほうの体で逃げ出したことを思い出した。
漣華は自嘲気味に嗤う。
この身は真実自らのみの身体ではない。
あのななつの折に買い取った瑯炎のものなのだ。
瑯炎は漣華からは不可思議な人物に見える。
飢えてあとは死に絶えるだけだった我が家の前に突然現れ、食料と新たな生計の術を与え、子供を売るかどうかと額を寄せ合って話し合っていた両親に自分を買い取る事を申し出て、漣華は流涎に連れてこられた。
その際に瑯炎の親類の養子として手続きを済まされたとかで、漣華は謝家の末席に名を連ねることになったのだ。
漣華は実は瑯炎の名を知らない。
便宜上、瑯炎と呼んではいるもののその名は通り名のようなもので、字ですらない。
姓すら知らないのだ。
それなのに技官を統括し、更にその上位組織である部署を取りまとめているのだと言う。
物思いにふけりながらざっと身体の水分を拭ってしまう。
棚に置いてあった同布の浴衣を肩から引っ掛けて、適当に帯を締めてしまう。
下着がないがこういう妓楼では泊りならば朝までにきちんと洗って乾かし、火熨斗まで当てて戻してくれると言うから、漣華の着てきたお仕着せもそうやって戻されるはずだ。
妓楼で遊ぶ花代は高いのが当たり前だが、妓女たちのもてなしだけではなくてこういったこまごまとしたものも夢の世界を形作るもののひとつなのだ。
高い、といちゃもんを付ける客は野暮だと言われ、妓女には袖にされた挙句、妓楼への出入りは禁止になる。
夢を買うにはそれなりのものは必要で、それを承知の上で遊ぶのは男の甲斐性。
瑯炎に半ば無理矢理に連れてこられはしたものの、漣華はそう薄給に喘いでいるわけではない。
見習い時代ならいざ知らず、高級官吏を向こうに対等に話をする位には身分も高い。
それなりに給与も入ってくるのだ。
それに、と漣華は思う。
無理矢理連れてきたのだ、払いなど瑯炎に押し付けてしまえばいい。
それなりの地位にあるのだから、それなりに懐も潤っているだろう。
決して押し付けられたからと言って支払いに困りはすまい。
女将からの話だとどうも三日も空けずに蜃気楼に出入りしている様子だから、きっとツケをため込んでいるということもないだろう。
綿布で髪をわしわしと乱暴にふき取りながら脱衣所から出ると、そこには禿たちが待機していた。
それぞれに漣華の着ている浴衣の袖をつかんでそこから別室へ誘導する。
されるがままに付いて行くと、少し明るさを落とした照明がともされた部屋に連れていかれた。
革製の寝台が設えてあってそこでうつ伏せになるように言われる。
言われるがままに横になると、浴衣を締めていた帯を解かれ、漣華は裸にさせられた。
目をぱちくりと瞬かせていると、これから香油を擦りこみながら筋肉をほぐしていくのだと言う。
禿たちが下がるとそれはそれはたわわな胸を揺らし、少々露出多めな按摩だと言う女が垂れ絹の向こうから現れた。
……按摩だと名乗ってはいるが、違う意味の按摩ではなかろうな。
漣華がそう思っても罪はない。
そう一瞬思うような花街にあっても過激と言える恰好をしていたからだ。
花街の妓女たちは基本的に露出の多い衣装を身に纏う。
それは彼女たちの戦闘服であり、客の欲を刺激してよりその懐から銭を吐き出させる衝動へとつながらせるものだからだ。
按摩の衣装はその豊満な胸をギリギリ乳輪がのぞくかのぞかないか、と言う幅くらいしかない最早紐と言ってもいい革を鞣したものでそこの部分だけを隠すようにしている。
おかげで豊満な乳房はその紐でギリギリ支えられてはいるものの、非常に柔らかそうでその重さに耐えかねかけている、と言った風情である。
その紐は一旦下乳を支える後背部へと繋がる同じ素材でできた革帯へと繋がり、それが細い腰をこれでもかと締めあげているのだ。
その革も黒で染め抜かれ、真っ白な肌との対比がなんとも妖艶である。
その革帯から下は今度はその帯から連なるようにしてゆったりとした身幅が取られて、両脚の片方には大きく切れ目を入れて動きやすさを重視してはいるのだろうが、もう片方の脚は決して見せまいとするようにしっかりと覆い隠している。
見える方の脚には上質な絹でできているのだろう、薄絹でできた靴下が腿辺りまでその脚を覆い隠してはいるものの、按摩の白い肌をその黒い紋様が浮き出た薄絹では覆い隠すのは無理があった。
「では、お身体揉みほぐさせて頂きますわね」
そんな煽情的な身体を目の前にして、漣華の雄は徐々に天を向く。
花街ではあるが、未だ女の身体を知らぬ漣華は、その反応が恥ずかしく、自身がうつ伏せの状態にあるのに安堵した。
按摩は二の腕まである漆黒に染められた革製の手袋にとろりと香油を落とし、何度かそれを手のひらになじませた後、漣華の背中や肩に塗り広げていく。
そして絶妙な力加減で凝り固まった筋肉を優しく揉み解していく。
その快感に漣華はほうっと息を吐き、やがてとろとろと微睡み始める。
その間にも按摩による施術は施され続け、連日の激務の疲れもあって漣華は簡単に意識を手放したのだ。
*
妙に尻の辺りを念入りに解されているなあ、と夢うつつに思ったのは間違いではない。
さらりとした敷布がその肌を優しく受け止めているのが心地いい。
尻の辺りを念入りに解され、後ろの孔にやんわりと何か柔らかくて芯のあるものが挿し入れられる。
そこを誰かに触られるのも、何かを挿れられるのも初めての経験だったが、忌避感も嫌悪感もない。
ただひたすらに気持ちが良くて、中を擦られいいところに当たると甘えたような声が出るのが恥ずかしい。
そのうち前で寂しく勃っていた雄にも細い指が回り、扱かれ始めた。
それだけでもものすごく気持ちが良くて、漣華は声を上げてその刺激をもっと、とねだる。
その声は甘く、きっと漣華の意識がきちんとあったならその声を上げたことに羞恥していただろう。
ぷくりと勃った乳首もいじられ、こねくり回されてじんじんと痺れるようなそれでいて快感を拾う。
今はただひたすらに気持ちが良くて、それなのに意識は眠さと心地よさで夢うつつだ。
きゅっきゅっと少し張りの有るような柔らかなものに包まれた手で雄を扱かれ、時に乳輪を責められ、後ろの孔は解されて中に指でも入れられたのか、それが中でてんでばらばらに動いてあちこちを責める。
半分意識がないような状態でひたすらに気持ちよさを与えられ、それに対する警戒心もない中で延々快楽を与えられる。
後ろの孔に挿しいれられた細い指がいいところに当たり、腰がびくびくと震える。
その気持ちよさで、ずっとだらしなく喘いでいた口の端から涎が垂れ落ち、すっと温度を失った。
その気持ちいいところに気づいたのか、奥の柔らかい場所をくにくにと刺激されると漣華はたまらず欲を放った。
そして意識は再び甘やかに身体を支配する快楽と共に闇に沈む。
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くったりと敷布に身体を預けて、再び深い眠りについた漣華を見て莱玲は舌なめずりをした。
身体にぴったりと添うように仕立てられた襦裙のぱっくりと割れて片脚がさらけ出された側から、ずるりと天を指して血管がどくどくと波打つ長大な陰茎を取り出した。
それをその細い指先で丸い先をくるりと撫でると、快感が背筋を走り陰茎がびくびくと震える。
さらにそれを数回扱いて死んだように眠る漣華の後孔に狙いを定めた。
今まさにそこに突き刺さんとした時に、莱玲に声がかかる。
「それだけはやめてやってくれんか」
莱玲が後ろを振り返るとそこにはいつのまにやら瑯炎が垂れ絹にもたれるようにして立って莱玲と眠る漣華を見ていた。
「それは俺の弟子でな。流石に眠っている間に後ろの処女を奪われるのはかわいそうだ」
瑯炎はそう言うと、寝台に眠る漣華に近づき頭を撫でる。
額にかかった薄い金茶の髪を払うと頬に長い睫毛が影を落としているのが見えた。
「ここは花街、無防備に眠りこめばそういうこともあるのはご承知でしょうに」
莱玲の声は涼やかに告げる。
蜃気楼が置くのは妓女だけではない。
陰間もそれなりに居て、そう言った趣向が好みの客の相手をする。
陰間だからこそできることもあり、そう言った調教も行うこともあるのだ。
「こいつを仕込んでほしいわけではないからな」
「では何のために」
それを聞くと瑯炎はふっと笑う。
「見ろ」
そう言って瑯炎がつかんだのは漣華の手だ。
指先を莱玲に見えるように明かりにかざす。
「先ほど蘭秀の新造や禿たちが手入れをしてくれた。こいつの手はものを生み出す手だ。荒れ放題だったんでな、手入れを頼んだ」
そう言われて莱玲は目の前の客が技官の長だったのを思い出した。
「あ……」
思わずと言った風情で漏れた莱玲の声に瑯炎はにやりと笑う。
「そういうこった。手が荒れて指先の感覚が鈍ればいいものは作れん。手入れをしてやらねばならん。そんでいいものを作るには女の身体にも慣れさせにゃならん」
俺らの作るものは半分は女が使うからな、とひとりごちるように呟いた。
「そのうちにそういう機会もあるかもしれんし、こいつが望んだら相手をしてやればいい。お前は、不服か?」
そう言いながらも瑯炎の目は漣華の姿を視界から外さない。
さりげなく漣華から離され、瑯炎によって漣華の姿を視界から遮られた莱玲は一礼した。
「では、いずれと言うことで。せっかくの初物でしたのに」
莱玲は舌でその赤く彩られた唇をぺろりと舐めあげてみせる。
「では俺が、と言いたいところだがおれの敵娼は蘭秀だ。今度こいつではないが部下を連れてきてやるよ。そいつが気に入ったなら存分にヤッてやればいい」
瑯炎は事もなげに言い放つが、次の登楼時には誰かが犠牲になることは決定となった。
それを気の毒だと思う気持ちは二人にはさらさらない。
嫌だと思うのであれば袖にすればいい事だし、そうやって手練手管で客と恋を仕掛け合うのが妓女や陰間の仕事だからだ。
それに本気になるのであれば、相手に尻の毛までむしり取られる勢いで金をしぼり取られるし、そういう遊びだと割り切ればほどほどに楽しく遊べる。
それが花街での決まりであり、遊び方なのだ。
「できれば馴らしてやるのも俺がやってやりたかったが、莱玲。うまくやったな」
眠る漣華の身体を点検するようにあちこち撫でていた瑯炎は莱玲の手腕を褒めた。
後孔から通じる腸は薄くできていて、下手にいじくると破れてしまい命に関わることもある。
それもあって瑯炎は漣華には未だ手を出していなかったのだ。
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そして新造でもなく時たま陰間を指名することもあって、その時の相手が莱玲だった。
「まあ、本職ですし?」
莱玲はそう言うと長い髪を払う。
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それに漏れず、莱玲も簡素に輪の形に結って大きな飾り櫛を挿して残りの髪は背に流している。
髪をすべて結わないと言うのは花街共通の髪型の流行だった。
二人がそうやって見えない火花を散らしていると、漣華が悩まし気な声を漏らしつつ、ぼんやりと目を開けた。
そうしてまだはっきりと動かない思考で二人を見る。
しばらくすると頭が働いてきたのか、寝台に手をついて起き上がろうとした。
そこに、未だ力強く雄々しく天を向いた莱玲の雄が目に入る。
それにぎょっとして起き上がると、素っ裸にされた自身の身体とそこに散った白濁が目に入り、漣華は一瞬のうちに羞恥に顔を染めてきゃああ、と絹を裂くような叫び声を上げたのだった。
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八島唯
歴史・時代
一八世紀末、日本では浅間山が大噴火をおこし天明の大飢饉が発生する。当時の権力者田沼意次は一〇代将軍家治の急死とともに失脚し、その後松平定信が老中首座に就任する。
遠く離れたフランスでは革命の意気が揚がる。ロシアは積極的に蝦夷地への進出を進めており、遠くない未来ヨーロッパの船が日本にやってくることが予想された。
時ここに至り、老中松平定信は消極的であるとはいえ、外国への備えを画策する。
大権現家康公の秘中の秘、後に『蘭癖高家』と呼ばれる旗本を登用することを――
※挿絵はAI作成です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
狩野岑信 元禄二刀流絵巻
仁獅寺永雪
歴史・時代
狩野岑信は、江戸中期の幕府御用絵師である。竹川町狩野家の次男に生まれながら、特に分家を許された上、父や兄を差し置いて江戸画壇の頂点となる狩野派総上席の地位を与えられた。さらに、狩野派最初の奥絵師ともなった。
特筆すべき代表作もないことから、従来、時の将軍に気に入られて出世しただけの男と見られてきた。
しかし、彼は、主君が将軍になったその年に死んでいるのである。これはどういうことなのか。
彼の特異な点は、「松本友盛」という主君から賜った別名(むしろ本名)があったことだ。この名前で、土圭之間詰め番士という武官職をも務めていた。
舞台は、赤穂事件のあった元禄時代、生類憐れみの令に支配された江戸の町。主人公は、様々な歴史上の事件や人物とも関りながら成長して行く。
これは、絵師と武士、二つの名前と二つの役職を持ち、張り巡らされた陰謀から主君を守り、遂に六代将軍に押し上げた謎の男・狩野岑信の一生を読み解く物語である。
投稿二作目、最後までお楽しみいただければ幸いです。
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