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第二章 妃選び

44.夜会(2)

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 マリエルと両親がいなくなるとすぐにドゥーイに連れられてベライドのローズと彼女の兄である王太子がやって来た。さりげなくシトロンが一歩離れたのは二人の香水の匂いのせいだろう。ベライドではもう何年も香水が流行していて、種類も豊富に存在している。品物によってはアルディモアをはじめ近隣国にも輸出しており、とても有名だ。
 ローズと彼女の兄はそれぞれ別の香水をつけていたが、匂いが混ざり合うことでより華やかな印象を周囲に抱かせていた。もっとも鼻のきくシトロンには辛いらしく、招待客としてベライドから王太子が訪れたばかりの時に顔を合わせてそれを実感したシトロンは、今日は魔法で対策をしていた。それでも一歩離れたのは、条件反射だ。

「陛下、よろしいでしょうか?」

 にこやかにそうたずねたドゥーイは、「よくない」と断られるとは微塵も思っていない様子だった。実際、ガーディアは断らなかった。残念ながらその理由はドゥーイにも彼が連れてきた二人にも興味がないからだったが。

 ガーディアには悪いと思いながらミモザはガーディアから手を離した。引きとめようとするガーディアの手をかわし、会場についた時のようにシトロンの腕にそっと手をのせた。一瞬、シトロンが怯えるようにガーディアを見たのはかわいそうだけれど。

「ミモザ」
「少し夜風に当たってきます。シトロンさま、エスコートをお願いできますか?」

 うかがうようにガーディアを見たシトロンだったが、ガーディアはあきらめたようにうなずいた。その場を去るミモザの背に、勝ち誇ったようなローズの視線が突き刺さったのはきっと気のせいではないだろう。





「ベライドのダライアスと申します。お会いできて光栄です、国王陛下」

 ドゥーイに紹介され、当たり障りのないあいさつをしたローズの兄、ベライドの王太子であるダライアスは上辺こそこの国の王であるガーディアに敬意をもって接しているように見えたが、その瞳にあるどこか蔑んだような色は決して隠せるものではなかった。
 そんなダライアスに対してガーディアは尊大に目礼を返し夜会を楽しんでいくよう伝え、その場を去ろうとした。着飾った姿のミモザを一瞬たりとも見逃したくなかったし、あの立ち去るミモザにローズが向けた視線が何より不快だったのもある。

「陛下、せっかくローズ王女殿下が夜会をと提案してくださったのです。このような機会はありません。これを機に、アルディモア以外の隣国との交流を考えてみるのも……」
「お前の金儲けのためにか?」

 声を落としてそう言ってきたドゥーイに対し、ガーディアは声量を落とすことなく鼻で笑った。

「お前の努力もベレナングレンが戻ってきたら無駄にされるだけだぞ」

 ドゥーイの顔色が変わった。今度こそガーディアは立ち去ろうとしたが、今度はローズが彼を引きとめてきた。許可なく腕に添えられた手を、ガーディアの凍てついた金色が見下ろした。

 そんな視線の冷たさに気づかないのか、ガーディアを見上げローズは魅力的な笑みを浮かべていた。

 複雑に結い上げられた燃えるような赤毛に散らされた真珠、コルセットでより細く締め上げられた腰のくびれと鳥の尾羽のように後ろの長いスカートがその魅惑的な体のラインを際立たせ、黒に近い藍色の光沢のある生地は上品だ。
 人間の目線で言えば、ローズはこの場にいる誰よりも美しいだろう。きっと彼女自身も自分がこの場の誰よりも美しいと思い、それがガーディアの目に留まると思っているし、ミモザを含めた他の候補者の牽制ができると思っている。

 しかしガーディアにとって目の前の人間の女がどれほど着飾っていたとして、それを美しいと感じることはあっても魅力的に思うことはない。それはミモザという最愛の存在がいることとは別の話だ。彼はドラゴンで、彼女は人間だからだ。ガーディアが最初に人間に惹かれた時も惹かれたのはその内面で、その容姿には惹かれた後に好ましく思うようになった。

「陛下、あの使用人だけでなくわたくしともぜひお話をしてくださいませ。せっかくの機会ですもの。それに、陛下にずっと兄を紹介したかったのです」
「前にも言ったと思うが」

 ガーディアはローズの手を振り払った。

「俺は妃選びには露ほど興味もない。この男が言い出し、好きにしろと許可を出しただけだ。お前たちと話すこともない」
「おそれながらそれはまだ陛下が妹のことをよく知らないからではないでしょうか?」

 恐れを知らずダライアスは口をはさんだ。

「兄の私が言うのもなんですが、妹は美しく聡明です。陛下も妹のことをもっとよく知れば興味を持たれるはずですよ」

 心底面倒だとガーディアは思った。





 大広間の壁の一面は窓になっており、そこから一歩出た外には庭に直接降りることのできる広いテラスがある。ミモザがシトロンと共にテラスへ出るとそこにはほとんど誰もおらず、大広間の浮ついた空気が嘘のような静けさが鎮座し、庭のどこかから虫の声が微かに聞こえてきていた。

「大丈夫?」

 周囲に誰もいないのをもう一度よく確かめてから、ミモザはそっとシトロンの顔をのぞきこんだ。

「えっ?」
「香水の匂いが苦手だったんじゃない?」
「それは、まあ……最初に顔を合わせた時に懲りたから今日は魔法で防いでいたんだ。おかげでちょっと鼻が利きづらいけど」

 不満そうなシトロンにミモザは笑った。テラスの手すりに身を預け空を見上げると、ガーディアを思わせる闇に星々がきらめいていた。

「寒くない?」
「平気よ」

 大広間へと視線を向けると、大勢の招待客の中でもすぐにガーディアの姿を見つけることができた。美しい白銀の角は照明に照らされていっそう輝いて見える……。彼のことだから置いて行ってもすぐにあの場を去る気もしたが、引きとめられたのか未だにローズたちと話しているようだった。

 それとも、さすがにこういう場だから他の候補者とも話す気になったのだろうか? 他の候補者ともあんな風に話すのだろうか?

 ベライドの二人の候補者とロスソニエルはともかく、リリアナやマリエル、アンナベルはいい子たちだと思う。もしガーディアが他の候補者に興味を持ったとして、ミモザには何も言うことはできないし、言うつもりもなかった。

 ただ、胸の奥が少しじくじくと痛むだけ……。

「母上? どうしたの?」
「ううん、何でもない」
「寒いなら中に戻ろうか?」
「わたしが戻ったら、彼が他の候補者と話す機会がなくなるもの」
「別にそれでいいと思うよ」
「シトロン」

 たしなめるように名前を呼ぶとシトロンは肩をすくめた。その様子にあきれた息を少し落とし、ミモザは微笑んだ。

「最近、陛下とはどう?」

 いくつか他愛のないおしゃべりをした合間にシトロンはそうたずねた。

「どうって?」
「何か、前と雰囲気が違う気がして……」

 シトロンは“白い庭”で二人が会っているところを見たことはなかったが、ガーディアもミモザも少し雰囲気が明るくなったように感じていた。

「……それはたぶん、彼がもう知ってるから」
「何を?」
「わたしに前世の記憶があること」
「えっ!? いつ話したの!?」
「話したわけじゃないんだけど……休みを取って蘭の館に帰った時があったでしょう? その時に彼が来て――うっかりバレちゃった」
「バレちゃったって……」
「だからはっきりと伝えたわけじゃないけど、お互いにちゃんとわかっていて接してるから……前とは少し、違うのかも」
「前みたいに結婚とかしないの?」

 ミモザは肩をすくめて笑った。

「まだ出会ったばかりだもの」

 そう言われるとシトロンはもう余計な口をはさめなかった。二人には一緒にいて欲しいけれど、二人の問題なのもわかっている。

 もう少しだけ時間をつぶし、頃合いを見はからって二人は中に戻ることにした。テラスに出る前よりも熱気を感じるのは、外が少し寒かったからなのか、夜会がそれなりに盛り上がっているということなのかわからない。

 大広間を見渡すと、ガーディアをすぐに見つけることができた。アンナベルはどこにいるのだろう? 体の強くない母を心配してか早めに帰るつもりだと言っていたので、もしかしたら帰ってしまったかもしれない……でも、アンナベルのことだから帰る前に会いに来てくれそうな気もする。

「何か食べたり飲んだりする?」
「それより、アンナベルを捜したくて――シトロンはお腹がすいたの?」
「ちょっとね」

 少し恥ずかしそうにシトロンはうなずいた。アンナベルと彼女の母親を捜しながら二人は軽食や飲み物が置かれている一角へと足を運んだ。壁際にある長いテーブルの上にはそれぞれの種族が好みそうな多種多様で色とりどりな料理が並んでいる。

 ミモザは飲み物だけ手に取り、他の招待客の邪魔にならないように一歩離れて料理を選ぶシトロンの背中を眺めていた。しっぽがゆらゆらと揺れているのが微笑ましい。ふと背後に誰かが近づく気配を感じてミモザはここも邪魔になるのだろうかと振り返ってまた一歩移動しようとした。

 その時だった。

 振り返った瞬間、冷たいものが思い切りぶつけられ、ミモザは一瞬だけ咄嗟に目をつむったが後は冷静に目の前の光景を視界におさめた。そこにいたのはシシー・バラガンで、彼女は何食わぬ顔で空のグラスを持っている。

「あら、ごめんなさい」

 悪びれのない声、口元に浮かぶ嘲笑――どうやらグラスの中身を思い切り浴びせられたらしい。軽いアルコールの匂いがする。色が薄い飲み物だったらしいのは幸いだった。

「うっかりぶつかってしまったわ」
「いいえ、こちらこそぶつかってしまって申し訳ありません」

 淡々と言いながら、ミモザはサッと魔法で濡れたドレスや髪を乾かした。平然としているミモザを見て、シシーの表情が一気に険しくなる。奥歯を噛みしめる音さえ聞こえてきそうだ。人間の王侯貴族は――いや、こういう場ならば人間だとか王侯貴族だとか関係なく感情を取り繕うものだと思うのにシシーはすぐに思ったことが顔に出るらしい。

 とはいえ、シシーの相手をするつもりはなかった。比較的近くにいた魔族の招待客の中にはこちらに視線を向けている者もいる。料理に夢中だったシトロンも気がついてミモザに駆け下り「大丈夫か?」と口調こそ気をつけながらも心配そうにたずねてきた。
 ガーディアが気づくと厄介だ。もう気づいているのかもしれないが、今はリリアナと彼女の母国からの招待客らしき人間の夫婦と会話をしていた。

 ガーディアがここに来る前に目立たない場所へ移動したほうがいいだろう。なんならもう帰ってもいい。床も汚れていたのでさりげなく魔法で片づけて、ミモザはシトロンを促した。シトロンもガーディアをちらりと気にしてミモザの考えを察し、彼女をエスコートするべく腕を差し出した。

「失礼します」

 ミモザが会釈して立ち去ろうとすると、シシーは眉をつり上げた。周囲の視線がこちらに向けられつつあることに気づいていないのだろうか? それともそんなことが気にならないくらいアリーサのイヤリングの一件のことでミモザを目の敵にしているのか、シシーはミモザをこのまま見逃すことをしなかった。

「待ちなさいよ!」
「何ですか?」
「随分と生意気じゃない。たかが使用人が陛下にエスコートまでされて……一体どんな手を使ったのかしら?」

 ガーディアのエスコートを受けたことをミモザはちょっと後悔した。

「陛下の申し出を受けただけです。言いたいことがあるなら陛下に直接言ってください」
「嘘でももう少しマシなことを言ったら? たかが使用人に陛下がエスコートを申し込むなんて! どうせその秘書官だとかいう獣風情だってたぶらかしたんでしょう」

 不躾にミモザの全身を見ながらシシーは鼻で笑った。

「……シトロンさまをそんな風に呼ぶのはやめてください」

 シトロンの顔から表情が抜け落ち、ざわりと周囲の空気が揺れるのを肌で感じながら、ミモザ自身も眉間にしわが寄るのを誤魔化すことができなかった。この場には魔獣族の招待客も当然いるためシシーの発言は大問題だ。何よりシトロン息子をそんな風に言われて黙っていられるほどミモザだって心が広くない。

「魔獣族の方々にも失礼です」
「獣は獣でしょう?」

 悪びれもなくシシーは言った。一体誰が彼女を妃候補にしたのか? 周囲のざわめきはもう明らかに怒りに変わっている。魔獣族の客たちが一斉に彼女に襲いかかれば誰も彼女を助けることはできないだろう。ミモザの心情的にも周囲をなだめることは無理だった。

 怒りを抑えるためにも押し黙ったミモザにシシーは言い返せないのだと思い勝ち誇った笑みを口元に浮かべた。

「そもそも陛下はわたしのような金髪で可愛らしい娘が好きだと聞いたわ。あなたのそのおかしな髪色ではなくって。あなたなんかが陛下に相手にされるはずないじゃない。使用人は使用人らしく早く下がってくれないかしら?」

 ミモザは静かに息を吸い込んだ。

「何を騒いでいる?」

 怒りに満ちていた空気を震わせる低い声が響いたのはその時だった。


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