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ギディオン
第四話
しおりを挟むその日、ギディオン・ファーニヴァルは王城にある謁見の間に呼び出された。
今年十七歳になった彼は幼い頃から騎士団長である父について立派な魔導騎士となるべく修行を積んでいた。魔力も高く、剣の腕も同年代の中では抜きんでていて隣国に嫁いだ王女殿下の娘、アルディモア国王の孫にあたる少女がアルディモアに遊びに来た時は護衛の隊にも入れてもらえた。
もっとも、それは大人ばかりに囲まれてはかわいい孫が緊張してしまうだろうという国王の気遣いでもあった。彼以外にも騎士団で修行している子どもが数人いた。ただ、彼はその中でも一番身分が高い家の子どもだったため、自然と王の孫――アルティナのエスコート役を任されるようになったのだ。
はじめて会った時、アルティナはどうしてか当時はまだ傷だらけだったギディオンの手に気がついて傷を治してくれた。その時の笑顔が忘れられず、会うたびにアルティナへの想いを募らせていった。年に一、二回しか会えないアルティナは会うたびに美しくなっていく。
その上明るく朗らかで、彼女の父である隣国の王が溺愛するのも頷けた。ギディオンは絵姿しか見たことがないがアルティナが亡くなった彼女の母に似ていたのでなおさらだろう。もっともアルティナの瞳は彼女の母と違って不思議な金色で、月の光のようにも、炎の揺らめきのようにも見えた。その瞳が自分に向けられるたびにギディオンはいつもとてもしあわせな気持ちになる。
「こ、婚約、ですか……?」
父と共に謁見した王から告げられた言葉にギディオンはぽかんとしてしまった。父に小突かれてハッと我に返り、思わず王の言葉を聞き返してしまったのはそれだけ動揺が強かったからだと思う。王はそれを咎めるでもなくうなずいた。
「隣国の王女、我が孫でもあるアルティナがこの国に移住することになったのは知っておるな?」
「はい、聖女としての役目を果たすと決意してくださったと父から聞いております」
「もちろん聖女としてアルティナの力は申し分なく、その役目も期待はしておる。が、理由はそれだけではない」
王は言った。
「アルティナは魔族と人間の間に生まれた娘だが、人間よりの存在だ。いずれは自分の父よりも老いてしまうことになる。そのため、人間の国に居を移してはどうかという話が出たのだ」
隣国の王はもう長い間姿かたちが変わらないという噂はギディオンも知っていたが、まさか本当だったのか。
「何度か話しあいの場が持たれ、アルティナは国境の街に移住することに決まった。聖女としての活動もそこを拠点とする。しかし、あの子はあくまで今の時点では隣国の王女である。他国の目もあるが、国内の貴族もよからぬ考えを抱く者がいるようだ」
アルティナを人質に隣国に戦争を仕掛けろという者――アルティナを生んで王女が亡くなったことで隣国を恨む貴族も未だいた――あるいは自身の息子などをアルティナに売り込み、隣国とのつながりを持とうと企む権力に目がくらんだ者、王家は貴族たちに目を光らせ、不審な動きをする者を常に警戒している。
「そこでアルティナがこちらに来る前に我が国の者と婚約を結んではどうか、という話になった」
期待と不安が胸を襲い、ギディオンはつばを飲み込んだ。
「ギディオン・ファーニヴァル、そなたをアルティナの婚姻の相手としたいが、そなたの気持ちはどうだろうか?」
となりを見なくても、父がどんな顔をしているのかわかる。王の視線もどこか微笑ましいものを見るようだ。ギディオンは顔が熱くなるのを感じた。
「ファーニヴァル家ならば血筋も身分も確か。他の者もそう口出しできぬ。もしアルティナと婚姻ということになれば辺境の地を領地として与え新たに辺境伯の地位を与えるつもりだ。もちろん、そなたが今まで嫡男としてファーニヴァル家を継ぐために尽力してきたことはわかっておるから無理にとは言わぬ。嫌なら嫌だと言ってくれてかまわぬ」
「嫌だなんてことはありません!」
ついはっきりとした声で言い切ってしまい、ギディオンはますます顔を赤くした。
ギディオンがアルティナに想いを寄せていることは彼とアルティナの様子を見たことがある者ならば誰でも知っていた。ギディオンがわかりやすかったのもあるが、彼は同年代の護衛仲間にはアルティナのことをよく話していたからだ。
「アルティナ様と父が許して下さるなら、喜んでお受けしたいと思います」
「そなたの父である公爵からはもう許可は得ている」
「家督はお前の弟に継がせるから心配しなくていい。我が家を継ぐために学んだことは辺境を治めるのにも役立つだろう」
「そなたのようにアルティナを深く想う者が夫となればアルティナもしあわせになれるだろう」
「しあわせになれなければこの国は滅んでしまうが」と遠い目をしてつぶやいた国王の言葉は舞い上がったギディオンの耳には届かなかった。
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