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 僕は望みをかけて、アルファに聞いた。

「子供をより産める『個体』が必要って言っていたけど、なんで必要なんだ? どのくらい産めた方がいいんだ」

 急に僕がそんなことを言い出したからか、男が目を丸くする。そして、髪をいじりながら考え込むような様子を見せた。

「そこまで知らせる義理はないけど……まあ、どうせ、ここまで話したらいくら落ちこぼれのリュストでもあらかた想像がつくだろうし。推測を言いふらされても困るし、教えてあげるよ」

 ただし、他言無用だよ、とアルファは、やっぱり子供に言い聞かせるように、唇の前で人差し指をたてた。内緒のポーズである。そういうのいいから、早く教えてほしい。

「今、この世界では子供が生まれないことが問題になっていてね。十年、二十年前は経済的な問題だとか、政治の問題とか言われて来たんだけど、そうじゃないことが、ここ最近で分かったんだよ」

 子供が生まれない。そう言えば、僕が入院することになったとき、そんな話をリュストさんから聞いたっけ。子供を失ったのであろう、母親の哀哭。

「病気だよ。男も女も不妊になる病気が、気が付かないうちに流行っていたのさ。治療薬の研究も進んではいるけれど、めぼしい特効薬も予防薬も見つからない。なら、病気に強そうな個体を別の世界から連れてこようって話になったわけ」

 「異世界を行き来したり、異世界人を連れてくる魔術は、特効薬とかに比べたらまだ現実的だったからね」と何でもないことのように男は言う。

 確かに、僕の世界では、オメガ以上に、種の繁栄に適している性別は存在しない。後遺症や副作用で不妊になると言われていても、絶対になることはないし、それこそ、初めて発情期が来たその瞬間から死ぬまで、妊娠する可能性があると言われている。
 発情期があったり、アルファやベータに比べてどんくさいところがあったりと、社会的地位が低めではあるものの、この体質だけは、絶対だ。

 僕があれだけ避妊しないで、リュストさんと体を重ねても、子供が出来ないのはほぼ確実に、アルファから番解消をされたからだろう。そもそもこんな事例、なかなかないし、さらには、番った次の瞬間に解消されるなんて、世界中探してもそう何人もいるわけがない。

「でも、だからって、勝手に連れてくるなんて……」

「別に良くない? この世界の人間じゃないんだから」

 本当に、どうでも良さげに言う、アルファ。こんなのが、僕の番だったなんて、考えたくもない。体がこの男を欲してしまっても、絶対に受け入れたくない。

「――僕は、子供、出来ない」

「リュストじゃないと嫌だって? 仕方ない、その落ちこぼれも一緒に――」

「違うよ。お前が、僕を捨てたせいで、僕はもう子供が出来ないんだよ」

 ――初めて、アルファの笑みが凍り付いた。
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