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 リュストさんと女性の話は一向に進まない。というより、女性がリュストさんの話を聞かないし、曲解ばかりしている。
 いや、話を聞かないというよりは、彼女の中で決まっている『真実』にそぐわない事実は世界のどこにも存在しないのだろう。彼女にとって。

 また殴ったりしないか、流石に殺したりはしないよな、と思いながら、廊下の陰から僕は二人をうかがう。
 女は抱かない、なんて言って女性が嫌い、みたいな態度を取っていたリュストさんだったが、十中八九、この女性の影響なのだろう。こんな人に付きまとわれていたら嫌になっても無理はない。

 ――と。

「お前、いい加減にしろよ!」

 リュストさんがいらだったように、玄関に置いてあった壺の一つを取った。昨日の荷物持ちの際、あの壺がいくつも箱の中に並んでいるのを見た。あの中に薬を入れるものなんだろう。
 壺自体はそこまで大きくないが、あんなもので殴ったら――。

「リュ、ストさん……っ!」

 僕は思わず声をあげ、廊下の陰から出ていた。
 それは駄目だって。

 流石に死体を埋める手伝いはしたくない。最終的には言いくるめられて手伝う羽目になるのは簡単に想像がつくが。
 僕が声を上げると、リュストさんの動きが一瞬鈍り、女性の方は逆にぐるっと頭を動かして、僕の方を見てくる。
 濁った両目が、僕を捕らえた。

「誰――誰?」

 さっきまでリュストさんに話しかけていたような明るい声音とは全然違う。地を這うような、女性とは思えないような、険しくて低い声。
 一気にリュストさんを止めたことを後悔した。下手なホラー映画より全然怖い。

「なんで、なんでなんでなんで」

 リュストさんが、ガッと足を上げて、女性が室内に入ろうとするのを防ぐ。

 ビビりながら、僕は、自分の格好を思い出していた。
 リュストさんの服を着せられている――とはいえ、上を羽織っているだけ。流石にパンツは履いているけれど、下半身は随分と風通しがいい。しかも、昨晩のリュストさんはそういう気分だったのか、まるで僕を恋人のように抱くものだから、体のあちこちにキスマークがある。殴られた痣が治り切っていないので、痣もあるけれどキスマークの方が目立つわけで。

 どう考えても、リュストさんへ盲目的に恋をしているストーカーの目の前に出る格好ではなかった。

「だから言ってるだろ。いい加減諦めろって」

 リュストさんは上げた足で、そのまま女性を蹴飛ばした。リュストさんは本当に人を殴ったり蹴ったりすることに容赦がない。そこに性別なんていうものは考慮の対象にならないようで、女性は地面へと倒れ込んだ。
 そのままリュストさんが手早く扉を閉め、鍵をかける。

 少しして、カリ、カリカリ、と、扉を引っ掻くような音が聞こえてきた。本当にホラー映画のような展開である。
 僕は思わず、身震いしたのだった。
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