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娼館街を抜けると、大きな川があり、それにかけられた橋を渡ると、新たに町が見えてきた。
そこそこの大きさの町は健全な活気にあふれていて。さっきまでの不健全な街がすぐそこにあるとは思えないほどだった。普通の、昼間。こっちの方がずっと安心する。
リュストさんに木箱を取られ、両手が自由になる。小脇に木箱を抱えたリュストさんの、反対側の手を僕は取った。こちらの町もそれなりにごったがえしていて。娼館街ほど絶対に迷いたくない、という雰囲気ではなかったが、道筋を覚えることはできなくて、はぐれたら絶対迷子だな、というのが簡単に分かった。
露店が並ぶ大通りを抜け、大きな噴水のある広場へと出る。その脇にある小道を少し歩くと、何かの個人店が見えた。こっちは裏口からではなく、堂々と店の扉から中へ入る。
「いらっしゃいませ! ってリュストかあ」
活発そうな女の子が笑顔で出迎える。揺れる茶髪のポニーテールが、より一層彼女の雰囲気を明るく見せた。
店の店内はこじんまりとしているが、薬屋、というわけではなさそうだ。どちらかというと、飲食店っぽい。カウンター席がいくつかと、テーブル席は二つ。
あたりをきょろきょろと観察していたが、リュストさんが手をほどこうとする空気を感じ取って、慌てて手を離した。
「今週の納品分だ」
そう言ってリュストさんは木箱をカウンターへ置く。飲食店で必要になる薬って何だろう……。
「はいはい、ありがとうね! お父さん、今仕入れに出かけてるから、あたしが清算しちゃうね! はい、これ代金」
どさ、と袋をリュストさんの手元に置く。彼はそれをあけ、中身を確認しだした。
「と、こ、ろ、で~! そっちの子はだあれ? 見かけない子よね」
好奇心満載、という表情で彼女は僕を見てくる。思わず、軽く会釈をした。
「ただの荷物持ちだ」
「リュストが荷物持ってたじゃん」
「娼館街抜けてくるまではこいつも持ってたんだよ。いちいちこいつ置きに家に戻ってられるか、めんどくせえ」
「ふーん……。てか、なんでこの子こんな怪我してるの? あんたまさか殴ってないわよね」
「知るか」
疑わしそうな眼を向ける少女に、リュストさんは適当な返事を返す。わざわざ僕から説明する必要もないだろうから、僕も何も言わない。少女は怪しいなあ~、といぶかしがっていたが。
代金の数を数え切ると、リュストさんは確かに、と袋の口を閉じた。
「ね、何か食べてく?」
「いらねえ。親父さん、いないんだろ。酒場の娘の癖に料理できねえんだからおとなしくしてろ」
酒場、ってことはさっき納品したのは胃腸薬とか、そういうものなのかな。
リュストさんは再び僕の手を引く。もう帰るんだろう。
「じゃあな」
「うん、来週もよろしくね~!」
『婆』さんのときとは違い、随分と穏やかな声音だった。娼館街の仕事はやりたくないのかもしれない。態度が違いすぎる。
リュストさんが店の扉を開けようとするより先に、勢いよく扉が開いた。そして、中に入り、リュストさんに抱き着く人影。……えっ?
突然のことに理解が追い付かない。
「リュスト、迎えに来てくれたのね!」
くすんだ青い髪の女性。少しやつれているが、もともとは美しい女性だったことがうかがえる。
嬉しそうにリュストさんを見上げる目は、底のしれない沼のように、暗く濁っていた。
そこそこの大きさの町は健全な活気にあふれていて。さっきまでの不健全な街がすぐそこにあるとは思えないほどだった。普通の、昼間。こっちの方がずっと安心する。
リュストさんに木箱を取られ、両手が自由になる。小脇に木箱を抱えたリュストさんの、反対側の手を僕は取った。こちらの町もそれなりにごったがえしていて。娼館街ほど絶対に迷いたくない、という雰囲気ではなかったが、道筋を覚えることはできなくて、はぐれたら絶対迷子だな、というのが簡単に分かった。
露店が並ぶ大通りを抜け、大きな噴水のある広場へと出る。その脇にある小道を少し歩くと、何かの個人店が見えた。こっちは裏口からではなく、堂々と店の扉から中へ入る。
「いらっしゃいませ! ってリュストかあ」
活発そうな女の子が笑顔で出迎える。揺れる茶髪のポニーテールが、より一層彼女の雰囲気を明るく見せた。
店の店内はこじんまりとしているが、薬屋、というわけではなさそうだ。どちらかというと、飲食店っぽい。カウンター席がいくつかと、テーブル席は二つ。
あたりをきょろきょろと観察していたが、リュストさんが手をほどこうとする空気を感じ取って、慌てて手を離した。
「今週の納品分だ」
そう言ってリュストさんは木箱をカウンターへ置く。飲食店で必要になる薬って何だろう……。
「はいはい、ありがとうね! お父さん、今仕入れに出かけてるから、あたしが清算しちゃうね! はい、これ代金」
どさ、と袋をリュストさんの手元に置く。彼はそれをあけ、中身を確認しだした。
「と、こ、ろ、で~! そっちの子はだあれ? 見かけない子よね」
好奇心満載、という表情で彼女は僕を見てくる。思わず、軽く会釈をした。
「ただの荷物持ちだ」
「リュストが荷物持ってたじゃん」
「娼館街抜けてくるまではこいつも持ってたんだよ。いちいちこいつ置きに家に戻ってられるか、めんどくせえ」
「ふーん……。てか、なんでこの子こんな怪我してるの? あんたまさか殴ってないわよね」
「知るか」
疑わしそうな眼を向ける少女に、リュストさんは適当な返事を返す。わざわざ僕から説明する必要もないだろうから、僕も何も言わない。少女は怪しいなあ~、といぶかしがっていたが。
代金の数を数え切ると、リュストさんは確かに、と袋の口を閉じた。
「ね、何か食べてく?」
「いらねえ。親父さん、いないんだろ。酒場の娘の癖に料理できねえんだからおとなしくしてろ」
酒場、ってことはさっき納品したのは胃腸薬とか、そういうものなのかな。
リュストさんは再び僕の手を引く。もう帰るんだろう。
「じゃあな」
「うん、来週もよろしくね~!」
『婆』さんのときとは違い、随分と穏やかな声音だった。娼館街の仕事はやりたくないのかもしれない。態度が違いすぎる。
リュストさんが店の扉を開けようとするより先に、勢いよく扉が開いた。そして、中に入り、リュストさんに抱き着く人影。……えっ?
突然のことに理解が追い付かない。
「リュスト、迎えに来てくれたのね!」
くすんだ青い髪の女性。少しやつれているが、もともとは美しい女性だったことがうかがえる。
嬉しそうにリュストさんを見上げる目は、底のしれない沼のように、暗く濁っていた。
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