GUNGIRLs -MädchenWaffE- SidE-Y

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一章 新学期は運命と一緒に

2話 CONTACT

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「――以上です。
 何か質問が無ければレクリエーションを終了します」

入学式は何のとどこおりもなく閉幕し教室でのレクも終了間近。

――…………。

私は窓際の席から外を眺めていた。
正直、入学式もレクの内容もほとんど頭に入っていない。

「あらためて、入学おめでとうございます。
 来週から元気に頑張っていきましょう」

担任の先生がそう言うと形式的な拍手が起こる。
これで日程のすべてが終了、皆が思い思いの行動をとり始めた。

「来週からよろしくね、弓木さん」

前の席の人が声をかけてくれる。
名前は――、思い出せない。
今はちょっと無理かも、後でクラス名簿を確かめよう。
満面の笑みで去っていく彼女を私はぎこちない表情で見送った。

「ふぅ……」

人がまばらになった教室で一人ため息をつく。
入学式の雰囲気は毎回変わらない、興味を持った人がかけてくれる言葉も。

「大きいね」

「部活はバレーとか?」

もれなくこんな感じ、成長しちゃったんだから仕方ない。
きっとあらゆる場面でこれは続くのだろう。

その後も名の知れないクラスメイトが数人声をかけくれた。
彼女たちへの塩対応は後日挽回ばんかいしたい。

――今はまだ見覚えのない同級生クラスメイト

この学校に私の知り合いは居ない、
同じ出身校の人も居るとは思うけどつながりはなかった。
新しい場所でちゃんと友達が出来るのかな、
挨拶を交わしたクラスメイトの顔を浮かべると僅かな希望も見えてくる。
このぐらいの悩みなら何とか頑張っていける、
そう思って空を見上げた。

――だけど、今はそこが問題じゃない。

青く澄んだ空を見つめ、朝の出来事を思い出す。
あれからずっと心が揺れている、どうしたら良いのかと。
私の求める答えは……。

そこに鳴り響く学校のチャイム、私は我に返った。
意識していなかったから体がびくんとなったよ、
驚いた事で馳せていた思いも消えて行ってしまう。

私は右手の腕時計に視線を向けた。
えっと、今は12時だからお昼時間かな?
お昼って学校によって微妙に違うよね、蘭北は12時ちょうどみたい。
そして、入学式の生徒は下校の時間らしく、
『お気をつけてお帰りください』と端末には表示されている。

気が付けば室内も数人が残っている程度、今のチャイムで更に減った感じ。
全てが終わった以上、ここに居座っていても仕方がない。
支給された授業道具を手早くしまい席を立った。

「――来週からよろしく」

ぎこちない感じで、
入り口のクラスメイトに声を掛けて廊下へと向かう。

――うわぉ。

途端に感じる音圧。
教室とは正反対なその空間に思わず足が止まってしまった。

――ほとんど帰ってないよね。

通路には大勢の人が残っていて賑わっている、
そんな中を私はゆっくりと歩いて行った。

当たり前だけど、どこを見渡しても女子のみ。
小・中と共学だったから女の子しか居ない学校は初めてなんだ。
低い声も少ないし、匂いも女の子だらけって感じで男子特有のが無い。
長身が全く居ないってのも寂しい環境変化だね……。
中学では男子=デカいって思ってたけど、今は私がエベレスト級。
自然と視線は下向きになって、彼女たちは見上げる。
今もすれ違うたびに視線を感じたけど朝と比べれば幾分かマシかも。

人込みを抜けてホールへ向かう途中、ナビが反応を始める。
端末には未確認の情報が並び、リストが次々と更新されていった。
この学校は広いから、大体の位置を覚えるまでこの機能は外せない。
1年生の教室も一か所にあるわけではなく、学校の3か所に分かれていた。
ちなみに私は普通科、専行によるとは言え面倒な配置だよ。


『中央エントランスです』


在校生がお昼時間を過ごしている中央部。
外周には無数の椅子とテーブルが並び、それぞれのランチタイムを楽しんでいる。
きっと中等部の子たちかな、違う制服の生徒もたくさん居て、
中高一貫は見るだけでも新鮮な気持ちになる。
視線が合った場所からはいつものセリフが聞こえるけどね……。

朝の雰囲気と違うのはそこぐらい。
中心の往来は常に激しく、人が現れては消えて行くスクランブル交差点。
私は中心部を見つめ立ち止まった。


――ここだった。


忙しく行き交う人の波にあの時の光景が重なる。
そして、目をつむると朝の出来事が鮮明に蘇えってきた。


――そう、こんな感じ。


中央付近で起こったざわめき、
それは私が受けるモノとは異質で比べるまでもなかった。
音の感じからどよめきと言った方が合っているかもしれない、
遠い場所からは歓声も上がっていた。

「あの人って確か」

「わぁ、きれい」

湧き起る反応は様々で、その対象は目の前を通り過ぎた人物。

――柏倉かしくら倖奈ゆきな

私が心底憧れたCNS選手。
中学時代の青春そのものと言ってもおかしくない存在。
そんな彼女が今ここに居る。
理解しがたい現状に私は動揺を隠せなかった。

同じ学校の制服を着ているんだから在校生の一年で……?
うまく考えられなかった。
この時は結構危なかったんだ、血の気が引いて倒れそうになってたから。
だって、憧れの人が突然目の前に現れるなんて!
間違いなくすごい状況なんだよ、そんな機会に遭遇したのに、

――何も出来なかった……。

匂いを感じる距離ですれ違うなんて信じられない、
後ろ姿でも、本人をリアルで見たのは初めてだった。
でも……、出来たのは見送ることだけ。
それ以上何が出来たと言うの? 全てを捨てた私に――。

自分の未熟な行いで部活も熱望した彼女とのまじわりも諦めた。
ここへ来るまでに何度も後悔して自問自答を繰り返し、
それで少しは心の整理が出来たと思ってたんだよ……。
だけど――、

――こんな皮肉って……、酷すぎる。

あの状況で部活を続けていたら無理だった、失うことでしか叶わなかったんだ。
そんな場所で憧れの人と巡り合うなんて……、本当に酷い有様。

「はぁ……」

大きなため息と一緒に意識がかえってくる。
言葉に出来ないくらい嫌な気分……、私は無意識に天をあおいだ。

遠くに見える窓からはまぶしい陽が差し込み、楽しそうな声が辺りに響く。
今の気分とはあまりにもかけ離れた雰囲気、
私は逃げる様に柱の陰に隠れ強くまぶたを閉じた。


――彼女との接点はもう無いんだ。


暗闇の中でつぶやいて痛感する、かかわろうにもそれが現実。
1年半のブランクを気にせずCNSを始める事も出来る、それは何度も考えた。
でも……、
開いてしまった技量の差は計り知れない。
彼女の前で無様な姿をさらして失望させるのではと、
そんな卑屈で歪んだ思いばかりが心を締め付けた。
実際、相手にもされないほどの小さな存在なのにね……。

だとしても、二度とないチャンスなんだ。
なのに――、私はやる気が起きなかった。

――情けなくて言葉も出無い。

まさか、こんな事が起こるなんて夢にも思わなかった。
入学の喜びもつかの間、私の心は抜け殻状態になってしまう。

――そんな入学式だったけど、

この出来事があった後、不思議と柏倉さんに遭遇する事は無かったんだ。
正直助かったよ、とても大きなショック受けてたから。
帰る度に泣いてたし、心がまいっちゃうのかなって思ってたけど、

――杞憂だった。

この学校は最初の1週間がお試し期間みたいなぬるま湯スタート。
私はその時にメソメソしていて自分の心に流されていた。
だけど、いざ授業が始まると思考が占領されるくらい忙しい毎日。
覚える事もやたらと多くて展開も早い、女子高って環境に慣れるのも結構大変だし。
ぞんな状況で他の事を考える余裕なんて無い、気分なんてかまっていられなかった。
吹っ切れたのは良かったけど、私は履くべき靴を見誤ったのかもしれない。
周りの速度が違い過ぎて、時間の概念が変わるくらい多忙な日々を送ったよ。
そして、気がつけばゴールデンウィークは過ぎていたんだ――。


「はぁぁあ……」

廊下の窓枠に肘をつき気の抜けたため息を吐く、最近はこんなのばかり。
ため息の数だけ幸せが逃げるって聞いたけど、それは真実なのかもしれない。
だって、ため息しか出ないんだもの不幸せの無限ループだよ。

入学から1か月以上が経っても、忙しいばかりで浮かれるような事は起こって無い。
退屈では無いけど満足もしていない、とにかく悶々とする日々が続いていた。
まぁ、映画みたいな劇的展開ってのはノーサンキューだけど、
そろそろ小さな幸せが訪れても良いんじゃないかなって。
学業ばかりの変化じゃ幸福を感じない、悪いことではないんだろうけどさ。

開けた窓から肌寒さの残った風が吹き付ける、
今年は5月を過ぎても春らしい陽気は感じられない。
私の春もいつ訪れるのかな、入学してから辛気臭しんきくさい事この上なかった。

学校の中に予鈴よれいが響く、単音は始業5分前の合図。
私はそれに合わせてふりかえった。

「っ……!?」

突然現れる気配、
続いて身体に衝撃が走る。

――ぶつかった…!?

感じた衝撃からそう確信すると、遠ざかる気配に素早く腕を伸ばした。
瞬間的に手のひらで生まれる感触、

――よかった!何とか掴むことはできたみたい。

これは一瞬の出来事。
だけど、目に映った姿は鮮明で、
とてもゆっくりとした時間の中に存在していた。

「柏倉……さん?」

思わず声に出てしまう、
映像以外で顔を見たのは初めてだったから。
以前は後ろ姿だけど、今回は正面の極至近距離クロスレンジ
びっくりして名前が出ちゃったんだよ。

ぶつかった事に驚き、それが柏倉さんだった事でも驚く。
さらに彼女の美しさにも……。

間近で見ると風景が白色なら正確なアウトラインはとらえられないかもしれない。
それほど彼女のすべては統一されているんだ。
角度のついた目元から見える純白のまつ毛も、わずかな光で印象の変わる瞳も。
言葉にならないくらい綺麗で、私の脳内情報は次々と補完されていく。

そして、
腕に感じていた重みが軽くなると我に返った。

「ご、ごめんなさい。周りを見ていなくて……」

謝罪をして素早く手を離す、
収まっていた感触は見た目以上に細く感じた。

「…………」

名前を呼ばれた事で不思議そうな表情を浮かべる柏倉さん。
当たり前だよね……、私のことなんて微塵みじんも知らないんだから。
一瞬視線が合ったけどそれはすぐに外されてしまった。

「……いえ、こちらこそ、ごめんなさい」

――小さな声。

彼女は上目遣いでこちらをうかがうと小さくお辞儀をして立ち去る。
去り際に残ったのはあの時と同じ甘い香り。

初めて聞いた柏倉さんの肉声、
表情には出さなかったけど心の中で感動してた。
声も動画とかで聞く事しか出来なかったから、
さらに身体にも触っちゃったわけだし。

――あれ……、気持ち悪いな、私。

き、きっと、久しぶりの遭遇そうぐうで感じ方が変わったんだね。
間違いなく今は嬉しさの方が大きいし、
知り得なかった姿を見れた事で重い気分が和らいだ感じがするんだ。

――……。

私は遠くなって行く背中を見つめながら思う、
もっと自然にお話出来れば……と。

鳴り響く本鈴ほんれい
無粋ぶすいな騒音によって想う気持ちは飛散ひさんしてしまい、
その姿も人込みに消えてしまう。

――焦っちゃだめだ。

同じ地域に住んでるだけでも奇跡的。
そんな人が今は同級生なんだ。
きっとどこかにあるはず、残された可能性が――。
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