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暇を持て余した王子がログインしました

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「済まない、今日は急ぎの資料があるから自室でいただく」
「わかりました、お持ちしますね」

 アフタヌーンティーをハワード侯爵に出していると、ドアノッカーの音がした。扉を開けてみると、彼は立っていた。

 一目見て相手の正体が分かった私はドアを閉めてしまいたい衝動にかられたが、そんなことをしたら不敬罪で間違えなく司書はクビだ。それどころか牢獄行きである。

「王子殿下。私は図書塔の司書官シエナ・フェレメレンと申します」
「ようやく会えたね、シエナちゃん。前に来た時はもう帰っちゃってたから」

 え??ようやく???なんで?

 頭にハテナマークが浮かぶ私の後ろからハワード侯爵が彼を呼ぶ。

「来たか。2階で話そう」

 彼らにお茶を出して退出しようとすると、ハワード侯爵に呼び止められる。

「王子殿下は君に会いに来たのだ。話し相手になってやってくれ」
「王子殿下だって~!改まっちゃって~!いつものようにエドワールって呼んでよぉ」

 ああ、やはり……。

 彼の名はエドワール・ラバルド・フェリエール。
 この国の第一王子で攻略対象の1人。金髪に翡翠色の瞳はいかにもおとぎ話に出てきそうな紳士的な王子様なのだが、中身は【俺様担当】でヒロインはもちろん周囲の人々を翻弄させる。

 話し相手って何するの?天気の話くらいしかできないわよ??

「この前神官長と話していたらめずらしくディランが会議以外で外出するって聞いて興味が湧いちゃったんだよねぇ。どうしてだったんだろぉ?」
「えっと……私の家庭の問題でご迷惑をおかけしてしまいまして……」
「ふーん?」

 ええい!王子ハウス!嫌な予感が湧き起こってくるわ。
 そうでなくても攻略対象がいればジネット遭遇率が上がって怖いのに!

「シエナ、シエナ……ね。そう言えばディランが昔飼っていた猫の名前もシエナじゃなかったけ?」

 ほ?

 私は思わず侯爵を見た。彼は今までに一度も見たことが無いような穏やかな微笑みを浮かべている。穏やか過ぎてむしろ怖い。

 俺の黒歴史に踏み込むなって顔だわきっと。
 ケモナーだったこと触れて欲しくないんだわきっと。

「シエナはたしかここにいる警備猫シモンのお母さんだったよな~?」
「ま、まぁ。そうだったのですね。ところで王子殿下……」
「シエナもシモンも綺麗な水色の瞳でね~、シエナちゃんの髪とお揃いの色だよ~」
「そ、そうなんですねぇ~」

 空気読め陽キャラぁぁぁぁ!人様の過去に土足で上がり込むんじゃねぇぇぇ!
 ハワード侯爵が室内の気圧下げてるから!このあと絶対荒れるから!!!

 私のそんな心配なんて気にも留めず、エドワール王子は紅茶を飲みながらくすりと笑う。悪戯っぽい微笑みを浮かべる【俺様担当】はどうやら私たちのこの反応に満足したようだ。なんて迷惑な王子だ。

「んじゃ、念願のシエナちゃんに挨拶できたしノア・モルガンにも顔を合わせてきましょうかね」
「おい……あいつに何の用がある?」
「怖い顔しないでよ、ちょっと挨拶するだけさ。とって喰うわけじゃあるまいし」
「そう何度も顔を合わせる必要は無いはずだが?」

 一瞬で、2人の間に不穏な空気が流れる。部屋を出ようとするエドワール王子の前を、ハワード侯爵が立ちふさがる。

 待って。王子まさか……君もなの??君もノアに夢中なの?ジネットはどうした???

 私は”ハワード侯爵の禁断の恋応援隊長”だ。
 ひとまず、ここは侯爵に合わそう。

「恐れ入りますが王子殿下、モルガンはただいま体調を崩していますのでお話しできる状態ではありません」
「ふーん?残念」

 エドワール王子はそう言ってまた客用のソファにどっかりと座った。

 居座るんかい!

 私は心の中でツッコむ。そんな気も知れず彼はアフタヌーンティーで出していたクッキーを頬張り始めた。背後に居る侯爵の視線が怖い。

「わぁ、このクッキー美味しいね!どこのお店の?」
「それは私が作りました」
「へー?ここの仕事夜遅くまであるのに帰ってから作るの大変じゃない?」
「趣味ですので息抜きになるんです」
「ふーん?」

 わぁ……何か嫌な予感がするなぁ。エドワール王子が悪いこと考えている狐のようにこちらを見ているよ……。

 私は身構えていたが、その後すんなりと彼は帰ることになった。
 そして去り際におとぎ話の王子らしく私の手の甲に口づけを落として帰っていった。

 その後、ハワード侯爵は1階部分に塩を撒き始める。
 
 貴方でなければ間違いなく不敬罪ですよ、侯爵……。
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