上 下
20 / 48

お飾りの妻的な?

しおりを挟む
解析エクサプリカーティオン

 魔法陣を描いた手袋をはめ、手を本にかざして呪文を唱える。すると本が光り、その光は寄り集まり本から生えた樹のような姿に変わった。

 そうやって姿を現した樹や花などの植物の幻影から、私たち司書はその本の性質を読み取るのだ。

 くぅぅぅぅぅぅっ!ファンッタジー!!!

 こういう魔法が使えるのってまさに異世界転生の醍醐味ってやつよね!この喜びを噛みしめていたい……。

 こうやって魔法書達を扱っていると改めて魔法が使える世界に生きているんだなぁって実感できる。それに、王立図書館の司書らしい仕事をしている!!

 こういうことができるようになったのも侯爵のおかげなのよね。

 ……うん、現実逃避してはダメなのよね。事実に向き合わないといけないわ。なんたって私はとうに成人した婦人よ。自分の選択にけじめを持たなければならないわ。

 それでも、今朝ハワード侯爵と話したことを思い出すと気が遠くなる。

 今朝、私は昨日のお礼をハワード侯爵に言いに行った。

「侯爵、先日はありがとうございました。」
「気にするな、これ以上部下に辞められたら困るからな」
「……その、初日も私のことを助けてくれたんですよね?」

 ハワード侯爵はティーカップを手に取い、チラと私の顔を見る。

「モルガンから聞いたようだな」 
「はい……助けていただいたのにあんな生意気なことを言って申し訳ございませんでした」
「あいつの性格を知らなかったんだ。仕方がない」

 そう言ってくれた候爵の表情は優しく、じんわりとした温かさが胸に広がる。

「この借りをどう返したらいいのかわかりません。兄を説得するとはいえ侯爵のご家族を引き合いに出して大丈夫なのでしょうか?」
「案ずるな。事前に説明しているから上手くやってくれるだろう。それに、喜んでいたしな」

 あ、そういえば侯爵は幼少の頃より女性に興味がなくケモナーからのBLを歩んでいるお方だわ!

 ご家族はやっと女の子との浮いた話に喜んでいるのでは?!
 そうなると私からお断りにくそうなんだけど、どうしよう……。

「それに、この話が進むと縁談を上手く断れて私としても助かるからな」
「左様ですか……」

 つまり、風よけですか?それいつまで続く?

「この話を進める。借りはそれでチャラにしよう」
「い、いつまで仮恋人役をするおつもりなのですか?」
「さあ、いつまでだか?」

 透き通った氷のような双眼が私に向けられる。私はその表情に思わず硬直してしまった。

 こ、心なしかハワード侯爵が悪役令嬢のような微笑みをしているのですが?

 まさか、察してくれってこと?ノアとの関係を維持するために利用されてくれってことなの???

 このまま話を進めるってことは、お飾りの妻になってしまうのでは……?

 正直抵抗はあるけど、私は侯爵のおかげで今首の皮が繋がっている状態で、この先も役に立つなら彼は助けてくれるかもしれない。たとえこのゲームのストーリーが終わってからジネットと対峙することになったとしても、彼ならどうにかしてくれそうだ。

 Win-Winの関係、なのかもしれない。

 今世は、恋愛を捨てることになりそうだ。
 いや、今世だわ。

 それでも、前世で諦めた夢を今は掴んでいる。その恩人に、ちゃんと恩を返そう。

「私、このご恩はきっとお返しします!侯爵の事応援しますね!」
「……何のことだ?」

 候爵はジト目で私を見た。

 その日の夜、寮に帰ると領地にいる侍女のカロルから手紙が届いていた。手紙には侯爵を称える言葉が所狭しと並んでいる。

 ハワード侯爵、あなた一体私の知らない所で何をしたの?

 誰にも言えない、私とハワード侯爵の”お飾りの妻”作戦が開幕しようとしている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

アイアイ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい

小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。 エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。 しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。 ――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。 安心してください、ハピエンです――

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

悪役令嬢が死んだ後

ぐう
恋愛
王立学園で殺人事件が起きた。 被害者は公爵令嬢 加害者は男爵令嬢 男爵令嬢は王立学園で多くの高位貴族令息を侍らせていたと言う。 公爵令嬢は婚約者の第二王子に常に邪険にされていた。 殺害理由はなんなのか? 視察に訪れていた第一王子の目の前で事件は起きた。第一王子が事件を調査する目的は? *一話に流血・残虐な表現が有ります。話はわかる様になっていますのでお嫌いな方は二話からお読み下さい。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

もう彼女でいいじゃないですか

キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。 常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。 幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。 だからわたしは行動する。 わたしから婚約者を自由にするために。 わたしが自由を手にするために。 残酷な表現はありませんが、 性的なワードが幾つが出てきます。 苦手な方は回れ右をお願いします。 小説家になろうさんの方では ifストーリーを投稿しております。

猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない

高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。 王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。 最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。 あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……! 積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ! ※王太子の愛が重いです。

処理中です...