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司書というか世話係というか

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 麗らかな朝、執務室で王立図書館から送り込まれてきた本をチェックしていると、ノアがひょっこりと顔を出してきた。

「ねーねー、シエナちゃーん。小説読みたいんだけどおすすめある?」
「わかりました。ノアの読書記録に無い本を見繕ってきますね」
「俺も一緒に行くー」

 図書塔の囚人は毎日、司書長が決めた冊数を読まなければならない。そのため、彼は毎朝読む本を決めて私たち司書に報告するのが日課だ。
 4階には国内、5階には異国の小説が並んでおり、私はその中から比較的薄めの本を3冊選んで彼に渡した。読書記録を見たところ今日の目標は5冊もあるのだ。

 本を選んでいると後ろでノアが嬉しそうにこちらを見ている。

 国内のおとぎ話や海外の冒険譚を選んでみた。塔の中に籠ってばかりのノアには旅行っぽくて良い発散?になるかと思ったのだ。

 本を整理していると、4階の部屋でノアが眠っているのを見つけた。彼の周りには今日読む本たちが散らばっている。

「ノア、こんなところで寝たら風邪ひきますよ?」

 声をかけてみたが、うなされている彼は目を覚まさない。とても苦しそうで不安になるが、どれだけ声をかけても起きる気配がなかった。
 不安になってハワード候爵に相談したところ、「放っておけ」と言われた。

 ノアが見ている夢は魔法書に見せられている物だそうだ。

 囚人が魔法書を読めば、彼の体に刻まれた印が反応して戒めの魔法を発動させる。読んだ本の文字が、内容が、枷となり彼の心に巻き付くらしい。
 心に影響を及ぼすため精神が疲れ切るためか、読んでいるうちに眠ってしまうことも多々あるのだという。

 私は自分の執務室に置いていたひざ掛けを取りに行き、彼にかける。体調を看られるよう、彼の傍で本のチェックをすることにした。

 お昼を取りに行きハワード候爵とノアそれぞれに届ける。自室で昼食を食べていると、ノアが入り口からひょっこりと顔を出した。ひざ掛けを返しに来てくれたらしい。

「体調は大丈夫ですか?」
「う~ん……まだしんどいからさ、この後俺の髪の毛手入れしてくれない?」
「……自分でやってください」
「手入れしてくれたら俺の髪で遊んでもいいよ?」
「くっ……!」

 実を言うとノアの髪はそこら辺の女性よりさらさらして綺麗なのでちょっとアレンジしてみたいと思っていたところなのだ。ノアで着せ替え人形みたく遊びたいという私の中の隠れた女児心が疼く。

 ……いかんいかん。髪触っているところをハワード候爵に見られてみろ。さすがに俺のノアになに触ってるんだ!てことになるだろう。

「ハワード候爵にお願いしてみてはいかがでしょうか?」
「……は?なんで司書長さまなんかにお願いしなくちゃいけないの?おっさんに頼むなんて嫌だね」

 イヤイヤ、たぶんそのおっさんに頼んだら秒でやってくれるはずだぞ?

 しかしノアは頬を膨らませて上の階に行ってしまった。

 それからしばらくして10階の部屋で蔵書リストを更新していると、ノアが本を持って現れた。

「ねーねー、シエナちゃーん。本読むとき髪が邪魔だからその髪留め貸して~」
「本を読んでいる間だけですよ?」
「やったー! じゃ、ついでに髪結ってくれる?」

 そう言ってノアは私の前にすとんと座り後ろを向く。 

 ……お前、愛され上手か???

 アカン。絆されてはいけない。彼は囚人だし私は彼を監視する公職だし……。しかもこの人大量虐殺した上に身体の中に当時召喚した悪魔眠らせているんだよ?クレイジーなことこの上ない。

 ……でも、あざと可愛いなこの人。本当に私よりウン百歳年上なのか?

 朝からこんなに懐っこく話しかけられていると司書というか、世話係というか……なんだか保母さんになった気分だ。

 そうだ、保母さんの気分で彼らの恋のために何ができるか考えてみよう。

 ノアくんはディランくんに素直にお話できません。だから先生にお願いしてきているのです。たぶん今の状況はこれだ……よし、ノアくんから声をかけられないならディランくんの方から動いてもらおう。

 初日もグイグイ行ってるとこ見たし。

 私はノアを置いて2階に行きハワード候爵に話しかける。彼は読んでいた書類から目を離してこちらを見た。

「ディ……ハワード候爵、ノアが髪を結って欲しいと言っているのですがお願いできますか?」
「私にメイドの真似事でもさせるつもりなのか、フェレメレン?」

 その後、なぜかめっちゃ怒られた……。

 表情は全く変わっていないのに彼の後ろに蒼い炎が吹き荒れているように見える。そして、私は彼の家の雑務を追加されてしまい馬車馬のように働かざるを得なかった。

 しかしその日の夕方、夕食を運んできたのでハワード候爵を呼びに行ったところ、7階の部屋でノアを壁ドンして彼の髪を掴んでいる候爵を目撃してしまった。

 やっぱり触りたかったんじゃん。素直に言いなよ、ディランくん……。
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