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新米騎士は竜の相棒に認められたい

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「ねえ、オブシディアン。今日こそ背中に乗ってもいい?」
『フンッ』

 私――ウェンディ・ベルはイリゼ王国北部にあるフォーサイス辺境伯領の砦の騎士だ。

 目の前でそっぽを向いて横になっている雄の黒竜は相棒のオブシディアンで、ここは辺境伯領の領主アデルバード・フォーサイス様の邸宅兼砦の中にあるオブシディアン専用の獣舎。
 
 領主の竜だったこともあり、彼だけが特別待遇を受けている。
 
「ダメかぁ。やっぱり、領主様じゃないと嫌なのね……」

 先代領主様が不慮の事故で死去し、領主となって騎士職を引退した現領主様からオブシディアンを譲り受けたのだけど、私を主人と認めていないため一度も背に乗せてくれないし見回りについて来てもくれない。

「私、一人前の砦の騎士になれないまま引退しそう……」
 
 厳しい大自然に聳えるこの砦の騎士はみな竜を操っている。
 私も竜に乗ってこの地の人たちを守りたいと思い、騎士に志願して入団したのだけど、相棒の竜が背中に乗せてくれないため騎士人生の開始直後に詰んでいるところ。
 
「先輩から借りた竜育成本の『竜のきもち』に書かれていることは一通り試してみたんだけどなぁ……何がいけなかったんだろう……?」
 
 そもそも私のようなぺーぺーの新米騎士が、あの完璧な領主様の黒竜を譲り受けること自体おかしいな話だ。
 
「ううっ、領主様はどうして私なんかにこの素晴らしい黒竜をお譲りになったのかしら……私はまだ、なにも手柄を立てていないのに……」

 領主様は私よりも五歳年上の二十三歳で、まるで絵本に描かれる王子様を体現したかのような美男子だ。
 やや長めの波打つ金色の髪に、垂れ目がちの水色の瞳――鼻筋は通っており、甘い顔立ちで微笑むから彼を見た女性は漏れなく頬を赤らめている。

「オブシディアン、あなたの気持ちはわかるわ。こんな小娘を主と思いたくないわよね。だけど私……あなたに認めてもらえるよう頑張るからね!」
『……』

 返事をしてもらえなかったけれど、彼の耳はこちらを向いていたから話を聞いてくれていたようだ。

「じゃあ、午後の見回りに言ってくるから待っていてね」

 オブシディアンの目元にチュッとキスをすると、大きな体がビクリと跳ねた。
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