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第10話 求婚を、もう一度
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セヴェリ様が無事に大人に戻り、役目を終えたので実家に帰ることにした。
「ユスティーナちゃんが居なくなると寂しくなるわ。このままここに住んでくれたらいいのに」
エルヴァスティ公爵夫人は残念がってくれて、昨日はまた一緒にお茶をしてくれた。
私の帰宅を残念がってくれる人が、もう一人いる。
「ユスティーナ、出発前に少し、時間をいただけませんか? 二人きりで話したいことがあるんです」
「ええ、いいですよ」
セヴェリ様に連れられ、エルヴァスティ公爵邸の庭園の奥へと進む。
薔薇のアーチをくぐり辿り着いた先には大理石でできた噴水があり、その周りには白色や黄色や珊瑚色の薔薇が咲いている。
セヴェリ様にエスコートされて、近くにある長椅子に腰かけた。
「あ、あの……どうしましたか?」
隣に座るのかと思いきや、セヴェリ様は私の手をとると、目の前で膝をついたのだ。
「ユスティーナ、これからは、セヴェリと呼んでいただけますか?」
「え?」
「子どもに戻った時の私よりも、もっとあなたと心を近づけたいのです。白状すると、あの時の自分の方があなたと一緒に居る時間が長くて、嫉妬していますから」
「……っ!」
当たり前のことだけど、子どもの頃のセヴェリ様の告白とは全然違う。
愛情の中に込められた切実な気持ちが、強く心を揺さぶるのだ。
完全に、不意打ちだった。
水色の瞳を甘くして見つめられると、途端に頬が赤くなってしまう。
「ユスティーナ、私と結婚していただけませんか?」
「私でいいのですか?」
「あなたが伴侶として共に歩んでくれるのなら、それ以上の幸せはありません」
「ど、どうしてそこまで言ってくれるんですか?」
セヴェリ様は口元を綻ばせた。
その笑顔が、子どものセヴェリ様を彷彿とさせる。
「初めて出会った日、ずっと側に居てくれたユスティーナに、強く惹かれました。あの時に過ごした穏やかな時間は、私にとって宝物のような思い出で――、今でも鮮明に覚えています」
セヴェリ様の話によると、初めて出会ったあの日、セヴェリ様はやはり風邪をひいていて。
本当は、安静にしなくてはならない状態だった。
とはいえ、風邪くらいで周りに心配をかけたくないと隠してしまい、その結果、さらに症状が悪化してしまっていたようだ。
そうまでしてでも、周囲に弱い姿を見せてはならないと、幼い頃から叩き込まれた教えを守っていたようだ。
「あの時に見たユスティーナの眼差しや、口ずさんでいた歌声が忘れられなくて、気付けば夢中になってユスティーナの姿を追っていました。ユスティーナの明るい笑顔を守れたら、どんなにいいだろうかと、何度も願いました」
やがてセヴェリ様は求婚しようと決心し、そのための準備に取り掛かった。
その準備というのが――。
「どうにかして気を引けないだろうかと考えて、ユスティーナが好きな本に出てくる人物のように振舞うことにしたのです」
「セヴェリ様……あ、セヴェリは、そのままでよかったのに……」
すると、セヴェリは悲喜こもごもに苦笑する。
「そう言ってもらえて嬉しいです。本当は、もっと早くにこうして話すべきでした」
「ええ。私たち、少し遠回りしましたね」
お互いを知るための、大切な遠回りだった。
おかげで、これまで以上にセヴェリ様を身近に感じられるようになった。
私の婚約者は無口で無器用な氷の貴公子ではなく――。
優しくて、一途で、天使のような笑顔を見せてくれる人だ。
「ユスティーナ、不束者ですが、これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
両腕を伸ばしてセヴェリを抱きしめる。
子どものセヴェリ様は腕の中にすっぽりと収まったけど、大人のセヴェリ様は大きくて。
私を腕の中に閉じ込めるようにして、抱きしめ返してくれた。
「ユスティーナ、愛しています」
優しい囁きと共に、頬にそっとキスをしてくれた。
***あとがき***
いつも読んでいただきありがとうございます。
本日20時にエピローグを更新いたします。
「ユスティーナちゃんが居なくなると寂しくなるわ。このままここに住んでくれたらいいのに」
エルヴァスティ公爵夫人は残念がってくれて、昨日はまた一緒にお茶をしてくれた。
私の帰宅を残念がってくれる人が、もう一人いる。
「ユスティーナ、出発前に少し、時間をいただけませんか? 二人きりで話したいことがあるんです」
「ええ、いいですよ」
セヴェリ様に連れられ、エルヴァスティ公爵邸の庭園の奥へと進む。
薔薇のアーチをくぐり辿り着いた先には大理石でできた噴水があり、その周りには白色や黄色や珊瑚色の薔薇が咲いている。
セヴェリ様にエスコートされて、近くにある長椅子に腰かけた。
「あ、あの……どうしましたか?」
隣に座るのかと思いきや、セヴェリ様は私の手をとると、目の前で膝をついたのだ。
「ユスティーナ、これからは、セヴェリと呼んでいただけますか?」
「え?」
「子どもに戻った時の私よりも、もっとあなたと心を近づけたいのです。白状すると、あの時の自分の方があなたと一緒に居る時間が長くて、嫉妬していますから」
「……っ!」
当たり前のことだけど、子どもの頃のセヴェリ様の告白とは全然違う。
愛情の中に込められた切実な気持ちが、強く心を揺さぶるのだ。
完全に、不意打ちだった。
水色の瞳を甘くして見つめられると、途端に頬が赤くなってしまう。
「ユスティーナ、私と結婚していただけませんか?」
「私でいいのですか?」
「あなたが伴侶として共に歩んでくれるのなら、それ以上の幸せはありません」
「ど、どうしてそこまで言ってくれるんですか?」
セヴェリ様は口元を綻ばせた。
その笑顔が、子どものセヴェリ様を彷彿とさせる。
「初めて出会った日、ずっと側に居てくれたユスティーナに、強く惹かれました。あの時に過ごした穏やかな時間は、私にとって宝物のような思い出で――、今でも鮮明に覚えています」
セヴェリ様の話によると、初めて出会ったあの日、セヴェリ様はやはり風邪をひいていて。
本当は、安静にしなくてはならない状態だった。
とはいえ、風邪くらいで周りに心配をかけたくないと隠してしまい、その結果、さらに症状が悪化してしまっていたようだ。
そうまでしてでも、周囲に弱い姿を見せてはならないと、幼い頃から叩き込まれた教えを守っていたようだ。
「あの時に見たユスティーナの眼差しや、口ずさんでいた歌声が忘れられなくて、気付けば夢中になってユスティーナの姿を追っていました。ユスティーナの明るい笑顔を守れたら、どんなにいいだろうかと、何度も願いました」
やがてセヴェリ様は求婚しようと決心し、そのための準備に取り掛かった。
その準備というのが――。
「どうにかして気を引けないだろうかと考えて、ユスティーナが好きな本に出てくる人物のように振舞うことにしたのです」
「セヴェリ様……あ、セヴェリは、そのままでよかったのに……」
すると、セヴェリは悲喜こもごもに苦笑する。
「そう言ってもらえて嬉しいです。本当は、もっと早くにこうして話すべきでした」
「ええ。私たち、少し遠回りしましたね」
お互いを知るための、大切な遠回りだった。
おかげで、これまで以上にセヴェリ様を身近に感じられるようになった。
私の婚約者は無口で無器用な氷の貴公子ではなく――。
優しくて、一途で、天使のような笑顔を見せてくれる人だ。
「ユスティーナ、不束者ですが、これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
両腕を伸ばしてセヴェリを抱きしめる。
子どものセヴェリ様は腕の中にすっぽりと収まったけど、大人のセヴェリ様は大きくて。
私を腕の中に閉じ込めるようにして、抱きしめ返してくれた。
「ユスティーナ、愛しています」
優しい囁きと共に、頬にそっとキスをしてくれた。
***あとがき***
いつも読んでいただきありがとうございます。
本日20時にエピローグを更新いたします。
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