同僚のよしみで麗しの薔薇騎士様の恋人役を拝命しました~奔放な国王に振り回されている隠密バディの両片思いが実るまで~

柳葉うら

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18.恋バナというものをしました

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 医務室を後にした私とラファエルは、それぞれ仕事に戻った。

 ラファエルの体調が心配だから、また身体強化の魔法を使って運ぼうかと提案したのだけれど、断固として断られてしまった。
 
(まあ、これ以上は寄り道していられないし、仕方がないわね)
 
 そうして私は、陛下から与えられた任務を遂行すべく、茶葉とティーセットとお菓子を持って妃殿下の宮殿を訪ねる。

 妃殿下の宮殿は慎ましく咲く花や目に優しい緑のアーチが配置された庭の先にある落ち着いた場所だ。
 
 この場所はもともとは華やかな大輪の花が並んでいたのだけれど、素朴な植物を好む妃殿下のために陛下が宮廷庭師たちに指示して造り変えた。

 私は用意していたティーセットを乗せたワゴンを押して緑のアーチを通り抜け、宮殿の裏口から中に入る。

 使用人専用の廊下を通り抜けると、水色の壁に白いモールディングが美しい内装の廊下へと出た。
 そこから真っ直ぐに進むと、妃殿下の主寝室がある。

 扉の前に立つ騎士たちに用件を伝えて中に入れてもらうと、窓辺の座椅子に座っていた妃殿下が私を見て優美に微笑む。
 
「妃殿下、陛下からの贈り物を届けに参りました」
「ロミルダ! 会いに来てくれて嬉しいわ!」

 妃殿下は椅子から立ち上がると、離れ離れだった友人と再会したかのように熱烈に私を歓迎し、抱きしめてくれる。

「さあさあ、ここに座って、一緒にお茶をしましょう!」
「しかし、侍女の私が妃殿下と並んでお茶をするなんて……」
「今日は友として訪ねて来てくれたんでしょう?」
「違います。先ほども申し上げた通り、陛下から頼まれて贈り物を届けに参りました」
「相変わらず生真面目で頑固ね」
「侍女としての本分をわきまえていますので」

 本音を言うと、陛下を差し置いて妃殿下と一緒にお茶をした暁には、陛下からとんでもない任務を下されそうで面倒だから、巻き込まれたくない。

「嘘仰い。私とお茶をすると、陛下に目をつけられて厄介だから嫌なのでしょう?」
「……」
 
 妃殿下はなぜか私の<鉄仮面>を見ても私の感情を読み取ってしまうし、考えていることを言い当てる。
 もしかすると、何か特別な力を持っているのかもしれないと思ったのだけど、本人曰く「勘が鋭いだけ」らしい。
 
「いいわ。ロミルダ以外の使用人たちは全員外に出て。ここであったことは他言無用よ」

 妃殿下がそう命令すると、控えていた侍女も護衛騎士も、みんな部屋の外に出てしまった。

 残された私は、有無を言わさず妃殿下とのお茶会に強制参加させられることとなった。
 
 普段は温和でのんびりしている妃殿下だけれど、あの横柄な陛下が選んだだけあって、穏やかさの中にも芯があって強い。

「ねえねえ、あなたとラファエルが噂になっているわよ。彼と付き合っているのは本当なの?」
「はい」
「きゃーっ! ロミルダにもついに春が来たのね! おめでとう! ようやく恋バナができるわ!」

 お茶を淹れつつ答えていると、妃殿下が抱きついてくる。
 手元が狂って危ないから、私以外の侍女がお茶を淹れている時にはしないよう注意した。

(それにしても、どうしてこんなにも喜んでいるのかしら?)
 
 妃殿下はまるで自分のことのように喜んでおり、ぴょんぴょんと飛び跳ねるものだから、とりあえず座らせて落ち着かせた。

 身籠っているというのに無茶をされると、体に良くないしこちらの心臓にも良ろしくない。
 
「それで、恋人になってからどう?」
「どう、とは?」
「恥ずかしがらないで教えてよ! ラファエルとはどんなお付き合いをしているの?」
「一緒に外食しています」
「デートね! いいわねぇ!」
 
 妃殿下は幼い頃から陛下の妃にするべく育てられてきたため、平民のような恋愛やデートに憧れている。

 だから恋愛結婚した侍女たちに馴れ初めやデートの話を強請って聞かせてもらっているのだ。

「はぁ、憧れるわぁ。明後日のデートが楽しみ」
「……念願のデートですね。陛下も楽しみにしていらっしゃいます」

 そう返事をしつつ、私は今朝の出来事を振り返った。
 
 陛下から今朝下されたばかりの任務がある。
 妃殿下を殺して自分の娘を後妻にさせようと目論む貴族たちが雇った暗殺者を、見つけ出して排除せよとのこと。
 
 陛下は手下たちを排除して、安心で安全な王都で妃殿下とデートしようとしているのだ。
 二人が楽しみにしているデート絡みで、私とラファエルは緊急対応に追われている。

 午前中に犯人たちの情報をつかめたから、今宵は侍女の仕事が終わり次第、暗殺者掃討作戦に移行しなければならない。
 
「恋人になってから、何か変わった?」
「変わる……?」
「どうしてもラファエルを意識してしまうとか!」
「相棒を気にかけて当然です」
「そういうことではないわ。ラファエルを見ていると胸がドキドキするとか、ないの?」
「胸がドキドキ……それは脈の乱れかと」
「ロミルダったら、本当にロマンがないんだから!」

 ロマンはつまり、幻想のようなもので現実には起こり得ないことだろう。

 そう思っていることが顔に出ていたようで、妃殿下が恋をするとどうなるのかを語り始めてしまった。

「恋をしたら、胸がドキドキしたり、キュンとしたり、相手の顔を見ると顔が熱くなったり……とにかく、体に変化が起こるのよ!」
「まさに恋の病ですね」
「他人事のように言うわね。本当に、何も変化がないの?」
「変化……ですか。ないわけではないのですが……」
 
 ラファエルに相談をした日、原因不明の熱が出たのは、当てはまるのだろうか。
 
 あの日に見たラファエルの眼差しや、かけてくれた言葉、それに抱きしめられた時の感覚を思い出すと――。
 なぜか胸の奥がきゅうっと軋んで、またもや理由もなく切なくて泣きたい気分になってしまう。
 
(恋をしたから、ラファエルのことを考えるとおかしくなるの? それならあの日に熱が出たのは、私がラファエルを好いているから……?)

 頬に両手を添えて熱を測ってみる私を、妃殿下がにこにこと満足げな笑みを浮かべて見守ってくるのだった。
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