同僚のよしみで麗しの薔薇騎士様の恋人役を拝命しました~奔放な国王に振り回されている隠密バディの両片思いが実るまで~

柳葉うら

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17.治らない病だそうです

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 不調のラファエルには、一刻も早く医者に診てもらわなければならない。

(そうだ。私ったら、患者に対してなんてことを)
 
 目の病か幻覚魔法をかけられているのなら、本当は歩くのも困難なはず。
 それなのに私はラファエルを走らせてしまっていることに気づく。

 こうなったら、身体強化の魔法をかけてラファエルを運ぶしかない。

 足を止めて自分に魔法をかけた私は、素早く身を屈めてラファエルを抱き上げた。
 
「ひえっ?!」
「足元が覚束ないと思いますので、私が運びますね」
 
 筋肉がしっかりとついているラファエルだけれど、身体強化の魔法のおかげで少しも重く感じない。

 さあ、このまま医務室へ一直線だと足を踏み出したその時、ラファエルが暴れ始めた。
 
「ロミルダ! 自分で歩けるから、下ろしてくれ!」
「病人が何を言っているのですか! 緊急事態ですのでこのまま運びますよ!」
「普通に歩けるから! むしろこの姿だと恥ずかしくて死ぬ」
「人は羞恥心で死にません」
「いや、少なくとも社会的には死ぬと思うんだ」
 
 ラファエルは、騎士が侍女にお姫様抱っこされていると、騎士の名が廃ると言う。
 
 変なプライドでやせ我慢するのはよくないと言い聞かせたが、ラファエルは頑なに自分で歩くと主張して暴れるものだから、仕方がなく下ろした。

 そうして頑固な患者を医務室へ連れて行き、宮廷治癒師に声をかけた。
 ラファエルの症状を宮廷治癒師に伝えると、なぜか彼は同情するような眼差しをラファエルに向ける。

「ううむ……これは病ではないのですが」
「それでは、幻覚魔法をかけられているのですね?!」
「いえ、それでもありません。幻覚魔法というよりは病の方が近しいでしょうね」
「その病とは何なんですか?」
「う~んと、それは――」

 宮廷治癒師は口籠りつつ、ラファエルに視線を向けて片眉を上げる。
 一方でラファエルは、首を横に振って拒絶するような仕草を見せた。

 それは二人の間でのみ通用する秘密の合図のようだ。

「患者が望まないようだから、病名を教えられません」
「そう……ですか。危険な病ではないのですよね?」
「まあ、命にかかわるような症状はないでしょう」
「それを聞いて安心しました」

 本当は病の名前を聞いて治療方法を探したいところだけれど、ラファエルが知りたくないのであればしかたがない。
 
「それでは、薬の処方をお願いします」
「残念ながら、この病に効く薬はないのだよ」
「では、どうしたら治るのでしょう?」
「ううむ……こればかりは治らない病ですから、様子見するしかありませんな」
「治らない病なんて……ラファエルは騎士なのに……」

 この先もずっと目の調子が悪いと、任務に支障をきたすだろう。

 どうにかして治療方法を見つけ出せないかと考えながら、私はラファエルと一緒に医務室を出た。
 
「ロミルダ、大したことないから心配しないで」
 
 自分の方が不安に駆られているだろうに、ラファエルは私の心配をしてくれる。

 この優しい相棒のために、できる限りのことをしたい。
 
「これからは私がラファエルをサポートするので、気を落とさないでください」
「えっ?」
「守られるだけの頼りない恋人にはなりたくありませんので、私がラファエルを守ってみせます」
「カッコいい……! ――いや、俺がときめいてどうするんだ。俺がカッコいいところを見せなければならないのに……」
「何を言っているのですか。ラファエルは十分カッコいいですよ」
「……っ!」
「なんせ、王国中の女性を虜にする薔薇騎士様なんですから」
「あ、その話なんだね……うん……そう言ってくれてありがとう」

 お礼を言ってくれる声は力なくて。
 気のせいか、ラファエルが先ほどよりも憔悴しているように見えた。

 その後ラファエルから、今回の件を絶対に陛下に言わないでほしいと頼まれたから、私は彼の病について他言しないと誓った。

「……まあ、あのお方のことだからどこかで嗅ぎつけてニヤついているかもしれないけれど……」

 ラファエルは私が聞き取れないような小声で何かを呟くと、深い溜息をついたのだった。
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