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15.前途多難な恋
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出会う前から<鉄仮面>として名を馳せている相棒の、弱っている姿を初めて見た。
(ロミルダは何でも卒なくこなすから悩み事なんてないと思っていたけれど、人並みにあるんだなぁ……)
――人から与えられた想いを受けとめることが苦手な相棒。
ロミルダが話してくれる前から、なんとなく気づいていた。
彼女と外食したあの夜、彼女は養父である財務大臣が俺との結婚に反対している時、虚を突かれたような顔をして立ち尽くしていたから。
その時のロミルダは、どうして自分が大切にされるのか、わからないといった様子だった。
(ロミルダのこと、もっと知れたらいいのだけれど……)
本人から聞かせてもらいたいところだが、きっと詳しくは話してくれないだろう。
なんせ悩み事を聞かせてくれた時でさえ話す直前まで悩んでいたのだから。
俺はまだ、ロミルダに心を許してもらえていない。
その事実を思い知らされてしまい、惨めになる。
(本人から教えてもらえないのであれば……他の人から聞くしかないな)
ちょうどお誂え向きの人物と会う予定だから聞いてみよう。
そう思い立った俺は、拘束した貴族たちを尋問した後、陛下の執務室を訪ねた。
部屋を訪ねると、陛下は手に持っていた書類を机の上に置き、とびきり人の悪い笑みを浮かべる。
「恋人の練習と称してロミルダに抱きつくとは、なかなか卑怯な手を使ったな。変態め」
「――っ、見ていたのですか?!」
「ああ、偶然な。ぐ・う・ぜ・ん。気まぐれに庭園を見たら、可愛い甥っ子がらしくないことをしているから驚いたぞ」
「うっ……覗き見なんてお人が悪い……」
「周囲に見せつけていたくせに不満を言うな」
諫める言葉とは裏腹に、声音は実に上機嫌で、この状況を楽しんでいることがわかる。
次は何を言ってくるのだろうかと思うと胃が痛い。
後で医務室へ行って胃薬を貰っておこう。
「それにしても、初めてお前から女性に触れたな。どうしてそうしようと思ったんだ?」
「不安そうにしているロミルダを放っておけなかったんです。だけど、その通りに言うとロミルダの自尊心を傷つけると思ったから、練習だと言ったんですよ」
「ほう、いい判断だ。あれは他人から弱いとみなされることを嫌っているからな」
「嫌うと言うよりも……恐れているようでした」
ロミルダには隙がない。
以前はそれが、彼女が完璧主義だからだと思っていたが、今は違う。
彼女は他人に隙や弱みを見せないよう、気を張りつめているのだと思う。
「俺は、ロミルダが弱みを見せられる相手になりたいです。彼女をあのまま放っておくつもりはありません」
「ふむ。情熱的なことを言ってくれるな」
「えっ?」
「つまり、ロミルダの唯一になりたいと言うことだろう?」
「――っ、ええ。そうですよ」
「おおっ! ついに可愛い甥っ子に春が来たか! それでは、本当にロミルダと結婚するつもりか?」
「はい。俺は本気です。だからまずは財務大臣を説得しなければなりません」
「楽しいことになってきたな。やはりお前たちに恋人役をさせて良かった。しばらくは退屈しないで済む」
「もうっ! 俺たちを何だと思っているんですか!」
「大切な忠臣だと思っているぞ?」
ありがたいことを言ってくれているはずなのに、話の流れのせいで、ありがたさを感じられない。
陛下は俺たちを、退屈しのぎをするのにちょうどいいから大切な忠臣だと思っているに違いない。
幼い頃から見てきたからわかる。
この人は、そのような性格なのだ。
「何はともあれ、大臣を説得する前にロミルダの関心を引かなければ上手く進まないぞ?」
「うっ……。一筋縄ではいかないとは覚悟しています」
仕事人間のロミルダに恋愛対象として意識してもらうには、どうしたらいいのだろうか。
(そもそも俺は、まだ信頼もされていない状態……。まずは他の人よりも信頼されるようになることが先決だな)
そうとなればやはり、今一番ロミルダに信頼されている人物に助言を求めるしかない。
俺は決心して、陛下に聞いてみた。
「ロミルダは陛下には心を開いていますよね。一体どうしたら心を開いてもらえたのですか?」
「ああ、私と命を賭した駆け引きをしたからだろう」
「いやいやいや、どんな理屈なのですか?!」
微笑ましい話を聞けると期待していた俺は、予想外の理由に突っ込みを入れざるを得なかった。
あの冷静沈着なロミルダが、拳で友情を確かめ合うような脳筋たちと同じ理屈で陛下に懐いているとは思えないのだけれど。
「ロミルダを振り向かせたいのなら、命を賭してあいつと向き合え」
「ええ~っ?!」
「本気で戦いを挑めば、あいつはお前を認めるはずだ」
「そこから恋に発展するとは思えないんですけど?!」
さすがにその提案を実行に移すつもりはない。
(結局、自分で試行錯誤するしかないようだな)
前途多難で難解な恋に、思わず天を仰ぎたくなった。
(ロミルダは何でも卒なくこなすから悩み事なんてないと思っていたけれど、人並みにあるんだなぁ……)
――人から与えられた想いを受けとめることが苦手な相棒。
ロミルダが話してくれる前から、なんとなく気づいていた。
彼女と外食したあの夜、彼女は養父である財務大臣が俺との結婚に反対している時、虚を突かれたような顔をして立ち尽くしていたから。
その時のロミルダは、どうして自分が大切にされるのか、わからないといった様子だった。
(ロミルダのこと、もっと知れたらいいのだけれど……)
本人から聞かせてもらいたいところだが、きっと詳しくは話してくれないだろう。
なんせ悩み事を聞かせてくれた時でさえ話す直前まで悩んでいたのだから。
俺はまだ、ロミルダに心を許してもらえていない。
その事実を思い知らされてしまい、惨めになる。
(本人から教えてもらえないのであれば……他の人から聞くしかないな)
ちょうどお誂え向きの人物と会う予定だから聞いてみよう。
そう思い立った俺は、拘束した貴族たちを尋問した後、陛下の執務室を訪ねた。
部屋を訪ねると、陛下は手に持っていた書類を机の上に置き、とびきり人の悪い笑みを浮かべる。
「恋人の練習と称してロミルダに抱きつくとは、なかなか卑怯な手を使ったな。変態め」
「――っ、見ていたのですか?!」
「ああ、偶然な。ぐ・う・ぜ・ん。気まぐれに庭園を見たら、可愛い甥っ子がらしくないことをしているから驚いたぞ」
「うっ……覗き見なんてお人が悪い……」
「周囲に見せつけていたくせに不満を言うな」
諫める言葉とは裏腹に、声音は実に上機嫌で、この状況を楽しんでいることがわかる。
次は何を言ってくるのだろうかと思うと胃が痛い。
後で医務室へ行って胃薬を貰っておこう。
「それにしても、初めてお前から女性に触れたな。どうしてそうしようと思ったんだ?」
「不安そうにしているロミルダを放っておけなかったんです。だけど、その通りに言うとロミルダの自尊心を傷つけると思ったから、練習だと言ったんですよ」
「ほう、いい判断だ。あれは他人から弱いとみなされることを嫌っているからな」
「嫌うと言うよりも……恐れているようでした」
ロミルダには隙がない。
以前はそれが、彼女が完璧主義だからだと思っていたが、今は違う。
彼女は他人に隙や弱みを見せないよう、気を張りつめているのだと思う。
「俺は、ロミルダが弱みを見せられる相手になりたいです。彼女をあのまま放っておくつもりはありません」
「ふむ。情熱的なことを言ってくれるな」
「えっ?」
「つまり、ロミルダの唯一になりたいと言うことだろう?」
「――っ、ええ。そうですよ」
「おおっ! ついに可愛い甥っ子に春が来たか! それでは、本当にロミルダと結婚するつもりか?」
「はい。俺は本気です。だからまずは財務大臣を説得しなければなりません」
「楽しいことになってきたな。やはりお前たちに恋人役をさせて良かった。しばらくは退屈しないで済む」
「もうっ! 俺たちを何だと思っているんですか!」
「大切な忠臣だと思っているぞ?」
ありがたいことを言ってくれているはずなのに、話の流れのせいで、ありがたさを感じられない。
陛下は俺たちを、退屈しのぎをするのにちょうどいいから大切な忠臣だと思っているに違いない。
幼い頃から見てきたからわかる。
この人は、そのような性格なのだ。
「何はともあれ、大臣を説得する前にロミルダの関心を引かなければ上手く進まないぞ?」
「うっ……。一筋縄ではいかないとは覚悟しています」
仕事人間のロミルダに恋愛対象として意識してもらうには、どうしたらいいのだろうか。
(そもそも俺は、まだ信頼もされていない状態……。まずは他の人よりも信頼されるようになることが先決だな)
そうとなればやはり、今一番ロミルダに信頼されている人物に助言を求めるしかない。
俺は決心して、陛下に聞いてみた。
「ロミルダは陛下には心を開いていますよね。一体どうしたら心を開いてもらえたのですか?」
「ああ、私と命を賭した駆け引きをしたからだろう」
「いやいやいや、どんな理屈なのですか?!」
微笑ましい話を聞けると期待していた俺は、予想外の理由に突っ込みを入れざるを得なかった。
あの冷静沈着なロミルダが、拳で友情を確かめ合うような脳筋たちと同じ理屈で陛下に懐いているとは思えないのだけれど。
「ロミルダを振り向かせたいのなら、命を賭してあいつと向き合え」
「ええ~っ?!」
「本気で戦いを挑めば、あいつはお前を認めるはずだ」
「そこから恋に発展するとは思えないんですけど?!」
さすがにその提案を実行に移すつもりはない。
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