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第二章
4.優しい奴
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同じころ、フレイヤはパルミロの店、<気ままな妖精猫亭>に来ていた。
「フレイちゃん、久しぶりだな。シルがつけた福利厚生で、すっかりコルティノーヴィス伯爵家の飯に夢中になってしまったかと思っていたよ」
パルミロがわざとらしく唇を尖らせる。
彼は、シルヴェリオがフレイヤに提示してくれた福利厚生を知っているのだ。
三食とデザートとおやつ付。
コルティノーヴィス伯爵家の料理人が作った料理を運んでもらい、それをいただいている。
しかも、おやつは日に三回も出てくることがある。
ありがたいが、最近は虫歯とウエストが気になってきたから一回にしてもらおうかと思っている。
「たしかに豪華な食事をつけてくださってありがたいけど、パルミロさんの料理が恋しくなっちゃったんだよね」
特に今日のような緊張の連続だった日は、馴染みのある味が欲しくなる。
王宮からコルティノーヴィス香水工房に戻ったフレイヤは、制服から私服に着替えてようやく緊張が解けたのだ。
煌びやかな場所と高貴な方々との会話ですっかり疲弊してしまい、体が平民らしいものを求めてやまなかった。
「がははっ、嬉しいことを言ってくれる。今日は何がいい?」
「パルミロさんのおまかせで」
「おうよ、とびきり美味いもんを作るから、楽しみにしてくれ」
パルミロは薄く切ったパンの上に角切りしたトマトとチーズを乗せ、上からオリーブオイルをかけた。もうひと切れ別のパンを手に取ると、今度は生ハムとバジルを乗せる。
そうしていくつか作ったオープンサンドのような料理を皿の上に盛りつけると、フレイヤに手渡した。
「肉料理ができるまで、これを食べていてくれ」
「うん、ありがとう」
続いてコンロにかけている鍋の蓋を開けると、ぽってりとした厚みのある陶器の深皿に野菜の煮込み料理をよそう。
ナスとオリーブとパプリカと香味野菜を、塩と砂糖とビネガーで味付け、くったりとするまで煮込んだ料理。これは、エイレーネ王国の平民の間に伝わる家庭料理だ。
「健康が一番だからな。野菜をしっかりと摂るんだぞ」
そう言い、深皿をフレイヤの目の前に置いた。
フレイヤは深皿に片手を添えると、手元に用意されていた木の匙でごろりと大きなナスを掬う。
口元に近づけると、ふうふうと息を吹いて少し冷ました。
頃合いを見計らってぱくりと食べると、口の中に野菜の甘みと煮汁の酸味がじんわりと広がる。
「美味しい! やっぱり、この店の煮込みが大好きだなぁ」
「コルティノーヴィス伯爵家の味よりも?」
「う~ん、野菜の煮込みはまだ出てきたことがないから、比べられないや」
「まあ、お貴族様に出す料理ではないな」
がははと豪快に笑ったパルミロが、ふとフレイヤの顔を盗み見た。
声は元気そうだが、木の匙を持ったままで、どことなくぼんやりとしている。
「浮かない顔をしているな。何かあったのか?」
「うん、仕事のことでちょっと……」
「シルに虐められたのか? 俺が懲らしめてやるよ」
「い、虐められたんじゃないよ!」
シルヴェリオの名誉に関わってくることだ。咄嗟に否定した。
「でも、シルのことで悩んでいるんだろう?」
「少し、意見の違いがあったというか……」
フレイヤは指先をもじもじと動かしながら、帰りの馬車の中での出来事をパルミロに話した。
工房のためにたくさん依頼を受けたいのに、シルヴェリオは無理をするなと言って止めてくる。
「シルヴェリオ様は無理をしないよう言ってくださっているけど、私は工房のためにもっと働きたいよ。だって、早くコルティノーヴィス香水工房の名前を広めたいんだもん」
「なるほどなぁ……。わかるよ、その気持ち」
パルミロは眉尻を下げ、ほろ苦く笑った。
「……シルがそう言ったのは、俺のせいだな」
「パルミロさんのせい?」
なぜ、工房の件でパルミロが関わってくるのだろうか。
カルディナーレ香水工房での出来事を聞いていたパルミロが心配して、無理をさせるなと言ってくれたのだろうか。
フレイヤはぱちくりと目を瞬かせた。
「俺は元魔導士だと言っただろ? 実は、魔導士としての実力を高めたいあまり無茶をして魔力回路が壊れたから、魔法を使えなくなって辞めたんだよ。皮肉なものだよな」
「――っ!」
予想だにしていない理由に、フレイヤは手に持っていた木の匙を取り落としてしまった。幸いにも、真下にあった皿が受け止めてくれる。
「そう……だったんだ……」
パルミロが元魔導士だということは知っていたが、なぜ辞めたのかまでは知らなかった。
料理人になりたいから辞めたのかもしれないと、予想していたのだ。
「当時の俺は、急に魔法が使えなくなって取り乱してしまったんだよ。そんなみっともないところを、シルに見せちまったんだ」
――巨大蛸討伐の時。強大な魔獣を倒すために魔力を限界まで使い切ったパルミロを襲ったのは、魔力回路の破損による激痛だった。
あまりの痛みに意識を失い、再び目を覚ました時には王宮内にある治癒院にいた。
体内から魔力を感じ取れなくなったことに、すぐに気づいた。
その時はまだ、よもや魔法が使えなくなったとは、思いも寄らなかったのだ。
しかし治癒院の院長から直々に魔法が使えなくなったと聞かされ、目の前が真っ暗になった。
揺さぶられてもいないというのに、頭の中がぐらついた。
「シルは毎日見舞いに来てくれたんだよ。だから、俺が病室でみっともなく泣きわめいていたところや、燃え尽きていたところを全部見られてしまったんだ」
人生のほとんどを、魔法に捧げてきた。
もとより生真面目な性格ではなかったが、日々の鍛錬では自主練習を欠かさなかった。
実践の方が好きだが、より強くなるために書を読み、魔法理論を学んだ。
それらの努力が一瞬で水泡に帰した喪失感は、筆舌に尽くしがたいものだった。
おまけに、長い年月を共にしてきた使い魔のフラウラは、目を覚ました時には目の前から消えていた。
二重の喪失に打ちのめされてすっかり自棄になっていたパルミロを立ち上がらせたのは、他でもなくシルヴェリオだ。
他の仲間たちがパルミロにかける言葉に迷い、遠巻きに見ているなかで、シルヴェリオは毎日見舞いに来ては退職後について話しをするのだった。
『魔導士団を辞めたら、教師になるのはどうだ? パルミロは俺と違って面倒見がいいから、きっといい教師になれる』
『いや……料理人になる』
『料理人?』
『フラウラとの約束だったんだ。料理をしていたら、あいつが戻ってきてくれるかもしれない』
『……やってみるといい。ただし、今度は無理しないようにな』
正直に言うと、その時はまだ別の職業になることに抵抗があった。
今まで魔法に費やしてきた時間や想いを解消するには、あまりにも時間が足りない。
しかしシルヴェリオの一言が、パルミロの背を押した。
「シルは、フレイちゃんには俺のような目に遭ってほしくないから、そう言ったんだろう」
「そう……なのかもしれない」
思い出すのは、馬車の中で言われた言葉。
『無理をするな。一度体を壊すと、何が起こるかわからないからな』
そう話すシルヴェリオは、苦虫を嚙み潰したように口元を曲げ、膝の上で緩く拳を握っていた。
まるで何かを、後悔しているかのような表情だった。
あの時は、否定されたことに気を取られ過ぎてしまっていたのかもしれない。
もっとシルヴェリオの様子を見ていれば、彼がそう言った事情がわかり――心の中に蟠りができることはなかったのではないだろうか。
「シルはフレイちゃんのひたむきさや努力を知っているから、もう二度と調香師の道が絶たれないように守ろうとしているんだ。たとえ相手がフレイちゃん自身であっても、だ。……それにしても、言い方ってもんがあるんだがなぁ」
人を思いやっているのに、周囲の人間のために的確な判断を下しているというのに、ぶっきらぼうな物言いのせいで回りから距離をおかれている。
悪い方向に勘違いされてしまうことだって、何度もあった。
それが、勿体ないと思う。
「今度シルに会ったらお説教しとくよ。言葉が足りないってな」
「い、いいよ。シルヴェリオ様は私のためを思って言ってくださったから――」
「いいや、あいつの言葉足らずなところは直さないと、後々あいつが損をするからな」
腕を組んで溜息をつくパルミロに、フレイヤはクスクスと笑った。
「パルミロさんって、シルヴェリオ様のお兄さんみたい」
「ははっ、親父じゃなくてよかったよ。魔導士団にいた頃は、周りからシルの親父って言われていたから老け顔なのかって落ち込んでいたんだ」
「お、親父……は確かに落ち込むかも」
「だろう? それなのにシルときたら、『貫禄があるってことでいいじゃないか』って言って訂正してくれなかったんだよ。薄情な弟だよ、全く……」
当時を思い出したのか、パルミロがやや不貞腐れたような顔つきになる。
「そんな可愛げがない奴だけど、間違いなく優しい奴でもあるから、これからも仲良くしてやってくれ。もちろん、嫌なことがあったら教えてくれ。すぐに懲らしめてやるから」
「ありがとう。シルヴェリオ様の専属調香師として、もう少しシルヴェリオ様に歩み寄ってみるね。シルヴェリオ様は意外と不器用なのかもしれないから」
「意外とどころか、あいつはかなり不器用だぞ。手先に費やす器用さを少しは人付き合いに使ってほしかったよ」
真面目くさった顔で繰り出された冗談に、フレイヤはまた笑う。
木の匙を再び握ると、野菜の煮物をもうひと口食べる。
温かな料理が喉を通ってお腹の中におさまると、不思議と心も満たされた。
「フレイちゃん、久しぶりだな。シルがつけた福利厚生で、すっかりコルティノーヴィス伯爵家の飯に夢中になってしまったかと思っていたよ」
パルミロがわざとらしく唇を尖らせる。
彼は、シルヴェリオがフレイヤに提示してくれた福利厚生を知っているのだ。
三食とデザートとおやつ付。
コルティノーヴィス伯爵家の料理人が作った料理を運んでもらい、それをいただいている。
しかも、おやつは日に三回も出てくることがある。
ありがたいが、最近は虫歯とウエストが気になってきたから一回にしてもらおうかと思っている。
「たしかに豪華な食事をつけてくださってありがたいけど、パルミロさんの料理が恋しくなっちゃったんだよね」
特に今日のような緊張の連続だった日は、馴染みのある味が欲しくなる。
王宮からコルティノーヴィス香水工房に戻ったフレイヤは、制服から私服に着替えてようやく緊張が解けたのだ。
煌びやかな場所と高貴な方々との会話ですっかり疲弊してしまい、体が平民らしいものを求めてやまなかった。
「がははっ、嬉しいことを言ってくれる。今日は何がいい?」
「パルミロさんのおまかせで」
「おうよ、とびきり美味いもんを作るから、楽しみにしてくれ」
パルミロは薄く切ったパンの上に角切りしたトマトとチーズを乗せ、上からオリーブオイルをかけた。もうひと切れ別のパンを手に取ると、今度は生ハムとバジルを乗せる。
そうしていくつか作ったオープンサンドのような料理を皿の上に盛りつけると、フレイヤに手渡した。
「肉料理ができるまで、これを食べていてくれ」
「うん、ありがとう」
続いてコンロにかけている鍋の蓋を開けると、ぽってりとした厚みのある陶器の深皿に野菜の煮込み料理をよそう。
ナスとオリーブとパプリカと香味野菜を、塩と砂糖とビネガーで味付け、くったりとするまで煮込んだ料理。これは、エイレーネ王国の平民の間に伝わる家庭料理だ。
「健康が一番だからな。野菜をしっかりと摂るんだぞ」
そう言い、深皿をフレイヤの目の前に置いた。
フレイヤは深皿に片手を添えると、手元に用意されていた木の匙でごろりと大きなナスを掬う。
口元に近づけると、ふうふうと息を吹いて少し冷ました。
頃合いを見計らってぱくりと食べると、口の中に野菜の甘みと煮汁の酸味がじんわりと広がる。
「美味しい! やっぱり、この店の煮込みが大好きだなぁ」
「コルティノーヴィス伯爵家の味よりも?」
「う~ん、野菜の煮込みはまだ出てきたことがないから、比べられないや」
「まあ、お貴族様に出す料理ではないな」
がははと豪快に笑ったパルミロが、ふとフレイヤの顔を盗み見た。
声は元気そうだが、木の匙を持ったままで、どことなくぼんやりとしている。
「浮かない顔をしているな。何かあったのか?」
「うん、仕事のことでちょっと……」
「シルに虐められたのか? 俺が懲らしめてやるよ」
「い、虐められたんじゃないよ!」
シルヴェリオの名誉に関わってくることだ。咄嗟に否定した。
「でも、シルのことで悩んでいるんだろう?」
「少し、意見の違いがあったというか……」
フレイヤは指先をもじもじと動かしながら、帰りの馬車の中での出来事をパルミロに話した。
工房のためにたくさん依頼を受けたいのに、シルヴェリオは無理をするなと言って止めてくる。
「シルヴェリオ様は無理をしないよう言ってくださっているけど、私は工房のためにもっと働きたいよ。だって、早くコルティノーヴィス香水工房の名前を広めたいんだもん」
「なるほどなぁ……。わかるよ、その気持ち」
パルミロは眉尻を下げ、ほろ苦く笑った。
「……シルがそう言ったのは、俺のせいだな」
「パルミロさんのせい?」
なぜ、工房の件でパルミロが関わってくるのだろうか。
カルディナーレ香水工房での出来事を聞いていたパルミロが心配して、無理をさせるなと言ってくれたのだろうか。
フレイヤはぱちくりと目を瞬かせた。
「俺は元魔導士だと言っただろ? 実は、魔導士としての実力を高めたいあまり無茶をして魔力回路が壊れたから、魔法を使えなくなって辞めたんだよ。皮肉なものだよな」
「――っ!」
予想だにしていない理由に、フレイヤは手に持っていた木の匙を取り落としてしまった。幸いにも、真下にあった皿が受け止めてくれる。
「そう……だったんだ……」
パルミロが元魔導士だということは知っていたが、なぜ辞めたのかまでは知らなかった。
料理人になりたいから辞めたのかもしれないと、予想していたのだ。
「当時の俺は、急に魔法が使えなくなって取り乱してしまったんだよ。そんなみっともないところを、シルに見せちまったんだ」
――巨大蛸討伐の時。強大な魔獣を倒すために魔力を限界まで使い切ったパルミロを襲ったのは、魔力回路の破損による激痛だった。
あまりの痛みに意識を失い、再び目を覚ました時には王宮内にある治癒院にいた。
体内から魔力を感じ取れなくなったことに、すぐに気づいた。
その時はまだ、よもや魔法が使えなくなったとは、思いも寄らなかったのだ。
しかし治癒院の院長から直々に魔法が使えなくなったと聞かされ、目の前が真っ暗になった。
揺さぶられてもいないというのに、頭の中がぐらついた。
「シルは毎日見舞いに来てくれたんだよ。だから、俺が病室でみっともなく泣きわめいていたところや、燃え尽きていたところを全部見られてしまったんだ」
人生のほとんどを、魔法に捧げてきた。
もとより生真面目な性格ではなかったが、日々の鍛錬では自主練習を欠かさなかった。
実践の方が好きだが、より強くなるために書を読み、魔法理論を学んだ。
それらの努力が一瞬で水泡に帰した喪失感は、筆舌に尽くしがたいものだった。
おまけに、長い年月を共にしてきた使い魔のフラウラは、目を覚ました時には目の前から消えていた。
二重の喪失に打ちのめされてすっかり自棄になっていたパルミロを立ち上がらせたのは、他でもなくシルヴェリオだ。
他の仲間たちがパルミロにかける言葉に迷い、遠巻きに見ているなかで、シルヴェリオは毎日見舞いに来ては退職後について話しをするのだった。
『魔導士団を辞めたら、教師になるのはどうだ? パルミロは俺と違って面倒見がいいから、きっといい教師になれる』
『いや……料理人になる』
『料理人?』
『フラウラとの約束だったんだ。料理をしていたら、あいつが戻ってきてくれるかもしれない』
『……やってみるといい。ただし、今度は無理しないようにな』
正直に言うと、その時はまだ別の職業になることに抵抗があった。
今まで魔法に費やしてきた時間や想いを解消するには、あまりにも時間が足りない。
しかしシルヴェリオの一言が、パルミロの背を押した。
「シルは、フレイちゃんには俺のような目に遭ってほしくないから、そう言ったんだろう」
「そう……なのかもしれない」
思い出すのは、馬車の中で言われた言葉。
『無理をするな。一度体を壊すと、何が起こるかわからないからな』
そう話すシルヴェリオは、苦虫を嚙み潰したように口元を曲げ、膝の上で緩く拳を握っていた。
まるで何かを、後悔しているかのような表情だった。
あの時は、否定されたことに気を取られ過ぎてしまっていたのかもしれない。
もっとシルヴェリオの様子を見ていれば、彼がそう言った事情がわかり――心の中に蟠りができることはなかったのではないだろうか。
「シルはフレイちゃんのひたむきさや努力を知っているから、もう二度と調香師の道が絶たれないように守ろうとしているんだ。たとえ相手がフレイちゃん自身であっても、だ。……それにしても、言い方ってもんがあるんだがなぁ」
人を思いやっているのに、周囲の人間のために的確な判断を下しているというのに、ぶっきらぼうな物言いのせいで回りから距離をおかれている。
悪い方向に勘違いされてしまうことだって、何度もあった。
それが、勿体ないと思う。
「今度シルに会ったらお説教しとくよ。言葉が足りないってな」
「い、いいよ。シルヴェリオ様は私のためを思って言ってくださったから――」
「いいや、あいつの言葉足らずなところは直さないと、後々あいつが損をするからな」
腕を組んで溜息をつくパルミロに、フレイヤはクスクスと笑った。
「パルミロさんって、シルヴェリオ様のお兄さんみたい」
「ははっ、親父じゃなくてよかったよ。魔導士団にいた頃は、周りからシルの親父って言われていたから老け顔なのかって落ち込んでいたんだ」
「お、親父……は確かに落ち込むかも」
「だろう? それなのにシルときたら、『貫禄があるってことでいいじゃないか』って言って訂正してくれなかったんだよ。薄情な弟だよ、全く……」
当時を思い出したのか、パルミロがやや不貞腐れたような顔つきになる。
「そんな可愛げがない奴だけど、間違いなく優しい奴でもあるから、これからも仲良くしてやってくれ。もちろん、嫌なことがあったら教えてくれ。すぐに懲らしめてやるから」
「ありがとう。シルヴェリオ様の専属調香師として、もう少しシルヴェリオ様に歩み寄ってみるね。シルヴェリオ様は意外と不器用なのかもしれないから」
「意外とどころか、あいつはかなり不器用だぞ。手先に費やす器用さを少しは人付き合いに使ってほしかったよ」
真面目くさった顔で繰り出された冗談に、フレイヤはまた笑う。
木の匙を再び握ると、野菜の煮物をもうひと口食べる。
温かな料理が喉を通ってお腹の中におさまると、不思議と心も満たされた。
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