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十話
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しおりを挟む年が明けた一月下旬、空は一日中濃い灰色で覆われ、雪が舞ったり止んだりを繰り返していた。毎年、この辺りに積もるほどの雪が降るのは年に一度か二度程度だ。この冬は例年よりも寒いというのを何かで聞いた。確かに今朝は寒さで目を覚ましたけれど、今日の雪はたぶん夜になっても積もらないだろうなと思う。
放課後の北校舎は、冬でなくてもどこか冷たい感じがする場所だ。それが真冬ともなると本当に寒かった。誰もいない美術室はもちろん暖房の電源なんて付いていなくて、僕は手を擦り合わせる。
準備室は静かだった。冬の空気が他の季節と比べて静かに感じるのは何故だろう。それに美術準備室は、僕が知っている限りこの学校で一番静かな場所に思える。ずば抜けて散らかっている部屋だけど、その大量の物たちが全て息を潜めているような感じがするからかもしれない。
ラジオを付けない日は、僕も同じように息を潜めたくなる。自分の呼吸の音さえも邪魔な雑音だった。
僕は準備室の奥の方、壁沿いに設置された棚の前で足を止めてしゃがみ込む。天井に届きそうなくらいに大きな棚の下部はガラス棚になっていて、中には粘土で作られた大小様々な置物が並んでいた。翠色の粘土の上から白色のペンキを塗ったそれは、生き物の形に見えるようなものもあれば、人の顔の輪郭に見えるようなものもある。何度か見ているけれど、やっぱりどれもこれも僕には完成しているのかどうかすらわからない。
こんな風な、「作品」と呼ばれるようなものには、明確な基準があるのだろうか。たとえば、それを作品と呼べる基準や、それが完成していると言える基準が。ガラス扉の向こう側に並んだものを眺めながらそんなことを考えていた。
その時ふと、棚の端に立てかけられたノートのようなものが目に入った。ガラス扉をそっと開き、それを手に取って立ち上がる。
それは、一冊のスケッチブックだった。
古そうなハケや筆、使いかけのペンキ缶などが置かれている近くの机の表面を手で払って、スケッチブックをそこに置く。表紙は少し色褪せて擦れているけれど、この部屋のもの特有の埃っぽさはほとんどない。ゆっくりと表紙をめくる。
「……」
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