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九話
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しおりを挟む冬休みまであと一週間を切った金曜の放課後、彰都は店の手伝いがあると言って早々に帰っていった。普段なら一緒に帰るところだったけれど、僕は気がついたら「ちょっと残ってく」と口にしていて、彰都を見送ってから教室で問題集を開いている。
そのうち自分だけになるだろうと思っていた教室は、今日に限ってなかなかクラスメイトが減らなかった。少しして、理由が思い当たる。いくつかの科目で冬休みの課題がすでに配られていた。いつも受験勉強で居残っている数人に加え、課題を終わらせようというグループも残っているらしい。絶え間ない喋り声や笑い声が聞くともなしに耳に入ってくる。
僕はイヤホンでラジオを流しながら問題集を進めたけれど、一時間もしないうちに集中力が無くなって、学校を出た。
空はすでに濃い藍色をしていた。
両手をポケットに突っ込んで駅に向かう。五分も経たないうちに冷たい風で耳が痛くなり始めた。ラジオでは、遠い街で降っている雪が話題に上がる。
駅に着いた僕は、家とは反対方向に向かう電車に乗り込んだ。冷えた顔が強い暖房でたちまち暖められるけれど、それも束の間、十分ほどで電車を降りる。
見慣れた駅も、駅前の居酒屋街も、制服で歩くのは初めてだった。そういえば、学校帰りに卓の家に行ったことはなかったな、と思いながら息を吐く。真っ白になった二酸化炭素はすぐに消えていく。大小様々なネオン看板や車のヘッドライトが眩しくて、僕は足を速めた。
マンションのエントランスでインターホンを押すと、しばらくして応答があった。と言っても、聞こえたのは応答ボタンが押された音だけで、声はない。
いつもは卓に連絡を入れてから来るけれど、今日はそれをしていなかったことに今更気がつく。「誰もいないから」と言われるのが常になっていた卓の家に、他の誰かがいるかもしれないという当たり前の可能性が頭に浮かぶ。
「卓くんのクラスメイトの川瀬です。卓くんのお見舞いに……」
僕は咄嗟に言ったけれど、言葉の途中でインターホンは切れてしまった。もう一度押そうか、それとも卓に連絡をしようか、迷っているあいだにエントランスの扉が開く音がした。
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