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二話
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しおりを挟む「凪」
日が少し暮れてきた頃、耳に馴染んだ声がして顔を向けた。僕と目が合うと、 彰都は右手を少し上げる。
「今行く」
手に付いた土を払っているあいだに、彰都は日比野さんに頭を下げて、日比野さんは「こんにちは」と返す。僕は放ってあった鞄を手に取った。
「じゃあ、帰りまーす」
「はい、気をつけてね」
おまたせ、と言いながら彰都に駆け寄る。
「別に待ってないぞ」
「言うと思った」
僕が笑うと、彰都も微かに口角を上げた。いつものやり取りだ。
彰都とは小さい頃からの付き合いで、こういう瞬間は心地が良い。何を考えるでもなく、先の見える会話をして、けれど飽きるわけでもない。呼吸をするのに似ている。
彰都と学校を出て、歩いて二十分ほどの場所にある最寄り駅から電車に乗った。扉のそばに並んで立ちながら、外を流れていく見慣れた景色を一緒に見る。電車は高架を走り、高い建物もほとんどないため、夕暮れの空がよく見えた。
「暑くなってきたな」
まだ降りない駅で電車の扉が開いたとき、彰都が少し潜めた声で言った。僕は頷く。弱い冷房が効いていた電車内にひとしきり夏の空気が入り込んでから、扉は閉まって電車は再びゆっくりと走り出した。
「今日は日比野さんのところ、楽しかったか?」
「楽しいとかは、別にないって」
「そうか」
「ゴミ拾って、雑草抜いて、彰都が来て、終わり」
「俺が邪魔したのか」
そう言ってこっちを向くから、僕も視線を彰都に向ける。彰都は一つの吊革に両手を伸ばし、腕に顔を預けて僕を見ていた。中学三年から彰都を少し見上げ始めたけれど、もうすぐ追いつく気がする。
「違う」
「それなら良かった」
快速電車で停まる三つ目の駅で、僕たちは電車を降りた。
「家まで送りたいんだが」
「今日は店を手伝う日、でしょ」
「ああ」
「じゃあ彰都の家まで行く」
「いいのか」
「テストも終わったし、家で急いでやることもないし」
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