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第零章 天女の始まり

22 襲撃者(1)

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「さて、まずは何から知りたい。」

 昨日、日本の情勢や姫の役割など、常識を教えてほしいと信繁に頼み込んで了承を得ていた徳は、朝食を終えて信繁の部屋にいた。
 初めて徳がこの屋敷に落ちた時と同じ部屋だ。文机ふづくえがあるのみの殺風景な部屋は、今見れば信繁らしいといえば信繁らしい。



「知りたいことはいろいろあるのですが…、えーっと…、戦ってどういった戦いなんですか…?いや、ちょっと曖昧でごめんなさい…。なんというか、想像でしかないし、敵、味方とかも良く分かんなくって…。」
「…抽象的すぎるな…。」
「で、ですよね…。」
「――戦は…、はっきり言って殺し合いだ…。俺たちのような力持ちが神具を使ってチャクラとチャクラをぶつけ合う。基本、あんたの家からしたら秀吉様側の人間が味方だな。北条とかが最後まで敵対していたが、一応、秀吉様の天下となったんだ。しばらくは戦はないと思う。」

「…殺し合い…。」
「そうだな。…前の戦では敵だったが、今は味方とか、その逆だってありえある社会だ。あまり他人に気を許さない方がいい。」
「…信繁様にも…?」
「…そうだ。真田が大谷と敵対することだってあり得る。」
「…。」

(……出会って間もないし、信繁様が言っていることも理解できる…。理解できるんだけど…――)
 徳はズキリと胸が軋んだ気がした。



「じゃ、じゃあ、『姫』が家のために出来ることと言えば何がありますか?あと、どういったことを知っているべきですか?」
「……『姫』の役割で大きいのは婚姻だ。同盟国との同盟の証、他国との繋がりを深めたり、緊張緩和のために婚姻を結ぶ。」
「…繋がりと、緊張緩和の婚姻…。」
「……別に嫁ぎたくなければ嫁がなくてもいいんじゃないか?あんたの場合、病気で臥せっているっていうのは多くのものが知っている。」
「で、でも…、嫁ぐことでしなくてもいい戦が減ることもあるってことですよね?」
「…まぁ、な。…自分の娘がいるところに戦ふっかけるなんて普通は出来ないだろう。」
「…。」

(…なるほど…。きっと、真田幸村は理由で『徳』と結婚したんだ。幸村は恋人がいるのに、家同士の無意味な戦が起きないように。当の本人たちの気持ちは無視して…。
 ……でも、そう考えると、もしかしたら今後私のもとに真田幸村との婚約話が出るかもしれないってことだよね…。家族のことを考えたら幸村と婚姻を結んだほうが良い…。『悪役令嬢』回避は難しい…?)


「教養としては「礼法」「歌学」「茶道」「書道」「芸事」とか「社会情勢」も知っているべきか…。花嫁修業とかについては俺もあまり詳しくはないがな。」
「…へぇ。そんなに…。」
「へぇって、他人事だな。本来ならあんたが身に着けておくべきものだぞ。」
「いや、そうですが、あまりにも私とかけ離れすぎて…。私、書道しかやったことないです…。いや、あれはやったって言っていいのかな…。」
「ふはっ。かけ離れてるって…。」

 信繁が口元をこぶしで隠して肩を震わせている。クールに見えるが、意外と信繁は笑うことが多いようだ。


「…笑うのでしたらいっそのこと隠さず笑ってください。」
「ふッはははっ。すまん…。…でも、あんたはずっと臥せっていたのだろう?教養が積めなかったのは仕方あるまい。――あんたは容姿が美しいんだ。教養がなくとも嫁ぎ先には困らんだろう。それに、俺は姫の中身も好いている。」
「…………は?」


 あまりにも自然な口説き文句のような台詞に、徳は脳内がフリーズする。念のために言っておくが、先ほどまで自分に気を許すなと言っていた人と同一人物である。


「あんたは家や家族を守りたいと言っていたが、出来ることと言えば3つ。力を覚醒させて戦力として家を守るか、情勢を早く正確に理解して知力で家を守るか、関係性が悪くなった家やより力の強い家に嫁いで家を守るか、のどれかだな。」
「あ、は、はい…。」

 フリーズしていた徳だが、信繁の講義は続く。特に深い意味もなく発言していたようだ。徳は正気を取り戻す。

「これらの中で一番時間と労力がかかるのは力の覚醒、制御だ。話はまた明日にして、力を覚醒させる特訓に移ろう。」

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