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第零章 天女の始まり
4 照れくささと戸惑いと(2)
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「それにしても、吉継様。だいぶ早く帰ってこられましたね。」
「あぁ。すでに越前には入っていたからな。皆を置いて帰ってきたわ。」
時間も時間であったため、すぐに夕食を父と二人で摂ることとなった。配膳の準備をしてくれている千代と、胡坐をかきながらくつろいでいる父親の会話を他所に徳は考える。
(…これはいったい…。)
徳の常識の中では「妖」などは存在していなかった。今の今までは。
しかし、徳の周りに群がる可愛い物体らは明らかに存在している。
(それに…、この記憶って…――)
間違いなく、私は普通に孤児として施設で過ごして学校に通ってた。うん。間違いない。
でも、この城で過ごした記憶も間違いなく自分の記憶なのだ。――今の今まで忘れてたけど。
湖で遊んでた記憶もある。それ以前のものも。目の前に居るのは間違いなく私の侍女の千代と、乳母の松、そして――
チラッと目の前の男性へ視線を送る。
うん。私の父だ。
さらさらな黒い短髪ときりっとした目、そして娘がいるとは思えない若々しさ。幼い頃も自分の父親は世界一かっこいいと自負していたが、今見ても明らかに群を抜いたイケメンだ。このキラキラとした光を飛ばしているこのイケメンが私の父だった。なぜ忘れていたのか本当に分からない。
「しかし、徳。」
「っ!?(ビクッ)」
吉継を静かに鑑賞していた徳は、急に視線が合い驚く。
――…じろじろ見過ぎた?
「その髪色になるとますます母親に似てくるな。」
「へ?」
観察ではなく鑑賞し、もはや心の中で自身の父親の造形美に拍手喝采していた徳は、急に声をかけられ焦る。しかし、向けられた視線は穏やかで慈しみが混じったものだった。
「髪色…」
言われた言葉を頭で反芻し、自身の髪の毛をつまみ今度はしっかりと観察する。
――確か母上様は私が3歳ぐらいの時にお月様になったって…
「母上様もこのような髪色だったのですか?」
「あぁ…。薄桜と蜂蜜色を混ぜた絹糸のような髪でな。本当にとてつもない美人だったよ。」
吉継が柔らかい表情で母親のことを語る。その表情で吉継の気持ちはありありと分かった。再び徳は自身の髪に触れ、「へぇ」と答える。
なんてことないような反応を示すも、父親の次は母親との繋がりを感じられ、徳は顔がにやけてしまうのを抑えるのが難しい。
「それとだな徳…――、」
「とくも美人!」
「とくの髪の毛もきれい!」
「あ、ありがとう…。」
「とくの髪さらさら!」
「とくは全部がきらきら!」
「うん。ありがとう。あの…、そろそろ静かに…。」
徳を中心におしくらまんじゅうの如く群がる妖らは敦賀城主である吉継の発言など気にも留めず、ワイワイと騒ぐ。
仕舞いには「ぼくもとくにくっつきたい」「次はわたしがとくの膝の上!」とけんかが始まる始末。配膳されていく食事がひっくり返らないかが心配なほどだ。
「ちょっと、暴れないで…。」
「だって!次ぼくのばん!」
「ちがうよ!私だもんっ!」
「………ちょっと!いい加減にしなさい!けんかするならみんな部屋から追い出すよ!」
おとなしく引っ張られたり押されていた徳だったが、会話や行動がエスカレートしてきたため、思わず施設で子どもたちを叱るときのように妖たちを叱っててしまった。
そしてハッと正面を向くと、ポカーンとした表情で徳を見つめている吉継と目があった。
(――…やってしまった…)
「はーい」「ごめんなさーい」
と、素直に聞き入る妖たちだが、徳はそんなこと聞こえるはずもなく一気に顔が青ざめる。
まだしっかりとは現状を理解は出来ていないが、姫として過ごしたはずの幼少期と、それから施設で過ごしてきたであろう今までがあるのだ。そして、人生の半数以上を施設で大勢の子どもたちと割ととわんぱくに過ごしてきた。もはや姫的な性格など持ち合わせていない。
―――姫的な性格もどのような感じかは徳も良く分かっていないが…。
とりあえず、徳の性格はお淑やかさとはかけ離れていた。
「あ…、ちが…、父上様…―」
「ぷッ…ははは!そういうところも母親そっくりだ。」
「…え?」
急に破顔した父親に、今度は徳がポカーンとした顔を隠せない。例えるのであれば豆鉄砲をくらった鳩だ。
「…確かに、奥方様は結構お転婆といいますか、溌剌とした愛嬌のあるお方でしたね。」
部屋の入り口で話を聞いていた松が微笑みながら会話に加わった。
「おう。徳は記憶にないと思うが、まだまだ乳飲み子だった徳に群がる妖たちを『うるさい!皆部屋から追い出すぞ!』って今の徳のように蹴散らしていたな。」
「へー。徳様は容姿も内面も奥方様似なのですね。」
「あ…、……そ、それで、父上様、何の話ですか?」
失望されなかったことに安堵はするが、流石にお転婆具合が似てるというのはやや恥ずかしい。徳は赤らむ頬を見られないように顔を俯かせ、父親に先ほどの話の続きを促した。
「あぁ、そうだ。…徳の持っている力の話だ。」
「…力?」
「……あの、…会話の途中申し訳ございません。…しかし吉継様、徳様の力はどちらのほうなのでしょうか…?」
心配そうに松が吉継へ尋ねる。
「―――それが、どちらかは今の私たちには分からないのだ。」
…ん?…今度は何の話?
「あぁ。すでに越前には入っていたからな。皆を置いて帰ってきたわ。」
時間も時間であったため、すぐに夕食を父と二人で摂ることとなった。配膳の準備をしてくれている千代と、胡坐をかきながらくつろいでいる父親の会話を他所に徳は考える。
(…これはいったい…。)
徳の常識の中では「妖」などは存在していなかった。今の今までは。
しかし、徳の周りに群がる可愛い物体らは明らかに存在している。
(それに…、この記憶って…――)
間違いなく、私は普通に孤児として施設で過ごして学校に通ってた。うん。間違いない。
でも、この城で過ごした記憶も間違いなく自分の記憶なのだ。――今の今まで忘れてたけど。
湖で遊んでた記憶もある。それ以前のものも。目の前に居るのは間違いなく私の侍女の千代と、乳母の松、そして――
チラッと目の前の男性へ視線を送る。
うん。私の父だ。
さらさらな黒い短髪ときりっとした目、そして娘がいるとは思えない若々しさ。幼い頃も自分の父親は世界一かっこいいと自負していたが、今見ても明らかに群を抜いたイケメンだ。このキラキラとした光を飛ばしているこのイケメンが私の父だった。なぜ忘れていたのか本当に分からない。
「しかし、徳。」
「っ!?(ビクッ)」
吉継を静かに鑑賞していた徳は、急に視線が合い驚く。
――…じろじろ見過ぎた?
「その髪色になるとますます母親に似てくるな。」
「へ?」
観察ではなく鑑賞し、もはや心の中で自身の父親の造形美に拍手喝采していた徳は、急に声をかけられ焦る。しかし、向けられた視線は穏やかで慈しみが混じったものだった。
「髪色…」
言われた言葉を頭で反芻し、自身の髪の毛をつまみ今度はしっかりと観察する。
――確か母上様は私が3歳ぐらいの時にお月様になったって…
「母上様もこのような髪色だったのですか?」
「あぁ…。薄桜と蜂蜜色を混ぜた絹糸のような髪でな。本当にとてつもない美人だったよ。」
吉継が柔らかい表情で母親のことを語る。その表情で吉継の気持ちはありありと分かった。再び徳は自身の髪に触れ、「へぇ」と答える。
なんてことないような反応を示すも、父親の次は母親との繋がりを感じられ、徳は顔がにやけてしまうのを抑えるのが難しい。
「それとだな徳…――、」
「とくも美人!」
「とくの髪の毛もきれい!」
「あ、ありがとう…。」
「とくの髪さらさら!」
「とくは全部がきらきら!」
「うん。ありがとう。あの…、そろそろ静かに…。」
徳を中心におしくらまんじゅうの如く群がる妖らは敦賀城主である吉継の発言など気にも留めず、ワイワイと騒ぐ。
仕舞いには「ぼくもとくにくっつきたい」「次はわたしがとくの膝の上!」とけんかが始まる始末。配膳されていく食事がひっくり返らないかが心配なほどだ。
「ちょっと、暴れないで…。」
「だって!次ぼくのばん!」
「ちがうよ!私だもんっ!」
「………ちょっと!いい加減にしなさい!けんかするならみんな部屋から追い出すよ!」
おとなしく引っ張られたり押されていた徳だったが、会話や行動がエスカレートしてきたため、思わず施設で子どもたちを叱るときのように妖たちを叱っててしまった。
そしてハッと正面を向くと、ポカーンとした表情で徳を見つめている吉継と目があった。
(――…やってしまった…)
「はーい」「ごめんなさーい」
と、素直に聞き入る妖たちだが、徳はそんなこと聞こえるはずもなく一気に顔が青ざめる。
まだしっかりとは現状を理解は出来ていないが、姫として過ごしたはずの幼少期と、それから施設で過ごしてきたであろう今までがあるのだ。そして、人生の半数以上を施設で大勢の子どもたちと割ととわんぱくに過ごしてきた。もはや姫的な性格など持ち合わせていない。
―――姫的な性格もどのような感じかは徳も良く分かっていないが…。
とりあえず、徳の性格はお淑やかさとはかけ離れていた。
「あ…、ちが…、父上様…―」
「ぷッ…ははは!そういうところも母親そっくりだ。」
「…え?」
急に破顔した父親に、今度は徳がポカーンとした顔を隠せない。例えるのであれば豆鉄砲をくらった鳩だ。
「…確かに、奥方様は結構お転婆といいますか、溌剌とした愛嬌のあるお方でしたね。」
部屋の入り口で話を聞いていた松が微笑みながら会話に加わった。
「おう。徳は記憶にないと思うが、まだまだ乳飲み子だった徳に群がる妖たちを『うるさい!皆部屋から追い出すぞ!』って今の徳のように蹴散らしていたな。」
「へー。徳様は容姿も内面も奥方様似なのですね。」
「あ…、……そ、それで、父上様、何の話ですか?」
失望されなかったことに安堵はするが、流石にお転婆具合が似てるというのはやや恥ずかしい。徳は赤らむ頬を見られないように顔を俯かせ、父親に先ほどの話の続きを促した。
「あぁ、そうだ。…徳の持っている力の話だ。」
「…力?」
「……あの、…会話の途中申し訳ございません。…しかし吉継様、徳様の力はどちらのほうなのでしょうか…?」
心配そうに松が吉継へ尋ねる。
「―――それが、どちらかは今の私たちには分からないのだ。」
…ん?…今度は何の話?
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