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超魔の目覚め

大仙の汚点

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 ……そこはサハク王国の城。
 城内を警備するその兵士は、ちょっとした息抜きのために城の窓から城下を見下ろした。

「もう少しで王都も、元通りだな」

 視線にうつるのは、壊されてしまった建物を懸命に直す職人達と機械とか言う未知の技術で動く重機。
 それらは辺境を統括する、領主エリンダから派遣された人材と物資。
 おかげで数年は要するほどだった復興が短期間で終わる。
 数ヵ月前に現れた異形獣によって壊された日常がもう少しで直るのだ。

「やっと、やり直せるなぁ。……女王様なら、うまくやってくれるだろう」

 そう言って男は安堵の息を吐く。
 まだまだ若いが人々から絶大な信用を得る女王メガエラ様なら、きっと良い国にしてくれるに違いないと思いながら。

「……てて」

 とその兵士は膝に、やや鈍い痛みを感じ手にしていた槍を立てかけ両膝を擦り始めた。

「なんだかなぁ、最近頻繁に足腰に疲れや痛みが出るんだよなぁ。……まさか歳のせいとかじゃないだろうなぁ? いやいや俺は、まだ二十代だってぇのに。……もしかして太って体重が増えたとか?」

 確かに体重増加には心辺りがなくもない。
 王国が領主エリンダとの関係が以前よりも遥かに深くなったことで流通が拡大、そのためその領地で生産されたふんだんな食料や珍味なんどが供給されるようになったためだ。
 おかげで一日の三食がより美味しくなり、オヤツが提供されることも。
 ゆえに城で働く者達の士気は向上したが、過食気味になり体重増加も招いてしまった、と言う話もチラホラ。

「いやいや確かに、ちょっと食い過ぎることもあるが……たぶん運動不足なだけだ。……おっといかん」

 兵士は自分の不摂生を見直すことを決意していると、近づいてきた足音に気づき慌てて立てかけていた槍を手にする。
 サボってないことを表現するために。

「よう異常は……まあないよな」

 そして兵士は振り返り足音の主である同僚に、気さくに声をかけた。
 無論、真面目に仕事をしていることを報せるために。

「……」

 だがしかし、その同僚は何も言葉を発しなかった。
 兜を深めに被り、うつむき、ただただ足早に通りすぎっていった。

「なんだよ、暗い奴だなぁ」

 せっかく声をかけてやったのに無視されたことに腹を立て、兵士は遠く離れていく根暗な奴の後ろ姿を見送った。

「まあいいや、俺も警備に戻らねぇと……んっ?」

 そして不快感を押し殺し仕事に戻ろうとしたとき何か気になったのか、兵士はまた振り返り先程の根暗野郎が去っていた方へと顔を向けた。

「……あんな奴、城にいたっけ?」




 暑い日だ。
 時は夏の始まりの時季だから当然。
 しかし、そんな最中でもの探しとは辛いものだ。

「少し休もう、無理しすぎて倒れたんじゃあもともこもないからな」

 そう言って王国直属の騎士は草地に座り込み、雑嚢から水袋を取りだし喉を潤した。

「そうだな、まったくアチいぜぇ」

 そして別の騎士も座り込み、腕で額の汗を拭う。

「それにしても、俺たちゃあいったい何を捜してんだろうなぁ?」

 水で喉を潤した騎士は、そう言って周囲を見渡した。
 なにぶん、任務の内容が不審なものの探索と言うかなり不明瞭かつ怪しげなものである。
 山の中を探索し、今度は下山しての広範囲の捜査。
 騎士達の長であるメリッサからの指示ゆえに、忠実に尽くす気はあるが、もう少し今回の任務がどういう目的のためなのか聞きたいものだ。
 と不満を隠しながら、その騎士は水袋を雑嚢に戻す。

「……メリッサ隊長は賢明なおかただ。いずれにせよ、今回の任務もあまり俺達が深入りしてはならないものなのやもしれん」

 と汗を拭っていた騎士は囁いた。
 それが水を飲んでいた相方にも聞こえたのだろう。

「今回の任務も? どう言うことだ」
「いや、何でもない。気にしないでくれ、任務を続けよう」

 そして汗を拭っていた男は、仕事に戻るべく立ち上がるのであった。
 ……そう以前、異能性のゴブリン達が出現したさいに関わった騎士達はメリッサから厳しく口止めされている。
 シキシマと言う超科学で建造された魔人を、そして今の人類では到底理解できない領域があると言うことを。




 捜索が開始されて数日が経過した。
 エンボルゲイノを招いた擬態された発電システムの謎を解くための任務。
 しかしながら成果は今のところ何もない。

「……やはり何もないのでしょうか、ハクラ殿?」

 と、そのことに思うところがあったのだろうメリッサは近間で騎士達と同様に捜索を行うガスマスクで素顔を隠す男に問いかける。
 これだけ調べても何も見つからないとなると、やはり目的となるものはないのではと疑うのも仕方あるまい。

「屋敷に擬態させた発電施設。あんなものがあって、逆に何もないのは怪しすぎる」

 と地面を観察していたハクラは濁った声を発しながら立ち上がった。
 あんな行きすぎた発電システムがあるのに、何もないなどありえまい。

「だが騎士達の士気も下がりつつあるなぁ」

 そう言ってハクラは周囲の騎士達を見渡す。この暑い中、うやむやな任務をさせられていては当然か。

「メリッサ、すまんがもう少しだけ協力してくれ。もしそれでも発見できないときは俺達が捜査を引き継ぐ」

 そう、なるべくは現地の者達だけで捜査は済ませたいのだ。
 でなければ異星人達の協力を求めることになり、混乱を引き起こしかねないゆえに。

「もし俺が予測している存在が今回の件に関係しているなら、以前の異形獣の災いどころではすまなくなる」

 ハクラのその言葉を聞いて、メリッサは顔を険しくさせる。
 あれから数ヵ月とは言え、王都で異形獣が暴れたあの惨状は今だに鮮明だ。

「……蛮竜や異形獣を作り上げた存在ですか?」
「そうだ。それらの残党の処理も俺の仕事だからな」

 つまりは蛮竜や異形獣は自然の産物ではなく、人工的な生命体。
 何をどうしたら、あんなおぞましい生物を創造できると言うのか。

「それらは、いったいいかなる勢力なのですか?」
「……だいぶ難しい話になる」

 メリッサの問いにハクラは少し間を置いて応じた。

「高度な遺伝子工学や肉体改造技術を用いて、国家や全人類を支配下におこうとする闇の組織や機密結社だ……」

 それらの技術は星外魔獣の能力を解析して、得られた生体工学である。
 大仙でその技術は本来、農作物を改良して生産性や耐久性や栄養価に優れる食料をつくり食料事情の改善策に用いられていた。
 ……だが野望を抱くものや、己が興味だけを満たそうとする狂人、力を渇望する者達が、その技術を私利私欲に利用し始め、ついにはそう言った輩が秘密裏に結集して組織を作るまでに拡大していった。
 そして、それらの勢力によって数多の生体兵器や改造兵士が開発され、大仙の掌握目的に用いられた。
 その過程で生み出されたものの中に蛮竜や異形獣も含まれているのだ。

「……大仙もこれらの勢力に対抗して殲滅してきたんだが、潰して潰しても、また新たな組織が結成され今だに解決できていないのが現状だ」

 ハクラは嫌気があるように肩をすくめる。

「……つまり、それらの生き残り、残党が今回の件に関係しているかもしれないと言うことですね」

 やや戸惑いながらもメリッサは納得したように頷く。
 科学や工学等の内容はさすがに理解できはしないが、いずれにせよ大仙で結成された危険な集団の生き残りがこの大陸に潜伏しているのは理解できたのだ。
 そしてハクラは溜め息を吐くように、ガスマスクの中で声を濁らせる。

「大仙の最大の汚点だ。それらの残党を潰すのも俺の仕事なんだ」 
「……今の人類には早すぎる科学技術。今の私達はそれを取り扱って良いほど成熟してはいない。……ニオンが言いたいことが何となく分かった」

 メリッサはそう囁いた。
 ニオンは何故に星外魔獣の存在やそれらから得た情報を厳重に管理するのか。
 単純に混乱を防ぐだけでなく、それらから得られる技術が今の人類にはあまりにも早すぎるからなのだと。
 今の人類はあまりにも未熟、それゆえにその強大な力を私利私欲に乱用してしまうのだと。
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