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超魔の目覚め

久しぶりの安らぎ

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 入浴で心身の汚れを落とした、少女達が案内されたのは屋敷の食堂。
 空腹と湯で暑くなった彼女を迎えてくれたのは、ニオン手製のトマトを使った冷製パスタ。
 暑い今の時季、さわやかで酸味のある料理はありがたいものだ。
 それと何より久方ぶりの真っ当な料理なのだ、彼女達が夢中でほうばったのは言うまでもなくであろう。
 そして食後にはお茶とデザートのババロアまでも出してくれた。
 それらは長い旅路で疲れ、飢え、不安で苦しんできたウェルシ、アリシア、ハンナ、スティアにとって夢のような時間であった。
 やがてそんな腹ごしらえ時間も過ぎ去り、日が落ち外は夕日で紅くなる時間帯となり、四人は客室に案内された。
 とは言え一部屋に二人が泊まれる仕様のためウェルシとスティア、アリシアとハンナに別れて二部屋が提供される。

「とうっ!」

 客室に入るなり掛け声をあげたのはハンナ。
 彼女は客室のフカフカベットへと身を投げ出す。

「こんな良いベット、いつ以来かな。それに、すんごくお洒落」
「うん、とっても」

 剣士少女に賛同するようにアリシアも頷いた。
 さすがに規模は国王クラスの城には及ばないが、造り事態はそれ以上としか言いようがない。
 部屋の装飾はさることながら家具類は一級品、そして電気技術と言う未知の手法による照明は火などよりも明るく安全、そして過ごしやすいように空調設備までもがある。

「……国にいた時よりも雲泥の差ね」

 アリシアはそう囁いて自分のベットに腰をおろす。
 クーデターにより国王が亡き者にされ、王女を軟禁し全権を将軍が掌握し国にの全てが一変した。
 聖地サンダウロ争奪のための侵攻、恐怖政治、そんな最中で自分達は軟禁されたウェルシの世話役を命じられた。
 ……もちろん幼少期から従える彼女達なら王女も安心するなどといった気遣いとかではない、将軍がウェルシの世話など厄介としか思っていなかったらこそ押し付ける目的での指示であることは言うまでもなくだ。
 そして、そんなアリシアの心情を理解してかハンナも口を開いた。

「避難生活ほどではないけど、国でも辛かったよねぇ」

 軟禁中のウェルシの身の回りの世話を任務とした生活。
 だがその実態は禁固刑としか言いようがなかった。
 ウェルシは小さな部屋から出されることが許されず、自分達も城から出ることも外部と接触することも禁止されていた。
 遊ぶことも、学ぶことも、何もできず自由は一切なく監視され、日々出される食事も貧しく、その精神的苦痛はかなりのものであった。

「ねぇ、私達はいったいこれからどうすれば良いのかな? 一応ウェルシ様を無事に危険な領域から脱出させることはできたし、この地域の人達は悪い人……いや、かなり恐い人もいたけど……けして悪い印象の人もいないし、ひとまず安らげる場所にはたどり着けたけど」

 ハンナはベットに顔を埋めながら問いかける。
 彼女の言う恐い人とは、おそらく領主の傍らにいた白銀の美剣士であると理解し、腕を組んでアリシアは考え込んだ。

「……残念だけど、今は何も思いつかないわ。国に戻るにしても、蛮竜がいる以上はどうすることもできない。奴等を殲滅するにしても、大国並みの戦力が必要になるだろうし」

 そう告げてアリシアは溜め息を吐いた。
 なぜなら、そんなこと現実的に考えたら不可能だからだろう。

「私は、ただただウェルシ様の望みをかなえてあげたい」

 と唐突にハンナが告げる。
 それに応じるようにアリシアはとなりのベットに顔を埋める彼女の後頭部に視界を移した。

「それって、ウェルシ様を必ず国に連れ帰って、王国を元に戻したいってこと?」
「……ちょっと、違うかな」

 ハンナは寝返り、ぼんやりとしたように天上を眺めた。

「もちろん、ウェルシ様が国に戻りたいって言うなら私はそれに賛同するよ。でも、もし別の新天地や目的を求めるなら、それにも賛同するってこと。……そうだとしたら、許されることではないけど」

 と、ハンナはもの悲しげに言う。
 王女の望むことに全力で協力する、従者なのだからどうぜんではあろう。
 しかし、それはウェルシが国を見捨てる決断をするならそれにも肯定することにも覚悟を決めている、と言いたげな内容であった。

「……でも今は、ゆっくり休もう。難しいことを考えるのは、現状を把握してから」
「そうだね……久しぶりにグッスリ眠れそう」

 ハンナは姫の従者としては、だらしがない大あくびをして両目を閉じた。
 そしてアリシアも、それにつられベットに横になる。
 フカフカのベットに加え、もう魔物に怯えることもなく、誰からも監視されない、もはや緊張は解かれた。
 まだ寝るには早かろうが、窓の外は暗くなっていた。
 二人が睡眠に入るのは、すぐさまであった。




 目を覚まさせたのは、軽いノック音であった。

「おはようございます、アリシアさん、ハンナさん」

 そして扉の向こうから可愛らしい声が聞こえてきた。アサムである。

「どうぞ……入って」

 アリシアはベットの上で体を伸ばすと、窓から入る日の光で朝であることを確認して、アサムに入室の許可を出した。

「失礼いたします。どうぞ身支度を、朝食の仕度ができていますので」

 そして入ってきたのは大きめのワゴンを押すアサム、彼は白獅子の赤ん坊を背負っていた。
 ワゴンには洗顔のための洗面器と、うがい用の水が入ったコップと吐き出すための桶、そして整髪するための櫛が置かれていた。
 どれもこれもが高級感あふれる一品で、まるで貴族のような待遇である。

「あ、ありがとうアサム」

 あまりのもてなしぶりにアリシアは戸惑いながら、ハンナの分のワゴンを押して再入室してくるアサムに礼を述べた。
 して肝心のハンナは……今だに寝ている。涎をたらし、掛け布団を下に落っことし、ベッドはグシャグシャ。
 酷い寝相である。




「やあ、お二人ともおはよう」
「これはこれは、アリシア様に、ハンナ様、おはようございます」
「二人とも、遅かったですわね」
「何かあったんですか?」

 二人が遅れて食堂にたどり着くなり、先に食事を開始していたエリンダ、チャベック、ウェルシ、スティアが声をあげた。

「も、申しわけありません。少々問題がありまして」

 そう言いながらアリシアはテーブルに着き、となりに座ったハンナを睨み付けた。

「……ご、ごめんなさい」

 そしてハンナは、申しわけなさそうに囁く。
 彼女を叩き起こすのに、手間取ったことは言うまでもなかろう。
 そしてメイド達が近づいてきて二人分の料理を並べた。献立は、野菜とミルクたっぷりシチュー、トースト、コーンとホウレン草のソテー、スクランブルエッグ。
 品数はけっこうだが家庭的で栄養バランスが良いものであった。
 ……しかしチャベックだけが、みんなとは違い何故か巨大なオムライスをほうばっていた。

「今日の食事の担当はアサム君だから絶品だよ」

 領主にそう勧められて、アリシアとハンナは目の前の料理を口に運ぶ。

「「……」」

 そして無言のまま、次々と口に入れるのであった。
 それだけ美味いのだ。長期間まともな料理を口にしなかった反動もあろうが、やはりアサムの手料理は人を虜にするほどのものなのだろう。
 無論、それは何もアリシアとハンナだけではない。
 ウェルシとスティアも表情を緩めながら食べていた。
 だがしかし四人は会話としての口を開かず、ただ無言で料理を口に運ぶ様子。
 アサムの料理が美味いために味に集中したいと言うのもあるのだろうが、やはりまだ今の状況に馴染めず緊張しているのだろう。
 そう思いながらエリンダが彼女達の緊張をほぐす方法はないかと考えていると、甲高い声があがる。

「いやはやアサム様が創造する食事は、わたくし達の科学力をもってしても至りませんな」

 とチャベックはスプーンですくったチキンライスを、マジマジと眺めるとそれを口に運んだ。

「私も領主だから、けっこうな美食や高級食材は堪能したけど、やっぱりアサム君の作る家庭的な料理が一番美味しいのよねぇ」

 エリンダが異星人にそう応じると、何か思いついたのか目を大きく見開き、客人少女達に視線を移した。

「ウェルシ様、本日は我が都市を視察してはいかがでしょうか? 今後どうなさるのか考えるのであれば、しばらくはここに滞在することになるでしょうし」

 やはり緊張や警戒を解くためにも、現状を知って慣れもらうことだろうか。
 となれば、この都市で色々なもの触れ合ってもらうことが良いだろう。
 それが領主の考え、ミアナもそうだったのだから。
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