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超魔の目覚め

少年達の正体

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「……脳に酷似した器官? ……加速装置? なんだそりゃあ」

 オボロはけして知能が低いわけではない。
 しかし分析員の一人での発言が、あまりにも未知かつ難解すぎるがゆえに頭を抱えるしかできまい。

「あぁっ! それって強化外骨格だよねぇ?」

 そんな難しい言葉の嵐にさらされてる最中、いきなりに驚きの声を響かせたのはナルミであった。

「んっ?」

 彼女の大きな声にオボロは、顔をその方向へと向ける。
 ナルミが何を見てたまげているのか。それはオンバルロに敗れて負傷し、寝そべっている少年二人に対してであった。
 ……正確には二人が装着してる強化服にであるが。

「そんな装備、大仙の神君からの信用と相当な実力を兼ねた馬廻でもないと保有してないはずだけど……」
「……これは先生が開発したものだけど……かなりの旧式で性能はそれほどでもないんだ」

 驚きを隠せないナルミに対して、犬面タイプの強化服を着込む少年が苦し気に答えた。
 喋る度に戦闘の負傷が響くのだろう。

「低性能ってぇ……その装備一つで人の戦闘力を数十倍にも高められるんだけどなぁ」

 それを聞いて呆れたようにナルミは息を吐く。
 いかに高度な科学力を持つ大仙でも、やはり異星人の集団からなる組織とでは雲泥の差があるのだろう。

「……それ以上に高水準の装備があっても、超獣や魔獣が倒せないってなると、先が思いやられるよ」

 そして、げんなりとした様子でナルミは囁いた。
 異星人達の科学力を持ってしても超獣や魔獣を完全に打破することはできないのだから、今の人類では到底立ち向かうことができないことを改めて思い知らされる。
 いずれにせよ連合軍と協力関係にはあるが、超獣や大型魔獣との戦いはムラトやオボロ、それに加え建造魔人達に依存することには変わりはないだろう。

「これは失敬。魔獣の亡骸の回収やオボロ様の肉体の解析の前に、お二人の処置が先でしたな」

 すると謝罪を述べながらチブラス人の分析員が、二人の少年達のもとへと駆けてきた。
 種族の特徴ゆえに、超人の肉体に魅了され夢中になりすぎ彼等の状態に意識が向かなかったのだろう。

「……んで、どういうことか聞かせてもらおうか。お前らいったい何をしている?」

 そして、ズシリズシリと大地を揺すりながら分析員の後に続いてオボロも少年達のもとに歩みより、やや不機嫌そうな表情を見せる。
 少年達を知っているような口ぶりにナルミは超人を見上げた。 

「隊長、この二人と知り合いなの?」

 そう言えば、魔獣ゴドルザーがゲン・ドラゴン近辺に出現した時にも隊長は異星人と接触してるんだった、その時の知り合いかな?
 と言う具合にナルミが思い描いていると、ボシュッと言う密閉されていた箇所から空気が流出するような音がなった。
 犬面少年が自分のマスクのロックを解除したようであった。
 そしてマスクのマズルの部位が機械的に縮小し、装着者の血で汚れた白い毛に覆われた長い鼻先があらわになる。

「……やっぱり、気づいていましたか」

 そして犬面少年の行動に合わせて、人面タイプの強化服を纏う少年もマスクのロックを解除した。
 同様に口元の部分が縮小して、明らかに人間のものと思われる口が現れる。

「変な仮面で声が濁ってはいたが、聞きなれた声だったような気がしてな。それにお前らの戦闘時の動き、それとどうもオレを知ってるような口ぶりだったから、そうだと思ったぜ」

 オボロがお見通しだとばかりに鼻から大きく息をはくと、二人は仮面を掴みゆっくりとした動作で素顔を隠していた装備を外した。

「えっ! 二人とも、どうしてこんなところに?」

 してその素顔を見て思わずナルミは声を響かせる。
 犬面タイプの仮面を被っていたのは、銀毛の犬の毛玉人。
 そして人面タイプを被っていたのは、白銀色の髪をした美少年であった。
 血と負傷で二人の美貌は、やや汚れているが見間違えるはずがない。

「ロラン……それとミース。どうして、二人が銀河連合軍に?」

 それはオボロの愛弟子とニオンの実弟。
 二人は今ではメリル女王の直下で任務をこなす者達。
 ……しかし、そんな二人がなぜに行きすぎた装備を纏い、星外魔獣などと戦っていたのか?

「……それは……痛っ!」

 ロランは説明しようと口を開くが、やはりオンバルロから受けた負傷がかなり痛むのだろう。
 強化服があったとは言え、普通だったら死に至る破砕球と生体音波砲の直撃を受けたのだから、当然である。

「お二人とも無理はいけません、横になってください。オボロ様、この件はわたくしが説明いたします」

 そして分析員はロランとミースを寝そべるように促すと、機材をピコピコ操作しながら二人に変わり口を開いた。

「現在、お二人はハクラ司令の弟子であると同時に直属の部下であります。ゆえに時には危険を伴う任務をうけおうことがあるのです」
「なにっ! どういうことだ?」

 分析員の答えに、オボロは目を丸くする。
 つまり銀河連合軍総司令の右腕と言える立ち位置、とも言えよう。
 しかし実力は並み以上とは言え、二人はあくまでも冒険者と国家剣士の少年だ。
 そんな身で連合軍総司令の直属など、あまりにも重すぎる。
 ……と言うよりも、本来なら入ってきて良い領域ではない。

「ハクラ司令も多忙なお方ですから、やはり補佐となる人材が必要だったのでしょう」
「……でも、どうしてロランとミースなの?」

 分析員がそう告げると、ナルミは首を傾げた。
 連合軍の業務なら、何も録に知らない二人に任せるのは非効率的、何より星外領域と言う機密が露見しかねない手法だろうに。

「師匠……僕達は先生に……ハクラ司令に招かれて、部下になったわけでなく。僕達が粘ってどうにか、稽古をつけて貰おうとしただけです」

 と横になるロランが苦し気にオボロを見上げながら述べた。
 
「メルガロスの王都でガンダロスが殲滅されたあと、どうしてもいてもたってもいれなかったんです」

 そしてロランに続くように、ミースも超人へと目を向ける。

「僕達が今まで知らなかった途方もない領域から、人知を超越した怪物がやって来る。もちろん今の僕達が手を出していい話でないことは重々承知でした。……宇宙の怪物に対し僕達に抗う術はない。もしまた現れたら、師匠が率いる石カブトに頼るしか方法はないと思っています。でも、それだけでいいんだろうかと思って」

 ロランは星外魔獣とは接触したことはない。
 しかし、それでもそれらがどれ程に恐ろしく、そしてもし現れたら自分達にはどうすることもできないことは知識と言う形ではあったのだろう。
 ……いや、もはやオンバルロと戦った身。魔獣の脅威性はその五体に刻まれている。
 もう素人でも無知でもいられまい。

「……なるほど。自分なりに色々考えてのことか」

 それ聞いて、オボロは諦めたように息を吐く。
 何も分からない奴が首を突っ込むな、とは彼は怒ったりしない。
 自分の意思で関わり、そして敵がどれ程に危険なのか理解して覚悟を決めて、こちらの領域に来たと言うのであればだ。
 物事を知った上で戦う意思を持つ者を引き止めたりはしない。

「だが、こっちの世界に踏みいるんなら事前に言ってほしいものだ」

 とオボロは不満を一言だけ告げた。

「ですが残念ながら現実はこのザマです。やはりボク達の力では、小型の魔獣ですら倒すことができない。オンバルロに挑んだのも本来の目的は、あなたが到着するまで足止めをするためでしたから」

 そして悲観するようにミースは囁いた。
 それだけ、あまりの戦闘力の差を味わったのだろう。

「……でっ、ところで何で二人は副長の先生の直属の部下に?」

 とナルミが間に入ってきた。
 重要なことがまだ語られてないがゆえに。
 おそらくロランとミースは、自分達にも何かできるはずだと思いハクラに稽古をつけてもらおうとしたのだろう。それは分かる。
 ……だが、なぜにハクラの直属の部下になって危なそうな仕事までしているのか?
 何も任務の補佐が目的なら、まだ未熟な少年に任せるなど、おかしな話ではなかろうか。
 高水準の装備や技術や知識を持つ異星人にでも補佐をさせればいいはずである。

「お二人が主に請け負っている主な任務は本来魔獣がらみのものではありません」

 と、また機材をピコピコ操作しながらロランとミースの傷の具合を確認する分析員が語りだした。

「ハクラ司令は超獣や魔獣の対処以外に、また別の任務もこなしています。……ただその案件はわたくし達、異星人が関わってはいけない内容なのです。司令いわく、その任務はこの惑星の人類が解決しなければならないもの。……大仙の最大の汚点と」 
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