大怪獣異世界に現わる ~雇われ労働にテンプレはない~

轆轤百足

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超魔の目覚め

大超人の初戦闘

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 不思議ではあるが、黒煙の中でも敵の位置と味方の位置が正確に理解できた。
 だからこそ視界不良の中でもオンバルロに突進をかますことができたと言うもの。
 成長ではなく、進化したがゆえに今までにない感覚が身に付いたのだろうか?
 大きさは魔獣の方が上だが、質量はオボロが二十トン以上も上回っているのだ。
 ならば、いかに巨体と言えどオンバルロが吹っ飛ばされるのは当然。

「いよしっ!」

 タックルで魔獣を遠ざけたオボロは、近くで転がる犬面タイプの強化服を纏う少年と、相方の人面タイプの少年を軽々と担ぎ上げた。
 そして一跳躍。
 二人を担いだ超人は漆黒の空間から脱出し、煙幕が漂う領域から数百メートル離れた位置に地響きを鳴らして着陸した。

「よくやったじゃねぇか。上出来だぜ」

 オボロは二人を優しげに地に寝かせ、彼等の戦果を称賛してニッと口角をあげる。
 超人でもない、規格外の生物でない、普通の少年達。
 強化服を用いていたとは言え、そんな彼等が宇宙から飛来せし怪物を転倒させる程の戦いを見せたのだ。
 立派な戦利と言える。

「……さて、もう十分だ。あとはオレに任せておけ」

 そして少年達は全てを出しきったであろう。もう十分に戦った。
 しかし、それでも倒せないのが星外魔獣。通常の手段ではどうしようもないのだ。
 だからこそ今度は正真正銘の超人が動く。
 オボロは振り返り、今だに漆黒の煙が漂う空間に目をやる。

「戦いの邪魔だな。一対一だ、小細工はなしだぜぇ」

 戦闘の元祖は、やはり敵に近づいての格闘。
 そしてお互いに味方は無し。もはや煙幕など不純な手段だ。
 誇りプライドとかルールと言う訳ではない。これがオボロのやり方なのだろう。
 それを取り払うべく、オボロは大きく大気を吸い込み始めた。
 かなりの肺活量と吸引力なのだろう、周辺の草や樹木の葉がザワザワと空気の流れでどよめく。
 そして大量の空気を体内に蓄えたオボロは口先をすぼめ、一気にそれを吐き出した。
 とてつもない風切り音とともに土煙が舞い、引き抜けそうな程に草が横倒しと化する。
 それは、もはや吐息どころではない。嵐のごとき突風、巨大な空気の塊をぶつけられているがごとくであった。
 超人の息吹きにより漂っていた遮蔽となる黒煙は瞬時に拡散し、遥か遠くまで流れてたちまちに消え去る。

「グゥガオォォォ!」

 そして身を隠す物を剥がされるがごとく、黒煙の中から青色の外骨格に覆われた怪物が姿を表した。
 野獣の頭蓋骨のような頭部が鈍い音とともに動き、オボロを見据える。
 超人を新たな敵であり目標と認知するがごとく。

「以前は武器も使ってたことはあるが、今となっちゃあ巨拳こいつで十分よぉ。女々しい真似はなしだ、真っ向からいくぞ!」

 そう言って、拳を握りしめたオボロは駆け出す。
 武器はなし戦略もない。あるのは身一つ。
 鍛え上げた肉体と格闘技術だけの、もっとも原始的かつ自然的スタイル。
 だが超人は、それだけでこと足りるのだ。

「グゥガオォォォ!」

 急接近してくるオボロに対して、オンバルロが迎撃で応じてくる。
 両肩部の外骨格装甲が開き、スピーカーのような器官から音の大砲が速射される。

「へっ! んな粗末な飛び道具なんぞ通用するかよ。オレを止めたきゃあ、惑星ほしごと砕いてみろってんだ」

 オボロの肉体に音の打撃が無数に叩き込まれるが、仰け反るどころか、勢いの減衰すらない。
 常人なら一撃で粉々になる衝撃波だろうが、超人の肉体を制するには余りにも非力であったようだ。

「グゥアガアァァァァ!」

 魔獣もそれを理解したのだろう、オンバルロもその巨体と質量に見合わない機動力で駆け出す。
 そして重火器程度ではまともな損傷も与えられない強靭な外殻に覆われた骨質の拳を接近してくるオボロの頭に向けて突きだした。

「馬鹿めっ!」

 オボロは迷うことなく魔獣の拳を額で受けた。
 そして何かが砕けるような大音響。
 魔獣は外殻で包まれ自分の拳なら、超人の頭蓋を破砕して脳髄をぶちまけらる……とでも思っていたのだろう。

「……グゥガァッ?」

 何が起こったかかが分からない様子で、魔獣は歪に変形してしまった右腕を見やった。
 右腕の青い外骨格には余すところなく亀裂が入り、拳は砕け、手首は曲がり、腕と肩からは骨格とおぼしき硬質な棒状のものが飛び出していた。
 オボロもそれを見て、小馬鹿にするように微笑する。

「自業自得だな。オレの頭を甘く見すぎだ」

 ……石カブト。
 オボロが惑星の外より襲来する怪物達を殲滅するために創設した集団。
 その名称に余りにもお似合いすぎる頭であろう。

「ボンヤリしてんじゃねぇ!」

 戦闘中に破壊された腕に驚愕して動きを止めるなど愚の骨頂。
 その隙をついてオボロは右剛腕を振るい、魔獣の胴体にラリアットをぶちかます。
 そのままオンバルロの四十トン以上の巨体を大地目掛け叩きつけた。
 轟音とともオンバルロは綺麗に地にメリ込む。

「鋳型が作れそうだな」

 超人は地面に食い込むオンバルロの頭部を掴むと、大地から引っ剥がすように軽々と持ち上げ宙吊りにする。
 魔獣の体からは破損した外骨格の破片がボロボロと落下した。
 体高こそオンバルロの方が上だが、その途方もない筋肉量ゆえに体積はオボロの方が上だ。
 ならば肉体的な戦いで、どちらに勝敗がつくなど分かりきったこと。
 そして一撃で瀕死になったオンバルロへの容赦なき……いや容赦する必要が追撃が行われる。

「ほら、飛んでこい!」

 無理矢理起こした魔獣を無造作に放り投げた。
 加えられた強烈な力によってオンバルロは高速で水平方向へと吹っ飛んだ。
 より進化した怪力がなし得ることだろう。

「まだまだっ!」

 大地と平行に進むオンバルロが重力に従い落下しそうになった時、破裂するような音ともにまたも衝撃が加えられる。
 オボロの張り手だ。魔獣が吹っ飛んだ方向で待ち構えていたのだ。
 ……いや、おかしい。
 なぜオボロがオンバルロの吹っ飛んだ方に先回りしているのか?
 瞬間移動したとしか言いようがないが。
 そして張り手を食らったオンバルロは、元来た軌道を高速で帰るように、またも吹っ飛んでいく。
 そして、やはり進行方向の先にはオボロが待ち構えていたのだ。

「それっ食らえ!」

 今度はタックルで突き飛ばされる。
 そして、そこからは異様な光景であった。




 「……ど、どうなってるんだ?」

 そんな超人の異様な戦闘を眺める姿があった。
 どうにか意識を取り戻した犬面タイプの強化服を着込む少年は、全身の痛みに耐えてどうにか姿勢を動かしオボロの方へと視線を向ける。
 しかし、その戦いは異常であった。
 オボロが攻撃を加えると魔獣が高速で吹っ飛んでいき、そしてオボロが瞬間的に消えて魔獣が吹っ飛んでいく先に姿を現し再び攻撃を加えている光景であった。

「分身?……いや瞬間移動?」

 と、しか言いようがないが。
 攻撃で魔獣を吹っ飛ばしたあと、その進行先に瞬間移動して再び攻撃をしているとしか。
 それはまるで一人で投球補球キャッチボールを繰り返してるようだ。
 そんな攻撃を食らい続けていたためか、オンバルロの外骨格は砕け徐々に黒い筋繊維だけの丸裸状態になりつつあった。

「……いくら成長したからって、そんな能力が……いや違う」

 そして少年は気づいた。
 オボロが姿を消す瞬間、大地が揺れ凄まじい音がなっていることに。

「確かに大地を蹴っている、これは瞬間移動なんかじゃない。単純に超高速で動き回ってるだけだ」

 つまり単純なことなのだ。
 オボロは攻撃して高速で吹っ飛んでいく魔獣を追い抜き、その進行先で待ち構えてるだけなのだ。
 やってることは単純ではあるが、いやしかし一体どれ程の速度で動いているのか。
 オボロは言った。参考にならない魔獣の倒しかたをすると。
 確かにこんな戦闘など、人類にできるわけがない。




 「さあ、とどめの時間だ」

 オボロは高速で吹っ飛んできたオンバルロを捕まえると、魔獣のその巨体を上下逆さまにして抱え上げて固定した。
 オンバルロの外骨格はほとんどが砕け落ち、まともな抵抗も見せない程に弱りきっている。
 もはや小型の魔獣などオボロの相手にはならないのだろう。

「とどめだあぁぁぁぁ!」

 そしてオンバルロを抱えた超人は雄叫びを響かせると、その脚力で真上に跳躍した。
 総重量百トン以上が大気を切り裂き、たちまちに上空一千メートルへとたした。
 ……もしこのまま落下すれば、オンバルロは脳天杭打ちパイルドライバーを食らうことになるだろう。しかもかなりの高度から。
 もちろんオボロはこれを仕掛けるために、跳躍したのだが。
 そして落下が始まった、上昇と同様に空気抵抗を浴びながら百トン以上が高速で降下していく。

「くたばれえぇぇぇぇ!!」

 凄まじい空気抵抗の中でのオボロの叫び。
 そして大轟音とともに大地に巨大なクレーターが形成された。
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