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超魔の目覚め

大仙の勢力

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 クバルスの落雷災害からおよそ二日。
 混乱を避けるため、一応のこと今回の落雷は異常気象と言う形で伝えられたサハク王国の親衛騎士達は、騎士隊長メリッサと謎の男の指示のもと明朝から散らかった未知の物体の回収と調査に従事していた。
 おおよそ五十名の騎士達が作業に乗り出した場所はクバルスから数キロ程離れた小山の山中。
 この真実は伏せられているが、星外魔獣エンボルゲイノが真っ先に破壊活動を行ったであろう地点である。

「これだな」

 黒焦げの倒木や木片が散らかるなか一人の騎士が、地面に転がる破損したと思われる箱状の物を掴みあげた。
 それは一部は金属が使われているようだが、大半は見たこともない材質で構成されているような物質である。
 男はそれを、山積みになったガラクタがある場所へと運んだ。
 それは多くの騎士達の力仕事によって作られた、未知の物体の残骸の山であった。

「……しかしいったいこれは、なんなんだ?」

 ガシャリと箱状の物体を置いて、その騎士は得たいの知れない素材が積まれて形作られたガラクタの山を見上げる。
 自分が運んだ箱状の物体に加え、光沢のある黒っぽい板状の物から、なんらかの被覆で包まれた金属の線など、用途も分からないし初めて見る得体の知れない物ばかり。
 それらは騎士達から見れば、ただの廃棄物としか思えないだろう。
 命令とは言え、なぜ朝早くから騎士数十人体勢でこんな訳の分からないゴミ回収などをしなければならないのか?
 国に忠義を尽くす身ゆえに上からの指示には絶対厳守だし、内容を深く詮索する気もない。
 しかし、はたしてこんな作業に精鋭たる騎士達を動員する程のことだろうか。
 それゆえに、この場の騎士達が内心に不満を持つのも仕方ないこと。
 それに一番気になるのは……。

「それにしても、ありゃあいったい誰なんだ?」

 ガラクタを置いた騎士はそう呟くと、残骸の山の傍らで何かを話している二人組に目を向ける。
 美貌と誇り高き精神を兼ねた自分達を率いる女隊長、それと不気味な仮面と円錐台形の被り物で素顔を隠す謎の毛玉人。
 騎士達に直接指示を出すのはメリッサ隊長ではあるが、そんな彼女に作業内容を伝えているのは不気味な仮面の毛玉人だ。
 それを考えると、この場を完全に仕切ってるのはあの素性が分からない男である。

「まったく……なんなんだかな」

 事実、不審な存在の命令で働いていることに不満と訝しさを思いながらも、若き騎士は作業に戻るのであった。




「この残骸は、いかなる道具……いえ装置と言えばよいのでしょうか、いったい何に用いる物なのです?」

 カラカラとガラクタの山から転がり落ちてきた黒い光沢のある小さな板状の何かをメリッサは掴みとると傍らの男にといかけた。

「これらは発電や蓄電を目的としたものだ。太陽電池やら二次電池やら送電線やらだ」

 彼女の言葉にハクラも目の前のガラクタの一部を拾い上げて、濁った声で返答した。

「……つまり電力の供給、を目当てとしたものと?」
「話が早くて助かる。ゲン・ドラゴンに滞在してる間に、いろいろと見て学んだようだな」

 ハクラの言葉に対してメリッサは無言で頷いた。
 ニオンに稽古をつけてもらう傍ら、科学や機械等に多少なりに触れていたため、動作原理などはさすがに理解できていないが、機能などは分かっている。

「しかし、どうしてそのような物が?」

 あまりにも、おかしい。なぜにこの地域にこんな機械的な物が存在しているのか?
 科学技術を用いて機械装置などを開発できるのも、それらを保有しているのも、辺境のペトロワ領のみだ。
 誰かが持ち込んだのか?
 あるいは密かに技術提供が?
 しかし、どんなに考えても今のメリッサには答えはだせない。
 王国一の騎士とは言え、自分はこの手には素人に毛が生えた程度ゆえに。

「他領地への機械の持ち出しや、開発情報の管理は厳重なはずだ。なにぶんこの手の物は星外魔獣を引き寄せる要因だからな、それを知ってるんだからなおさら繊細に取り扱ってるはず。あの領地の科学者や技士達や住民達が関与してるとは考えにくい」
「はい、私もそうは思います」

 ハクラの考えにメリッサは肯定する。
 機械は星外魔獣の出現を誘因するものだ。それだけのリスクがあるのだから、あの地域の者達が安易な持ち出しや技術提供をしているとは考えにくい。
 確かに王都復興のため少しばかり大型重機をペトロワ領から借り受けてはいるが、かなり厳しい管理下での作動が義務づけられ、必要最低限の台数に絞られている。

「いずれにせよエンボルゲイノがこの地に現出したのは十中八九、ここに貯蔵されていた高エネルギーが元凶だ、ここで蓄えられていた電力が目的だったはず。王都にある重機類になどに目もくれず、よりエネルギーが多い場所を狙うあたり、頭を使った行動をとっていたようだな」

 そう言ってハクラは、焼け焦げた周囲を見渡した。
 魔獣の行動から察するに、小さな餌ではなく、より養分が多い餌を優先して狙っていたことが分かる。
 ここでエネルギーを獲得した後、次なる多量のエネルギーを求めてペトロワ領に向けて北上したのだから。
 しかも破壊と殺戮を本能とするにも関わらず、クバルスとスチームジャガー以外に破壊活動を行っていない。
 よりエネルギーを食らい、万全になってから本格的に活動しようとしていとも考えられる。
 いずれにせよ、魔獣達の脅威性が日に日に増してると言うことだ。

「……それにしても、やはりかなり高性能な発電設備だ。こんなシステムを構築できるのは極めて限られる」

 そしてまたハクラはガラクタの山に目を向ける。
 高効率の太陽電池と言い、大容量の二次電池と言い、ペトロワ領の技術者達でもこれほどの物を開発できるだろうか?
 無論、ニオンやマエラなら可能だろうが。二人が意味もなく開発してここに設置したなど有り得ない話だ。
 ここまでの高水準の機器だ、やはりペトロワ領の者達が絡んでいるとは思えないだろう。
 ここで改めてハクラは考え直した。

「優れた科学力を持った者がこの地域に存在していると考えるのが妥当だろうか。……大仙の勢力が関係しているのか……よもや」

 ハッと何かに気づいたように、ハクラは顔をあげた。

「機密結社や裏組織関係の残党……それらが大陸の中心部までに潜伏を」
「先程から、いったい何を?」

 ハクラのあまりにも難解な推測についていけなくなったのか、困惑気にメリッサは語りかけた。
 そしてハクラは重々しい様子で彼女に顔を向ける。

「大仙は高度な科学力と最先端技術の進歩により安泰と優れた世の構築に成功した。だが科学や機械の発達により、それを私利私欲で悪用する存在が現れるようになったんだ。それらが徒党を組み、いくたもの機密結社や闇の組織が結成されたんだ」
「……機密結社? 闇の組織? 盗賊の類いでしょうか」
「そんな、ちんけな存在とは比較にもならん。……教えておこう、異形獣や蛮竜、それらは大仙で結成された闇の勢力が開発した生体兵器なんだ」
「……なっ!」

 ハクラの濁りきった声を聞いて、メリッサは目を見開いた。
 ……異形獣。
 あの忌まわしい記憶が鮮明に蘇る。
 多くの住民が命を奪った、醜悪な化け物の姿が。

「……確実ではないが、それらの勢力の残党がこの国に潜伏しているかもしれん。メリッサ、すぐにここにあったであろう屋敷の所有者を洗い出してくれ」

 そう言ってハクラは、周囲に散らばる木材やガラスに目を移す。
 散乱するもので確かに、ここに屋敷があったのが理解できる。
 だがおかしい家具類とおぼしき物は転がっていないのだから。
 ……発電設置を屋敷に見立てて、隠蔽していたとしか言いようがない。
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