大怪獣異世界に現わる ~雇われ労働にテンプレはない~

轆轤百足

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超魔の目覚め

魔獣の異常行為

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 「そうか、分かった。後はマエラ達に任せておけばいいだろう」

 それはエンボルゲイノが打ち倒され滅却が開始されてから、時まもないころである。
 多少舗装された街道を高速で突き進むハクラは部下からの報告を聞き終え、常時装備している多機能性のガスマスクに備わる通信機能を切った。

「連絡があった。エンボルゲイノ……クバルスの街を襲撃した魔獣をしとめたそうだ。いや、正確には確実に殲滅するために焼却している最中と言った方が良いだろうが」

 勢いよく風がぶつかるなかハクラは進行方向を真っ直ぐ見ながら、傍らにいる女騎士隊長へと告げた。

「ほ、本当ですか……それなら、何よりです」

 馴れないゴーグル付きヘルメットを被るメリッサは、やや落ち着かない様子ながらも魔獣が倒されたことを聞いて安堵の表情を見せる。

「そうと分かれば、こちらも集中できると言うものだ。メリッサ、問題はないか?」
「……はい。少々変な感覚ですが、特には」

 そんな二人が高速で向かうのは、街を襲撃する前にエンボルゲイノが放電砲を放ったであろう位置。
 そして、その道中でハクラは傍らにいるメリッサを気にかけた。
 と、言うのもこれは彼女にとって初めての体験。

「それにしても、凄い速度ですね」

 側車に乗っているとは言え、自動二輪車に乗るなどメリッサにとって未知の体験としか言いようがない。
 乗用のガーボや陸竜などでは比較にもならない速度、そして揺れも思った程に伝わってこない。
 いずれにせよ、相当に優れた乗り物であることは確かである。
 少しばかり不安は感じれど、その機能と便利さに彼女は舌を巻くのであった。

「こんな乗物ものがあれば、街間の移動はおろか近辺の国家にすら短時間での行き来ができると言うもの。これもやはり高度な科学技術がなしうることなのですか?」
「お前達から見れば、とんでもない機能に見えるかもしれんが、そこまで極端な技術は用いてはいない。たしかに並の車輌よりかは高性能に改造は施してはあるがな」

 そんな彼女にハクラは事もなさげに応じる。
 今だに人力や動物を常用としているこの大陸の者から見れば、内燃機関や電動機を利用した乗り物が途方もない逸品に感じてしまうのも仕方あるまい。

「見えてきたぞ」

 そして走行すること数分。頂上付近で少しばかり煙が漂う小山を視界に捉えハクラが大きく顔を上げた。
 エンボルゲイノが攻撃を行ったであろう地点。
 クバルスから数キロ程離れたその位置に人が密集しているような街や集落などはない。

「魔獣がなぜあんな場所を襲ったのか、調査する必要がある」

 成長や強化や変異を繰り返すことで行動や習性が変質してきてるとは言え、魔獣は機械的文明や人口密度が高い場所を察知して襲撃する事が大半である。
 ……しかしエンボルゲイノは街を襲撃する前、なぜにあんな人もいないような小山を攻撃したと言うのか。
 その要因を突き止めねば、ならないのは確実。
 あらゆる可能性を予見し対策しなければ、予想だにしない犠牲へと繋がるのだから。
 常に奴等の行動理由は調べなければなるまい。



 頂点付近の樹木や草花は焼けはて、緑豊かであったであろうその小山の姿は黒く焼かれた樹木と剥き出しの土壌により天辺付近が暗い色へと変貌していると言う歪なものになっていた。
 エンボルゲイノの放電砲の一撃により発生した火災によるものだ。
 消火活動が行われていればもっと抑えられただろうが、街も攻撃を受けたのだからどうすることもできなかった。
 ……だが、しかしそれは変な話だ。
 消火されなかったら山全体が焼き尽くされていたはず。
 なのに頂上付近の焼失だけでおさまっている。
 その理由は山の中に踏み入れてから分かった。

「……濡れている?」

 メリッサは足に伝わる地面のぬかるみで小さく溢した。
 周囲の樹木も濡れ、その葉には雫が乗っている。
 雨が降ったことで鎮火したのだろうか?

「いや、おかしい。この山にだけ雨が降ったとでも。そんな不自然なこと」
「局所的に人工雨を降らせたんだ。炎上していたのでは調査はできんし、なにより被害の拡大を食い止めねばならなかったからな」

 周囲を観察しながら山を登るメリッサに、同じく頂上を目指すハクラはくぐもった言葉を発する。

「魔術での気象の制御など、相当に困難なはず。魔力の消費が激しく、少なくとも複数人での同時行使が必要なはずですが……これも」
「ああ、これも科学の力と言うものだ」

 またハクラは事も無げに返答する。
 ……何とも複雑なものだ。メリッサは、ただ小さく息を吐く。
 このニオンの師は魔術で困難なことや不可能なことを科学とやらで軽々とこなしてしまうのだから。
 彼から見れば魔術など、無意味で無価値なものとしか写らないのではなかろうか?
 しかし自分達騎士は、それを高めようと特訓に励んでいる。
 その行為は彼から見れば、石器のような物を最高の武器と勘違いして日々磨きあげている原始的な姿としか感じていないのではなかろうか。
 ……自分達はこの先、どうすればよいものか?

「今は考えても仕方あるまい」

 メリッサはまた溜め息をつき、黙々と頂上目指して登っていくハクラに続くのであった。



 樹木の殆どは焼けて倒木し、草花は燃えて焦げた土壌が露出している。
 人工雨で鎮火したとは言え、まだ所々では煙がくすぶる。
 それが頂上の情景であった。
 ハクラは小型の端末を手にし、そしてメリッサは肉眼で周囲を見渡す。
 これと言って不穏な物は見受けられないと、思われたが。

「……んっ? あれは」

 だが明らかに異様と言うよりかは、不自然な物がそこにはあった。
 ハクラは足早にそれに近づきメリッサもその後を追う。

「これは?」

 そしてメリッサもそれを見て思わず声をあげた。
 それは建物が焼けて倒壊したような残骸であった。しかもその散らばる瓦礫の量から見て、屋敷と言っていいほどの建築物がここにあったことがうかがえる。
 そして、もう一つ異様な物が。巨大な穴、調度屋敷の中心部だったと思われる部位にそれが穿たれていたのだ。しかも相当な深さ。

「……魔獣があけたものなのでしょうか? それにこの瓦礫は」

 メリッサのその問いに応じず、ハクラはいきなりしゃがむと何か破片のような物を拾い上げる。
 それは黒くやや光沢を帯びた欠片のようであった。

「これは太陽光電池板、しかもかなり高効率の。なぜ、こんな物が?」

 ハクラは破片をマジマジと見つめるかのように、ガスマスクの前に掴む手を持ってきた。

「……あれは?」

 そして捜索するように周囲に顔を巡らせていたメリッサも声をあげる。
 何やら箱上のような物が転がっていたのだ。一つ二つではない無数に。それに、それがどんな材質かも視認だけでは分からない。

「メリッサ、すまんが騎士隊お前達の協力がほしい。規模を大きくしないと調査仕切れるものではないかもしれん」

 そう言いながらハクラは立ち上がった。
 よく地面を観察すると金属片や得体の知れない素材が瓦礫に混じっているのが分かった。




 少女は、ゆっくりと目覚めた。
 視界に写るのは見覚えのある天井。自分は以前、ここにしばらく世話になっていた。
 母国から命からがら逃げ延び、この医療施設で治療を受けたんだった。

「お目覚めですかな、ミアナ様。体に異常はございませんかな?」

 といきなり横から甲高い声が聞こえてきた。

「うん、少し頭がボンヤリするけど体調は悪くないみたい」

 ベッドの傍らに佇む異星人にそう告げると、ミアナは起き上がろうと両手をついた。

「……あっ!」

 その感覚に思わず声をあげる。無かったはずの右手で体を支えていることができている。
 レッサーパンダの少女は右手を顔の前にかざした。

「移植手術は無事成功でございます。少しリハビリすれば、以前と同じ生活に戻れます」
「……ありがとう、チャベック」

 ミアナは静かに異星人に礼の言葉を述べ、そして目元から水滴が落ちる。なぜか自然と涙が溢れる。
 腕が元に戻ったことを喜んでるのか、あるいは寂しさか。
 新しいこの右腕は本物であり本物ではない。
 ミアナの細胞を培養して作ったものゆえに本物と言えば本物。しかしそれは形だけの話。
 かつての友人と握手した思いでもない、挫折しそうになった時どうにか地面を押して立ち上がらせてくれた記憶もない。
 新しく過去のない腕なのだ。どこか虚しく寂しい。
 ……しかし。 

「……レオ様のためにも、わたしは強くならなければ」 

 そう言ってミアナは新しい右手で溢れる涙を拭った。
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