大怪獣異世界に現わる ~雇われ労働にテンプレはない~

轆轤百足

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超魔の目覚め

焼け跡に現れし漆黒の鎧

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 廃墟……。
 いや、それどころではない。
 建物をバラバラに砕き、地面を無造作に掘じくり返し、それらから出た残骸をごちゃ混ぜにした物を溶かし合わせ、冷し固めた地べたか何かと言えばよかろうか。
 ……たった一体の生物が引き起こした惨状。
 しかし、ことの真実を知る者は誰も驚かない。
 この破壊と殺戮を行ったのが、たった一体とは言え想像を絶する怪物だったのだから。
 ゆえに、そのことを理解している多くの異星人達は驚いた様子を見せずに、この虐殺の跡地を黙々と調査しているのだ。
 メリルがそんな異形の集団を見ても驚かないのは、あまりにも被害の跡が壮絶なものだったからだろう。

「……ひ、ひどい。……本当に、ここに街が?」

 自分はこの国の女王。ここに人々が住む場所があったことなど知っている。
 ならそんな言葉など馬鹿げたこと……それは分かってはいるのだが。
 そんな震えるメリルの傍らに立つ元賢者の少年も恐怖と驚愕を含んだ目を前方にむける。

「……本当に人が住んでいた場所、なんですか?」

 二人とも、この現実を認めたくはないのだ。
 辺境ではあれど、ここにはそれなりに栄え多くの人々が交流する街があったのだ。
 しかし二人の目にうつるのは、更地などではなく街ごと全てを高熱で融解させて、冷やして固めた光景としか言いようがない。
 周囲の草木も炭化し、所々では今だに煙がくすぶり、高熱が引いたばかりであることが理解できる。
 まるで灼熱の溶岩に街一つが飲み込まれたようなありさま。
 ……いったい、どれ程の人々が犠牲となったのか。

「ヴァナルガンの高エネルギー兵装がもたらした爪跡です」

 メリルとヨナをこの現場まで案内した、異星人が淡々とした口調で告げる。

「……ここよりだいぶ離れた都市も含め、犠牲者の数はおおよそ一万人に上るでしょう」

 物静かで無機質なようにリミールは言うが、彼女はけして無関心でもなければ冷たいわけではない。
 態度で表してないだけで、内心では多くの犠牲が出たことに思うことはあるだろし、それを阻止できなかったことを悔やんでいるだろう。
 ましてや彼女は、ヴァナルガンによって安息も平穏も全てを壊され踏みにじられたのだから。
 この場景は初めてではないのだ。
 ゆえに、ただただ真実を受け入れるしかないと分かっているのだ。

「……ここにいた人達の遺体は、どこにもないのですか?」
「とてもでは、ありませんが……」

 顔面蒼白でヨナが問いかけるが、リミールはもの悲しげに頭を横に振ることしかできない。
 ヴァナルガンの高熱プラズマ砲の乱射によってこの街は破壊しつくされたのだ。
 脆弱な人体が原型をとどめて残っていたら、それは奇跡だろう。
 現実を考慮するなら住民達は微細になるまで霧散したか、建物や地面と溶け合わさったと考えるのが当然だ。

「……そ、そうですよね。せめて遺体を回収できたらと思ったのですが」

 リミールの言葉を聞いて、元賢者の少年は現実を受け入れ諦めたように肩をおろした。
 と、その時どこからか機械的な音が響き渡る。
 その音源が近づいて来るのを察し、リミールは遠くに目を向けた。

「司令官がいらっしゃいました」

 囁くような彼女の声に従うかのように、メリルもヨナもその視線を音のする方へと向ける。

「あれが?」

 接近して来るそれを見てメリルは思わず息を飲む。
 リミールから多少なりに、司令と呼ばれる者のことは聞いていたが。じかに姿を見るのは初めて。
 異星から来た者達を束ね、そして最凶の剣士たるニオンを鍛え上げた、と言う男。

「な、何ですか。あれ?」

 思わずヨナも声をあげてしまうのは仕方ないことだろう。
 機械的な音を響かせた乗り物を操るその姿は漆黒の装甲に覆われているのだから。
 して三人の近くにたどり着くなり司令と呼ばれし男は、如何にも頑丈そうな装甲二輪車から降りるなり躊躇せずメリルのもとに歩み寄る。
 その途中リミールから敬礼を受け、ご苦労とばかり左手をあげた。

「……お前が……いえ、あなたが」

 近寄ってきたその姿に気圧され女王は思わず後ずさる。
 司令が纏うそれは甲冑のようだが、明らかに普通の防具ではない。
 全身を漆黒の装甲で覆うような装備と言えばよかろうか……。
 頭部も密閉されており長いマズルで狐のような形状をしており両目であろう真紅に輝く鋭い複眼、そして後方では同様に装甲で包まれた九つの尾が揺らめく。
 とにかく普通の甲冑でないのは明らかだ。

「直に接触するのは初めてだな、メリル女王」

 そして漆黒の装甲で包まれた男が語りかけてきた。
 その未知の装備のせいかエフェクトが入ったような声だが、その声質は若い青年のようだ。

「え……ええ。私は、そのぉ……」

 ニオンの師ゆえに、興味があったのは確かだが。
 実際にあってみると、なんだか言葉が見つからないものだ。
 初めて見る異星人や超獣の爪跡のせいで思考がまとまらないのも、その要因にはなっているだろうが。

「今は挨拶だけでいい。まともに語り合うためにも、御互い準備と時間が必要になる。細かいことは、後回しだ」

 そんなメリルの心境を悟ったのだろう。ハクラはそう言って彼女の後方へと視線を向ける。かつて街があった場所に。

「都市の方も視察してきたが、ここも酷いものだな」
「……そう言えば。みやこの方はどうなの?」

 ハクラの言葉を聞いてメリルは顔をあげた。
 ヴァナルガンに襲撃されたのは、この街だけではないのだ。
 ここから離れてはいるが、その人口が密集した地点もターゲットにされ、そして最大の犠牲者が出た場所。

「都は完全に消滅した。今だに熱が引かず、放射線濃度も高く接近は不可能だ」
「……そ、そう」

 気遣いのない現実を叩き付ける言葉に、メリルは力なく息を吐く。
 だが、リミール同様にけしてハクラも薄情なわけではない。
 相手を本当に思うのであれば、下手に気を遣うよりも明確に真実を告げるべきであろう。
 特に深刻な状況ではなおさら。

「なるほど。だから覚醒外殻かくせいがいかくを纏っていたのですね」

 いきなりそう言ったのはリミールである。

「ああ。『天骸てんがい』には放射線遮蔽処理が施されているからな」
「おそらく中性子ビーム砲の影響で放射性物質が生じたのでしょう。除染するにも、まずは高熱がひかないと……」

 そんな難解な会話の中、恐る恐るとした様子でヨナが近づいてきた。

「あ……あの。それは甲冑なのですか?」

 魔術を扱う者達は総じて好奇心があり、知識欲が強いもの。
 ならヨナも例外ではなかろう。目の前に未知の防具があれば知りたくなってしまうのは当然。

「ふむ。甲冑と言えば、そうとも言えるな」

 気を悪くさせないように恐々とした様子のヨナとは対照的にハクラは事も無げに返答する。
 してメリルもやはりそれには興味があったのか首を伸ばすかのように漆黒の装甲の各部位に目をやる。

「一種の強化服だ。体全体を覆う高強度の装甲、それに加え人工筋肉による大出力。これを着込むことによって鉄壁の防御力と普段の数十倍もの身体能力を発揮することができる特殊な鎧だと言える」

 とは説明を受けるが、メリルもヨナも頭を抱えたそうなありさまであった。

「……まあ理解は難しかろう」

 そう言うとハクラは腰部ベルト付近に手をかざす。
 すると漆黒の装甲が眩く輝くと光の粒子となり、ベルトに回収されるかのように集約されていく。
 そして剥がれていく光の粒子の中から姿を表したのはガスマスクを被った毛玉人であった。

「必要ないときは、着装帯に収納することも可能だ」

 ……だがやはり二人は驚愕の表情を見せるしかできなかった。
 物理法則を度外視したものではないが、超テクノロジーを初めて見るものには神の技にしか感じらないのだ。
 そして、また何かを語ろうとハクラがガスマスクの中で口だけを開いた時だった。
 突如、無線が入ったことを伝える電子音が響き渡る。

「俺だ。どうした?」

 そして無線に応じるようにガスマスクの側面に指を当てくぐもった声を響かせた。

「……なに、サハク王国にだと!」
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