大怪獣異世界に現わる ~雇われ労働にテンプレはない~

轆轤百足

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超魔の目覚め

謎の雷

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 それは、いつもどおりの平穏な深夜。そして、とある大きな町。
 通りに光はなく、往来を行く存在もない。ただただ月光と星々のみが地上を照らす。
 サハク王国の王都から一番に近い町、クバルス。
 この町の近くにはギルド本部があり、そのため多くの冒険者が行き交うため昼夜ともに賑わうが、さずがに日付が変わる時刻には静かなもの。
 いつもどおりの日常、平和的光景である。
 ……しかし、ここにいるもの達は何も知らないだろう。
 数十時間前に隣国で、人類の命運を分ける激闘が繰り広げられていたなどと。
 遥か何光年も離れた領域から、想像を絶する怪物達がやって来ていたなどと。
 ……そして、その脅威が間近にいることも。
 美しき闇夜に一瞬、閃光が走り抜け、轟くような音が響き渡る。
 それは雷のような現象。

「……何だ落雷か?」
「いや、まさか。……雲なんてないぞ」

 その異常にいち早く気づいたのは、町の出入口を守る犬の毛玉人の門番二人組。
 クバルスから南方におおよそ二キロに満たない辺り、たしかにいかずちのごとき閃光が地に向かって落ちる瞬間を目視し、そして轟音をハッキリと耳でとらえた。

「な、何だ今の?」
「……建物が揺れたぞ」
「どっかに雷でも落ちたんじゃ?」
「雷雲なんてないぞ」

 二人の気のせいなんかではない、建物の中にいた住民達でさえ、慌てた様子で飛び出してきたのだから。
 そして雷が落ちた位置から赤い輝きが発せられてるのが分かった。

「いかん、火災だ!」

 おそらく木々か何かに雷が直撃したのだろう。
 いずれにせよ、このままでは炎が拡がり、広範囲に渡り草木が焼きつくされるのは目に見えている。

「この事を町長に知らせてくる。人を集めて消火に向かうぞ」

 そして、そうさせないためにも門番の行動は早い。
 彼等の本職は町を守る民兵。国家に従える騎士などには及ばないが、優秀であることには違いない。

「……んっ?」

 緊急事態を町長とギルドマスターに通達するべく一人の門番が走り去ってから、残された相方は奇妙な異音を察知した。
 それはまるで何かが壊れて倒壊するような音、そして瓦礫を掻き分けるような音。
 遠く離れているため小さいが、犬の毛玉人の聴覚は鋭敏。
 けして、これは焼けた樹木が倒れるような音ではない……が。



 やはり早い。
 雷鳴が響いてから短時間で門周辺には、民兵とギルドマスターの要請を受けて召集された冒険者達。その総計は数十名。
 言うまでもなく、みな魔術に長ける優れた人材である。
 極希に発生する魔物の軍勢の襲撃時などには王都の戦力にも出役がかかるが、この程度の災害にはクバルスの力だけで十分に対処可能である。

「よし、みんな準備できたな。さっそく現場に向かうぞ」

 そして、そんな彼等を指揮するように前方に躍り出るはツキノワグマの毛玉人。
 ギルドマスターでありながらグンジは、臨時として兵や冒険者達をまとめる任務を負うことも珍しくはない。
 ギルドマスターが前線に立つなどおかしな話ではあるが、それに見合う実力は十分に備えている。
 そんな彼を慕う者達は多い。
 魔力は有してないがグンジはかつては腕の立つ傭兵であった、そしてギルドマスターを任せられる程の手腕に加え、現在のように有事となれば危険な最前線に赴く覚悟。
 その実力と精神性ゆえに、冒険者達のほとんどはその毛玉人を一目置いているのだ。
 そして、そんなギルドマスターが出陣の号令を出したとき。
 ……再び強大な雷鳴が大気を揺るがした。

「うわっ!」
「ぬあっ!」

 凄まじい閃光と轟音に民兵や冒険者達は思わず目を閉じ、耳を塞ぎ、身を屈める。
 またもや落雷。しかし今度のはあまりにも近い位置、それも町の建物を直撃していた。
 強力な雷を受けた建物は砕け、瓦礫を飛散させる。
 ……だが、これだけに止まらず、またもや大電流が閃光として降り注ぎ轟音を響かせ、木製の建物を直撃。
 木造の家は爆発するように弾け、炭化した木片を広範囲にぶちまける。
 そして、またもや雷鳴。
 それが始まりの合図だったのか、今度はクバルスのあちこちに稲妻が続けざまに落ちだした。
 閃光と轟音が止むことなく輝き、大気を震撼させる。
 ……不自然すぎる。月が綺麗に見える程に雲などないのに。
 ……異常すぎる。なぜ町だけに、狙ったように落雷が直撃するのか。

「ギュアァァァァ!」

 まるで金属同士を擦れ合わせるような甲高い咆哮。
 しかし雷鳴の影響でそれを聞き取ることができる者はいなかった。
 建物が次々と砕け散り、炎が広がっていく。




 ヴァナルガン消滅後の調査開始から二日目のこと。
 その超獣が最初に襲撃し破壊し尽くした町に向かって行く一つの飛翔体があった。
 全長八メートル程のティルトローター式の垂直離着陸機。
 その巡航速度は時速五〇〇キロを軽々とこえる。
 無論、こんな航空機を保有している国は大陸には存在しない。
 ゆえに、現地人からすれば得体の知れない乗り物であろう。
 それを証明するように、この機体に搭乗する眼鏡をかけた少年が窓から太陽に照らされる地表を見下ろして口をパクパクとさせる。

「ひぃぃぃ! 地べたがない、足が地面についてないですよ女王様!」

 窓から顔を背けると、元賢者にして女王の秘書であるヨナは半泣きで震えながら機体内の床に身を伏せた。
 一応のことヨナは飛行魔術を有しているため空を飛ぶことには慣れてるはずだ。
 しかし、こんなにも恐怖している理由は魔術でない何かの中に入って飛んでいると言う不慣れな感覚ゆえにだろう。
 ましてや魔術では到底達し得ない、飛行高度と速度も味わっているのだから。

「ヨナ、おちつきなさい。見苦しいわよ」

 と、同乗しているメルガロスの女王メリルもどうも落ち着かない様子である。
 座席にかけシートベルトをしているが、顔から血の気が引いて、口調にもいつものような気丈さがない。
 そもそもなぜ彼女達が、この航空機に乗っているのか。
 ことの始まりは数時間前である。
 ニオンの師匠たるハクラから言葉を用いない連絡があったのは。
 今回の超獣の被害現場に案内するために送迎を向かわせた、と言う内容。
 もちろんのことメリルは迷わずに、それを受けいれた。
 ……またもや多大な犠牲者がでたのだから。
 理不尽すぎる破壊力と殺戮によって命を奪われた者達のことを思い。
 実際に破壊の現場の全てを、この目で見なければ。

「女王様、乗り心地はいかがですか? ……どうやら、あまりよろしくないようですね」
「……大丈夫よ。我慢はできる、でもなるべく急いで」

 そう伝えてきたのは操縦桿を握る女性である。
 彼女がこのティルトローター機を自在に操っているのだが、メリルはそんなパイロットにやや緊張的に返答する。
 それも、そのはず。

「……失礼かも知れないけど、一つ聞かせてほしいの。あなたは何者なの」

 操縦桿を握る女性の姿があまりにも異質だからだ。
 白い毛髪と肌、白黒が反転した目、昆虫のような触角、美しくはある。
 しかし、見たことも聞いたこともない人種としか言い様ない容姿なのだ。
 そして、それにたいし彼女は淡々と答える。

「私はリミールと申します。今回のパイロットを勤めさせて頂きます。……私はこの惑星の者ではありません」
「……惑星?」

 しかしメリルには、やはり早すぎる内容であったか。
 彼女は理解が及ばないらしく首を傾げることしかできなかった。

「今は特に深く考える必要はありません。いずれにせよ、私達はあなた方の味方です。それさえ分かっていただければ十分です」

 そう答えリミールは操縦桿を握り現場を急ぐのであった。
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