大怪獣異世界に現わる ~雇われ労働にテンプレはない~

轆轤百足

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超魔の目覚め

邪神が与えしデータ

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 いったい、この邪神は何を考えてるのか?
 今まで一度たりとも姿や形として直接対面したことがないと言うのに……そもそも敵でも味方でもないのだから、そんな奴と接触するなど考えたこともない。
 そんな存在が今になって何かの容姿かたちとなり、いきなりに姿を現して情報の提供に来たなどと。
 どういう風の吹き回しか?
 あるいは何かとんでもないことを企ているのか?
 ……いずれにせよ、相手は自称邪悪な神。何を考えてるのかなど分かったものではない。
 ハクラは思考して訝しげに、まずは他愛もない一言を問う。

「お前、どうやって艦内に入ってきたんだ?」

 様子をうかがうように。
 本当に他愛もない内容であろう、相手は神なのだ。
 こんな世界などギエイにとっては、たかが知れた所有物のようなもの。
 そんな領域内であれば、奴は何でも可能であろう。

「簡単な、ことだ」

 そう言ってギエイは、顔と一体化しているであろう骨質の面の眼窩内で真っ赤な両目まなこを発光させた。なおさら悪魔的である。

「お前達のこのふねは、特殊合金や構造によって物理的な防護と封鎖はできている。だが空間干渉などによる空間移動と言った、一種のテレポーテーションに対する封鎖は行われてはいない。つまり高次元的な遮蔽はされていない、と言うことだ」
「……空間の制御による瞬間移動」

 前で腕を組みながら佇むドクロの悪魔のごとき存在を見上げて、リミールは重々しく呟く。
 ワームホール的なものを形成する能力でも所持しているとでも言うのだろうか?
 ……しかし、そんなこと生物に。

「お嬢さん、俺は神だ。この艦内に侵入するぐらいの能力なら持っていて当然だろう」

 思考を読み取ったのだろうか、二メートル半にも及ぶ漆黒の屈強な肉体がリミールの方へと向けられる。

「……馬鹿馬鹿しい、神などいるわけがない。お前は、おそらく何かに紛れて艦内に侵入したのだろう。現実的に考えれば、それが妥当」

 そして、その異星人の女性は、目の前の存在を否定するようにいい放つ。
 神など妄言、未熟な知性体が作ったありもしない信仰対象でしかない。
 して、それもギエイに読み取られた。

「なるほど、随分と堅物なお嬢さんだな。科学至上主義な思考のようだ、嫌いではない」

 そして強靭な肉体をした、その神とやらがリミールの前で方膝をつき目線を合わせる。
 今のギエイの身の長は二メートル半、それにひきかえリミールは一五〇にも満たない。
 その光景は、まさに子供に言い聞かせようとしている大人。

「……な、なに?」

 さらに、その赤く輝く視線を間近に向けられリミールは息を飲み、後ずさる。
 異論など許さぬ、と言わんばかりの重圧ゆえに。

「お前達が神を非現実や迷信と語るのは、そもそもお前達の科学が神を理解できるまでに発達していない、と言うことだ」

 ……いったい、何を言っているのか?
 その言葉の意味が理解できない。いや、できるわけがない。
 そもそも、こいつは自分達を馬鹿にしているのか。
 だが、しかしリミールはその迫力に押し負け、何も意見することができなかった。

「ギエイ、よせ。まだ真実を語る時期ではない。俺の邪魔をするな」
「すまなかったな、やりようは違っても俺達の目的は同一だったな」

 と、リミールに迫り寄るギエイを制止させるようにハクラの言葉が響き、それを聞き入れたらしく漆黒のドクロの悪魔は立ち上がりハクラの方へと顔を向けた。

「……お前、以前より随分と変わったな」

 この邪神と言葉を交えたのは、魔王を抹殺した時以来か。
 しかし、あの時と比べると様子がだいぶ違う。
 ハクラは、それに違和感を感じているのだ。
 以前までは、悪意のあるややふざけた口調と目的のためなら残酷な手段も平然と用いる冷酷さがあったが。
 たしかに、やや他者を小馬鹿にした言葉はあれど、今のギエイはどこか冷静沈着な落ち着きが垣間見える。

「ちょっとした悪友ができた、せいかもな」

 ガスマスクの問いに、ドクロの面がこともなさそうに応じる。

「……悪友だと? いったい、それは誰だ」
「いずれ、お前にも語りかけてくるだろう。焦ることはない。すまんが、お嬢さん、少しかりるぞ」

 そしてギエイは、リミールの近く設置してあるコンソールをいじくり始めた。

「ちょっ! 勝手に……」

 彼女はいきなり機器をいじくるギエイを止めようとしたが、別に悪いようには操作していないと分かり、口を挟むのをやめるのであった。

「お前、どこで機器の使い方を? いや、言うまでもないか」

 そう言いながら、コンソールを手慣れたように扱うギエイの傍らにハクラが歩み寄る。
 神だから、何だってできるのだ。それだけで納得するのは幼稚だろうか。
 
「ところでハクラ、なぜ勝手に艦内に侵入しあまつさえ機器をいじり回す俺を警告したり制止したり、しないんだ」

 と、今度はコンソールを操作するギエイが問う。

「……分からん。直に姿を現した今のお前に疑念は抱くが、敵意が感じられんのでな」

 とは言え、その敵意や悪意が感じられないのもなんとも意外すぎる。
 私欲のために転生者達を数多の魔族に仕立てあげ、血生臭い虐殺の末路に追いやった邪神から害悪が感じられないのには、驚きを抱き戸惑いたくもなるものだ。
 ましてや、その本心が見えずに情報提供などを告げてきたのだから。

「そうか。どうあれ今は、何も言わず聞いてくれて助かる」

 またもやギエイの言葉は意外なもの。
 先程もリミールに対し「すまんが」などと言う辺り、とても邪神の言葉とは思えない。いったいどう言う心境の変化か。
 とは言え、現状をややこしくするべきではないと考えハクラは本題に入った。

「ところで、俺達に提供するデータとは何なんだ?」

 ガスマスクの影響で濁った声が邪神に向けられる。

「ハクラ、お前も薄々気づいているだろう。何故に大型魔獣や超獣が、この恒星系に出現するようになったのか。それは一人の魔族が、この惑星で考えもなしに原子力エネルギーを開発したことが要因。もちろん、急にそんな物を造り出したことにも違和感を感じるが。そしてどうやって別の恒星系に生息していたであろう大型魔獣や超獣が、ここまでやって来たのか」
「……」

 コンソールを操作しながら語るギエイ。
 それを聞いてハクラは押し黙る。
 そう。そもそも当初は、この恒星系に大型魔獣も超獣もいなかった。
 つまり最近頻繁に出現する大型魔獣や超獣は、別の恒星系からやって来たと考えるのが当然。
 しかし問題がある、その何百光年、何千光年と言う距離をどうやって渡り歩いてきたのか。

「答えは、これだ」

 そしてギエイは制御していた機器に右手指先を向けると、パチッと一瞬電流のようなものを流し込んだ。

「何をしたの?」

 傍らでそれを見守っていたリミールが問いかける。

「この艦のコンピューターに俺の体内器官に保存しておいたデータを送った。情報の保管にメモリーのような媒体など必要ない。自身の体の中に情報を保存しておけるようになれば、データの紛失や漏洩する心配はないからな」

 ギエイは、そう答えるが……いや普通に考えて生物にそのようなことができようか。
 リミールは、またも混乱し頭を傾げた。
 そしてブリッジのメインスクリーンに、先程入力された情報が画像として表示された。
 それによってチャベックの映像ウィンドウが隅っこに追いやられた。
 表示された画像は岩石が無数に乱雑的に広がってる場景。

「おや、これは小惑星帯ですかな」

 どうやらチャベックが今使用している機材にも情報が反映されてるようであった。

「そうだ、この恒星系の小惑星帯だ、よく見てみろ」

 そう言ってギエイは顔をあげ大型スクリーンに視線を向ける。

「……ん? 小惑星に紛れて何か」

 それを一番早く発見したのは副指令であった。 

「拡大するぞ」

 そしてギエイは、再びコンソールを操作し特定の位置を拡大する。
 して映し出された、小惑星に紛れて何かが存在してることに。

「……何だこれは?」

 見て、ハクラは驚愕の濁った声をあげる。
 それは鯨のような巨大な水棲生物のような見た目と言えばよかろうか。
 その巨体の色は暗緑色で、巨大な背鰭が一つと、そして所々にも鰭がある。
 そして頭部には橙色のキャノピーのような器官と、巨大な口が存在している。

「……まさか、超獣!」

 リミールも耐えきれずに声をあげる。
 そして画像の横に分析内容とおぼしき文章が表示された。
 推定全長・三十キロ以上。
 推定体高・七キロ以上。
 推定質量・百億トン以上。
 大気圏内外飛行速度・亜光速。
 ワープや転送など。

超船行巨獣ちょうせんこうおおじゅうサナガンテス。さながら、超巨大生体宇宙船と呼べばよいか」

 ギエイは落ち着いた口調で語るのであった。
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