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超魔の目覚め

食っちゃ寝してりゃ育つ

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 昨晩から深夜にかけて激しい殺戮と戦闘があったとは思えないほどに、その日は良い天気である。
 夏が近いため多生なりの暑さはあるが、それも楽しめるぐらいの清々しさである。
 そんな下、電子音や地を掻く音が響いていた。
 テントを建て、機材等を運び終えた異形の姿の物達が各々に特殊な防護服と装置を片手に周囲を駆け回っている。
 日が登り数時間、超獣が爆砕された場所は今だに熱が残っているため調査はできないが、しかしやっとのこと周囲に近づくことができるまでに温度は低下していた。
 そして調査やヴァナルガンが投棄した金属物質の回収作業を行うそんな異星人達の現場から、だいぶ離れて一機の魔人が修理を施されている。

(この調子なら、あと数時間もすれば修理が終わるだろう)
「ほんと? 良かったよ、大事ない破損で」

 ハクラの言葉に応じるのは、米粒程度の作業ロボット達にまとわりつかれるクサマを見上げるナルミ。
 横たわるアイドリング状態の魔人の機体表面では無数の鈍色の蟻のように小さい作業員達が徘徊していた。
 これはシキシマの機体内工場に常駐している作業ロボット達で、破損や故障の修理や部品製造を行っている小型作業機械である。
 クサマの機体の所々で溶接が行われてるらしく、時折に火花が散った。

(『我等見参オラタチダー』は小型である分、細部まで点検・修理が可能だ。精密機器から内部機構まで、元通りにしてくれる)
「へぇ、すごい」

 ハクラの説明を聞いてナルミは感心したのか、修理現場を周回しては細部まで見やる。

「……でも、何だか」

 見方を変えると、さながら傷口に群がる虫の大群にも見えなくもないが。
 だが確かに修理は早く正確で細かい。
 そして自律機械のため不休での作業が可能で、高い持続力も備える。
 これならクサマの修理が短時間で終わる、と言えるのも十分に頷ける。

(それと修理ついでに、電源の増設作業も並行する。動力源が二つになることで出力パワーが増す)

 と、またナルミの頭の中にハクラの言葉が伝わる。

「性能が向上するって、ことだよね」
(ああ、今シキシマの機体内の工場で新型の蓄電池を製造しているからな。そいつをクサマに搭載する)

 ここ最近、強力な魔獣や超獣が頻繁に出現しているのだから性能向上は必須であるのは言うまでもなくだ。
 魔獣も超獣も、こうしてる間に戦闘能力を高めているのだから、こちらとてより強くならなければなるまい。

「よかったねぇクサマ、強くしてくれるって!」

 それを聞いたナルミは興奮して目を輝かせ、荒い鼻息をならす。
 さながら自分の子供の成長を楽しみにしている、ような心情なのかもしれない。




 ……修理と性能向上、それは何もクサマだけに施されているわけではない。
 いや、この場合は自力でそれに等しいことを行っていると、言えばよかろうか。
 みなが機械装置等を用いて作業に専念する最中、そこは……怪物的に巨大な熊だけは、異質すぎることをしていた。
 ビキッ、ブチッ、と言う靭帯や腱がちぎれる音。
 ガリッ、ゴリッ、と骨格が噛み砕かれる音。
 メリッ、ジュル、と新鮮な肉が咀嚼され鮮血がすすられる音。
 それらが入り交じる。

(……お前、生でもいける口なのか?)

 超人熊のその姿を観測していたのだろう、ハクラの声でない言葉がオボロに向けられる。

「好んで食いはしないが、食える時に、食える物を、食えるだけ食っておく。戦いを生業とするんなら、そんな消化器はらをしているべきだろ?」

 口元から真っ赤な液体を滴らせながらオボロは答えた。そして、また食糧にかぶりつく。

(……それは、そうかもしれんが)

 ハクラが観測しているものは、おそらく超人の食事風景……だがそれは食欲をそそるようなものではない。
 オボロの傍らには、巨兎おおうさぎ青毛猪あおげしし一骨角犀ものくろさい等の大型獣が何頭も山積みになっている。おそらくその総重量は数十トンにもおよぶだろう。
 どれもこれもが頭を叩き割られていたり、頚椎を捻り折られていた。
 超怪力を持つオボロに狩られたことが一目で分かるだろう。
 ……その獲物を焼いたり、煮たりせずに、胡座をかく超人熊は生肉なまで食しているのだ。
 噛み砕くたびに鮮血が飛ぶため、オボロの顔面と体は真っ赤にドロドロに汚れている。
 しかもかれこれ、もう数時間も食い続けているのだ。
 そんな食事風景である、とてもじゃないが食欲が誘われるわけがない。
 肉食系の毛玉人は生肉を食しても問題ないが、好む者は少なく、ましてやオボロのように大量に摂取する者はまずいない。

(……確かに俺やニオンもサバイバルの一端として、色々と悪食はしていたが、さすがに生ではなぁ)

 ニオンはゴブリンを黒焼きにしたり、そして自分はとある好奇心で初代魔王を補食した記憶がある。

(生食を見ていると……あの忌まわしい戦国の世を思い出す)

 そんな言葉など気にした風もなく、超人は大量の蛋白質を口に運び、体内に納めていく。
 まるで狩られた大型獣達が超生命体と同化していくようだ。

「やっぱり戦闘のあとは、たまらなく腹が減るぜぇ」

 赤黒いツヤツヤした生の肝臓をムシャムシャと噛みちぎりながら、オボロは獲物の山とは反対の方へと手を伸ばす。
 そこにはバケツ……いやオボロがデカイがためにその様に見えるだけであって、実際は異星人達が手配してくれた飲料水で満たされたドラム缶。
 それが数十缶も並んでおり、オボロその中の一つ(重量二〇〇キロ以上)を手にするとガボガボと一気に数百リットルの水を飲み干した。

(……あれだけの流血と負傷をしたのだから、当然だろう)

 オボロの異常的な食欲旺盛に、引きながらハクラは説明を繋げる。

(致命傷はないが、かなりの攻撃を受けて多大な損傷を負ったことには変わりない。傷を回復させるためにも、お前の肉体が大量の蛋白質や水分や滋養を求めているんだ)
「そうなのか。ならしっかり食って寝て、ケガを治さねぇとな」

 そうオボロは応じると、真っ赤な心臓を丸飲みにし、今度は大きな骨を掴んだ。
 そして、それをバキバキと雑巾を絞るように捻り折った。

「骨髄は造血器官、ここが栄養満点でめぇんだよなぁ。それを理解してる動物ってえのは、しぶとく生き延びれるもんだ」

 割れた骨を口に運ぶなり、大きな角砂糖を砕くような音がなった。
 対核装甲も食い破る牙と顎なのだ、今さら大型獣の骨など焼き菓子とかわらない。
 ……しかしいくらケガの回復とは言え、これほどの食糧が必要だろうか?

(超回復するために異常なまでに養分の補給が必要なのだろうが……)

 そう、違うのだ。
 オボロの肉体は、ただただ傷を回復しようとしてるわけではない。
 より強くなるために超回復に至ろうとしているのだ。
 鍛えて十分な栄養と休養を与えることで人は身体能力を向上させるもの。
 しかしオボロのそれは、超人ゆえにか規模が違いすぎるものなのだ。
 その繰り返しで骨格筋が増大していき、今の巨体になったわけだが……。

(……肉体の主成分が置き変わっていく)

 だがはたして、今回はただの超回復でおさまるのだろうか?




 太陽が天辺に到達し、早小半時約三十分
 午後になっても異星人達は調査に専念し、クサマは修理を継続中。
 そんな中、やることもなく飽きてきたのかナルミは周囲をトボトボと歩いていた。

「あーあ、暇だな」

 そう一人で呟いていると。

「ぐがあぁぁぁぁぁ!!」

 突如、やかましい音が響き渡った。
 音がした方に視線を向けると、なんとオボロが熟睡していた。
 獲物も飲料水も全て平らげたのだろう、大地には血黙りと無数のドラム缶が転がってるだけであった。

「うわぁ、内臓も骨も食べちゃったんだ」

 それにしても不思議である、あれほどの量がオボロの腹の中に全て収まったのだから。
 まるで冬眠前の野生動物のようである。
 そんな隊長の様子を伺おうと、ナルミは眠る超人にちかよった。
 ……と、いきなり眠るオボロから土を引っ掻くような音が鳴り出した。

「んっ? なに」

 思わずナルミは立ち止まる。
 そしてオボロの身に異変が起きてるのを感じた。

「……大きくなってく」

 ズリズリと土が削れる音。
 それはオボロが肥大して、大地を擦っている音であった。

(骨格筋が増幅してきている、食った蛋白質や水分が筋肉や血液に転化してきているんだ)

 不意にハクラの言葉が伝わってきた。

「じゃあ隊長は、また大きくなって強くなるの? それは良いことだけど、これ以上大きくなったら私生活が……」
(いやっ! 超回復それどころじゃない)

 ナルミの言葉を遮り、ハクラは驚愕したように言葉を続けた。

(肉体が根本的な領域から再構成されいく)
「……どう言うことなの?」
(オボロの体組織が作り変えられていく、と言うことだ。確かに体積や質量の増幅も並行しているが、これはもはや突然変異、いやっ世代を股がない進化とも言える)
「ん~、やっぱりよくわかんないよ」

 ハクラの説明が難解なのか、ナルミは頭をかいた。

(オボロに姿形と言った外面的な変化はあまりおきないが、内面的な部分が全く別の存在に至ろうとしている。つまりだな見た目は変わらんが、生命体として全く別の存在になると言うわけだ)  
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