上 下
269 / 357
超魔の目覚め

破滅再来

しおりを挟む
 きらめく星空の下、限り無く続くような広野。
 そんな真ん中で、四メートル半を軽々越える大男……いや超人が座っていた。
 その超人の前で焚かれた炎から煙がモクモクと昇る。
 ……一応焚き火ではあるのだが、その超人のサイズに身合ったものになっており、普通の人から見れば井桁を組んだキャンプファイア規模であろう。
 ここはサハク王国とメルガロスの国境線を少しばかりすぎた位置である。
 一回の跳躍で五キロ近く移動できるオボロの脚力なら、すでにメルガロスの王都に到着していても良いはずだが……。

「どおれ、そろそろ焼けたか」

 巨大な焚き火で炙られているのは、枝に刺された大きな肉塊。香辛料をまぶして焼き上げたもの。

「任務も大事だが、腹が減っちゃあ良い仕事はできねぇからな」

 そう言って、脂が滴る香ばしい肉の塊にかぶりつく。

「うむ、こいつは旨い!」

 現在、敵もいないし、緊急事態でもないのだ。ならば、そのあいだに食えるだけ食っておくのは間違いではないだろう。
 けして、現状の楽観や気を緩めてすぎて呑気なことをしているわけではないのだから。
 次なる戦闘に備えて力を蓄える、言うなれば食事とて立派な仕事の一つなのだ。
 今晩の夕食は、道中で仕止めた獣の肉である。
 体長五メートル、体重三トンの大物。
 扁平に潰れたような鼻と鋭い牙と真っ黒な体毛が特徴なクロベモスと言う獣である。
 食用としてエネルギーも蛋白質も豊富な肉が手にはいるが、気性が荒く家畜には到底向かない。
 そのため魔物でこそないのだが魔術無しでの狩猟は大変危なく、危険生物の一つに数えられる。
 ……だが、それは普通の人から言えばの話。
 オボロは、この凶暴な獣を素手で仕止めた。
 巨木のごとき獣の頚椎を、その超怪力で捻り折って。
 それで大量の肉が手にはいった、と言うわけである。

「旨い! それにしても身体中がむず痒いぜ」

 右手で肉を持ちながらガツガツと頬張り、左手で背中をボリボリとかきむしる。
 ゲン・ドラゴンを出発する前から全身に痒みを感じていたが、何かの影響で皮膚が刺激されているのだろうか?
 と、思いつつオボロは次々と炙り肉を口に運ぶのであった。

「まったく腹拵えの最中だってぇのに、痒くて飯に集中できねぇじゃねぇか」

 ……もうすでに数十人前の肉をたいらげているが、オボロの食欲がおさまる様子は見られない。
 超人なだけに、それだけのエネルギーが必要なのだろう。
 ましてや、ゴドルザーとの戦闘でそれ相応の消費があったのだから。

「……んっ?」

 ふと何かを感じたのか、オボロは肉を咀嚼しながら夜空を見上げた。
 目に映るは輝く月と、煌めく星久と言う絶景。
 すると偶然か、天文現象が起きたのだ。
 夜間の天空に閃光が現れ、それが地平線へと消えていったのである。
 ……流星ながれぼし
 まさに大自然がおこす美しき現象。
 それを見ていたオボロは少しばかり動きを止める。

「この感覚……まさか! くそ、いそがねぇと」

 だがしかしオボロはその流星が消え去るのを見て濁った声を発して立ち上がり、炙っていた肉全てを流し込むように胃におさめた。
 常人には備わっていない、超人の感覚が理解したのだろう、先程の流星は讚美されるような現象ではないことに。
 オボロからは、あの流星は美しき天文現象ではなく、破壊と殺戮の凶星まがつぼしに映ったに違いない。
 ……奴等は謎が多く、どのような行動をするのか、いつ現れるのか、予測が困難。
 ましてや、これほどまた早く現れようとは。
 不意を突くように現れては、大破壊と殺戮を巻き起こす怪物ども。
 そして、この事態を察知したのはオボロだけではなかった。




 はるか上空、月光に照らされし合金の空飛ぶ船舶が一つ。
 その艦内では警報音がけたたましく鳴り響いていた。
 
「どうした!」

 叫ぶようなくぐもった声を発しながらブリッジに駆け込んできたのはガスマスクで顔を覆った男。
 活動停止したゴドルザーの空輸を終えて、まだ数時間しか経過していないにも関わらず、またも緊急事態の発生であった。

「司令官! 観測衛星が何かを捉えたようです。何かもの凄い高エネルギーを持った存在が本星に侵入したもよう」

 ブリッジにやって来たハクラの叫びに返答したのは、爬虫類のごとき姿をした女性管制官であった。
 レプガンド、と言う異星人である。

「魔獣、または超獣ではないかと。ただ今、衛星が捉えた映像を出します」

 そう言って管制官はなれた手つきでコンソールを操作し、メインモニターに衛星が捉えし存在を映し出した。

「……なんだ、こいつは?」

 映し出された、その姿にハクラは驚きの声をあげる。
 生物、とは言いがたい見た目であった。
 黒みがかかった銀色の鎧を纏った巨人と比喩すべきか、あるいは人型の機動兵器と言えばよいだろうか。
 その形は、まさに人のような形をした戦闘ロボットを思わせるような無機質なものである。
 それが高速で本星に突入していく。
 肩部と下腿部と腰背部の装甲は巨大で凄まじく重厚な容姿をしおり、背部と足底部には推進器官が備わっているのかエネルギー噴射とおぼしき青白い閃光が見てとれる。
 頭部には金色に輝く複眼のごとき目が左右に四つずつ。
 こんな姿でも生物、なのだから宇宙生物であることには間違いなかろう。

「ガンダロスやマグネゴドムに近い性質の個体なのか? いずれに……」
「こ、こいつは……まさか」

 すると、いきなりハクラの声を遮るように呻くような言葉がブリッジに響いた。
 それを言ったのは、この艦の操舵士である女性。
 無論、彼女も異星人で肌も頭髪も白く、目は白黒が反転し、頭から触角のようなものが生えている。
 蛾のような特徴を持った種族である。
 そして彼女は、怒り、恐怖、不安、それらをぶつけるかのように表情をひきつらせ映像を睨み付ける。

「……ヴァナルガン……私達の文明を滅ぼした超獣」




 そこは喫茶店であった。
 煉瓦造りのその店はそれほど広くはないが、その分ゆったりと茶と会話が楽しめそうである。
 だがしかし夜のためか人はいない。と言うよりも巨大な怪物が現れたばかりなのだから、住民達は安堵して茶など飲める心境ではなかろう。
 そんな中で唯一の客は四人である。

「これは、素晴らしいですな」

 と店内に甲高い声が響く。
 そう言ったのは頭足類のごとき異星人である。
 彼のかけるテーブルには茶と焼き菓子、そしてゼリーとケーキが並んでいる。

「食べる、味わう、これは素晴らしいものです。たしかに必要以上の栄養素を摂取してしまいますが、これほどの幸福感が得られるのですから」

 チャベックは触手を器用に操り、ファークでケーキを少し切り取り口に運ぶ。
 そして静かにお茶を啜るのであった。

「それでチャベックさん、どうしていきなり医療技術の提供を」

 そう言ったのは異星人の向かい側に座る、白獅子の王子を優しく抱く少女のように愛らしい褐色肌の男性であった。
 彼の傍らにはレッサーパンダの元魔導士少女も腰かけている。
 チャベックと出合ったのは診療所であるが、そんな場所での立ち話は医師や看護婦達の邪魔になるため都内の喫茶店にやって来たのだ。

「もちろんのこと人々を助けるためですよ、アサム様。しかし一番の理由はオボロ様に恩を返したくです」

 茶を味わうと、チャベックはゆっくりとした様子で言った。

「今後、わたくしはこの領地で生活するつもりです。もうすでに領主様には話を通してあります、医療技術の提供を条件に住民になることを、あっさりと承諾してくれました。もちろんのこと領主様には、わたくしが異星人であることを伝えてあります」
「……い、いつの間に」
「ま、まあエリンダ様のことですから、好奇心でチャベックさんを迎え入れた、と言う考えもあるでしょうね」

 どこからともなくチャベックは羊皮紙を取り出すと、それをミアナとアサムに見せるのであった。
 そしてチャベックはミアナに顔を向ける。

「ミアナ様、わたくし達の医療を用いればあなた様の右腕を元に戻すことも容易いことです」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

❤️レムールアーナ人の遺産❤️

apusuking
SF
 アランは、神代記の伝説〈宇宙が誕生してから40億年後に始めての知性体が誕生し、更に20億年の時を経てから知性体は宇宙に進出を始める。  神々の申し子で有るレムルアーナ人は、数億年を掛けて宇宙の至る所にレムルアーナ人の文明を築き上げて宇宙は人々で溢れ平和で共存共栄で発展を続ける。  時を経てレムルアーナ文明は予知せぬ謎の種族の襲来を受け、宇宙を二分する戦いとなる。戦争終焉頃にはレムルアーナ人は誕生星系を除いて衰退し滅亡するが、レムルアーナ人は後世の為に科学的資産と数々の奇跡的な遺産を残した。  レムールアーナ人に代わり3大種族が台頭して、やがてレムルアーナ人は伝説となり宇宙に蔓延する。  宇宙の彼方の隠蔽された星系に、レムルアーナ文明の輝かしい遺産が眠る。其の遺産を手にした者は宇宙を征するで有ろ。但し、辿り付くには3つの鍵と7つの試練を乗り越えねばならない。  3つの鍵は心の中に眠り、開けるには心の目を開いて真実を見よ。心の鍵は3つ有り、3つの鍵を開けて真実の鍵が開く〉を知り、其の神代記時代のレムールアーナ人が残した遺産を残した場所が暗示されていると悟るが、闇の勢力の陰謀に巻き込まれゴーストリアンが破壊さ

美少女アンドロイドが空から落ちてきたので家族になりました。

きのせ
SF
通学の途中で、空から落ちて来た美少女。彼女は、宇宙人に作られたアンドロイドだった。そんな彼女と一つ屋根の下で暮らすことになったから、さあ大変。様々な事件に巻き込まれていく事に。最悪のアンドロイド・バトルが開幕する

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

未来からの鏡 ~5年先の未来が見えたのよ、鏡に映っているカレンダーは2029年だったのよ~

konoha
SF
学校の帰り、穂乃花 光(ほのか ひかる)と友人の屈子(くつこ)は鏡を拾う。 古ぼけた鏡だったが、それは不思議な鏡だった。 普通の鏡だと思っていたけど、月明かりの夜、鏡を覗いたら、 5年先の未来が見えた。 何故5年先ってわかったって? それは部屋のカレンダーを見たから。鏡に映っているカレンダーは2029年だったのよ。

幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ

黒陽 光
SF
 その日、1973年のある日。空から降りてきたのは神の祝福などではなく、終わりのない戦いをもたらす招かれざる来訪者だった。  現れた地球外の不明生命体、"幻魔"と名付けられた異形の怪異たちは地球上の六ヶ所へ巣を落着させ、幻基巣と呼ばれるそこから無尽蔵に湧き出て地球人類に対しての侵略行動を開始した。コミュニケーションを取ることすら叶わぬ異形を相手に、人類は嘗てない絶滅戦争へと否応なく突入していくこととなる。  そんな中、人類は全高8mの人型機動兵器、T.A.M.S(タムス)の開発に成功。遂に人類は幻魔と対等に渡り合えるようにはなったものの、しかし戦いは膠着状態に陥り。四十年あまりの長きに渡り続く戦いは、しかし未だにその終わりが見えないでいた。  ――――これは、絶望に抗う少年少女たちの物語。多くの犠牲を払い、それでも生きて。いなくなってしまった愛しい者たちの遺した想いを道標とし、抗い続ける少年少女たちの物語だ。 表紙は頂き物です、ありがとうございます。 ※カクヨムさんでも重複掲載始めました。

処理中です...