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超魔の目覚め
食い尽くされる国
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その大きな都市には、阿鼻叫喚と鼓膜を激しく刺激する高音が響き渡っていた。
……空襲。
まさに、それだろう。都市の上空を埋め尽くすかのごとく、無数の気味の悪い何かが飛び回り人々を襲っているのだから。
空を縦横無尽に飛行するそれは、頭部にギョロリとした眼球が一つ、全身はヌメリのありそうな白っぽい皮膚に覆われ、金属を引っ掻きまわすような咆哮を轟かせ、その全長は十八メートルにもなろう。
「うあぁぁ! ……なんで蛮竜がこんな大陸の中央部に?」
悲鳴をあげながら逃げ惑う男は恐怖で顔をひきつらせた。
空のどこを見ても、写るのは獰猛かつ飢えた醜い竜。
そいつらが建物を破壊しながら、必死の形相で逃げ回る住民達を貪り食っている。
あちこちから絶叫が響き、鮮血が撒き散らされ、骨を噛み砕く不気味な音が鳴る。
なんで、こんなことになったのか?
分かるわけがない。
あまりにも突然だったのだ、なんの前触れもなく蛮竜が飛来してきて、この都市で腹ごしらえを始めたのは。
蛮竜はあらゆる生き物を食らう貪欲な生物。
何の力も持たない非力な人間など、奴等にとっては格好の御馳走この上ないだろう。
「くそぉ! ……来やがれ、人食いの化け物!」
そんな血の滴る補食地獄の中、一人の兵士が槍を手にして果敢にも雄叫びをあげる。
もちろんのこと、この都市と住民を守ろうとしている兵は彼だけではない。
……が、相手は空を飛び回る人食い竜なのだ。
剣、槍、矢、そんな装備が通用するはずもなく、苦戦はおろか住民同様に兵達も次々と餌食にされている始末。
そんな状況で威勢良く叫んだためだろうか、飛翔する一匹の蛮竜がその単眼で若き兵士をとらえた。
「うあぁぁぁ! ……熱い、熱いぃぃぃ!!」
勇敢な叫びが悲鳴に変貌する。
上空から赤黒い体液を吐きかけられたのだ。
とたんに果敢な若き兵士の全身から煙が上がり始め、装備していた物や服が腐食して崩れおちる。
そして身に付けていた物だけでなく若者の肉体をも焼いていく。
皮膚や脂肪組織が糸をひくように溶けていき、真っ赤な筋肉組織があらわになり、人体模型の出来損ないのような姿へと変わり果てる。
それを待っていたとの如く、蛮竜のぬらついた触手のような舌が伸びてきて、人体模型と化した兵士を絡めとると上空へと拐っていった。
そして大きな氷砂糖でも砕くような、骨を噛み砕く咀嚼音が不気味に木霊する。
蛮竜も分かっているのだろう、人肉は旨いが、身に付けている物は不味いと。
だから一度、獲物の表面を溶解させてから食らう。
餌にありつく、とは言い難い程におぞましい補食の光景だ。
「……うっ」
「……ひぃいい」
そんな中で小さな悲鳴をあげたのは、若き兵士が食われた現場近くの瓦礫の陰に身を隠す二人の少女であった。
彼女達が恐怖で振るえるのは仕方ないことだろう。
兵が食われる瞬間を間近で見てしまった、だけでなく風向きの影響で生きたまま人が溶かされる臭気を吸ってしまったのだから。
「……うぐっ」
鋼の剣を携えた少女は、あまりの不快さに吐き気を覚え口を押さえる。
拡散した人体の溶ける異臭は、鼻が曲がりそうなもの。
肉が焼ける臭いと薬剤臭が混じり合い一体となった、例えようのない強烈な刺激臭であった。
「お願い、しっかりして」
そんな口を押さえる少女を励ますように、その背を優しく撫でたのは弓を手にして矢筒を背負った少女である。
剣を手にする少女よりかは気が座っているのだろうが、そんな彼女も顔は蒼白に染まり、華奢な体を震わせている。
「……なんとしても、王都から脱出するのよ。必ず姫様を無事に避難させないと」
そう囁いて弓矢を持つ少女は、瓦礫から少しだけ顔を出し、目立たぬように周囲や上空に目を向ける。
脱出と言っても、下手に動けば蛮竜に見つかる。
しかし、ここでじっとしていても間違いなく蛮竜の餌になるのは確実。
現状安全な場所などあるわけもなく、蛮竜の目に触れず、うまく掻い潜りながら移動していくしか助かる道はないだろう。
「……」
そして隙を見た弓矢を持つ少女は、自分達がいる瓦礫から数メートル程後方に転がっている瓦礫に目を向け、誰かを呼ぶように目立たぬように小さく手を振る。
「……はぁはぁ」
「ひぃうっ……」
すると手を振った先の瓦礫の陰から姿を現したのは、息を荒げるメイド服の少女と、そんな彼女に手を引かれながら脅えた声を溢す小さな女の子であった。
二人は物音をたてぬように小走りで移動し、武具を持った少女達と合流する。
幸い、と言っていいものか。空中を舞う蛮竜どもは、逃げる住民達に夢中で四人の少女達には気付いた様子はなかった。
……だがしかし、脱出までの道のりは程遠い。
もしこの状況を生き残るとしたら、冷静な判断力、慎重な行動、そして残るは運であろう。
もし四人欠けることなく、ともなれば奇跡が起きるしかないだろう。
それに事が全て上手くいき四人が脱出できたとしても、もうこの国の崩壊は止められまい。
……これはバイナル王国が陥落して数日後に起きた蛮竜による災害。
また一つ国が終わりを迎えたのだ。
百以上の蛮竜に覆われた都。絶叫をあげて逃げ惑う住民。
そんな場所から更に上空、闇夜に溶け込むような黒い姿が羽ばたいていた。
……その姿は蛮竜。
だが、その体色は夜の如く黒い。
「同胞達ヨ、スベテヲ食イ尽クセ! 人類全テヲ我々の糧ニスルノダ!」
……それは紛れもなく人語であった。
だがしかし上空に人などいない。
なら、この声はいったいなんなのか?
そして謎の言葉のあとに、キーンと鋭い高周波のような音が鳴り響くのであった。
× × ×
真上に到達した太陽の光は何とも暑いものだ。
仕事を使用ものなら汗水流すのは必然、しかしながら業務を疎かにしてはならない。
特に人命に関わることならなおさらの事、ましてや世界の命運に関わる任務を生業としている石カブトはすぐさま行動を起こさなくてはならない。
「そんじゃ、行ってくるぜ。エリンダ様と難民達の面倒は任せたぞアサム」
出発前の準備運動を終えてオボロは、見送りとして佇んでいた少女のような青年に目を向けた。
夜中、ゴドルザーとの戦闘で重傷を負っていたはずだが超人の肉体からは傷跡が綺麗に消えていた。
「分かりました。オボロさんも、気を付けてくださいね」
優しげに言うアサムの腕には白獅子の王子が抱かれており、上機嫌らしく笑みを見せていた。
それを見て、オボロも僅かながら口角をあげる。
「まあ、お前のことだ、ニオンもいるし問題ないだろう」
今日はメルガロスに戻らなければならない日。
隊長の留守ともなれば、ゲン・ドラゴンでの任務や業務などの管理は副長であるニオンと最年長であるアサムが中心となる。
とは言え心配の必要はない。ニオンもアサムも、何事もそつなくこなしてくれるのだから。
ならば、これ以上言うことはない。
……唯一、気になることと言えば。
「ミアナ、別にあれこれと細かく言うつもりはない。だがな無謀な考えはするなよ。しっかりと、自分で見極めて行動するんだ」
そう言って、アサムの隣に立つもう一人の見送り人に顔を向ける。
「……うん。オボロ、何かとゴメンね、迷惑ばかりかけて」
下を向きながら頷くレッサーパンダの少女の言葉は震えていた。
それだけ聞くとオボロは振り返り、三人に巨大な背を見せる。
そして、さっそく出発しようと思った時だった。
――ギュウゥゥゥグルルルル!
オボロの腹から響き渡るような音が鳴る。
「……腹へったなぁ。しょうがねぇ、途中でなんか狩るか」
一人ごとのように呟くと、今度こそオボロは出発するのであった。
しかし、その移動の仕方は歩くでもなく走るでもなかった。
跳躍での移動。
助走もつけない超人の脚力から生まれたジャンプ力はオボロの巨体を高度約一二〇〇メートルまで上昇させ、そして地平線へと姿を消すのであった。
……空襲。
まさに、それだろう。都市の上空を埋め尽くすかのごとく、無数の気味の悪い何かが飛び回り人々を襲っているのだから。
空を縦横無尽に飛行するそれは、頭部にギョロリとした眼球が一つ、全身はヌメリのありそうな白っぽい皮膚に覆われ、金属を引っ掻きまわすような咆哮を轟かせ、その全長は十八メートルにもなろう。
「うあぁぁ! ……なんで蛮竜がこんな大陸の中央部に?」
悲鳴をあげながら逃げ惑う男は恐怖で顔をひきつらせた。
空のどこを見ても、写るのは獰猛かつ飢えた醜い竜。
そいつらが建物を破壊しながら、必死の形相で逃げ回る住民達を貪り食っている。
あちこちから絶叫が響き、鮮血が撒き散らされ、骨を噛み砕く不気味な音が鳴る。
なんで、こんなことになったのか?
分かるわけがない。
あまりにも突然だったのだ、なんの前触れもなく蛮竜が飛来してきて、この都市で腹ごしらえを始めたのは。
蛮竜はあらゆる生き物を食らう貪欲な生物。
何の力も持たない非力な人間など、奴等にとっては格好の御馳走この上ないだろう。
「くそぉ! ……来やがれ、人食いの化け物!」
そんな血の滴る補食地獄の中、一人の兵士が槍を手にして果敢にも雄叫びをあげる。
もちろんのこと、この都市と住民を守ろうとしている兵は彼だけではない。
……が、相手は空を飛び回る人食い竜なのだ。
剣、槍、矢、そんな装備が通用するはずもなく、苦戦はおろか住民同様に兵達も次々と餌食にされている始末。
そんな状況で威勢良く叫んだためだろうか、飛翔する一匹の蛮竜がその単眼で若き兵士をとらえた。
「うあぁぁぁ! ……熱い、熱いぃぃぃ!!」
勇敢な叫びが悲鳴に変貌する。
上空から赤黒い体液を吐きかけられたのだ。
とたんに果敢な若き兵士の全身から煙が上がり始め、装備していた物や服が腐食して崩れおちる。
そして身に付けていた物だけでなく若者の肉体をも焼いていく。
皮膚や脂肪組織が糸をひくように溶けていき、真っ赤な筋肉組織があらわになり、人体模型の出来損ないのような姿へと変わり果てる。
それを待っていたとの如く、蛮竜のぬらついた触手のような舌が伸びてきて、人体模型と化した兵士を絡めとると上空へと拐っていった。
そして大きな氷砂糖でも砕くような、骨を噛み砕く咀嚼音が不気味に木霊する。
蛮竜も分かっているのだろう、人肉は旨いが、身に付けている物は不味いと。
だから一度、獲物の表面を溶解させてから食らう。
餌にありつく、とは言い難い程におぞましい補食の光景だ。
「……うっ」
「……ひぃいい」
そんな中で小さな悲鳴をあげたのは、若き兵士が食われた現場近くの瓦礫の陰に身を隠す二人の少女であった。
彼女達が恐怖で振るえるのは仕方ないことだろう。
兵が食われる瞬間を間近で見てしまった、だけでなく風向きの影響で生きたまま人が溶かされる臭気を吸ってしまったのだから。
「……うぐっ」
鋼の剣を携えた少女は、あまりの不快さに吐き気を覚え口を押さえる。
拡散した人体の溶ける異臭は、鼻が曲がりそうなもの。
肉が焼ける臭いと薬剤臭が混じり合い一体となった、例えようのない強烈な刺激臭であった。
「お願い、しっかりして」
そんな口を押さえる少女を励ますように、その背を優しく撫でたのは弓を手にして矢筒を背負った少女である。
剣を手にする少女よりかは気が座っているのだろうが、そんな彼女も顔は蒼白に染まり、華奢な体を震わせている。
「……なんとしても、王都から脱出するのよ。必ず姫様を無事に避難させないと」
そう囁いて弓矢を持つ少女は、瓦礫から少しだけ顔を出し、目立たぬように周囲や上空に目を向ける。
脱出と言っても、下手に動けば蛮竜に見つかる。
しかし、ここでじっとしていても間違いなく蛮竜の餌になるのは確実。
現状安全な場所などあるわけもなく、蛮竜の目に触れず、うまく掻い潜りながら移動していくしか助かる道はないだろう。
「……」
そして隙を見た弓矢を持つ少女は、自分達がいる瓦礫から数メートル程後方に転がっている瓦礫に目を向け、誰かを呼ぶように目立たぬように小さく手を振る。
「……はぁはぁ」
「ひぃうっ……」
すると手を振った先の瓦礫の陰から姿を現したのは、息を荒げるメイド服の少女と、そんな彼女に手を引かれながら脅えた声を溢す小さな女の子であった。
二人は物音をたてぬように小走りで移動し、武具を持った少女達と合流する。
幸い、と言っていいものか。空中を舞う蛮竜どもは、逃げる住民達に夢中で四人の少女達には気付いた様子はなかった。
……だがしかし、脱出までの道のりは程遠い。
もしこの状況を生き残るとしたら、冷静な判断力、慎重な行動、そして残るは運であろう。
もし四人欠けることなく、ともなれば奇跡が起きるしかないだろう。
それに事が全て上手くいき四人が脱出できたとしても、もうこの国の崩壊は止められまい。
……これはバイナル王国が陥落して数日後に起きた蛮竜による災害。
また一つ国が終わりを迎えたのだ。
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……その姿は蛮竜。
だが、その体色は夜の如く黒い。
「同胞達ヨ、スベテヲ食イ尽クセ! 人類全テヲ我々の糧ニスルノダ!」
……それは紛れもなく人語であった。
だがしかし上空に人などいない。
なら、この声はいったいなんなのか?
そして謎の言葉のあとに、キーンと鋭い高周波のような音が鳴り響くのであった。
× × ×
真上に到達した太陽の光は何とも暑いものだ。
仕事を使用ものなら汗水流すのは必然、しかしながら業務を疎かにしてはならない。
特に人命に関わることならなおさらの事、ましてや世界の命運に関わる任務を生業としている石カブトはすぐさま行動を起こさなくてはならない。
「そんじゃ、行ってくるぜ。エリンダ様と難民達の面倒は任せたぞアサム」
出発前の準備運動を終えてオボロは、見送りとして佇んでいた少女のような青年に目を向けた。
夜中、ゴドルザーとの戦闘で重傷を負っていたはずだが超人の肉体からは傷跡が綺麗に消えていた。
「分かりました。オボロさんも、気を付けてくださいね」
優しげに言うアサムの腕には白獅子の王子が抱かれており、上機嫌らしく笑みを見せていた。
それを見て、オボロも僅かながら口角をあげる。
「まあ、お前のことだ、ニオンもいるし問題ないだろう」
今日はメルガロスに戻らなければならない日。
隊長の留守ともなれば、ゲン・ドラゴンでの任務や業務などの管理は副長であるニオンと最年長であるアサムが中心となる。
とは言え心配の必要はない。ニオンもアサムも、何事もそつなくこなしてくれるのだから。
ならば、これ以上言うことはない。
……唯一、気になることと言えば。
「ミアナ、別にあれこれと細かく言うつもりはない。だがな無謀な考えはするなよ。しっかりと、自分で見極めて行動するんだ」
そう言って、アサムの隣に立つもう一人の見送り人に顔を向ける。
「……うん。オボロ、何かとゴメンね、迷惑ばかりかけて」
下を向きながら頷くレッサーパンダの少女の言葉は震えていた。
それだけ聞くとオボロは振り返り、三人に巨大な背を見せる。
そして、さっそく出発しようと思った時だった。
――ギュウゥゥゥグルルルル!
オボロの腹から響き渡るような音が鳴る。
「……腹へったなぁ。しょうがねぇ、途中でなんか狩るか」
一人ごとのように呟くと、今度こそオボロは出発するのであった。
しかし、その移動の仕方は歩くでもなく走るでもなかった。
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