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潜みし脅威
怪獣は経緯を語る
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壮絶な殺し合いで荒ぶっていた精神はおさまり、今は眼前の仕事に集中するのみ。
内容は副長との帰還と超重量物の運搬、とても単純で簡単なことだ。
激戦の現場である領地の境目から数キロ程離れただろうか、今だに夜は明けないため帰路は暗い。
しかし月の輝きで視界は充分。
……とは言え超感覚を持つ俺なら目を閉じていても問題なく都市に帰れるが。
本来なら美しい深夜なのだが、いや景色はとても良い。
視界に写るのは、月光に照らされる草原。
天には星が輝く。
夜風も心地よい。
――ズゴゴゴ! メリメリ!
だがしかし、聞こえるは重々しい轟音。
それによって風がそよぐ音も、あおられて草木が揺れる音も打ち消されている。
その原因は俺が引っ張っているもの。先程まで戦っていた化物の尾をつかんで引きずっている。
そんな頭がなくなった超獣の体が地面を削っている響きなのだ。
……本当は、あんまり大地を荒らしたくはないのだが状況が状況なだけに今はしかたない。
ディノギレイドは活動を停止しただけで、絶命はしていないのだから。
とっとと持ち帰って、この野郎が活動が停止している間に分析して速やかに処理しなければならない。
ちぎりとった頭部からは生命反応がなくなり徐々に腐敗するように崩れてきているが、胴体の方には微弱ではあるが今だに生命反応がある。
おそらく頭部が再生されれば、またこいつは暴れだすだろう。
「重くはないかね? ムラト殿」
すると唐突に、俺の頭頂部に佇むニオン副長が尋ねてきた。
「ええ、問題ありません。止まることなく、ゲン・ドラゴンまで運べますよ」
超獣の質量は俺の半分程。
そいつを引っ張って領地の末端から帰還するのだから重労働としか言いようがないだろう。
しかしそれは人間の話であって、怪獣の体力と筋力なら問題のないことなのだ。
「……ところで、ムラト殿」
俺が返答して数秒程間をおいたあと、また副長が口を開いた。
「そろそろ教えてはくれないだろうか、君の事情を。君は別次元、言うなれば異世界から来たのだろう」
……あまり驚きはしなかった。
そもそも、この方は大陸でも最高の頭脳を持っている、そんな人の前で俺の正体を隠し通せるとは思っていなかったからな。
「いつから気づいていたのです?」
「君が石カブトに加わって、少ししてからだ。君の様子や言動で大方察していたからね。現状を混乱させないためにも、今までこのことは黙っていたんだ」
こうなっては何も誤魔化すことはないだろう。
俺が理解していること全てを副長に伝えることにした。
口答ではなく(超獣を引きずる音がやかましいため)精神感応を用いて俺は今までの経緯を副長に伝えた。
本当の俺は人間であったことも。
元の世界を壊滅させた怪獣のことも。
そんなとてつもない生物と原因も分からず、一体化してしまったことも。
そして、どういうわけかこの世界に来てしまったことも。
……ニオン副長は何も言わずに全てを聞いてくれた。
こうやって洗いざらい語ると気が楽になるものだ。
俺の事情を知っているのはマエラさんだけだったからな。それを一番身近な人に伝えることができたのだ。
理解者がいるだけでも今後のことは楽になるだろう。
(なるほど理解した。たしかに、そんなことは誰にも告げられないだろう。理解するにも今の人類では、とてもついていけない内容だからね)
ニオン副長から返ってきた声ではない言葉は冷静であった。
どうやら俺の言ったことを信用してくれたのだろう。
(……さすがに、なぜ俺がこうなったのかは副長も分かりませんよね?)
(すまないが、君の言う通りだ。君がなぜ、その怪獣と呼ばれる超生物と同化したのかも、この世界にやって来たのかも今の私には分からない)
……やはり、いくら天才である副長でもこれに関しては分からないか。
と言うよりも、たぶん誰にも分からないだろう。
唯一分かるとすれば怪獣本人となるが……。
(君は、今はどうしたいと思っているのかね?)
いきなりの問いに俺は何も言えなかった。
副長の言うどうしたいとは、怪獣の能力を用いて何かやりたいことはあるのか、と言うことだろうか?
それに関しては、今だに考え込むことがある。
数えきれぬ生命を奪った怪獣の力を、たかが一人のちんけな人間が安易に使っていいものか。
しかし実際に、この世界で己の意思で怪獣の強大な力を発揮して幾多の命を殺めた。
ゆえに、強大な能力を用いて何かしたいことはあるのか? と言う問いには答え難い。
綺麗事を言えば、世界の崩壊や人々を守るためとなってしまうが……。
(おそらく君……いや、怪獣は次元航行能力を言うなれば異世界へと渡る力を持っているだろう。それを制御できるようになれば、君は元の世界に帰れるかもしれないがね)
たしかに、この異世界に来て間もない時は帰りたいと思っていたが……。
今となっては、なんとも言えない。
元の世界がどうなってるかも分からないし、帰還したところで再び人類との闘いに至る可能性だってある。俺は人間ではなく怪獣となってしまったのだから。
その事を当の人類達に納得させるには、かなり無理があることだろう。
それに危険すぎる魔獣や超獣がのさばっている、この世界を放っておきたくもない。
それだけ、この異世界と人々に情を抱いてしまったのだろう。
……あらゆる心情が交差し、結局のところ明確な答えはだせなかった。
(私個人としての意見は、君にはこのままこの世界にいてほしいと思っているがね)
答えが見出だせず沈黙していた中、副長が願望を口にした。
この世界に止まり続けていてほしい、と言う頼み。
たしかに今のことを考慮すると、怪獣の戦力は重要なものになるだろう。
今の人類では超獣や大型魔獣は対処できないのだから。
(……それは、やはり戦力としてですか?)
(もちろん、それもある。しかし戦友として、私達の側にいてほしいと言う考えもあるがね)
日頃とかわりない落ち着いた様子でニオン副長の言葉が返ってきた。
……戦友か。その言葉は俺にとって拠り所のような感じであった。
「ぐうぬぅ!!」
それは突如であった。
頭に凄まじい激痛が走しる。まるで脳内を爪で引っ掻き回されるような。
「ぐうおぉあぁぁぁぁ!!」
痛みに耐えることは子供の時からなれている。
しかしこれには思わず絶叫を轟かせた。
徐々に意識が遠のき、視界が真っ白に変わっていく。
「ムラト殿! どうしたのかね?」
……これは副長の声。
(しばし眠っていろ、小僧)
今のは誰だ?
× × ×
ムラトがいきなり絶叫を響かせたと思ったら、いきなりに異常な現象がおきた。
それは、まるで周囲全てが硬直しているようであった。
意識はある思考することもできる。しかし体を動かすことができない。
音も聞こえない、視界に写る風景は固定されている。
ニオンは驚愕することしかできなかった。
意識以外の全てが凍り付いたようであった。それは、まるで時間が止まっているとしか言いようがない。
(知的生命体と対話するのは、何万年ぶりか)
そして、そんな時が止まるような現象が起きているなか言葉が響き渡る。
しかし音声会話ではない、脳内に響き渡る精神感応のようなもの。
こんなことができるのは、ムラトぐらいのものだが……。
(今のお前の主観からは、時空が固定されているようにしか見えんだろう)
だが、しかしこの言葉はムラトではない。
棒読み的で無機質さを感じるが、それに加え圧倒的な威圧感と老賢人のような知性を思わせる雰囲気であった。
(……あ、あなたはいったい何者なのです)
異常現象のなかどうにかニオンは感情を落ち着かせ、言葉を発した存在に応じた。
(私は私だ、これといった名はない。しかし私が初めて接触した知的生命体は、私のことを特異生命体三号と呼称した。私が滅ぼした古代文明の者達は、私を大型災害生物と呼んだ。私を殲滅せんと徒党を組んだ銀河同盟軍は、私を戦略超生命体と呼んだ。……そして今まで戦ってきた文明の中でもっとも脆弱であった小僧の種族は、私を怪獣とよんだ)
内容は副長との帰還と超重量物の運搬、とても単純で簡単なことだ。
激戦の現場である領地の境目から数キロ程離れただろうか、今だに夜は明けないため帰路は暗い。
しかし月の輝きで視界は充分。
……とは言え超感覚を持つ俺なら目を閉じていても問題なく都市に帰れるが。
本来なら美しい深夜なのだが、いや景色はとても良い。
視界に写るのは、月光に照らされる草原。
天には星が輝く。
夜風も心地よい。
――ズゴゴゴ! メリメリ!
だがしかし、聞こえるは重々しい轟音。
それによって風がそよぐ音も、あおられて草木が揺れる音も打ち消されている。
その原因は俺が引っ張っているもの。先程まで戦っていた化物の尾をつかんで引きずっている。
そんな頭がなくなった超獣の体が地面を削っている響きなのだ。
……本当は、あんまり大地を荒らしたくはないのだが状況が状況なだけに今はしかたない。
ディノギレイドは活動を停止しただけで、絶命はしていないのだから。
とっとと持ち帰って、この野郎が活動が停止している間に分析して速やかに処理しなければならない。
ちぎりとった頭部からは生命反応がなくなり徐々に腐敗するように崩れてきているが、胴体の方には微弱ではあるが今だに生命反応がある。
おそらく頭部が再生されれば、またこいつは暴れだすだろう。
「重くはないかね? ムラト殿」
すると唐突に、俺の頭頂部に佇むニオン副長が尋ねてきた。
「ええ、問題ありません。止まることなく、ゲン・ドラゴンまで運べますよ」
超獣の質量は俺の半分程。
そいつを引っ張って領地の末端から帰還するのだから重労働としか言いようがないだろう。
しかしそれは人間の話であって、怪獣の体力と筋力なら問題のないことなのだ。
「……ところで、ムラト殿」
俺が返答して数秒程間をおいたあと、また副長が口を開いた。
「そろそろ教えてはくれないだろうか、君の事情を。君は別次元、言うなれば異世界から来たのだろう」
……あまり驚きはしなかった。
そもそも、この方は大陸でも最高の頭脳を持っている、そんな人の前で俺の正体を隠し通せるとは思っていなかったからな。
「いつから気づいていたのです?」
「君が石カブトに加わって、少ししてからだ。君の様子や言動で大方察していたからね。現状を混乱させないためにも、今までこのことは黙っていたんだ」
こうなっては何も誤魔化すことはないだろう。
俺が理解していること全てを副長に伝えることにした。
口答ではなく(超獣を引きずる音がやかましいため)精神感応を用いて俺は今までの経緯を副長に伝えた。
本当の俺は人間であったことも。
元の世界を壊滅させた怪獣のことも。
そんなとてつもない生物と原因も分からず、一体化してしまったことも。
そして、どういうわけかこの世界に来てしまったことも。
……ニオン副長は何も言わずに全てを聞いてくれた。
こうやって洗いざらい語ると気が楽になるものだ。
俺の事情を知っているのはマエラさんだけだったからな。それを一番身近な人に伝えることができたのだ。
理解者がいるだけでも今後のことは楽になるだろう。
(なるほど理解した。たしかに、そんなことは誰にも告げられないだろう。理解するにも今の人類では、とてもついていけない内容だからね)
ニオン副長から返ってきた声ではない言葉は冷静であった。
どうやら俺の言ったことを信用してくれたのだろう。
(……さすがに、なぜ俺がこうなったのかは副長も分かりませんよね?)
(すまないが、君の言う通りだ。君がなぜ、その怪獣と呼ばれる超生物と同化したのかも、この世界にやって来たのかも今の私には分からない)
……やはり、いくら天才である副長でもこれに関しては分からないか。
と言うよりも、たぶん誰にも分からないだろう。
唯一分かるとすれば怪獣本人となるが……。
(君は、今はどうしたいと思っているのかね?)
いきなりの問いに俺は何も言えなかった。
副長の言うどうしたいとは、怪獣の能力を用いて何かやりたいことはあるのか、と言うことだろうか?
それに関しては、今だに考え込むことがある。
数えきれぬ生命を奪った怪獣の力を、たかが一人のちんけな人間が安易に使っていいものか。
しかし実際に、この世界で己の意思で怪獣の強大な力を発揮して幾多の命を殺めた。
ゆえに、強大な能力を用いて何かしたいことはあるのか? と言う問いには答え難い。
綺麗事を言えば、世界の崩壊や人々を守るためとなってしまうが……。
(おそらく君……いや、怪獣は次元航行能力を言うなれば異世界へと渡る力を持っているだろう。それを制御できるようになれば、君は元の世界に帰れるかもしれないがね)
たしかに、この異世界に来て間もない時は帰りたいと思っていたが……。
今となっては、なんとも言えない。
元の世界がどうなってるかも分からないし、帰還したところで再び人類との闘いに至る可能性だってある。俺は人間ではなく怪獣となってしまったのだから。
その事を当の人類達に納得させるには、かなり無理があることだろう。
それに危険すぎる魔獣や超獣がのさばっている、この世界を放っておきたくもない。
それだけ、この異世界と人々に情を抱いてしまったのだろう。
……あらゆる心情が交差し、結局のところ明確な答えはだせなかった。
(私個人としての意見は、君にはこのままこの世界にいてほしいと思っているがね)
答えが見出だせず沈黙していた中、副長が願望を口にした。
この世界に止まり続けていてほしい、と言う頼み。
たしかに今のことを考慮すると、怪獣の戦力は重要なものになるだろう。
今の人類では超獣や大型魔獣は対処できないのだから。
(……それは、やはり戦力としてですか?)
(もちろん、それもある。しかし戦友として、私達の側にいてほしいと言う考えもあるがね)
日頃とかわりない落ち着いた様子でニオン副長の言葉が返ってきた。
……戦友か。その言葉は俺にとって拠り所のような感じであった。
「ぐうぬぅ!!」
それは突如であった。
頭に凄まじい激痛が走しる。まるで脳内を爪で引っ掻き回されるような。
「ぐうおぉあぁぁぁぁ!!」
痛みに耐えることは子供の時からなれている。
しかしこれには思わず絶叫を轟かせた。
徐々に意識が遠のき、視界が真っ白に変わっていく。
「ムラト殿! どうしたのかね?」
……これは副長の声。
(しばし眠っていろ、小僧)
今のは誰だ?
× × ×
ムラトがいきなり絶叫を響かせたと思ったら、いきなりに異常な現象がおきた。
それは、まるで周囲全てが硬直しているようであった。
意識はある思考することもできる。しかし体を動かすことができない。
音も聞こえない、視界に写る風景は固定されている。
ニオンは驚愕することしかできなかった。
意識以外の全てが凍り付いたようであった。それは、まるで時間が止まっているとしか言いようがない。
(知的生命体と対話するのは、何万年ぶりか)
そして、そんな時が止まるような現象が起きているなか言葉が響き渡る。
しかし音声会話ではない、脳内に響き渡る精神感応のようなもの。
こんなことができるのは、ムラトぐらいのものだが……。
(今のお前の主観からは、時空が固定されているようにしか見えんだろう)
だが、しかしこの言葉はムラトではない。
棒読み的で無機質さを感じるが、それに加え圧倒的な威圧感と老賢人のような知性を思わせる雰囲気であった。
(……あ、あなたはいったい何者なのです)
異常現象のなかどうにかニオンは感情を落ち着かせ、言葉を発した存在に応じた。
(私は私だ、これといった名はない。しかし私が初めて接触した知的生命体は、私のことを特異生命体三号と呼称した。私が滅ぼした古代文明の者達は、私を大型災害生物と呼んだ。私を殲滅せんと徒党を組んだ銀河同盟軍は、私を戦略超生命体と呼んだ。……そして今まで戦ってきた文明の中でもっとも脆弱であった小僧の種族は、私を怪獣とよんだ)
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