上 下
242 / 357
潜みし脅威

激突の暴獣

しおりを挟む
 八千トンの巨体が、時速三百キロ以上で駆け抜ける。無茶苦茶としか言いようがないが、実際それが目の前で起きていた。

「ギュアァァ!!」

 咆哮を轟かせながら四足で猛進するゴドルザー。
 仮死状態中に、より戦闘的に強化された肉体は驚愕ものであった。
 その巨体に似つかわしくない移動速度で、叩き飛ばされて数百メートルも離れていたオボロとの距離をたちまちに縮めていく。
 防衛本能かあるいは闘争本能ゆえにか、ゴドルザーはオボロを葬り去るべき外敵と認識したようであった。

「……ちきしょう」

 一瞬だけ後ろを振り向くとオボロは苦し気に呟く。彼の後方には都市がある。
 角で殴打されたオボロは、ゲン・ドラゴンが位置する方角へと吹っ飛ばされていたのだ。
 せっかく力任せにゴドルザーを都市から引き離したのだが、また振り出しに戻されてしまったのだ。
 しかし悲観してる場合ではない。
 このまま都市に突っ込まれれば、どれ程の犠牲と被害がでようか。
 八千トンの塊が時速三百キロで突進してくるのだ、ひとたまりもない。

「へっ! 対象をオレに変えたか」

 だがしかし今や暴獣の攻撃目標はオボロと思われる。それなら都合が良いとも言えだろう。
 意識が都市ではなく自分に向いているなら、戦いやすくもなるものだ。

「来いやあぁぁ!」

 そして応戦するべくオボロも駆け出した。
 今の彼は丸腰。自慰の途中だったため服すら着てないのだ。
 しかしオボロに武器や装備は不要。超人の肉体があるゆえに。
 それを証明するかのようにオボロの走る速度も悠々に三百キロを越えている。
 互いに高速で接近しているため、たちまちオボロとゴドルザーの距離が縮まる。
 そしてぶつかり合う寸前にオボロは跳躍して魔獣の顔面にへばりついた……と言うよりかは速度が速度だっただけに激突したと言える。

「ぐうおあぁぁぁぁ!!」

 接触した衝撃は強烈であった。常人なら幾度も死にいたる威力であろう。
 全身に凄まじい衝撃が伝わり意識が飛びそうになるが、超人たるオボロはこれを強靭な肉体で耐え抜いた。

「ギュアァァオォォォン!」

 外敵が顔面に取りついてきた事を認知したのか、ゴドルザーは四肢で大地を抉りながら急制動をかけて停止した。
 そして左の目元あたりにへばりつくオボロを振り払おうと、頭を激しく全方向に振り回す。
 それはつまりオボロは高速であらゆる方向に振り回され、とんでもない遠心力を受ける事を意味している。
 両手だけでゴドルザーの顔にしがみつくオボロは呼吸困難と上半身から血液がなくなるような感覚に襲われていた。

「ぬおぉぉ!! 離さねぇぜ!」

 その凄まじい加速度の中、オボロは力強く魔獣の目元の肉を掴み振り飛ばされまいとこらえた。
 両手に力を込めたことで、強固な爪がゴドルザーの肉を突き破り超怪力による握力によって太い指がズブズブと食い込んでゆく。破れた表皮からは赤黒い体液が滲みでていた。

「ギュアァァ!」

 ゴドルザーの悲鳴のような鳴き声が響き渡る。
 目元辺りの肉が破れて、苦痛を感じているのだろう。
 ゴドルザーは我慢ならなくなったようで右前足で顔を擦るようにして、へばりつくオボロを叩き落とした。
 強靭な握力で掴まれていた魔獣の皮膚の一部がちぎり取れ、オボロは高速で大地に激突する。

「ぐうお! ちっ、あぶねぇ!」

 地面にめり込んだオボロは苦痛に耐えると、すかさず起き上がり一度舌打ちをして掴んでいた魔獣の皮膚を投げ捨てる。
 痛みで怯んでいる暇はないのだ。すぐに戦闘体勢を整えないと、次の攻撃を食らうはめになる。
 なぜなら、もうすでにゴドルザーは攻撃をしかけようとしていたからだ。

「ギュアァァ!」

 虫ケラのごとき外敵を潰そうと魔獣は左前足を高々と掲げ、もの凄いスピードで振り下ろした。
 オボロは真後ろに跳躍して、そのゴドルザーの叩き潰し攻撃を避ける。
 外れたゴドルザーの前足が地面に激突した。周囲一帯を揺さぶり、爆発したかのごとく土壌を巻き上げ、大地に亀裂を発生させた。
 ただの張り手による一撃だが、並の魔術や既存の武器など比較にもならない破壊力である。

「くそ、やってくれるぜ」

 攻撃を避けるため跳躍したオボロは着陸すると、顔の皮膚が抉れたゴドルザーを見上げた。
 
「デカイうえに動きもえ、厄介極まりねぇぜ!」

 密着すれば振り回され、距離をはなせば素手であるこちらには攻撃手段がなくなる。
 それだけでなく……。
 そう考えているうちに、その一番危険な攻撃が放たれたようとしていた。

「やっべぇ!」

 気づいたオボロは真横に駆け出した。
 ゴドルザーの開かれた口腔から直線の輝きが放たれたのだ。
 あらゆる物質を破壊せんとする分子破砕光線であった。
 走るオボロを追尾するようにゴドルザーは光線を照射して超人の踏みしめた地面を瞬時に昇華させていく。
 オボロが通過した地面は一瞬で気化して爆裂がおき溶けた土壌を巻きちらしてゆく。

「ちくしょう! いつまで吐いていやがる」

 光線から逃げながらオボロは忌々しげに顔を歪ませる。
 先程までこんな長時間の光線照射はしていなかった。せいぜい一~二秒程だったはずなのだが。
 なのに今は六秒以上も照射を続けている。
 そして十秒近くたって、やっと破壊のエネルギーの放射がおさまった。
 十秒がここまで長く感じられたのは人生初めてであろう。

「やはり距離を離すのは危険すぎる。あんな飛び道具があるんじゃあなぁ」

 ゴドルザーの分子破砕光線は照射の前動作などを見極めることで回避できるが、状況が状況なだけにちょっとした判断の誤りなどで回避に失敗する可能性もありえる。
 そうなれば大ダメージは確実。
 より安全性を考慮するなら、やはり振り回されるのは覚悟で奴の巨体に密着するしかないだろう。

「それにしても、あんな長い間光線を発射しやがって。さすがに危なかったぞ」
(おそらく体質強化によって、光線の照射時間が向上したんだろう)

 頭の中にあの男の言葉が飛び込んできた。

(とは言えエネルギーの充填は必要なはずだ、連続での使用はできないだろう。となれば今の内に接近するんだ)
「おう!」

 話を聞いたオボロは再び駆け出す、また厄介な分子破砕光線が発射される前に距離をつめて奴の肉体に取り付かなければ。
 と、いきなりゴドルザーは顔面を地面へと向けた。すると顔を向けた大地から、もの凄い勢いで土煙が巻き上がり、土壌に含まれていたであろう岩などが砕けて砂塵へと変わっていくではないか。

「な、なんだ!」

 オボロは脚を止めることなく、異常な行動を始めたゴドルザーに鋭い視線を送った。

(角から高指向性の振動……まずいぞ、奴は地中に潜り気だ! ゴドルザーの角から高指向の振動波が放射されてる、それで地面を掘削しているんだ)

 ゴドルザーが放射する掘削振動波はかなり強力なのだろう、地質が揺さぶられ瞬く間に大地が掘られていく。
 地面に潜られれば手出しができなくなってしまう。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》

EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。 歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。 そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。 「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。 そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。 制刻を始めとする異質な隊員等。 そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。 元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。 〇案内と注意 1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。 3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。 4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。 5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。

美少女アンドロイドが空から落ちてきたので家族になりました。

きのせ
SF
通学の途中で、空から落ちて来た美少女。彼女は、宇宙人に作られたアンドロイドだった。そんな彼女と一つ屋根の下で暮らすことになったから、さあ大変。様々な事件に巻き込まれていく事に。最悪のアンドロイド・バトルが開幕する

❤️レムールアーナ人の遺産❤️

apusuking
SF
 アランは、神代記の伝説〈宇宙が誕生してから40億年後に始めての知性体が誕生し、更に20億年の時を経てから知性体は宇宙に進出を始める。  神々の申し子で有るレムルアーナ人は、数億年を掛けて宇宙の至る所にレムルアーナ人の文明を築き上げて宇宙は人々で溢れ平和で共存共栄で発展を続ける。  時を経てレムルアーナ文明は予知せぬ謎の種族の襲来を受け、宇宙を二分する戦いとなる。戦争終焉頃にはレムルアーナ人は誕生星系を除いて衰退し滅亡するが、レムルアーナ人は後世の為に科学的資産と数々の奇跡的な遺産を残した。  レムールアーナ人に代わり3大種族が台頭して、やがてレムルアーナ人は伝説となり宇宙に蔓延する。  宇宙の彼方の隠蔽された星系に、レムルアーナ文明の輝かしい遺産が眠る。其の遺産を手にした者は宇宙を征するで有ろ。但し、辿り付くには3つの鍵と7つの試練を乗り越えねばならない。  3つの鍵は心の中に眠り、開けるには心の目を開いて真実を見よ。心の鍵は3つ有り、3つの鍵を開けて真実の鍵が開く〉を知り、其の神代記時代のレムールアーナ人が残した遺産を残した場所が暗示されていると悟るが、闇の勢力の陰謀に巻き込まれゴーストリアンが破壊さ

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ

黒陽 光
SF
 その日、1973年のある日。空から降りてきたのは神の祝福などではなく、終わりのない戦いをもたらす招かれざる来訪者だった。  現れた地球外の不明生命体、"幻魔"と名付けられた異形の怪異たちは地球上の六ヶ所へ巣を落着させ、幻基巣と呼ばれるそこから無尽蔵に湧き出て地球人類に対しての侵略行動を開始した。コミュニケーションを取ることすら叶わぬ異形を相手に、人類は嘗てない絶滅戦争へと否応なく突入していくこととなる。  そんな中、人類は全高8mの人型機動兵器、T.A.M.S(タムス)の開発に成功。遂に人類は幻魔と対等に渡り合えるようにはなったものの、しかし戦いは膠着状態に陥り。四十年あまりの長きに渡り続く戦いは、しかし未だにその終わりが見えないでいた。  ――――これは、絶望に抗う少年少女たちの物語。多くの犠牲を払い、それでも生きて。いなくなってしまった愛しい者たちの遺した想いを道標とし、抗い続ける少年少女たちの物語だ。 表紙は頂き物です、ありがとうございます。 ※カクヨムさんでも重複掲載始めました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...