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潜みし脅威
邪悪な神と慈愛の女神、そして神の大目的
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「まったく、こんな予定でなかったんだがな」
光り輝く球体が、無限に見える闇の中で独り呟いた。
極凶神ギエイの傍らには、立体映像的なものが映し出されている。
その映像の内容は、一体の大怪獣によって殺戮されていく優秀な魔導士達の姿であった。
「本来の目的は、魔王軍と戦わせるつもりだったが……」
本当なら女神が死した領域サンダウロでは、オボロ一人と魔王軍が戦うはずだったのだ。そうなるように様々な事象を少しずつ調整してきたのだが、その結果はあらぬ方向に至った。
石カブトの主戦力と、バイナルとギルゲスの武力衝突ということになってしまったのだ。
その結末は、石カブトによってバイナルとギルゲスが一方的に虐殺されてしまうと言う望まぬものだった。
完全に計画が狂ってしまったのだ。
目的としては、自分が目をつけているオボロと追加能力で強化した魔王軍を戦わせ、オボロに戦闘経験を積ませるせることだったのだ。
言うなれば、自然発生した超人と追加能力者達を戦わせ、超人をさらに成長させると言うものだった。
だが一応のこと、その後にメルガロスで石カブトと魔王軍の戦闘が起きたため、余計な回り道こそあったが最終的には予定どおりにはなったと言えよう。
しかし、計画の遂行に本来必要のない多大な犠牲が出てしまったのは確かである。
全知全能の存在が企てたプランが、何故にこうも首尾よくいかないのか?
その原因は、すでに神本人が理解していた。
「やはり、この世界を制御しきれていないか」
ギエイは苛立たしげに言う。
なぜ、このような完全制御が上手くいかない時空間になってしまったのかはよく分からない。
二柱の神が協力して世界を創造したためか、あるいは多様な存在を無秩序に発生させてしまったためか。
いずれにせよ、この宇宙は創造主の思惑をこえて手がつけられない程の異常世界となっていたのだ。
「……だが、こうなってしまってはこの多くの犠牲も仕方あるまい。悠長に感傷に浸って目的が達成できなければ、それこそ全てが終わりだ」
ギエイは割り切るように、虐殺の光景が流れる映像を消し去った。
すると、突如ギエイの近くの闇の空間に湾曲が起こり始めた。それはつまり、別の次元に存在する神がギエイの保有する次元に入り込もうとしていることを意味していた。
「まったく、客人が多いな」
やって来るのは、あの口うるさいマグナデルンか、あるいは別の神か。
そして次元同士をつなぐ経路から、ギエイと同じエネルギー球体が現れた。
また、怒号でも響くと思われたが……。
「ギエイ様」
聞こえたのは、幼げな少女の声であった。
「……なんだ、命愛の女神リンツェルか」
ギエイはやや面倒臭そうに言うと、リンツェルから距離を少し離した。
この二柱の神を比較すると、魔と愛、偽薬と聖水、邪と白、対極なのかなんなのかよく分からないものと言えるだろう。
無論のことリンツェルも、いくつもの世界を作り出し、それらを管理している女神である。
彼女が管理する世界の多くは、争いが存在しない平穏で優しさに満ちた世界となっている。
このことから、この女神がどのような性質をしているか理解できるだろう。彼女は迷える者達に慈愛と救済を与え、平和と理想に導く聖なる神なのだ。
リンツェルが構築した数々の世界は、ある種の極楽浄土と呼べるものである。
「ギエイ様、天地神マグナデルン様と賢技神ビャクセー様が御立腹ですよ。謝罪をしに参りましょうよ、今ならまだ寛大に許してくれると思いますよ。わたくしが仲介しますから」
「そんなことをしてる暇はない。今は時間が惜しいのだ」
リンツェルの申し出をギエイは興味なさげに断るのであった。
「……ギエイ様、なぜあなたは他の神が管理する世界から無断で転生などをしたのです? 何かしろの理由はあるとは思いますが、お二方が憤慨するのも当然です」
リンツェルの問いを聞いて、ギエイは少し沈黙して彼女に語りかけた。
「……リンツェル、お前はどう考える? 転生や転移と言う別世界に何かを送り込むという体系の主目的とは」
「えっ! あぁ、えーとっ」
いきなりの予想だにしない言葉にリンツェルはオドオドした様子を見せた。
それにしても唐突な内容であった、転生現象が何のためにあるのかなど。
そもそも、そんなことを深く考えてことはないため、リンツェルは返答に困った。
しかし、自分なりの考えはある。
「わたくしは転生現象とは、前世で善行の限りを尽くしても報われなかった人に安住の居場所を与えるための救済だと思っておりますが……」
彼女の言葉を聞いて、ギエイはまた沈黙した。そして、ゆっくりとリンツェルに詰め寄った。
「なるほど、お前らしい考えだ。ちなみに他の神々はこう言っていたぞ、輪廻転生を繰り返すことで人を神の眷族へと導く、世界を救う勇者とする、まあ神々によって目的は違うのだろうな」
「……では、そう言うあなたは? しかも、なぜ他の神が管理してる世界から転生者を」
そうリンツェルが尋ねると、ギエイは躊躇なく答えた。
「俺にとっての転生者とは、情報を多様化するための道具でしかない。言うなれば、情報伝達システムと言える」
「道具って、そんな……懸命に生きようとしている者達に、そのようなことを」
ギエイの言葉を聞いて、リンツェルは嫌悪そうにする。
「転生者は前世の知識を持っている。ゆえに転生先に存在しないような情報をもたらしてくれることがあるのだ。それによって、知識や情報が多様化し生命に進化や進歩がおきる」
つまり世界を生命に例えて説明すると、全く異なる生物の特有の遺伝子情報を取り込むことで急速な進化をさせると言うことである。
そして、またギエイは問いかけた。
「もう一つ聞くぞ、我々神は創造した世界に生きる者達に、固有能力、祝福、加護、呼び名は多数あれど力を付与することができるな。この体系は、何のためにあると思う?」
また、唐突な内容であった。
超常の存在たる神は、作り上げた世界に住まう者達に力を与えることができる。
これとて、神々によって利用目的は違うだろう。
「対抗しえない災いが迫ったときに与える救済措置と、わたくしは考えていますが……」
またリンツェルは、自分なりの答えをだした。
「……はっきりと答えよう、俺にとって転生者や能力付与者とは、究極の生命体を生み出すための前座にしかすぎんのだ」
ギエイは、躊躇うこと言った。
そして千年にも渡る実験、研究、計画を思い返した。
……初めは転生者や追加能力者達が発達していくことで強力な生命体が発生すると思い、魔族と英雄と言う存在を作り上げ争わせ、競わせていた。
しかし、それを千年も継続したが、満足できる結果は一切得られなかった。
そして、最近になって結論がでたのだ。
転生者も能力者も与えられた力に依存しすぎて、発達することが困難であること。
さらに最大の盲点があった。彼等は元々が脆弱すぎたのだ。
追加能力者とは、能力がなければただの凡庸。
転生者とは、生命として一度死んだ存在。弱いから死に、弱いから転生しているのだ。
はたして、そんな者が究極を語れる存在になれるだろうか?
しかし、そんな中でギエイは別の計画を実行していた。
過酷な状況に屈しない生命力と肉体と精神力を持ち、他力を当てにせず戦い勝ち続ける者を見出だし、その存在に外敵として転生者や追加能力者達を仕向けると言うもの。
「つまるところ転生者や追加能力者とは、本物の強大な生物を発達させるための生け贄なんだ」
「……ギエイ様、あなたは……いったい何をしようと?」
ギエイの発言を聞いて、リンツェルは身震いでもしてるかのような言葉を発した。
内容を全て理解することはできなかった。しかし、ギエイは何か想像を絶することを仕出かそうとしていることは分かる。
「リンツェル、こんな異常な俺を唯一本気で思いやってくれる、お前だけには伝えておこう。俺が何を成し遂げようとしているのか」
そして少しの沈黙の後、ギエイの言葉が闇の中に木霊した。
「神々にとっての、最終兵器となる生命体を開発することだ」
光り輝く球体が、無限に見える闇の中で独り呟いた。
極凶神ギエイの傍らには、立体映像的なものが映し出されている。
その映像の内容は、一体の大怪獣によって殺戮されていく優秀な魔導士達の姿であった。
「本来の目的は、魔王軍と戦わせるつもりだったが……」
本当なら女神が死した領域サンダウロでは、オボロ一人と魔王軍が戦うはずだったのだ。そうなるように様々な事象を少しずつ調整してきたのだが、その結果はあらぬ方向に至った。
石カブトの主戦力と、バイナルとギルゲスの武力衝突ということになってしまったのだ。
その結末は、石カブトによってバイナルとギルゲスが一方的に虐殺されてしまうと言う望まぬものだった。
完全に計画が狂ってしまったのだ。
目的としては、自分が目をつけているオボロと追加能力で強化した魔王軍を戦わせ、オボロに戦闘経験を積ませるせることだったのだ。
言うなれば、自然発生した超人と追加能力者達を戦わせ、超人をさらに成長させると言うものだった。
だが一応のこと、その後にメルガロスで石カブトと魔王軍の戦闘が起きたため、余計な回り道こそあったが最終的には予定どおりにはなったと言えよう。
しかし、計画の遂行に本来必要のない多大な犠牲が出てしまったのは確かである。
全知全能の存在が企てたプランが、何故にこうも首尾よくいかないのか?
その原因は、すでに神本人が理解していた。
「やはり、この世界を制御しきれていないか」
ギエイは苛立たしげに言う。
なぜ、このような完全制御が上手くいかない時空間になってしまったのかはよく分からない。
二柱の神が協力して世界を創造したためか、あるいは多様な存在を無秩序に発生させてしまったためか。
いずれにせよ、この宇宙は創造主の思惑をこえて手がつけられない程の異常世界となっていたのだ。
「……だが、こうなってしまってはこの多くの犠牲も仕方あるまい。悠長に感傷に浸って目的が達成できなければ、それこそ全てが終わりだ」
ギエイは割り切るように、虐殺の光景が流れる映像を消し去った。
すると、突如ギエイの近くの闇の空間に湾曲が起こり始めた。それはつまり、別の次元に存在する神がギエイの保有する次元に入り込もうとしていることを意味していた。
「まったく、客人が多いな」
やって来るのは、あの口うるさいマグナデルンか、あるいは別の神か。
そして次元同士をつなぐ経路から、ギエイと同じエネルギー球体が現れた。
また、怒号でも響くと思われたが……。
「ギエイ様」
聞こえたのは、幼げな少女の声であった。
「……なんだ、命愛の女神リンツェルか」
ギエイはやや面倒臭そうに言うと、リンツェルから距離を少し離した。
この二柱の神を比較すると、魔と愛、偽薬と聖水、邪と白、対極なのかなんなのかよく分からないものと言えるだろう。
無論のことリンツェルも、いくつもの世界を作り出し、それらを管理している女神である。
彼女が管理する世界の多くは、争いが存在しない平穏で優しさに満ちた世界となっている。
このことから、この女神がどのような性質をしているか理解できるだろう。彼女は迷える者達に慈愛と救済を与え、平和と理想に導く聖なる神なのだ。
リンツェルが構築した数々の世界は、ある種の極楽浄土と呼べるものである。
「ギエイ様、天地神マグナデルン様と賢技神ビャクセー様が御立腹ですよ。謝罪をしに参りましょうよ、今ならまだ寛大に許してくれると思いますよ。わたくしが仲介しますから」
「そんなことをしてる暇はない。今は時間が惜しいのだ」
リンツェルの申し出をギエイは興味なさげに断るのであった。
「……ギエイ様、なぜあなたは他の神が管理する世界から無断で転生などをしたのです? 何かしろの理由はあるとは思いますが、お二方が憤慨するのも当然です」
リンツェルの問いを聞いて、ギエイは少し沈黙して彼女に語りかけた。
「……リンツェル、お前はどう考える? 転生や転移と言う別世界に何かを送り込むという体系の主目的とは」
「えっ! あぁ、えーとっ」
いきなりの予想だにしない言葉にリンツェルはオドオドした様子を見せた。
それにしても唐突な内容であった、転生現象が何のためにあるのかなど。
そもそも、そんなことを深く考えてことはないため、リンツェルは返答に困った。
しかし、自分なりの考えはある。
「わたくしは転生現象とは、前世で善行の限りを尽くしても報われなかった人に安住の居場所を与えるための救済だと思っておりますが……」
彼女の言葉を聞いて、ギエイはまた沈黙した。そして、ゆっくりとリンツェルに詰め寄った。
「なるほど、お前らしい考えだ。ちなみに他の神々はこう言っていたぞ、輪廻転生を繰り返すことで人を神の眷族へと導く、世界を救う勇者とする、まあ神々によって目的は違うのだろうな」
「……では、そう言うあなたは? しかも、なぜ他の神が管理してる世界から転生者を」
そうリンツェルが尋ねると、ギエイは躊躇なく答えた。
「俺にとっての転生者とは、情報を多様化するための道具でしかない。言うなれば、情報伝達システムと言える」
「道具って、そんな……懸命に生きようとしている者達に、そのようなことを」
ギエイの言葉を聞いて、リンツェルは嫌悪そうにする。
「転生者は前世の知識を持っている。ゆえに転生先に存在しないような情報をもたらしてくれることがあるのだ。それによって、知識や情報が多様化し生命に進化や進歩がおきる」
つまり世界を生命に例えて説明すると、全く異なる生物の特有の遺伝子情報を取り込むことで急速な進化をさせると言うことである。
そして、またギエイは問いかけた。
「もう一つ聞くぞ、我々神は創造した世界に生きる者達に、固有能力、祝福、加護、呼び名は多数あれど力を付与することができるな。この体系は、何のためにあると思う?」
また、唐突な内容であった。
超常の存在たる神は、作り上げた世界に住まう者達に力を与えることができる。
これとて、神々によって利用目的は違うだろう。
「対抗しえない災いが迫ったときに与える救済措置と、わたくしは考えていますが……」
またリンツェルは、自分なりの答えをだした。
「……はっきりと答えよう、俺にとって転生者や能力付与者とは、究極の生命体を生み出すための前座にしかすぎんのだ」
ギエイは、躊躇うこと言った。
そして千年にも渡る実験、研究、計画を思い返した。
……初めは転生者や追加能力者達が発達していくことで強力な生命体が発生すると思い、魔族と英雄と言う存在を作り上げ争わせ、競わせていた。
しかし、それを千年も継続したが、満足できる結果は一切得られなかった。
そして、最近になって結論がでたのだ。
転生者も能力者も与えられた力に依存しすぎて、発達することが困難であること。
さらに最大の盲点があった。彼等は元々が脆弱すぎたのだ。
追加能力者とは、能力がなければただの凡庸。
転生者とは、生命として一度死んだ存在。弱いから死に、弱いから転生しているのだ。
はたして、そんな者が究極を語れる存在になれるだろうか?
しかし、そんな中でギエイは別の計画を実行していた。
過酷な状況に屈しない生命力と肉体と精神力を持ち、他力を当てにせず戦い勝ち続ける者を見出だし、その存在に外敵として転生者や追加能力者達を仕向けると言うもの。
「つまるところ転生者や追加能力者とは、本物の強大な生物を発達させるための生け贄なんだ」
「……ギエイ様、あなたは……いったい何をしようと?」
ギエイの発言を聞いて、リンツェルは身震いでもしてるかのような言葉を発した。
内容を全て理解することはできなかった。しかし、ギエイは何か想像を絶することを仕出かそうとしていることは分かる。
「リンツェル、こんな異常な俺を唯一本気で思いやってくれる、お前だけには伝えておこう。俺が何を成し遂げようとしているのか」
そして少しの沈黙の後、ギエイの言葉が闇の中に木霊した。
「神々にとっての、最終兵器となる生命体を開発することだ」
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