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潜みし脅威

驚愕の生物達

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 スチームジャガー極秘研究室。
 そこは権限を持った一部の者だけしか出入りできない実験棟である。
 主に、世界のパワーバランスを左右しかねない科学技術の研究、ニオンが許可を出した星外コズミック魔獣ビースト由来の技術を利用した実験などが行われている場所である。
 以前には、魔粒子を拡散させる振動周波数に関する研究もしていた。無論のこと、この技術も公表されてはいない。この技術は魔術を無用の産物にしかねないためだ。もし研究情報が外部に流出しようものなら、世界のあり方が根本から覆るだろう。
 そして、その暗い部屋の中でプロジェクターが大型スクリーンに奇妙な物を映しだしていた。
 それは生物の細胞。そして分析した結果が綴られている。

「この細胞は、まるで小さな工場ですね」

 スクリーンに映し出される細胞を見て、ニオンは呟くように言う。
 その内容に、エリンダとマイルは驚愕しかできなかった。ニオンの言うとおり、それはあらゆる物を生成する工場としか言えない機能であった。
 細胞内に取り込んだ分子を分断し、特殊な細胞小器官がそれらの元素を再結合して生体に必要な分子を生成しているのだ。
 言うなれば生体機能で、物質の構成を変えて別の物に作り変えているのである。

「……もともと、彼は普通の竜ではないと見ていたけど、ここまでとは思いもしなかったわ」

 驚きを隠さずにエリンダは、ニオンを見つめた。

「正直、私も驚いています。この力を用いれば、あらゆる物体の量産、新素材の開発が可能になりますからね。この生体機能によりムラト殿は巨大化し、さらに各能力を向上させたのでしょう。……クサマに搭載されている空中元素固定ユニットの開発には大変苦労しましたが、彼はそれを生体レベルで獲得したことになります」

 だが、その話を聞いて一人だけ興奮する女性がいた。研究者ゆえに好奇心がつきないのだろう。
 マイルは興奮を隠しもせず、ニオンに問いかけた。

「それじゃあ、この生体機能を制御できるようになれば、人類はとんでもない進歩を……」
「それは、やめた方がいいでしょう」

 しかし、ニオンは厳しい視線を鼻息を荒くするマイルに送りつけた。
 その凄まじい威圧感にマイルは言葉を失う。

「これは、まだ人類に早すぎるもの。触れてはいけない領域。現状で、これが実用化されれば多くの資源や製品の価値がなくなり、それらに依存する国の経済は破綻にいたる。……それに、こんなものが世に出回ったら何が起こるか予想がつかないわ」

 ニオンの内心を読み取ったのか、そうマエラが言った。
 そして彼女は、背後から姉であるマイルの小さな体に腕を回して抱き上げた。
 マエラよりもマイルは身長がかなり低いため、宙ぶらりんな形になる。その差を悲観したのか、マイル表情をしょんぼりさせた。

「姉さん、人類進歩のためになるとは言え、今の人間が手を触れてはいけない領域もあるの。熱心なのは良いけど、少しは慎まないと」

 マエラは、姉をブラブラと揺らしながら言い聞かせた。
 それが効いたのか、マイルは「……ごめんなさい」と呟く。

「そして、もう一つ見ていただきたいものがあります」

 すると、ニオンはリモコンを操作してスクリーンに別の画像を映し出した。それは極小の構造体であった。

「今度は、なんなのニオンくん?」

 いきなりに怪しげな構造体を見せられてエリンダは尋ねた。

「……この構造体は、隊長殿の体内から発見されたもの」

 ニオンは真剣な表情で言うが、エリンダとマイルは頭を傾げた。……これが、いったい何だと言うのか?
 そして、ニオンは言葉を続けた。

「この構造体は隊長殿の超人的な肉体の原動力となっている物体です。私は隊長殿の人類の範疇を超越した肉体の根元を探り出すため、生物の設計図とも言える遺伝子に着目して調べてみました。そして分かったのですが、隊長殿の遺伝子の一部は星外魔獣のものです」

 あまりの驚愕の発言に、エリンダとマイルは言葉を失った。

「何ですって! じゃあオボロくんは……」

 エリンダは恐る恐る口を開いた。

「大丈夫ですエリンダ様、隊長殿はけして宇宙に潜む怪物の類いなどではありません」
「……あ、ごめんなさい」

 エリンダは表情を暗くさせた。
 一瞬とは言え、オボロは星外魔獣の類縁ではないかと疑ってしまったのだ。
 彼は常に、人々のために命懸けで戦っている。そんな彼が禍々しい存在のはずがない、断じてそんなことはない。エリンダは、心の中で言い聞かせた。

「そもそも突然変異で、あんな超人的な肉体に変貌するなど考え難いことです。星外魔獣の因子が突如発現し、それに適応したことで隊長殿は超人へと変異したのかもしれません」
「でも、どうしてオボロくんが、そんな因子を持っていたの?」
「おそらく、全ての始まりは隊長殿の祖先からだと思います。それに関しては、少し大仙について語る必要があるかもしれません」

 ニオンはリモコンを操作して、スクリーンに古い絵画のようなものを映し出した。
 描かれた場景は、血生臭い戦場であった。
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