大怪獣異世界に現わる ~雇われ労働にテンプレはない~

轆轤百足

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潜みし脅威

神々の掟

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 そこは真っ暗な空間であった。無限に広がっていそうな真空の場。
 しかし、何もないわけではない。
 闇の中に、猛烈に光輝く光球が鎮座するように浮かんでいた。まるで暗闇の中に、一つだけ恒星が存在しているような光景だ。
 ただ、そのエネルギーの塊がどれ程のサイズなのかは分からない。その空間には闇しかないため、何かと比較することができないからだ。
 パーセクよりも大きいのか、あるいはマイクロよりも小さいのか……。
 その恒星は、莫大なエネルギーと情報で構成された超知性体である。
 そして、この闇の空間は通常空間から隔離された、超知性体が保有する個体用の空間であった。




 光球の傍らに、三つの立体的な映像らしきものが写し出されていた。
 一つは、赤い体毛に覆われたドラゴンのごとき怪鳥。
 二つ目は、額に三日月のような角が備わったメタリックブルーの金属で構成された機械式巨人。
 そして三つめは、黒いスライムのような不定形のなにか。

「……資格ありし者達、三つの超将ちょうしょうを討ち取りし時、超越の力宿るか」

 ギエイは、その三つの映像を傍らにしながらブツブツと一人呟いた。
 しかし、その言葉は声のような音波ではなく、通常の感覚では理解できないものである。テレパシーなのか、あるいは神だけが知る情報のやりとりなのか。

「彼女が残した計画を引き継いだはいいが、いったい何がどうなるのやらだ。……ん? 客か」
 
 ギエイは何かに気づいたのか、声ではない言葉を発した。
 すると、自分の付近の闇が歪んでいくことを感じる。そして歪みは、別の次元への通路とも言える超次元経路へと変化した。

「ギエイよ! どういうつもりか!」

 別次元につながる通路から現れたのは怒号を響かせる恒星のような存在であった。無論のこと、その怒りの言葉も声などではない。
 それは、ギエイと同様のエネルギー体であった。

「おやおや、これはこれは、天地神マグナデルン殿。何を、そんなにお怒りか?」

 ギエイは、ヘラヘラとふざけたようにマグナデルンに言葉を返した。
 その不真面目な有り様に、天地神マグナデルンはさらに怒りを増長させる。
 マグナデルンは、ギエイとは違い無数の世界を創造し、それら全てを管理している神であった。

「ギエイよ! 御主おぬし、ワシが創造して管理している世界から勝手に転生を行いおったな! 許可なく他の神が管理する世界に干渉するなど言語道断だぞ」
「あぁ、申し訳ありません。ほんの出来心でしてね」

 叱責されているにも関わらず、ギエイはふざけた姿勢を変えることはなかった。

「なにが出来心だ! 御主はいったい何を考えている。ワシだけでなく、他の神が管理する世界からも許可なく転生を行い、己の世界に取り込んだな。何をするつもりだったのだ」

 神々の間にも、しっかりとした掟がある。
 他の神が管理する世界に勝手な干渉はしないこと、許可なく転生や転移をしないことであった。
 しかし、ギエイはそれを厳守しないどころか、理解しながらも異世界への干渉を繰り返していたために他の神々の怒りに触れたのであろう。

「何って、ちょっとした計画を遂行させるためですよ、マグナデルン殿」
「……計画だと?」
「はい。私が管理する宇宙で現地生物と転生者達を競わせて、種の進化と進歩を促すと言うねぇ。……いや、進化ではなく深化しんかと言うべきか」
「勝手に管理外の世界から生命を掠め取って、なんと言うことを……」
「ふふふっ」

 ところが激昂するマグナデルンを嘲笑うかのようにギエイは蔑むような笑いだした。

「せめて数十万単位の全能や創造を司る神を引き連れてきたら、ちったぁ真面目に説明はなしてやろうと思ったんだがな。実に退屈な、やり取りだぜ」

 ギエイの態度が激変した。
 その、いきなりの変貌ぶりにマグナデルンは唖然とする。しかし、聞き捨てならない内容があった。

「……数十万だと? 何を言っているのだ御主わ。至高の存在たる神々は我々五柱のみ。いやっ、リズエルが消滅した今は四柱のみか。下等な存在であるまいし、そんな数がいてたまるか」
「そう思いたきゃ、それでもかまわん。何も成長も進歩もしていないのだな、あんたは」
「何を言う、万物の頂点たる我々神に成長などと言うものはない。完全な存在なのだぞ」
「完全ねぇ」

 マグナデルンは自分達が全ての頂点と断言するが、ギエイはその内容に冷やかに返答する。
 と、いきなりギエイは恒星のごとき体から光の触手を伸ばし、それをマグナデルンの体に突き刺した。

「ぐぅっ!!」

 マグナデルンは、その痛みで身悶えするように恒星のごとき体をボコボコと変形させる。

「あんた等から掠め取った転生者達の記憶と情報は返還するぜ。そして、俺の世界でどんな経験をしたのかの情報もな」

 ギエイは光の触手を通して、転生者達の記憶や情報をマグナデルンの体に無理矢理に流し込んだ。
 その情報量は膨大だが、神にとってはたかが知れた量である。一瞬にして情報の交換が終わり、ギエイはマグナデルンから触手をぬきとった。
 そして、マグナデルンは注入された情報を全て理解した。
 自分達の世界から転生された者達のほとんどが、ギエイの管理する世界で無惨な死をとげたことを。

「……ギエイ、貴様! 何が計画だ、これではただの殺戮ではないか! こんなことが許されると思っているのか」
「いや、計画だぜ。ただ大失敗に終わっちまったがな。やはり、やりようが間違っていたのかねぇ」
「こんな方法で進化も進歩もあるものか! 我々神が世界を制御し、試練を与え、時には力と知恵を授ける。そうすることで、生命は進化してゆくのだ。そして進化した種は超越者となり、我々神と交流するに足る存在となるのだ」
「どうだろうなぁ、試練を与えるのは間違いでないと思うが、能力を与えるのは間違いかもしれんぞ」
「第一、なぜ我々の世界から転生をしたのだ? 競わせる存在が欲しければ自分で創造すれば良かろう」

 ギエイの計画には理解ができないところがある。
 現地生物を何かと競わせて進歩を促すと言うのなら、その戦わせる存在を自分で創造すればいいだけのこと。
 なのになぜ、他の世界から転生させるなどと言った面倒なことをしたのか?

「ああ、それに関しては多様化をはかるためよ。俺が準備したものだけでなく、他の神が生み出した創造物もぶつけることで急速な進歩が得られるかも知れないと考えたのさ」

 だが、異界からの大量転生はギエイだけの仕業でない。

「それと、とある一人の転生者の娘に俺の権限の一部あたえてな。そしたら、その娘は魔王となって権限を乱用して死んだ奴等を次々と転生させて幸せにするんだとか言って、理想卿作りにはげむようになっちまったんだ。……まあ、一人の娘の幼稚な考えでおきた大量転生騒動だ、許してやってくれ」

 そして、神々の語り合いは終わりにさしかかった。

「すまんがマグナデルン殿よ、そろそろ帰ってもらえないだろうか? 俺は、ちょいと忙しくてな」
「……何を! まだ話は……」

 マグナデルンが叫びそうになった時だった、その巨大なエネルギー体の身が何かに引っ張られ始めたのだ。そして彼の後ろに、いつのまにか超次元経路が開かれていた。
 天地神は抗えぬほどの力で次元経路に引っ張られて行く。

「馬鹿な! 抗えぬ、なんと言う力だ! ギエイよ何をした?」
「強制送還させてもらうぜ、とっとと出ていけと言うことだ」

 至高の神々の間に力の差など存在しないはずなのに、なぜギエイがこれほどの力を?

「さっき言っただろ、あんたらは何も成長してないと。それに気づけなかった愚かしさが、これほどの差をうんだのだ。だが安心しろ、俺は神々はらからを見捨てるようなことはせん。必ず守ってやる。だから、時期が来るまでは俺に干渉するな」

 ギエイがそう告げると、天地神マグナデルンは元の次元へと送り返された。   
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