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潜みし脅威
難攻不落の灼熱大要塞
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グランドドスの背中から投じられし火炎弾は無数に分裂して、ドワーフの集落に火炎の雨を降らせた。集落でいくつもの爆炎があがり、そして黒煙に包まれる。
拡散する攻撃ゆえに、一発あたりの威力はそれほどでもないように思えるだろう。
しかし、一発一発が並の火炎魔術より強力であった。
それらが広範囲に散らばる攻撃なのだから、生身の者にとっては脅威的な一撃であろう。
魔術を封じ込め、神の力を退け、圧倒的な力で全てを蹂躙する巨大な生命体。それが宇宙の怪物なのだ。
この超絶生命体は、それらの能力を生体機能で発現させている。
魔法を使うわけでもなく、物理法則をねじ曲げるわけでもない、ましてや神に頼るわけでもない。
単純に生命体の能力と可能性を発達させた存在なのだ。
それゆえに恐ろしいのだ。超常にあらずにして超常のごとき力を発現させる、まさに正真正銘の怪物である。
「バオォォォォ!!」
グランドドスは咆哮をあげた。自分の放った攻撃がドワーフの集落に着弾したことを喜ぶがごとく。
そして、クサマに殴られて砕けた背中の部位からは流血のごとく溶岩を垂れ流していた。
「そんな! みんなが……」
煙に覆い尽くされる集落を見ながらナルミは叫んだ。
拡散攻撃は面制圧に優れるが、強度の高い物の破壊には向かない。しかし生身の人間にとっては致命的な威力が雨のように降り注ぐものである。
まともに食らえば致命傷は避けられないだろう。
……大丈夫、だろうか。
ナルミは、ただ集落の人達の無事を願うことしかできなかった。
(ナルミ! 前を見ろっ!)
「あっ!」
頭の中に響き渡った声に答えるように、ナルミは振り返った。
前方で鳴動しているグランドドスの背中の火山が再び発光し始めたのだ。
おそらく二発目の集束火炎弾を放つために、エネルギーを充填しているのだろう。
もし、それが放たれれば確実に集落のドワーフ達は全滅する。
そして、一番早くに行動を起こしたのはクサマであった。
「ン゛マッ!」
反応装甲の爆風で転倒していた黒鉄色の巨人は起き上がるなり、グランドドスにタックルを仕掛けた。
ナルミからの命令で動いたのではない、独自の判断で彼は行動したのだ。体は機械だがクサマには人と同じように意思があるからだ。
推定一二〇〇トンの質量から繰り出された攻撃。その威力は火炎弾の照準を狂わせるには十分であった。
「バァオッ?」
グランドドスの体勢が傾くと同時に放たれた集束火炎弾は目的を見失い、集落とはかけ離れた場所に向かい炎の豪雨を降らせた。
無人の一帯で小規模な爆発が幾度もおこり、黒煙を巻き上げる。どうにか集落への二発目の着弾は阻止できた。
しかしグランドドスへの攻撃は自爆を意味している。
クサマのタックルを受けた灼熱の怪物の漆黒の甲殻が再び砕けた。その瞬間、爆音が響き渡り強力な爆風とともに甲殻の破片が飛び散った。
「うっ!」
生み出された爆風と飛び散った破片は、離れていたナルミにも襲いかかった。
「……腕が」
上空に巻き上がった小さな破片が、爆風の影響で身を低くさせていた彼女の左肩に落下して肉を抉ったのだ。
そして間近でその爆風を受けたクサマは、また弾き飛ばされ転倒し大地に倒れこむ。
三十五メートルもの巨体が地に激突したのだ、その震動でナルミはたまらず座り込んだ。
「……痛っ! 直接攻撃したんじゃ反応装甲で弾かれちゃう」
ナルミは血が流れ落ちる左肩の痛みをこらえ、首にさげてある懐中時計型声紋コントローラを右手で握り、起き上がろうとするクサマに指示を伝える。
「クサマ! 射撃攻撃だよ。十指機関砲!」
体をぶつけ合わせる攻撃では反応装甲で弾かれてしまうと考えたナルミは、クサマを射撃に転じさせることにした。
「ン゛マッ!」
ナルミに対してクサマは常に従順。了解と言わんばかりに機械的な声をあげた。
右手指を伸ばし、グランドドスの顔に照準を定める。
クサマの高度な人工知能で照準されれば必中。図太い指の先端から超音速の砲弾が連続発射された。
高い威力を秘めた金属の砲弾が、灼熱の怪物の顔周辺に集中して着弾する。
しかし射出されし数十発もの砲弾は金属音を奏でるだけで、漆黒の甲殻を砕くには至らなかったのだ。
「……固い」
(無駄だ、ナルミ)
ナルミがグランドドスの甲殻の強固さに驚愕するなか、また彼女の頭に男の声が入り込んでくる。
(グランドドスの甲殻は岩石を超高温高圧で練り上げて生成した剛性テクタイトと言われるもの、牽制程度の飛び道具では砕けない程の強度だ。それに背中の火山以外の甲殻は凹凸のない滑らかなものゆえに砲撃が滑っているんだ、現状の射撃武装では駄目だ)
男の淡々とした難しげな解説がナルミの脳内に入り込んでくる。彼は生半可な射撃は通用しないと言いたいのだろう。
それに加え、グランドドスの砕けた部分の甲殻が元通りに復元され始めていた。砕けた部位から流血のようにあふれでていた溶岩が冷えて固まり、新しい甲殻を形成したのだ。
「……どうすればいいの?」
ナルミは肩の痛みに顔を歪めながら問う。
格闘攻撃は反応装甲に弾かれ、射撃は堅牢かつ曲面仕上げの甲殻に無力化される。それに加え、あふれでる溶岩で甲殻は再生されてしまう。
難攻不落の灼熱の要塞を前に、彼女の万策は尽きていた。
あとは名前も顔も知らぬ、ニオンの師範が頼みであった。
(ある程度、奴の分析ができた。……倒す手段はある)
「何をどうすればいいの?」
(奴の核である中枢器官、それを抜き取るんだ)
「中枢器官?」
頭を悩ますナルミに、ニオンの師は答えた。
(分析して分かった、奴の体を構成している甲殻やマグマは鎧のようなものだ。言うなれば、その中に存在している核こそが本体なんだ。ゆえに表面に急所などない……まずいぞ!)
男も一から丁寧に説明したいのだろうが、しかし現状を考えるとそうもしてられない。
グランドドスが地を揺らしながら走り出し始めたのだ。
「バオォォォォ!!」
咆哮しながら駆ける火山のごとき怪物、その目標はクサマであった。
グランドドスは黒鉄色の巨人目掛け突進した。しかも、それはただの突進ではなかった。激闘した衝撃で、また甲殻が砕けて爆風が発生する。
耳をつんざくような大音量が響き渡り、千トンを越えるクサマが数百メートルもの距離を飛び、大地に叩きつけられる。
よほど強力な一撃だったのだろう、クサマの強靭な胴体装甲の一部が砕け周囲に散乱した。
クサマの重量は千トンを越えるが、突進したグランドドスは七万トン以上、それに爆風付きと言うもの。クサマが遠く突き飛ばされるのも当然であった。
「クサマっ!」
思わずナルミは叫び声をあげた。大事な仲間がボロボロになっていくさまを見て、彼女は悲痛な表情を見せる。
しかし、そんな彼女を心配させまいとクサマは力強く立ち上がる。
「ン゛マッ!」
まだ戦えると言わんばかりに、従順な巨人は声を鳴らす。そして身構えた。
「バオォォォォ!!」
構えたクサマを見て、グランドドスもそれに応じるように雄叫びをあげる。
クサマを進行の障害物ではなく外敵と見なしたのだろうか、地面を揺るがしながら灼熱の巨体をクサマの方に向ける。
だが、いずれにせよ集落への進行は一時的には止めることができたようだ。
しかし本番はこれからである。
(ナルミ、細かく説明している時間はない。奴の甲殻に傷つけずにして中枢器官を抜き取るんだ)
「そんな無茶だよ!」
(いいや、可能なはずだ。クサマには分子振動武装が備わっている)
拡散する攻撃ゆえに、一発あたりの威力はそれほどでもないように思えるだろう。
しかし、一発一発が並の火炎魔術より強力であった。
それらが広範囲に散らばる攻撃なのだから、生身の者にとっては脅威的な一撃であろう。
魔術を封じ込め、神の力を退け、圧倒的な力で全てを蹂躙する巨大な生命体。それが宇宙の怪物なのだ。
この超絶生命体は、それらの能力を生体機能で発現させている。
魔法を使うわけでもなく、物理法則をねじ曲げるわけでもない、ましてや神に頼るわけでもない。
単純に生命体の能力と可能性を発達させた存在なのだ。
それゆえに恐ろしいのだ。超常にあらずにして超常のごとき力を発現させる、まさに正真正銘の怪物である。
「バオォォォォ!!」
グランドドスは咆哮をあげた。自分の放った攻撃がドワーフの集落に着弾したことを喜ぶがごとく。
そして、クサマに殴られて砕けた背中の部位からは流血のごとく溶岩を垂れ流していた。
「そんな! みんなが……」
煙に覆い尽くされる集落を見ながらナルミは叫んだ。
拡散攻撃は面制圧に優れるが、強度の高い物の破壊には向かない。しかし生身の人間にとっては致命的な威力が雨のように降り注ぐものである。
まともに食らえば致命傷は避けられないだろう。
……大丈夫、だろうか。
ナルミは、ただ集落の人達の無事を願うことしかできなかった。
(ナルミ! 前を見ろっ!)
「あっ!」
頭の中に響き渡った声に答えるように、ナルミは振り返った。
前方で鳴動しているグランドドスの背中の火山が再び発光し始めたのだ。
おそらく二発目の集束火炎弾を放つために、エネルギーを充填しているのだろう。
もし、それが放たれれば確実に集落のドワーフ達は全滅する。
そして、一番早くに行動を起こしたのはクサマであった。
「ン゛マッ!」
反応装甲の爆風で転倒していた黒鉄色の巨人は起き上がるなり、グランドドスにタックルを仕掛けた。
ナルミからの命令で動いたのではない、独自の判断で彼は行動したのだ。体は機械だがクサマには人と同じように意思があるからだ。
推定一二〇〇トンの質量から繰り出された攻撃。その威力は火炎弾の照準を狂わせるには十分であった。
「バァオッ?」
グランドドスの体勢が傾くと同時に放たれた集束火炎弾は目的を見失い、集落とはかけ離れた場所に向かい炎の豪雨を降らせた。
無人の一帯で小規模な爆発が幾度もおこり、黒煙を巻き上げる。どうにか集落への二発目の着弾は阻止できた。
しかしグランドドスへの攻撃は自爆を意味している。
クサマのタックルを受けた灼熱の怪物の漆黒の甲殻が再び砕けた。その瞬間、爆音が響き渡り強力な爆風とともに甲殻の破片が飛び散った。
「うっ!」
生み出された爆風と飛び散った破片は、離れていたナルミにも襲いかかった。
「……腕が」
上空に巻き上がった小さな破片が、爆風の影響で身を低くさせていた彼女の左肩に落下して肉を抉ったのだ。
そして間近でその爆風を受けたクサマは、また弾き飛ばされ転倒し大地に倒れこむ。
三十五メートルもの巨体が地に激突したのだ、その震動でナルミはたまらず座り込んだ。
「……痛っ! 直接攻撃したんじゃ反応装甲で弾かれちゃう」
ナルミは血が流れ落ちる左肩の痛みをこらえ、首にさげてある懐中時計型声紋コントローラを右手で握り、起き上がろうとするクサマに指示を伝える。
「クサマ! 射撃攻撃だよ。十指機関砲!」
体をぶつけ合わせる攻撃では反応装甲で弾かれてしまうと考えたナルミは、クサマを射撃に転じさせることにした。
「ン゛マッ!」
ナルミに対してクサマは常に従順。了解と言わんばかりに機械的な声をあげた。
右手指を伸ばし、グランドドスの顔に照準を定める。
クサマの高度な人工知能で照準されれば必中。図太い指の先端から超音速の砲弾が連続発射された。
高い威力を秘めた金属の砲弾が、灼熱の怪物の顔周辺に集中して着弾する。
しかし射出されし数十発もの砲弾は金属音を奏でるだけで、漆黒の甲殻を砕くには至らなかったのだ。
「……固い」
(無駄だ、ナルミ)
ナルミがグランドドスの甲殻の強固さに驚愕するなか、また彼女の頭に男の声が入り込んでくる。
(グランドドスの甲殻は岩石を超高温高圧で練り上げて生成した剛性テクタイトと言われるもの、牽制程度の飛び道具では砕けない程の強度だ。それに背中の火山以外の甲殻は凹凸のない滑らかなものゆえに砲撃が滑っているんだ、現状の射撃武装では駄目だ)
男の淡々とした難しげな解説がナルミの脳内に入り込んでくる。彼は生半可な射撃は通用しないと言いたいのだろう。
それに加え、グランドドスの砕けた部分の甲殻が元通りに復元され始めていた。砕けた部位から流血のようにあふれでていた溶岩が冷えて固まり、新しい甲殻を形成したのだ。
「……どうすればいいの?」
ナルミは肩の痛みに顔を歪めながら問う。
格闘攻撃は反応装甲に弾かれ、射撃は堅牢かつ曲面仕上げの甲殻に無力化される。それに加え、あふれでる溶岩で甲殻は再生されてしまう。
難攻不落の灼熱の要塞を前に、彼女の万策は尽きていた。
あとは名前も顔も知らぬ、ニオンの師範が頼みであった。
(ある程度、奴の分析ができた。……倒す手段はある)
「何をどうすればいいの?」
(奴の核である中枢器官、それを抜き取るんだ)
「中枢器官?」
頭を悩ますナルミに、ニオンの師は答えた。
(分析して分かった、奴の体を構成している甲殻やマグマは鎧のようなものだ。言うなれば、その中に存在している核こそが本体なんだ。ゆえに表面に急所などない……まずいぞ!)
男も一から丁寧に説明したいのだろうが、しかし現状を考えるとそうもしてられない。
グランドドスが地を揺らしながら走り出し始めたのだ。
「バオォォォォ!!」
咆哮しながら駆ける火山のごとき怪物、その目標はクサマであった。
グランドドスは黒鉄色の巨人目掛け突進した。しかも、それはただの突進ではなかった。激闘した衝撃で、また甲殻が砕けて爆風が発生する。
耳をつんざくような大音量が響き渡り、千トンを越えるクサマが数百メートルもの距離を飛び、大地に叩きつけられる。
よほど強力な一撃だったのだろう、クサマの強靭な胴体装甲の一部が砕け周囲に散乱した。
クサマの重量は千トンを越えるが、突進したグランドドスは七万トン以上、それに爆風付きと言うもの。クサマが遠く突き飛ばされるのも当然であった。
「クサマっ!」
思わずナルミは叫び声をあげた。大事な仲間がボロボロになっていくさまを見て、彼女は悲痛な表情を見せる。
しかし、そんな彼女を心配させまいとクサマは力強く立ち上がる。
「ン゛マッ!」
まだ戦えると言わんばかりに、従順な巨人は声を鳴らす。そして身構えた。
「バオォォォォ!!」
構えたクサマを見て、グランドドスもそれに応じるように雄叫びをあげる。
クサマを進行の障害物ではなく外敵と見なしたのだろうか、地面を揺るがしながら灼熱の巨体をクサマの方に向ける。
だが、いずれにせよ集落への進行は一時的には止めることができたようだ。
しかし本番はこれからである。
(ナルミ、細かく説明している時間はない。奴の甲殻に傷つけずにして中枢器官を抜き取るんだ)
「そんな無茶だよ!」
(いいや、可能なはずだ。クサマには分子振動武装が備わっている)
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