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最終魔戦
少年剣士の旅立ち
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とある辺境の町。そこに、やや大きめの屋敷があった。しかし貴族や英雄が所有するものよりは小さく、豪華さも控えめであった。
そして、その屋敷の中庭には木材で造られた小屋のようなものがあった。その小屋の中で、一人の銀髪の少年が瞑想にふけっていた。
隅には木剣や木製のアレイなどの鍛練器具が丁寧に並べられている。ここはニオンの鍛練場で、全て彼が自作したものであった。
目を閉じ感覚を研ぎ澄ませ、深く思いを巡らせていたニオンはいきなり目をカッと見開く。そして、力強く立ち上がった。
彼は決心したのであった。家を長期間離れ、修業に出掛けることを。
そうと決まれば仕度は早い。ニオンは荷物をまとめた背負い袋を担ぎ、腰に拵えたばかりの木剣を携えた。旅立ちの準備は万全であった。
そして、ニオンは鍛練場の扉に手をかける。
「に、ニオン様」
小屋の扉を開けた瞬間、声が聞こえた。扉の前に初老の女性が佇んでいたのだ。
「……ジェニファーさん」
ニオンがそう呼ぶ、その女性は彼の乳母である。
育児放棄された彼を五年間、愛情をもって育ててきた女性であった。
ニオンは父親からは見限られていたが、屋敷の使用人からはとても好かれていた。
「ニオン様、やはりいかれるのですか?」
彼女はニオンの日常をよく理解していた。
剣術を磨くためにニオンが極めて危険な鍛練を続けていることも。そして今度は長期間の修業に出掛けることも。
「ジェニファーさん、どうか止めないでほしい。これはけして誰のためでもない、自分のためにいくんだ」
「……に、ニオン様、分かっております。あなた様を止めることはできないでしょう。……しかし、これだけはお伝えします、どうかご無事で」
「大丈夫だよ、私は必ず帰ってくる。私は戦い以外で死ぬ気はない」
「……きっと、あなた様はお強くなられます。そう信じております」
「ありがとう」
悲しげな顔をするジェニファーに、ニオンは頭を下げると力強く踏み出し、彼女の横を通り抜けた。
「あなた様は、強く、優しい、お方。止めません、あなた様を愛しているからこそ、止めません」
ジェニファーは五歳の子供とは思えぬ気迫に満ちた後ろ姿を見て、そう呟くのであった。
そして門の前でニオンは、屋敷とそこに勤めるメイド達に頭を下げた。
「……ニオン様、どうかお気を付けて!」
「絶対に帰ってきてください!」
彼が門に背を向けた時、メイド達が駆け出しニオンを取り囲んだ。彼女達もニオンのことが心配でしょうがないのだろう。
もちろんのこと彼女達も、ニオンは強くなるために毎日危険なことをしていることは理解している。
実際、血塗れ姿でゴブリンの生首を片手に帰宅したこともあった。ボロボロになりながらも、仕果たした証明として。
ニオンの日々は、殺し合いと変わりがないものなのだ。
だからこそ、いずれ彼がいなくなってしまうのではないかと、メイド達は不安なのだ。
「命を粗末にするようなことはしないさ。母上から頂いた、この身。……でも、危険であろうと、向かって勝たなければならない。剣術とは、そう言うものだと思う。相手が天才であれ、多勢であれ、挑み勝利しなければならない。そんな不条理に勝ってこそ、一流なのかもしれない」
力強くそう言うとニオンは、メイド達一人一人の顔を見つめた。そして、優しげな表情で言った。
「みんな、私がいない間、母上のことをよろしく頼む」
ニオンは母親が眠っている部屋の窓に視線を向ける。
弟を産んだばかりで、体が弱りきっているのだ。無理がたたり今は昏睡状態にある。
本当はあまり留守にはしたくない、近くで母の看病をしていたい。しかし、今はいかなければならない。
自分のために強くなるとは言ったが、本当は母親を心配させないため、不安にさせないために強くなろうとしているのだ。
そして今度こそニオンは旅路についた。
ニオンは一人、草原を歩いていた。
道は整備されていない、ゆえに歩くだけでも足腰の鍛練になるのだ。
そして行き先は、いつも鍛練のために出向く森のなか。そこで、あの男と落ち合う約束をしているのだ。その男に稽古をつけてもらうために。
なぜニオンが、あんな怪しい男に稽古をつけてもらおうと思ったのか。
それは出会ってすぐに見抜いていたからであった。あの奇妙な面を被った男は相当な剣の使い手であることを。明らかに並の剣士とは比較にならない、肉体と気迫をまとっていた。
それに、あの男はこの国の者ではない。なら英力などと言う、紛い物の力は保有してない。
となれば純粋に剣術を磨いた存在であることが分かる。
だからこそ、あの男の元で鍛え上げることを決心したのだ。
「ほぉ、これわ、これわ」
「坊や、危ないだろう、子供が一人でこんなところを出歩いちゃあ」
それは突然だった。ニオンの進路を遮るように、二人の男が現れたのだ。
見るからに素行が悪そうな男二人。社会的にも論理的にも、好ましくなさそうな輩であった。
「私に何かご用でしょうか? なければ、通らせていただきます」
そう言って、ニオンは男達の間を通り抜けようとした。
「まあ、待ちなよ。そう、急ぐこともないだろう」
左に佇む男がニオンの肩を掴み、彼を制止させた。
そして、右側の男は品定めするかのようにニオンの顔を見つめる。
「へへっ、綺麗な顔立ちをしてるな。こりゃあ、そっちの連中に高値で売れるんじゃあねぇか」
その言葉を聞いて、ニオンの表情が険しくさせる。
「なるほど、人身売買目的の誘拐ですね」
英雄の国と言われど、このような輩はいるものだ。
どんなに治安がよくても、このような闇の住民達は必ずいる。人を拐い、奴隷や性的搾取の物品として売り捌く輩が。
そして、その品を買うのは貴族や上流階級の者達。英雄の国と言いながら、その内情はけして白くはない。
「へぇ、ガキのくせにそんなことを知ってるとはな。なら話が早い、分かるな、痛い思いはしたくないだろう」
肩を掴んでいた男が、そう言った時だった。
――ビキッ
何かが千切れるような音がした。
「いぎゃあぁぁぁ!!」
絶叫を響かせたのは、ニオンの肩を掴んでいた男であった。彼の肩を掴んでいた手の指が折られていたのだ。
ニオンは男の指に自分の指を絡めて、へし折ったのだ。指はあらゆる武具を扱う上で重要な器官、ここを破壊すれば相手の戦力を大きく削ぐことができる。
相手の戦力を削ぐのは戦いにおいて鉄則であることをニオンは理解しているのだ。
「ふんっ!」
そして間いれずニオンは腰の木剣を手にすると、神速の一閃をはなった。
自分の顔を品定めした男の頭部に強烈な一撃を叩きこむ。
男の頭蓋が砕け、脳漿をぶちまけて事切れた。
「ひいっ! ……た、助けて」
指を砕かれた男は仲間の脳が飛び出る瞬間をまともに見てしまった。それゆえ恐怖で腰が抜け、這いつくばるように逃げようとする。
しかしニオンは逃亡を許さなかった。
「助けて? 今まで誘拐して売買されていった女性や子供達も、そう言っていませんでしたか。自分だけ助かれば、それでいいんですか?」
ニオンは怒りの形相で這いつくばる男に近寄ると、腎臓にズンっと木剣の先端を力をこめて突き立てた。
「ぐうっ!!」
腎臓に強烈な打撃をもらった男は、激痛のあまり悲鳴もあげられなかった。
そしてニオンは、ビクビクと痙攣する男の頭部目掛け木剣を降り下ろした。
相方同様に脳漿を撒き散らし、男は動かなくなった。
そして、その屋敷の中庭には木材で造られた小屋のようなものがあった。その小屋の中で、一人の銀髪の少年が瞑想にふけっていた。
隅には木剣や木製のアレイなどの鍛練器具が丁寧に並べられている。ここはニオンの鍛練場で、全て彼が自作したものであった。
目を閉じ感覚を研ぎ澄ませ、深く思いを巡らせていたニオンはいきなり目をカッと見開く。そして、力強く立ち上がった。
彼は決心したのであった。家を長期間離れ、修業に出掛けることを。
そうと決まれば仕度は早い。ニオンは荷物をまとめた背負い袋を担ぎ、腰に拵えたばかりの木剣を携えた。旅立ちの準備は万全であった。
そして、ニオンは鍛練場の扉に手をかける。
「に、ニオン様」
小屋の扉を開けた瞬間、声が聞こえた。扉の前に初老の女性が佇んでいたのだ。
「……ジェニファーさん」
ニオンがそう呼ぶ、その女性は彼の乳母である。
育児放棄された彼を五年間、愛情をもって育ててきた女性であった。
ニオンは父親からは見限られていたが、屋敷の使用人からはとても好かれていた。
「ニオン様、やはりいかれるのですか?」
彼女はニオンの日常をよく理解していた。
剣術を磨くためにニオンが極めて危険な鍛練を続けていることも。そして今度は長期間の修業に出掛けることも。
「ジェニファーさん、どうか止めないでほしい。これはけして誰のためでもない、自分のためにいくんだ」
「……に、ニオン様、分かっております。あなた様を止めることはできないでしょう。……しかし、これだけはお伝えします、どうかご無事で」
「大丈夫だよ、私は必ず帰ってくる。私は戦い以外で死ぬ気はない」
「……きっと、あなた様はお強くなられます。そう信じております」
「ありがとう」
悲しげな顔をするジェニファーに、ニオンは頭を下げると力強く踏み出し、彼女の横を通り抜けた。
「あなた様は、強く、優しい、お方。止めません、あなた様を愛しているからこそ、止めません」
ジェニファーは五歳の子供とは思えぬ気迫に満ちた後ろ姿を見て、そう呟くのであった。
そして門の前でニオンは、屋敷とそこに勤めるメイド達に頭を下げた。
「……ニオン様、どうかお気を付けて!」
「絶対に帰ってきてください!」
彼が門に背を向けた時、メイド達が駆け出しニオンを取り囲んだ。彼女達もニオンのことが心配でしょうがないのだろう。
もちろんのこと彼女達も、ニオンは強くなるために毎日危険なことをしていることは理解している。
実際、血塗れ姿でゴブリンの生首を片手に帰宅したこともあった。ボロボロになりながらも、仕果たした証明として。
ニオンの日々は、殺し合いと変わりがないものなのだ。
だからこそ、いずれ彼がいなくなってしまうのではないかと、メイド達は不安なのだ。
「命を粗末にするようなことはしないさ。母上から頂いた、この身。……でも、危険であろうと、向かって勝たなければならない。剣術とは、そう言うものだと思う。相手が天才であれ、多勢であれ、挑み勝利しなければならない。そんな不条理に勝ってこそ、一流なのかもしれない」
力強くそう言うとニオンは、メイド達一人一人の顔を見つめた。そして、優しげな表情で言った。
「みんな、私がいない間、母上のことをよろしく頼む」
ニオンは母親が眠っている部屋の窓に視線を向ける。
弟を産んだばかりで、体が弱りきっているのだ。無理がたたり今は昏睡状態にある。
本当はあまり留守にはしたくない、近くで母の看病をしていたい。しかし、今はいかなければならない。
自分のために強くなるとは言ったが、本当は母親を心配させないため、不安にさせないために強くなろうとしているのだ。
そして今度こそニオンは旅路についた。
ニオンは一人、草原を歩いていた。
道は整備されていない、ゆえに歩くだけでも足腰の鍛練になるのだ。
そして行き先は、いつも鍛練のために出向く森のなか。そこで、あの男と落ち合う約束をしているのだ。その男に稽古をつけてもらうために。
なぜニオンが、あんな怪しい男に稽古をつけてもらおうと思ったのか。
それは出会ってすぐに見抜いていたからであった。あの奇妙な面を被った男は相当な剣の使い手であることを。明らかに並の剣士とは比較にならない、肉体と気迫をまとっていた。
それに、あの男はこの国の者ではない。なら英力などと言う、紛い物の力は保有してない。
となれば純粋に剣術を磨いた存在であることが分かる。
だからこそ、あの男の元で鍛え上げることを決心したのだ。
「ほぉ、これわ、これわ」
「坊や、危ないだろう、子供が一人でこんなところを出歩いちゃあ」
それは突然だった。ニオンの進路を遮るように、二人の男が現れたのだ。
見るからに素行が悪そうな男二人。社会的にも論理的にも、好ましくなさそうな輩であった。
「私に何かご用でしょうか? なければ、通らせていただきます」
そう言って、ニオンは男達の間を通り抜けようとした。
「まあ、待ちなよ。そう、急ぐこともないだろう」
左に佇む男がニオンの肩を掴み、彼を制止させた。
そして、右側の男は品定めするかのようにニオンの顔を見つめる。
「へへっ、綺麗な顔立ちをしてるな。こりゃあ、そっちの連中に高値で売れるんじゃあねぇか」
その言葉を聞いて、ニオンの表情が険しくさせる。
「なるほど、人身売買目的の誘拐ですね」
英雄の国と言われど、このような輩はいるものだ。
どんなに治安がよくても、このような闇の住民達は必ずいる。人を拐い、奴隷や性的搾取の物品として売り捌く輩が。
そして、その品を買うのは貴族や上流階級の者達。英雄の国と言いながら、その内情はけして白くはない。
「へぇ、ガキのくせにそんなことを知ってるとはな。なら話が早い、分かるな、痛い思いはしたくないだろう」
肩を掴んでいた男が、そう言った時だった。
――ビキッ
何かが千切れるような音がした。
「いぎゃあぁぁぁ!!」
絶叫を響かせたのは、ニオンの肩を掴んでいた男であった。彼の肩を掴んでいた手の指が折られていたのだ。
ニオンは男の指に自分の指を絡めて、へし折ったのだ。指はあらゆる武具を扱う上で重要な器官、ここを破壊すれば相手の戦力を大きく削ぐことができる。
相手の戦力を削ぐのは戦いにおいて鉄則であることをニオンは理解しているのだ。
「ふんっ!」
そして間いれずニオンは腰の木剣を手にすると、神速の一閃をはなった。
自分の顔を品定めした男の頭部に強烈な一撃を叩きこむ。
男の頭蓋が砕け、脳漿をぶちまけて事切れた。
「ひいっ! ……た、助けて」
指を砕かれた男は仲間の脳が飛び出る瞬間をまともに見てしまった。それゆえ恐怖で腰が抜け、這いつくばるように逃げようとする。
しかしニオンは逃亡を許さなかった。
「助けて? 今まで誘拐して売買されていった女性や子供達も、そう言っていませんでしたか。自分だけ助かれば、それでいいんですか?」
ニオンは怒りの形相で這いつくばる男に近寄ると、腎臓にズンっと木剣の先端を力をこめて突き立てた。
「ぐうっ!!」
腎臓に強烈な打撃をもらった男は、激痛のあまり悲鳴もあげられなかった。
そしてニオンは、ビクビクと痙攣する男の頭部目掛け木剣を降り下ろした。
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