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最終魔戦
都内の二人
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門の通路を通り抜けたオボロ達の視界に飛び込んできたのは、廃墟と言えるものだった。
「魔族どもに同情する気はねぇが、こりゃひでぇな」
ほとんどの建物が倒壊していた。無論、オボロ達の仕業ではない。
魔王の都にいた魔族達を殲滅するさい、破壊的な方法は用いていないのだから。
「星外魔獣ガンダロスによる破壊の跡ですね」
周囲を見渡しながらニオンはオボロの横に立つ。いつもどおり穏やかで冷静な物言いで。そもそも最初から、都がこうなっているのは理解していた。
宇宙生物は魔物とは比較にならない程に危険。一体が数時間暴れただけで、巨大都市を壊滅させることができるのだ。
「まったく、とことん危ねぇ化け物だな」
歩きながら破壊の跡を確認するオボロ。
もし、クサマがいなかったらメルガロスの王都も同じ運命をたどっていただろう。
そしてニオンは無言で、ゆっくりと上空を見上げた。その遥か先にいるであろう、存在を感じるかのように。
「何っ! 取り逃がした魔王が殺されていただと?」
「はい、死体を確認したときは私も驚きました」
廃墟と化した魔王の都を歩きながら驚きの声をあげたのはオボロ、そして冷静に返答したのはニオンであった。
城で魔王の逃走を許してしまったあと、ニオンはすぐに捜索を開始した。そして魔王を発見するのは容易いことだった。
「クサマに組み込まれている検知機を用いれば、見つけ出すなど簡単なことです。無論、反応があった地点に至急向かいました。ですが……」
「魔王は殺されていたか」
「はい」
ニオンはゆっくりと頷く。
そして一番の問題は、一体誰が魔王が殺したのかだった。だが、ニオンはおおよその見当をつけていた。
「おそらく魔王を仕留めたのは、私の師です」
魔王を倒したと言うことは、魔王以上の戦闘力を持つことを意味している。
そして現場にあった魔王の死体は、幾つもの輪切りにされていると言う悲惨なもの。その切断面には狂いがなく、みごとな剣筋であった。
さらには魔王ごと斬り裂かれたであろう岩。それも滑らかに寸断されていたのだ。
それ程のことをやってのけるとなると、相当な技量と極めて鋭利な刀剣が必要なはず。
それ程の剣術と刃を持つ者と言ったら限られる。と言うよりも一人しか思いつかなかったのだ。
「あれほどの技量を持つとなると師しかいません。おそらく、魔王の動きを把握していたのでしょう」
確信をもって言うニオン。そして過去のことを思い返した。それは忘れ去れない記憶。それは過酷な鍛練の日々であった。
師が与える試練は、いつも地獄そのもの。幾度も死にかけた。
魔術も何もない、信用できるのは自分の肉体と剣術と剣だけ。だが、その苛烈な状況をどうにか生き延びてきた。
そして、それを十年以上続けた結果生まれたのが単身で英雄達を蹂躙する最凶の剣士であった。
そんなニオンをオボロは見下ろした。
「都に入る前に言っていた話したいこととは、その事か。お前を鍛えあげた男か……オレも直に会ってみてぇ」
ニオンを鍛えあげた男、その存在にオボロも興味がつきなかった。
オボロにも忘れられないとある戦いの記憶がある。
それはニオンとの決闘。今まで、あれほどの厳しい戦いを知らなかったのだ。
ニオンと比較したら、幾千幾万の兵士を相手にしたほうが楽であった。
何とか勝てたがオボロもかなりの傷を負った。彼の巨体に刻みつけられた無数の傷跡、それを負わせたのはニオンなのだ。
それほどにニオンは強かったのだ。
「いずれ接触できるとは思います」
師と接触したいと言ったオボロに、ニオンはそう言うのであった。
「ああ、そうだな。……いずれオレ達と一緒に戦うか」
オボロは旧友の墓標にいったときに、師と交わした言葉を思い出した。「いずれ、お前達と一緒に戦うことになるだろう」と言う言葉を……。
無論のこと、その時に話した内容は全てニオンに伝えてある。
「遅かれ早かれ、とてつもない戦いが始まることを予見しているのかもしれません……いったい、何がおきようとしているのか」
穏やかに言うが、ニオンの表情は真剣そのものであった。
「……まあ、今は考えても仕方ない。とっとと、ここを調べて、解体しちまおうぜ。魔族が保有してる科学の力が出回ると厄介なんだろ?」
考え込むニオンに、オボロはそう告げた。
「……そうですね。今は、目の前のことに集中しましょう。ここにあるものを外部に出すわけにはいきませんから」
魔王の都に誰も入れなかったのは、このためであった。
この世は魔術に依存しすぎているため、一部を除いては科学と言うものがほとんど発展していない。
ゆえに現状の人類にとって、今ここにあるであろう科学は手に余りすぎるものなのだ。
もしそんな情勢でここにある情報が流出しようものなら、世界規模でなにがおきるか分からないのだ。
環境破壊、戦争の激化、変異性魔物の大量発生の可能性もある。そして最悪の場合は星外魔獣の大量飛来と言うシナリオもある。
そのためにも、この都を速やかに調査して解体する必要があるのだ。
さらにしばらく歩くと、たどり着いたのは広場であった。
そして、そこには布で包まれた何かが並べてあった。それも数え切れない程に。
「こりゃあ、神経ガスで死んだ奴等じゃねぇな」
「はい、ガンダロスに殺された魔族でしょう」
布に包まれているものが何なのか、二人は一目で理解した。
どの死体も損傷が激しいのだろう、布の膨らみ具合で遺体の欠損がひどいことが分かる。
頭がない者、下半身がない者、無数の肉片になっている者。その包みの中には原形を失った魔族がいるのだろう。
「まあ自業自得だな。星外魔獣を誘き寄せるような、まねをしたんだから」
オボロは冷たげに言葉を口にした。
そして、その時だった。それを目にしたのは。
魔族の遺体に祈りを捧げているような人影があったのだ。
……魔族の生き残りだろうか?
そう思った二人は何も喋らず静かに、その存在に接近した。
そして、その者の真後ろまで来たとき、ニオンは警戒を緩めた。そこにいたのは魔族ではなかったからだ。
「……隊長殿、魔族ではありません。私達の接近を許したあたり、敵意もないようですね」
死体達に祈りを捧げていたのは青い肌をした人間のようであった。
しかし異様である。
なぜ、こんなところでこの者は祈り事をしているのか? 毒ガスが無害化してから都内に入ったのだろうか。なぜ魔族などに祈りを捧げているのだろうか。
そして何よりも異様なのは、この者の存在自体であった。何故なら、この惑星には青い肌をした人型の種族など存在しないからだ。
「君は、この惑星の者のかね?」
そう尋ねたのはニオンであった。
すると、その青い肌をした者は祈りを終えたのか、立ち上がり二人に振り返った。
「この肉体は滅ぼされた異星人の遺伝子情報を解析して再生したもの。そして、私のこの精神はこの世が創造される前からあったもの。お待ちしておりました。私はあるお方の命により、あなた方をここで待っていたのです。我が主の言葉を伝えたく」
それは肉感的な身体をした青肌の美女であった。
「魔族どもに同情する気はねぇが、こりゃひでぇな」
ほとんどの建物が倒壊していた。無論、オボロ達の仕業ではない。
魔王の都にいた魔族達を殲滅するさい、破壊的な方法は用いていないのだから。
「星外魔獣ガンダロスによる破壊の跡ですね」
周囲を見渡しながらニオンはオボロの横に立つ。いつもどおり穏やかで冷静な物言いで。そもそも最初から、都がこうなっているのは理解していた。
宇宙生物は魔物とは比較にならない程に危険。一体が数時間暴れただけで、巨大都市を壊滅させることができるのだ。
「まったく、とことん危ねぇ化け物だな」
歩きながら破壊の跡を確認するオボロ。
もし、クサマがいなかったらメルガロスの王都も同じ運命をたどっていただろう。
そしてニオンは無言で、ゆっくりと上空を見上げた。その遥か先にいるであろう、存在を感じるかのように。
「何っ! 取り逃がした魔王が殺されていただと?」
「はい、死体を確認したときは私も驚きました」
廃墟と化した魔王の都を歩きながら驚きの声をあげたのはオボロ、そして冷静に返答したのはニオンであった。
城で魔王の逃走を許してしまったあと、ニオンはすぐに捜索を開始した。そして魔王を発見するのは容易いことだった。
「クサマに組み込まれている検知機を用いれば、見つけ出すなど簡単なことです。無論、反応があった地点に至急向かいました。ですが……」
「魔王は殺されていたか」
「はい」
ニオンはゆっくりと頷く。
そして一番の問題は、一体誰が魔王が殺したのかだった。だが、ニオンはおおよその見当をつけていた。
「おそらく魔王を仕留めたのは、私の師です」
魔王を倒したと言うことは、魔王以上の戦闘力を持つことを意味している。
そして現場にあった魔王の死体は、幾つもの輪切りにされていると言う悲惨なもの。その切断面には狂いがなく、みごとな剣筋であった。
さらには魔王ごと斬り裂かれたであろう岩。それも滑らかに寸断されていたのだ。
それ程のことをやってのけるとなると、相当な技量と極めて鋭利な刀剣が必要なはず。
それ程の剣術と刃を持つ者と言ったら限られる。と言うよりも一人しか思いつかなかったのだ。
「あれほどの技量を持つとなると師しかいません。おそらく、魔王の動きを把握していたのでしょう」
確信をもって言うニオン。そして過去のことを思い返した。それは忘れ去れない記憶。それは過酷な鍛練の日々であった。
師が与える試練は、いつも地獄そのもの。幾度も死にかけた。
魔術も何もない、信用できるのは自分の肉体と剣術と剣だけ。だが、その苛烈な状況をどうにか生き延びてきた。
そして、それを十年以上続けた結果生まれたのが単身で英雄達を蹂躙する最凶の剣士であった。
そんなニオンをオボロは見下ろした。
「都に入る前に言っていた話したいこととは、その事か。お前を鍛えあげた男か……オレも直に会ってみてぇ」
ニオンを鍛えあげた男、その存在にオボロも興味がつきなかった。
オボロにも忘れられないとある戦いの記憶がある。
それはニオンとの決闘。今まで、あれほどの厳しい戦いを知らなかったのだ。
ニオンと比較したら、幾千幾万の兵士を相手にしたほうが楽であった。
何とか勝てたがオボロもかなりの傷を負った。彼の巨体に刻みつけられた無数の傷跡、それを負わせたのはニオンなのだ。
それほどにニオンは強かったのだ。
「いずれ接触できるとは思います」
師と接触したいと言ったオボロに、ニオンはそう言うのであった。
「ああ、そうだな。……いずれオレ達と一緒に戦うか」
オボロは旧友の墓標にいったときに、師と交わした言葉を思い出した。「いずれ、お前達と一緒に戦うことになるだろう」と言う言葉を……。
無論のこと、その時に話した内容は全てニオンに伝えてある。
「遅かれ早かれ、とてつもない戦いが始まることを予見しているのかもしれません……いったい、何がおきようとしているのか」
穏やかに言うが、ニオンの表情は真剣そのものであった。
「……まあ、今は考えても仕方ない。とっとと、ここを調べて、解体しちまおうぜ。魔族が保有してる科学の力が出回ると厄介なんだろ?」
考え込むニオンに、オボロはそう告げた。
「……そうですね。今は、目の前のことに集中しましょう。ここにあるものを外部に出すわけにはいきませんから」
魔王の都に誰も入れなかったのは、このためであった。
この世は魔術に依存しすぎているため、一部を除いては科学と言うものがほとんど発展していない。
ゆえに現状の人類にとって、今ここにあるであろう科学は手に余りすぎるものなのだ。
もしそんな情勢でここにある情報が流出しようものなら、世界規模でなにがおきるか分からないのだ。
環境破壊、戦争の激化、変異性魔物の大量発生の可能性もある。そして最悪の場合は星外魔獣の大量飛来と言うシナリオもある。
そのためにも、この都を速やかに調査して解体する必要があるのだ。
さらにしばらく歩くと、たどり着いたのは広場であった。
そして、そこには布で包まれた何かが並べてあった。それも数え切れない程に。
「こりゃあ、神経ガスで死んだ奴等じゃねぇな」
「はい、ガンダロスに殺された魔族でしょう」
布に包まれているものが何なのか、二人は一目で理解した。
どの死体も損傷が激しいのだろう、布の膨らみ具合で遺体の欠損がひどいことが分かる。
頭がない者、下半身がない者、無数の肉片になっている者。その包みの中には原形を失った魔族がいるのだろう。
「まあ自業自得だな。星外魔獣を誘き寄せるような、まねをしたんだから」
オボロは冷たげに言葉を口にした。
そして、その時だった。それを目にしたのは。
魔族の遺体に祈りを捧げているような人影があったのだ。
……魔族の生き残りだろうか?
そう思った二人は何も喋らず静かに、その存在に接近した。
そして、その者の真後ろまで来たとき、ニオンは警戒を緩めた。そこにいたのは魔族ではなかったからだ。
「……隊長殿、魔族ではありません。私達の接近を許したあたり、敵意もないようですね」
死体達に祈りを捧げていたのは青い肌をした人間のようであった。
しかし異様である。
なぜ、こんなところでこの者は祈り事をしているのか? 毒ガスが無害化してから都内に入ったのだろうか。なぜ魔族などに祈りを捧げているのだろうか。
そして何よりも異様なのは、この者の存在自体であった。何故なら、この惑星には青い肌をした人型の種族など存在しないからだ。
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すると、その青い肌をした者は祈りを終えたのか、立ち上がり二人に振り返った。
「この肉体は滅ぼされた異星人の遺伝子情報を解析して再生したもの。そして、私のこの精神はこの世が創造される前からあったもの。お待ちしておりました。私はあるお方の命により、あなた方をここで待っていたのです。我が主の言葉を伝えたく」
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