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最終魔戦
魔王の降伏
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その日、メルガロスの城にある者達が訪れていた。それは角と翼を持った少女達。言うまでもなく彼女達は魔族である。
メルガロスの女王メリルがかける玉座の前で、魔王ルキナはひざまづいていた。
ルキナの後方には付人である五人の魔族の少女がおり、彼女達も魔王同様に服従するがごとく姿勢を低くしている。
そして彼女達は床に悲しみの涙をこぼし、悔しさに歯を食い縛っていた。
……もうこうするしかないのだ。
魔王軍幹部が全員死亡したことに加え、宇宙から飛来した怪物の襲撃で魔王の都と魔王軍は壊滅。もはや戦いを継続できる戦力など残っていなかった。
こうなってしまった以上、生き残るためにはメルガロスに降服するしかなかったのだ。
しかし、ルキナは真底不安であった。
今回の戦争の責任はどうなるのか? そして魔王軍幹部のザックがメルガロスの王都に宇宙生物を誘導してしまったことへの償いは……。
玉座にかけて降服文書を黙読し終えたメリルは、それを小さく折り畳むと、となりに佇む二メートル近くはあろう銀髪の美青年に渡した。
「うむ、受け入れた。本日をもって我々メルガロスの勝利とし、終戦とする」
メリルは立ち上がり、魔王ルキナに言い放った。
しかし魔族達に勝利したにも関わらず、女王の表情に喜びは皆無。メリルは、そのまま言葉を続ける。
「降伏と言う選択にいたったのは、お前達の代が初めてだ。お前達魔族との戦争の歴史は千年以上にわたるな、現代の魔王ルキナよ」
「……はい、女王メリル様。新しき魔王が現れる度に、戦いは繰り返されました。それが、あなた方英雄と我々魔族との歴史」
声を震わせながら、ルキナは返答する。
先代魔王達は一度たりともメルガロスに勝つことができなかった。
しかし、神に特に愛された自分ならメルガロスに打ち勝ち、世界を手中におさめ、平和と理想の世を築き上げると言う偉業がなせると思っていた。
だが、その祝福を与えてくれた神に見捨てられた。力も剥奪され、要済みとされてしまった。
なぜ魔族達の神がいきなり自分達を捨てたのか、その理由すら教えてくれなかった。
……自分は何のために転生させられたのだろうか? 前世で苦しい思いをした人達を幸せへと導く、魔王になれるはずだった。しかし、それは神の作り話であった。……なぜ、この異世界に来たのだろう?
そして神に見捨てられた事実を知った魔族達は、みな絶望に至り、ただ生き延びるため降服の道を選んだのだ。
そして穏やかな口調でメリルは語りだす。
「なぜ、こんな争い事が今だに継続しているのだろうな? ルキナよ、お前はその理由が分かるか」
その言葉にルキナは低くしていた顔をあげた。
「……そ、それは」
理由など分かっている。自分達魔族が現れ、魔族の神の言葉を信じて、メルガロスに攻撃を仕掛けるからだ。
つまり、戦争のサイクルが繰り返される理由は魔族そのものであろう。
「まあよい。ところでルキナよ、この長きにわたる戦いを、そろそろ終わらせようと思っているのだ」
「えっ?」
ルキナは女王の顔を見上げる。
メリルは幼い顔立ちだが、国の統治者だけのことはあり大人の女性のように冷静な表情であった。
「もうこの世界には、英雄も魔族も必要ないのだ。だからこそ、これで戦争を終わらせよう」
「……戦いを終わらせる?」
ルキナは呟くと考え始めた。英雄も魔族も必要ないとは、どういうことだろうか?
英雄はただの一般人となり、魔族はこの世界を生きる普通の一つの種族に成り下がることだろうか?
確かに、そうなれば戦いのサイクルは終わるだろう。
理想も夢も失ったが、ここで女王の意思に賛同すれば平和な日常だけは約束されるはずだ。
そして、もう二度と戦う必要がなくなる。
もういい、ただ生きられるだけでもう何もいらない。ルキナは、そう思った。生き残った魔族達も、そう望んでいるだろうと。
「女王メリル様、この日を持って我々魔族も長きにわたった戦いの歴史を終えることを誓います」
「そうか、魔王ルキナよ感謝する……そして、さよなら」
「えっ?」
メリルの最後の言葉の意味を理解できなかったのか、ルキナは呆気にとられたような声を漏らした。
そして後ろにある巨大な扉から、ガチャリと施錠される音が聞こえた。閉じ込められたのだ。
いったい何なのか? と、ルキナと付人の少女達は立ち上がる。
「女王メリル様、いったい何を? 私達に何かしろと?」
そう言うルキナに悲しげな目線を向けるメリル。まるで魔王達を哀れむようであった。
「……魔王ルキナよ、お前達がどこまで知っているか分からないが、伝えておく。我々は……いや、世界は魔族と共存できんのだ」
「な、何をおっしゃいます? 私達は、この国のため今後貢献していきます。ともに平和の道を……」
震えながらルキナは、言葉を口にする。
どう言うことなのだ? 魔族と世界は、ともに生きていけないとわ。
「こ、これわ!」
「魔王様!」
付人である魔族の少女達が悲鳴のような言葉をはっする。
柱の影に隠れていたのだろうか、抜剣した二人の剣士が魔王達にゆっくりと歩みよってきた。
それは元剣士長の少年ミースと、勇者一党の剣士であるジュリであった。元剣聖候補の少年と少女である。
「メリル様! 何をするおつもりですか? 私達はたった今、戦いの終わりをともに誓ったではありませんか! それに我々には戦力も戦意もありません! もう争うことは……」
ルキナは必死の形相で訴えかける。
しかし、それでもメリルは彼女達に悲しげな視線を送るだけであった。
「すまないルキナよ、お前達が魔族でさえなければともに平和の道にいたれたであろう。だが魔族は、この世から一人残らず消さなければならないのだ。お前達は生きていては、ならないのだ」
「な、何を言って……私達が生きていてはいけない? どうして……」
ルキナが呟くと、ミースとジュリは剣を構えて彼女達に襲いかかった。
それに対応するように魔族の少女達は魔術の詠唱を行い、手から光輝く剣を発生させ駆け出した。
メルガロスの女王メリルがかける玉座の前で、魔王ルキナはひざまづいていた。
ルキナの後方には付人である五人の魔族の少女がおり、彼女達も魔王同様に服従するがごとく姿勢を低くしている。
そして彼女達は床に悲しみの涙をこぼし、悔しさに歯を食い縛っていた。
……もうこうするしかないのだ。
魔王軍幹部が全員死亡したことに加え、宇宙から飛来した怪物の襲撃で魔王の都と魔王軍は壊滅。もはや戦いを継続できる戦力など残っていなかった。
こうなってしまった以上、生き残るためにはメルガロスに降服するしかなかったのだ。
しかし、ルキナは真底不安であった。
今回の戦争の責任はどうなるのか? そして魔王軍幹部のザックがメルガロスの王都に宇宙生物を誘導してしまったことへの償いは……。
玉座にかけて降服文書を黙読し終えたメリルは、それを小さく折り畳むと、となりに佇む二メートル近くはあろう銀髪の美青年に渡した。
「うむ、受け入れた。本日をもって我々メルガロスの勝利とし、終戦とする」
メリルは立ち上がり、魔王ルキナに言い放った。
しかし魔族達に勝利したにも関わらず、女王の表情に喜びは皆無。メリルは、そのまま言葉を続ける。
「降伏と言う選択にいたったのは、お前達の代が初めてだ。お前達魔族との戦争の歴史は千年以上にわたるな、現代の魔王ルキナよ」
「……はい、女王メリル様。新しき魔王が現れる度に、戦いは繰り返されました。それが、あなた方英雄と我々魔族との歴史」
声を震わせながら、ルキナは返答する。
先代魔王達は一度たりともメルガロスに勝つことができなかった。
しかし、神に特に愛された自分ならメルガロスに打ち勝ち、世界を手中におさめ、平和と理想の世を築き上げると言う偉業がなせると思っていた。
だが、その祝福を与えてくれた神に見捨てられた。力も剥奪され、要済みとされてしまった。
なぜ魔族達の神がいきなり自分達を捨てたのか、その理由すら教えてくれなかった。
……自分は何のために転生させられたのだろうか? 前世で苦しい思いをした人達を幸せへと導く、魔王になれるはずだった。しかし、それは神の作り話であった。……なぜ、この異世界に来たのだろう?
そして神に見捨てられた事実を知った魔族達は、みな絶望に至り、ただ生き延びるため降服の道を選んだのだ。
そして穏やかな口調でメリルは語りだす。
「なぜ、こんな争い事が今だに継続しているのだろうな? ルキナよ、お前はその理由が分かるか」
その言葉にルキナは低くしていた顔をあげた。
「……そ、それは」
理由など分かっている。自分達魔族が現れ、魔族の神の言葉を信じて、メルガロスに攻撃を仕掛けるからだ。
つまり、戦争のサイクルが繰り返される理由は魔族そのものであろう。
「まあよい。ところでルキナよ、この長きにわたる戦いを、そろそろ終わらせようと思っているのだ」
「えっ?」
ルキナは女王の顔を見上げる。
メリルは幼い顔立ちだが、国の統治者だけのことはあり大人の女性のように冷静な表情であった。
「もうこの世界には、英雄も魔族も必要ないのだ。だからこそ、これで戦争を終わらせよう」
「……戦いを終わらせる?」
ルキナは呟くと考え始めた。英雄も魔族も必要ないとは、どういうことだろうか?
英雄はただの一般人となり、魔族はこの世界を生きる普通の一つの種族に成り下がることだろうか?
確かに、そうなれば戦いのサイクルは終わるだろう。
理想も夢も失ったが、ここで女王の意思に賛同すれば平和な日常だけは約束されるはずだ。
そして、もう二度と戦う必要がなくなる。
もういい、ただ生きられるだけでもう何もいらない。ルキナは、そう思った。生き残った魔族達も、そう望んでいるだろうと。
「女王メリル様、この日を持って我々魔族も長きにわたった戦いの歴史を終えることを誓います」
「そうか、魔王ルキナよ感謝する……そして、さよなら」
「えっ?」
メリルの最後の言葉の意味を理解できなかったのか、ルキナは呆気にとられたような声を漏らした。
そして後ろにある巨大な扉から、ガチャリと施錠される音が聞こえた。閉じ込められたのだ。
いったい何なのか? と、ルキナと付人の少女達は立ち上がる。
「女王メリル様、いったい何を? 私達に何かしろと?」
そう言うルキナに悲しげな目線を向けるメリル。まるで魔王達を哀れむようであった。
「……魔王ルキナよ、お前達がどこまで知っているか分からないが、伝えておく。我々は……いや、世界は魔族と共存できんのだ」
「な、何をおっしゃいます? 私達は、この国のため今後貢献していきます。ともに平和の道を……」
震えながらルキナは、言葉を口にする。
どう言うことなのだ? 魔族と世界は、ともに生きていけないとわ。
「こ、これわ!」
「魔王様!」
付人である魔族の少女達が悲鳴のような言葉をはっする。
柱の影に隠れていたのだろうか、抜剣した二人の剣士が魔王達にゆっくりと歩みよってきた。
それは元剣士長の少年ミースと、勇者一党の剣士であるジュリであった。元剣聖候補の少年と少女である。
「メリル様! 何をするおつもりですか? 私達はたった今、戦いの終わりをともに誓ったではありませんか! それに我々には戦力も戦意もありません! もう争うことは……」
ルキナは必死の形相で訴えかける。
しかし、それでもメリルは彼女達に悲しげな視線を送るだけであった。
「すまないルキナよ、お前達が魔族でさえなければともに平和の道にいたれたであろう。だが魔族は、この世から一人残らず消さなければならないのだ。お前達は生きていては、ならないのだ」
「な、何を言って……私達が生きていてはいけない? どうして……」
ルキナが呟くと、ミースとジュリは剣を構えて彼女達に襲いかかった。
それに対応するように魔族の少女達は魔術の詠唱を行い、手から光輝く剣を発生させ駆け出した。
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