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最終魔戦
猛者達の墓標
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王都を出発して二十分くらい経過しただろう、目的の場所に到着した。
隊長に頼まれてやって来た所、それは小さめの森であった。
「ムラト、このまま森の真ん中まで行ってくれ」
「分かりました」
オボロ隊長の指示に従い、俺は森の中に足を踏み入れる。
俺は巨体すぎるため森を見下ろすことができる、ゆえにその全貌がよく分かる。森の中央部がポッカリと開けていた。おそらく、そこまで進んでほしいのだろう。
俺の十万トンを越える肉体が大地と森を震動させ、大きな足が樹木をへし折る。……環境破壊かもしれんが、致し方なしだ。
開けていた場所に到達すると、中央には石碑のようなものがあった。俺から見れば、まるで砂粒サイズだ。
「降りるぞ、女王様よ」
隊長はメリル様を抱えあげると、百メートル以上にもなる怪獣の頭の天辺から飛び降りたのだ。
かなり無茶苦茶な、おりかただ。
「いやあぁぁぁ!!」
響き渡るのは女王様の悲鳴。
やってることは高さ一〇五メートルからの垂直落下、絶叫をあげたくもなるだろう。
ズドン! と轟音をたてて隊長は地面に着地する。無論のこと隊長は無傷だ。その巨大な筋肉の塊が、落下の衝撃を吸収したのだろう。
あんな高度から降り立ったにもかかわらず、オボロ隊長は事も無げな涼しい表情をしている。
逆にメラルダ様は、死にかけたように顔を青くさせていた。
「メリル様よぉ、歩けるな?」
「あ……あぁ」
隊長は、顔面蒼白の女王様をゆっくりと地に降ろした。
彼女の足は少しばかり震えている。垂直落下したときの感覚が、まだ残っているのだろう。
隊長は彼女が歩けることを確認すると、石碑に向かってゆっくりと足を進めた。そして、しゃがみこみ、大事そうに石碑を大きな手でなで回し始めた。
「……すまないな、お前ら。今だに、魔族どもは生きていやがる。あの日、ここで誓ったんだがな……必ず魔族は滅ぼすと」
「……隊長。それは、墓標なんですね」
俺が問いかけると、オボロ隊長はゆっくりと頷いた。
おそらく、隊長が以前率いていた傭兵達の墓。
「そうだ。五年前こいつらは、ここで魔族どもに襲われて命を失った」
隊長は墓標から手を離して悲しげに語る。
「オレが十才の時に結成した刀牙衆。……こいつらとは、むせかえるような血腥い死闘の中を助け合い、戦いが終われば旨い酒や飯を楽しみ、互いに鍛えあった」
「……オボロ」
メリル様が静かな足取りで隊長の背後に近づく。
それに合わせて、隊長は立ち上がった。
「メリル様よぉ、こいつらのためにも祈ってはくれねぇか。戦場では凶暴な連中だったが、人を見捨てたことはなかったんだ。……空帝の討伐の言い出しっぺは、こいつらなんだぜ」
「えっ! 首領であるお前が討伐を検討したのではないのか? なぜ一員である彼等が?」
「空帝に苦しめられる奴等を打ち捨ててはおけなかったんだろうな。……こいつらはバカで危ねぇところはあったが、人情には厚かったからな。見返りや功績が欲しくて危険な戦いに出向いたわけじゃねぇんだ。だからこそ、オレは空帝に挑むことを認めたんだ」
「そ、そうだったのか。……すまない、何も知らずに私は彼らの功績をねだったのだな」
メリル様は両膝をつくと手を合わせ、墓標に祈りを捧げた。俺も彼女につられ、方膝をついて頭を下げる。
隊長の話からも分かるように、彼らも俺達のように自分の意思で戦ってきたのだろう。正義や名誉のためでもなく、あくまでも自分の意思のために。
俺が頭をあげると、再び隊長は語り出す。しかし、先程とは違い声に怒りが伺える。
「あの日、オレ達は空帝の討伐はできなかったが撃退することはできた。取り逃がしたのだから、まあ痛み分けと言ったところだろう。……そして撃退報告とケガの治療のために王都に向かってる途中だった。この森に休息のために立ち寄ったときに、仲間達は魔族に襲われた。オレが薬草を探すために、あつらから目を離した隙だった」
よほど怒りと憎悪のためか、隊長の手が震えている。
そして息をあらげるように叫び出す。
「全員が空帝と戦った時の負傷と疲労で、まともに動ける状況ではなかった。満足に戦うこともできずに魔族に殺されたんだ! 魔族どもは知っていたんだ、あつらが戦える状態でないことを。そこを狙いやがった! 空帝を撃退した力を恐れてオレ達を殺そうとしたんだ! クソがあぁぁぁ!!」
隊長は感情に任せて地面を殴り付けた。巨大化したオボロ隊長の鉄拳は、凄まじいものだった。
地が陥没し、そこから拡がるように亀裂が発生し大地を震動せしめた。
メリル様は、驚愕の表情でそれを見ていた。
フーッフーッと息を整えると、隊長はまた落ち着いたように言葉を続けた。
「オレは、その場にいた魔族全員殺し、仲間を弔った。その時の証がこれだ」
隊長はいつも身につけている赤い襟巻きを首から外し、俺とメリル様にそれを見せつける。
「その赤い色は、かつての仲間達の血なんですね、隊長」
「ああ、そうだ。元は真っ白だったが、あいつらの体を拭き取るうち染まったんだ」
「……そして、ここに彼等を埋めたと言うわけですね」
「いや、ここにあるのは墓標だけだ。あいつらの無念は、オレの血肉となり、今でもとも戦い続けている」
「血肉となり? ……そう言うことですか」
血肉となった、という言葉を聞いて、俺は隊長が仲間達の遺体を食ったことを悟った。
普通に考えれば異常な行為にも感じるだろう、だがそれは仲間意識と絆が強固だったという現れなのかもしれない。
……仲間達の無念とともに戦い続ける。それが隊長の戦い方と生き方なのだろう。
そして、隊長はメリル様に目を向けた。
「女王様、明日オレ達は魔族達の領域に攻めこむ。一人残らず殺す。これは個人的な恨みのためじゃねぇ、奴等をこのまま放置しときゃあ世界は崩壊する。分かるな?」
「……ああ、分かっている」
オボロ隊長の真剣な表情を見てメリル様は頭を縦にふる。
もう魔族達に戦力はないだろう、しかし連中は残さずに抹殺するしかないのだ。奴等は世界そのものと共存できないのだから。
いずれにせよ、惨いことは避けられないだろう。
「……だが、問題もある。二人とも、なぜ魔族が現れるか知っているな」
「はい、副長から聞きましたから」
「隠されていた神、ギエイが関係しているのだろ」
メルガロスの王都に到着した時に、ニオン副長から聞いたことだ。それは魔王や魔族が神と崇める存在にして、奴等の出現を司る者。
魔族どもの出現に関与している神がいるなど、初めて聞いときは何かの冗談かと思った。
そもそも創造の女神リズエルしか神は存在しないとされてきた世界だ。
そんな中、もう一つの神がいるなど言われても、誰も信じないだろう。
だからこそ、副長は今まであまりこの事を口外しなかったのかもしれない。
隊長は、この事は以前から知っていたようだ。
「オレも初めて聞いた時は耳を疑ったものだった。だがニオンは、オレでも知らぬことを多く知っているしな、それに冗談を言うような奴ではない……おそらく本当に存在してるはずだ」
「いずれにせよ魔族の発生源をどうにかしなければ、戦いは永遠に継続すると言うことですね、隊長」
「ああ、だが相手は神だ。どこにいるのかも、接触のしかたも分からねぇ。いったいどうしたものか……」
(案ずるな、もう魔族どもが転生することはない)
それは突如だった。
よくわからないが、頭の中に声が飛び込んできたのだ。
隊長に頼まれてやって来た所、それは小さめの森であった。
「ムラト、このまま森の真ん中まで行ってくれ」
「分かりました」
オボロ隊長の指示に従い、俺は森の中に足を踏み入れる。
俺は巨体すぎるため森を見下ろすことができる、ゆえにその全貌がよく分かる。森の中央部がポッカリと開けていた。おそらく、そこまで進んでほしいのだろう。
俺の十万トンを越える肉体が大地と森を震動させ、大きな足が樹木をへし折る。……環境破壊かもしれんが、致し方なしだ。
開けていた場所に到達すると、中央には石碑のようなものがあった。俺から見れば、まるで砂粒サイズだ。
「降りるぞ、女王様よ」
隊長はメリル様を抱えあげると、百メートル以上にもなる怪獣の頭の天辺から飛び降りたのだ。
かなり無茶苦茶な、おりかただ。
「いやあぁぁぁ!!」
響き渡るのは女王様の悲鳴。
やってることは高さ一〇五メートルからの垂直落下、絶叫をあげたくもなるだろう。
ズドン! と轟音をたてて隊長は地面に着地する。無論のこと隊長は無傷だ。その巨大な筋肉の塊が、落下の衝撃を吸収したのだろう。
あんな高度から降り立ったにもかかわらず、オボロ隊長は事も無げな涼しい表情をしている。
逆にメラルダ様は、死にかけたように顔を青くさせていた。
「メリル様よぉ、歩けるな?」
「あ……あぁ」
隊長は、顔面蒼白の女王様をゆっくりと地に降ろした。
彼女の足は少しばかり震えている。垂直落下したときの感覚が、まだ残っているのだろう。
隊長は彼女が歩けることを確認すると、石碑に向かってゆっくりと足を進めた。そして、しゃがみこみ、大事そうに石碑を大きな手でなで回し始めた。
「……すまないな、お前ら。今だに、魔族どもは生きていやがる。あの日、ここで誓ったんだがな……必ず魔族は滅ぼすと」
「……隊長。それは、墓標なんですね」
俺が問いかけると、オボロ隊長はゆっくりと頷いた。
おそらく、隊長が以前率いていた傭兵達の墓。
「そうだ。五年前こいつらは、ここで魔族どもに襲われて命を失った」
隊長は墓標から手を離して悲しげに語る。
「オレが十才の時に結成した刀牙衆。……こいつらとは、むせかえるような血腥い死闘の中を助け合い、戦いが終われば旨い酒や飯を楽しみ、互いに鍛えあった」
「……オボロ」
メリル様が静かな足取りで隊長の背後に近づく。
それに合わせて、隊長は立ち上がった。
「メリル様よぉ、こいつらのためにも祈ってはくれねぇか。戦場では凶暴な連中だったが、人を見捨てたことはなかったんだ。……空帝の討伐の言い出しっぺは、こいつらなんだぜ」
「えっ! 首領であるお前が討伐を検討したのではないのか? なぜ一員である彼等が?」
「空帝に苦しめられる奴等を打ち捨ててはおけなかったんだろうな。……こいつらはバカで危ねぇところはあったが、人情には厚かったからな。見返りや功績が欲しくて危険な戦いに出向いたわけじゃねぇんだ。だからこそ、オレは空帝に挑むことを認めたんだ」
「そ、そうだったのか。……すまない、何も知らずに私は彼らの功績をねだったのだな」
メリル様は両膝をつくと手を合わせ、墓標に祈りを捧げた。俺も彼女につられ、方膝をついて頭を下げる。
隊長の話からも分かるように、彼らも俺達のように自分の意思で戦ってきたのだろう。正義や名誉のためでもなく、あくまでも自分の意思のために。
俺が頭をあげると、再び隊長は語り出す。しかし、先程とは違い声に怒りが伺える。
「あの日、オレ達は空帝の討伐はできなかったが撃退することはできた。取り逃がしたのだから、まあ痛み分けと言ったところだろう。……そして撃退報告とケガの治療のために王都に向かってる途中だった。この森に休息のために立ち寄ったときに、仲間達は魔族に襲われた。オレが薬草を探すために、あつらから目を離した隙だった」
よほど怒りと憎悪のためか、隊長の手が震えている。
そして息をあらげるように叫び出す。
「全員が空帝と戦った時の負傷と疲労で、まともに動ける状況ではなかった。満足に戦うこともできずに魔族に殺されたんだ! 魔族どもは知っていたんだ、あつらが戦える状態でないことを。そこを狙いやがった! 空帝を撃退した力を恐れてオレ達を殺そうとしたんだ! クソがあぁぁぁ!!」
隊長は感情に任せて地面を殴り付けた。巨大化したオボロ隊長の鉄拳は、凄まじいものだった。
地が陥没し、そこから拡がるように亀裂が発生し大地を震動せしめた。
メリル様は、驚愕の表情でそれを見ていた。
フーッフーッと息を整えると、隊長はまた落ち着いたように言葉を続けた。
「オレは、その場にいた魔族全員殺し、仲間を弔った。その時の証がこれだ」
隊長はいつも身につけている赤い襟巻きを首から外し、俺とメリル様にそれを見せつける。
「その赤い色は、かつての仲間達の血なんですね、隊長」
「ああ、そうだ。元は真っ白だったが、あいつらの体を拭き取るうち染まったんだ」
「……そして、ここに彼等を埋めたと言うわけですね」
「いや、ここにあるのは墓標だけだ。あいつらの無念は、オレの血肉となり、今でもとも戦い続けている」
「血肉となり? ……そう言うことですか」
血肉となった、という言葉を聞いて、俺は隊長が仲間達の遺体を食ったことを悟った。
普通に考えれば異常な行為にも感じるだろう、だがそれは仲間意識と絆が強固だったという現れなのかもしれない。
……仲間達の無念とともに戦い続ける。それが隊長の戦い方と生き方なのだろう。
そして、隊長はメリル様に目を向けた。
「女王様、明日オレ達は魔族達の領域に攻めこむ。一人残らず殺す。これは個人的な恨みのためじゃねぇ、奴等をこのまま放置しときゃあ世界は崩壊する。分かるな?」
「……ああ、分かっている」
オボロ隊長の真剣な表情を見てメリル様は頭を縦にふる。
もう魔族達に戦力はないだろう、しかし連中は残さずに抹殺するしかないのだ。奴等は世界そのものと共存できないのだから。
いずれにせよ、惨いことは避けられないだろう。
「……だが、問題もある。二人とも、なぜ魔族が現れるか知っているな」
「はい、副長から聞きましたから」
「隠されていた神、ギエイが関係しているのだろ」
メルガロスの王都に到着した時に、ニオン副長から聞いたことだ。それは魔王や魔族が神と崇める存在にして、奴等の出現を司る者。
魔族どもの出現に関与している神がいるなど、初めて聞いときは何かの冗談かと思った。
そもそも創造の女神リズエルしか神は存在しないとされてきた世界だ。
そんな中、もう一つの神がいるなど言われても、誰も信じないだろう。
だからこそ、副長は今まであまりこの事を口外しなかったのかもしれない。
隊長は、この事は以前から知っていたようだ。
「オレも初めて聞いた時は耳を疑ったものだった。だがニオンは、オレでも知らぬことを多く知っているしな、それに冗談を言うような奴ではない……おそらく本当に存在してるはずだ」
「いずれにせよ魔族の発生源をどうにかしなければ、戦いは永遠に継続すると言うことですね、隊長」
「ああ、だが相手は神だ。どこにいるのかも、接触のしかたも分からねぇ。いったいどうしたものか……」
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