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最終魔戦

魔都崩壊

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 魔王ルキナは自分のみやこを呆然と眺めていた。初代魔王が作り上げ、代々魔王達に受け継がれてきた魔の都を。
 魔族達の家は潰れ、地面は抉れ、至るところからプスプスと煙があがっている。
 そして布に包まれた友人達が都市の広場に集められていた。そのしかばね達は変色して異臭をはなっている。
 布に包まれた友人は、一人二人ではない。都市の広場を埋め尽くす程の人数であった。
 しかも、原形をとどめた遺体などごくわずか。ほとんどの亡骸が酷いありさまである。
 胴体が半分になった者もいれば、パズルのように粉々な者、生ゴミを燃やしたような塊となった者。

「……な、なんで、どうして」

 魔王ルキナは、変わり果てた彼らを見て泣き崩れた。彼女だけではない、生き残った魔族達も泣きわめく。
 魔王のみやこは壊滅し、人口の半分が消え去ったのだ。……いきなり出現した得体の分からない一体の鉄球のごとき怪物によって。
 もちろんのこと、防衛のためその怪物を迎え撃とうとした。
 しかし、そのたった一体の怪物に手も足も出なかったのだ。
 理由は分からないが、魔王の力も魔術も使用することができなかったのだ。
 力が発揮できない結果は、一方的な殺戮であった。あまりにも不条理でしかなかった。
 その得体の知れない魔物を都市から引き離すため、魔王軍幹部の最後の一人ザックが囮になってどこかへと誘導してくれた。しかし、おそらくもう彼は……。

「なんで! なんで! 神から授かった力が行使できないの?」

 ルキナは拳で地面を叩き泣き叫ぶ。
 今だに神から与えられた超常の力が使用不能なのだ。
 彼女が持つ全能のごとき力が行使されれば、死んだみんなも、壊れた都市も、あっという間にもとに戻せる。だが、一向に力が発動しない。
 彼女は、その理由を聞き出すため、半壊した魔王の城に向かおうとした。
 飛行するルキナの視線に入るは、瓦礫と泣きわめく魔族達。
 どうして、こんなことになってしまったのか?
 魔王の都市が魔物ごときに、蹂躙されるなど有り得ない。
 ……災魔神さいまじん様なら、何か知っている。きっと助けてくれる。



 
 魔王の城も被害はひどく、倒壊寸前だった。
 天井が今にも崩れそうな王座に、足を踏み入れるルキナ。
 そして、その天井を見据え語りかける。

「災魔神様! 災魔神様! お助けください、何とぞ私達に救済を」

(んあ? なんだ、ルキナか。てっきり星外魔獣コズミックビーストに踏まれて、くたばったと思っていたが)

 偉大なる魔族達の神の声は確かに響いた。
 しかし口調の異様さに、ルキナは眉をひそめる。
 様子がおかしい。いつもなら神々しく、落ち着いた言葉使い。
 今のはまるで、粗暴で品がないしゃべり方であった。

(ああ、気にしないでくれよ。これが本当の俺なんだ)

「……さ、災魔神様?」

 ルキナは、神の突然の変貌ぶりに言葉がつまる。

(聞きたいことは分かる。俺が与えた全能の力が使えないんだろ、その力は没収させてもらったからな。もう、お前には必要ないものだ)

 神は面倒くさそうに言った。
 それを聞いてルキナの表情は強ばる。

「没収? 何を言いますか! 民達を助けるためにも、すぐにその力が必要なのです。返してください!」

(返す? 何を言っている。元々お前の力じゃないだろ。それにあの未知の怪物の前では、俺が与えた力などクソの役にも立たんぞ。……奴等は神である俺でも制御することができん、奴等は神の力を打ち消す)
「……神の力を打ち消す? まさか、それで力が使えなかった」

 ルキナは膝を着いた。
 ……つまりあれは、チートのような能力に対応した怪物。神が授けた力に依存する自分が敵わないのも当然だった

「あの怪物は、いったいなんだったのですか?」

(あれは星外魔獣コズミックビースト。宇宙に生息する正真正銘の化け物だ。数億年前から存在している、この世の最悪の不規則だ)

「……宇宙生命体」

(そうとも言えるな)

「どうして、そんな怪物がいることを教えてくれなかったのですか?」

(言う必要がなかったからな。それに、ここに飛来してくるとは思いもしなかったしな)

「……思いもしなかった?」

(奴等は、ある物に敏感に反応する。それによって引き寄せられるんだ。お前等、城の地下に何か建造しなかったか?)

「地下に建造? ……はっ!」

 それを聞いて、ルキナは何かを思い出した。

「……ハルが作りたい物があるって言ってたから、自由に地下室をつかっていいように許可をだして……」

 幹部の一人であるハルに許可をだして地下施設を自由に使わせていた。しかし、彼女が一体何をしていたかまでは気にしていなかった。

(お前、ハルが地下で何をしているのか気にならなかったのか? あの娘、前世では人工太陽の研究者だったんだ)

「……人工太陽?」

 それは初耳だった。
 魔族達の正体は別の世界で死にはて、この世界で復活した者達。つまり魔族とは転生者達なのだ。
 ゆえに魔族一人一人に前世の記憶がある。みな、辛い現実の思いでを持っていた。
 だからルキナは前世については誰にも聞こうとしなかった。他人の嫌な記憶など聞き出すものではないと。

(ところで話はもうこれでいいだろう)

 神は会話を打ち切ろうとした。

「お待ちください、まだ話は……力をください。私は、みんなを助けなきゃいけないのです」

 ルキナは神に必死に語りかけた。

(俺は忙しいんだよ。立て直すほどの戦力は、もうないんだろ。もう理想郷作りは諦めたらどうだ? 用済みの、お前らを相手するの面倒くせぇんだよ)

 用済み?
 その言葉を聞いて、ルキナは驚愕した。……何かの冗談か?

「用済み? ……何を言っているのです? 多くの人達に幸せな理想を与えるために、私を転生させたんじゃ?」

(ああ、それは嘘だ)

「……嘘? どう言うことですか」

(そのままの意味だ。お前達、魔族の役目はもうないんだよ)

「そんな、私を真の魔王にしてくれるはずじゃ……だから私にチート能力を与えたんじゃ?」

(おいおい、馬鹿げたことを抜かすな。現実で辛い目にあったから、来世では理想に生きたいってか? そんな都合のいいことなんてあるかよ。もう面倒だから話は終わりだ!)

 そう言って、説明不十分のまま神は一方的に会話を終わらせるのであった。

「災魔神様! 災魔神様! 災魔神様あぁぁぁ!」

 その後、ルキナは何度も神を呼んだ。しかし、一向に言葉は帰ってこない。
 ルキナは、しばらく泣き続けた。
 ……神に見捨てれた。
 これからどうすれば良いのか。理想の世界を作ることなど、もう不可能だ。
 ともに夢見た同朋達に何と言えば良いのか?
 神に騙され続けた自分達はいったいなんのか。
 誰も答えては、くれない。
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