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最終魔戦

父の本性

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 もう誤魔化すことはできない。
 まさか自分の時代が英雄神話の幕引きになろうとは。
 メリルの頭の中は虚無とかした。千年に渡る英雄達の威厳が今宵で崩壊したのだ。何世代も続いた栄光や誇りや夢が、全てがなくなった。
 そして彼女は見物客の中に紛れている、ユウナ、ジュリ、ヨナの勇者一党に視線を向ける。
 三人は、もの悲し気にこちらを見つめ、ゆっくりと頷いていた。
 全てを話すようにと。そう言いたいのだろうか。

「さあメリル様、みなの前で公表を。栄光の時代は終わりますが、また新しい時代を作りましょう」
「……ニオン、私達はこれから、どこにでもいる一人の人間として生きていかなければならないのか? 最大の過ちは、お前を敵にしてしまったことだろうか?」
「あなたの敵にならなくとも、遅かれ早かれ時代は変わっていたことでしょう。魔族といつまでも戦ってはいられない。でなければ、この国は滅びる。……そしていずれ他の国にも奴等の余波がいたり、この大陸そのものが崩壊してしまう」

 ニオンのその発言に、ミースは目を丸くした。

「……国が滅びる? それはどう言うことですか、兄上」
「詳しいことは後で話すとしよう、魔族は存在してるだけで世界を崩壊させてしまうのだ。女王様は、それを知っていながらおおやけにしなかった。そして、魔族の完全駆逐を実行しなかった」
「……存在してるだけで滅びると?」
「その通り」

 二人の会話を聞いていたのか、メリルは頭を抱え俯いた。

「分かっていたわ、魔族が毒気を放出していることに。……だけど魔族が消えれば、私達の存在意義がなくなってしまう。私達は、ただ未来永劫に英雄でありたかっただけなのよ」
「悪が滅びれば英雄も滅びる。それは、ある種の捻れた共生関係なのかもしれません。とは言え、魔族達を野放しにして良い理由にはならない。私は、この国が滅びても良いと、逃亡していた当時はそう思っていました。しかし、ここは私を生み育んでくれた場所。だからこそ決心してメルガロスに帰ってきたのです。さあ、メリル様」
「……分かったわ」

 今後、自分や英雄達の立場はどうなるのか?
 栄光を失った自分達は、どうやって生きていけばよいのか?
 ニオンに促され覚悟を決めたメリルは、立ち上がり闘技場の中央に向かおうとした。
 しかし、そのとき見物客から悲鳴があがった。

「きゃあぁぁ!!」
「おとなしくしろ!」
「は、離してください!」

 女性の叫びの後に、聞き覚えのある声が二つ響き渡る。
 何事かとニオンは振り返った。

「何をしているのですか、あなたは?」

 不愉快そうな表情のニオンの視線の先にいたのは、アサムの首に片腕を回して拘束する仮面をつけた男。父アドル・ロイザーであった。
 アドルの右手には短剣が握られ、それをアサムの首筋に押し当てていたのだ。

「こうなった以上、我が家の名誉を守るためには……わしの言うことに従うのだ! ニオン!」

 そう叫ぶアドルに、ミースは声をあげた。

「父上、正気ですか? こんなところで何を言っているのです!」
「だまれ負け犬が! もう貴様など息子ではない!」
「貴族の方々の面前の前で、なにをお考えか?」
「ふん、お前の兄上の力を使えばどうにでもなる。最強の剣聖すら越える力だぞ、武力で言うことを聞かせることができる。……それこそ、メルガロスの掌握さえできるだろう」

 アドル錯乱でもしてるのだろうか。貴族達の面前で正気の沙汰とは思えない言動であった。
 武力に任せて、この国を自分の物にしようとしているのだ。
 これには、メリルも大声をあげた。

「やめるのだ! アドル・ロイザー! 気でも狂ったか?」
「ちょうど良い。女王よ、あんたの英力でニオンの記憶を改竄してもらおうか。むろん、わしの命令に忠実に従うように頭の中をいじくってもらおう」

 アドルは女王にたいしても傲慢な態度になった。
 それを聞いてメリルは呆れたように語り出す。

「この大馬鹿者が。メルガロスは今、魔王の結界で英力が行使できんのだ。今まで、知らなかったのか?」
「なっ!!」

 そのやり取りを見ていた多くの人々が、アドルに軽蔑の眼差しを向けた。
 あまりの恥ずかしさに、アドルは体をプルプルと震わせる。そもそも、この男は常に家の地位しか考えていない。それゆえに国の状況も情報も理解せずに今に至ったのだろう。

「わしを馬鹿にするな!」

 仮面で表情は分からないが、激怒したらしくアドルは短剣をブンブンと振り回した。
 その姿はまるで、物事が思い通りにならず暴れる子供である。

「ミース、メリル様、見てください。認めたくはありませんが、あれが私の父の本性なのです。自分と家の地位しか考えていない、欲望で汚れた幼稚な男です」

 二人は、ニオンの言葉と目の前で騒ぎ立てる男を見て理解した。
 この父親が自分の息子を罪人にしたてあげたに違いないと。

「申し訳ありません、兄上。……ぼくは、とんでもない間違いを」
「……すまなかった、ニオン。私が、こんな男の証言を鵜呑みにしたばっかりに……許してくれとは言わん」

 謝罪を述べるミースとメリル。
 しかしニオンは気にした様子も見せず、アドルに一歩詰め寄る。

「あなたは、いつも人を道具としか見てなかった。私もミースも母上のことも。……あなたのせいで母上は、死んだというのに!」
「……えっ?」

 ニオンの衝撃的な発言に、ミースは思わず小さな声を漏らす。
 そして例えようがない怒りが沸き立ち、歯を食い縛りながら口を開いた。

「……父上……兄上が言ってることは本当ですか?」
「……ちっ! 出来損ないしか産めぬクズ女めが。あんな女に子を孕ませたのが、そもそもの間違いだったか」

 アドルが漏らしたのは呟くような小声だった。しかし、ミースははっきりとそれを聞き取っていた。
 そしてミースは感情にまかせ駆け出そうとしたが、ニオンに腕を掴まれ制止された。

「もう一度言ってみろ! 貴様!」

 怒りで我を見失ったミースは、怒号を闘技場に響かせた。

「それ以上近づくな! さあニオン、わしに従え! さもなくば分かるな、この小僧の首が落ちるぞ」

 アドルは、アサムの首筋に短剣を密着させ脅迫する。
 しかし、ニオンは冷静な面持ちで返答した。

「あなたは何か勘違いをしていますね。アサム殿は大人ですよ。非力に見えますが、高度な魔術を扱える」
「なにっ! ひぎゃあぁぁぁ!!」

 アドルは電流でも流されたかのように全身の痺れに襲われた。
 アサムが無詠唱で麻痺魔術を行使したのだ。

「僕は大丈夫です!」
「うむ。ミース、本気でやるといい」

 ニオンは、アサムが仮面の男の腕から脱出したことを確認すると、ミースを抑えていた手を離した。

「くらえぇぇぇ!!」
「んばあぁぁぁ!!」

 ミースは痺れて動けない男の顔面を怒りに任せて殴り飛ばす。
 仮面が砕け、ズタズタの顔を面前に露にして、アドルは大の字に倒れて動かなくなった。 
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