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最終魔戦
アサムの危機
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アサムはダークエルフの傷付いた腕に魔術を施した。
前線から遠いドワーフの集落の広場は簡易的な治療用の陣地になっていた。
とは言え治療魔術を扱えるのはアサムとルナとごく少数の者達だけ。負傷者がたくさん来たら、手に負えなくなるだろう。
しかし、戦況が優勢なのか運びこまれてくる負傷者は少なかった。
「これで、もう大丈夫ですよ」
腕を負傷していたダークエルフの女性に告げるアサム。
彼の治療魔術は見事なものである、傷は綺麗に消え、痛みもなく、違和感もない。まるで再生のようであった。
「ああ。ありがとう、助かる」
ダークエルフは自分の腕を見て、アサムに礼を言うのであった。
しかし、ここでダークエルフは良からぬ行動にいたった。
彼女はアサムの両手を掴み取ると、彼の顔をマジマジと見つめた。
「やはり魅力的だ。ポチャプルとした体に、美しいスベスベの小麦色の肌。……こんな極限下だ、分かるだろ。子種を残したくなるのは生物の本能だ。……君にはぜひとも、種を植え付けたいのだ。なぁに、愛情があれば男だって妊娠できる」
「……あ、あのう……ど、どうされたんですか?」
狂気の発言をしながら顔を近づけてくるダークエルフにアサムは困惑することしかできない。
だが、助けがやってきた。
「治療が終わったら、戦いに戻るわよ。もう、なにやってんのよ」
「ちょっと、まだ話が……」
同じく治療を受けた別のダークエルフがやって来て、彼女を連れ去って行ったのだ。
「抜け駆けは、許さないわよ。彼を頂くのは、この私よ。ぬふふふふふ……」
だが、連れ去っていったダークエルフも怪しげな笑い声をあげるのであった。
「ふぅ……いったい今のは」
ひとまず安堵の息を吐くアサム。
彼が治療に従事すると、たまにこういうことがある。
そして、アサムは前線の方に目を向ける。
戦場から遠くとも、多種族の戦士達と魔物達が殺し合う音が集落まで響いてくる。武器がぶつかり合う音、悲鳴や絶叫。
クサマの機関砲の掃射音、白鯨を倒し終えて魔物達の戦いに加わったムラトの重量感ある足音。
しばらく前には、オボロと大亀が戦っている位置で幾度も爆発音が発生していた。
音だけで、血生臭いことが起きているのが理解できるのだ。
「……戦いは嫌いだけど、しかたないことなんだよね」
アサムは前線を悲しげに見ながら呟くのであった。彼のその思いは真っ白で純粋なものだろう。
戦わないでほしい、傷つかないでほしい、死なないでほしい、と言う思いの。
と、いきなり彼等の周囲に多数の閃光が発生した。
魔王ルキナは玉座で狼狽えていた。
彼女の視界に映るのは戦場。魔術によってリアルタイムで現場を見ている
魔王軍はかなり劣勢であった。神が創造した新型の魔物はことごとく敗死。魔王の力で強化した魔物の部隊も、かなり押されている。
と、念話で魔王の頭の中に声が響き渡った。
(魔王様!)
(ザック!)
念話を発してきたのは魔王軍幹部の一人ザックであった。彼は今、魔王城から東に数百メートル程のところにある魔王軍本部にいる。
(ザック! 第二陣の準備はできてるの?)
(はい、整っております。……しかし、二陣を送り込んでも結末は同じでしょう)
(……くっ……あの集団のせいか)
魔王ルキナは言葉をつまらせた。
突如現れた、傭兵らしき集団が強すぎるからだ。奴等のせいで、魔王軍が一方的に押されている。
(……魔王様、考えがあります)
と、ザックから言葉が送られてきた。
(あの集団の中に戦闘要員でない奴が一人います。そいつを人質にするのです。そうすれば、奴等もおとなしくなるでしょう。人質を捕らえるため、すでに強化されたゴブリン達を転送しました)
(なんですって!)
ザックの作戦を聞いてルキナは、思わず大きな声を出してしまった。
人質をとるなど、とんでもない。そんな真似、人でなしがすることだ。
そんな手段を用いて勝っても、胸を張って真の魔王などと名乗れるだろうか。いくら戦争とは言え、ルールはある。
ルキナが、すぐにその作戦を中止するように告げようとした時だった。
突如、ザックが騒ぎ始めたのだ。
(な、なんだ! どうした……外だと)
魔王軍本部で何かが起きているようだ。トラブルだろうか?
(どうした? 何かあったのか)
(……本部上空に、球体状の何かが飛来してきました。……光沢があり、まるで金属です! ……球体が変形していきます! まるでスライムのようにも……。うわあぁぁぁ!! 魔物達が凍ついていく! 魔王様! 魔王様あぁぁぁ!!)
絶叫のあと念話は完全に断たれた。
「ちょっと! どうしたの! お願い応答して!」
何度ルキナが叫んでも、返答が帰ってくることはなかった。
集落で治療に従事していたアサム達の周囲で無数に輝くのは転移魔術の陣。
そこから現れたのはゴブリンであった。
だが普通のゴブリンではない、身長が高く、極めてスタイルが人間に近い。
そして手にしている武器もかなり上質なものであった。
「ご、ゴブリン? でも通常の個体じゃない」
アサムが声をあげた。
「然り、我々は普通のゴブリンではない」
一匹のゴブリンが語り始める。
普通のゴブリンは人語を理解できるほどの知能を持ち合わせていない。
しかし、ここにいるゴブリンは完璧な言葉を口にしている。
「我々はゴブリンG。魔王様より力を授かることで、知恵と強靭な肉体を手にした存在よぉ」
そして、そのゴブリンGはアサムをギョロリと睨み付けた。まるで目的のものを見つけたように。
「集落の中に魔王軍は来ないと思っていたか?」
「迂闊すぎたな」
「ここは全て戦場だぜ」
嫌らしくジリジリと迫ってくるゴブリン達。
ただのゴブリンなら、ここの者達だけでもどうにかできるであろう。
しかし相手は、頭も冴え、屈強な肉体をしたゴブリンG。とても対処できそうにはない。
「よるなゴブリンども!」
ルナは勇気を振り絞って、有刺鉄線を巻き付けた杖を振り上げた。
その行動に大弓を持った二匹のゴブリンが反応した。
ルナに向けて矢が放たれる。大弓から射られた二本の高速の矢が彼女を貫く寸前。
「ルナさん! あぶない!」
アサムがとっさに突進するように飛びつき、ルナを押し倒した。二人は地面に倒れこむ。
矢は外れたかに見えた。
「……くっそう」
悔しげな声をあげながら起き上がるルナ。
しかし、彼女は自分の顔が温かいもので濡れていることに気づいた。
それに手を触れると、真っ赤な液体であった。
「……これって、まさか……」
彼女がその温かい液体の正体を理解したとき、横で倒れているアサムが悲鳴をあげた。
「あ゛あぁぁぁ!!」
矢は外れていなかった。高速の矢はアサムの左肩口と左大腿の肉を、ひどく抉っていたのだ。
「アサム!」
ルナは彼の傷を確認した。出血が多く、処置しなければ危険かもしれない。
だがゴブリンどもは、それを許さない。
「その小僧は使い道がある。そいつの仲間のせいで魔王軍は、大打撃だ。小僧を人質にすれば、連中もおとなしくなるはずだ」
アサムを奪わんと、武器を手にして魔物達が嫌らしく詰め寄ってくる。
ルナはアサムを抱き寄せると声を荒げた。
「近づくな! 誰が貴様らなどに渡すか! この子だけは、命にかえても……」
しかし無慈悲にゴブリンどもは寄ってくる、ゴブリンとは非常に下劣な存在。
アサムを奪われたら人質だけでなく、何をされるかなど分かったものではない。
「ホアァァー!!」
その時、おかしな雄叫びのようなものが響き渡った。
そして、それはいきなり登場する。
「ごはぁ!!」
ゴブリンG達の最後部で悲鳴があがった。
その場にいた全員が、声のしたほうへと顔をむけた。
そこに佇むのは、胴体にポッカリと穴があいたゴブリン。あけられた穴からドボドボと内臓を溢して倒れた。
そして、そのゴブリンの後ろに黒い姿があった。
それは、まん丸目を怒りで充血させ、相当に興奮しているのか息づかいが荒い陸竜。
「……べ、ベーン」
「ゴギャアァァァァ!!」
痛みをこらえて、その陸竜の名を呼ぶアサム。
その一言が起爆剤になったのか、ベーンは咆哮を轟かせた。
前線から遠いドワーフの集落の広場は簡易的な治療用の陣地になっていた。
とは言え治療魔術を扱えるのはアサムとルナとごく少数の者達だけ。負傷者がたくさん来たら、手に負えなくなるだろう。
しかし、戦況が優勢なのか運びこまれてくる負傷者は少なかった。
「これで、もう大丈夫ですよ」
腕を負傷していたダークエルフの女性に告げるアサム。
彼の治療魔術は見事なものである、傷は綺麗に消え、痛みもなく、違和感もない。まるで再生のようであった。
「ああ。ありがとう、助かる」
ダークエルフは自分の腕を見て、アサムに礼を言うのであった。
しかし、ここでダークエルフは良からぬ行動にいたった。
彼女はアサムの両手を掴み取ると、彼の顔をマジマジと見つめた。
「やはり魅力的だ。ポチャプルとした体に、美しいスベスベの小麦色の肌。……こんな極限下だ、分かるだろ。子種を残したくなるのは生物の本能だ。……君にはぜひとも、種を植え付けたいのだ。なぁに、愛情があれば男だって妊娠できる」
「……あ、あのう……ど、どうされたんですか?」
狂気の発言をしながら顔を近づけてくるダークエルフにアサムは困惑することしかできない。
だが、助けがやってきた。
「治療が終わったら、戦いに戻るわよ。もう、なにやってんのよ」
「ちょっと、まだ話が……」
同じく治療を受けた別のダークエルフがやって来て、彼女を連れ去って行ったのだ。
「抜け駆けは、許さないわよ。彼を頂くのは、この私よ。ぬふふふふふ……」
だが、連れ去っていったダークエルフも怪しげな笑い声をあげるのであった。
「ふぅ……いったい今のは」
ひとまず安堵の息を吐くアサム。
彼が治療に従事すると、たまにこういうことがある。
そして、アサムは前線の方に目を向ける。
戦場から遠くとも、多種族の戦士達と魔物達が殺し合う音が集落まで響いてくる。武器がぶつかり合う音、悲鳴や絶叫。
クサマの機関砲の掃射音、白鯨を倒し終えて魔物達の戦いに加わったムラトの重量感ある足音。
しばらく前には、オボロと大亀が戦っている位置で幾度も爆発音が発生していた。
音だけで、血生臭いことが起きているのが理解できるのだ。
「……戦いは嫌いだけど、しかたないことなんだよね」
アサムは前線を悲しげに見ながら呟くのであった。彼のその思いは真っ白で純粋なものだろう。
戦わないでほしい、傷つかないでほしい、死なないでほしい、と言う思いの。
と、いきなり彼等の周囲に多数の閃光が発生した。
魔王ルキナは玉座で狼狽えていた。
彼女の視界に映るのは戦場。魔術によってリアルタイムで現場を見ている
魔王軍はかなり劣勢であった。神が創造した新型の魔物はことごとく敗死。魔王の力で強化した魔物の部隊も、かなり押されている。
と、念話で魔王の頭の中に声が響き渡った。
(魔王様!)
(ザック!)
念話を発してきたのは魔王軍幹部の一人ザックであった。彼は今、魔王城から東に数百メートル程のところにある魔王軍本部にいる。
(ザック! 第二陣の準備はできてるの?)
(はい、整っております。……しかし、二陣を送り込んでも結末は同じでしょう)
(……くっ……あの集団のせいか)
魔王ルキナは言葉をつまらせた。
突如現れた、傭兵らしき集団が強すぎるからだ。奴等のせいで、魔王軍が一方的に押されている。
(……魔王様、考えがあります)
と、ザックから言葉が送られてきた。
(あの集団の中に戦闘要員でない奴が一人います。そいつを人質にするのです。そうすれば、奴等もおとなしくなるでしょう。人質を捕らえるため、すでに強化されたゴブリン達を転送しました)
(なんですって!)
ザックの作戦を聞いてルキナは、思わず大きな声を出してしまった。
人質をとるなど、とんでもない。そんな真似、人でなしがすることだ。
そんな手段を用いて勝っても、胸を張って真の魔王などと名乗れるだろうか。いくら戦争とは言え、ルールはある。
ルキナが、すぐにその作戦を中止するように告げようとした時だった。
突如、ザックが騒ぎ始めたのだ。
(な、なんだ! どうした……外だと)
魔王軍本部で何かが起きているようだ。トラブルだろうか?
(どうした? 何かあったのか)
(……本部上空に、球体状の何かが飛来してきました。……光沢があり、まるで金属です! ……球体が変形していきます! まるでスライムのようにも……。うわあぁぁぁ!! 魔物達が凍ついていく! 魔王様! 魔王様あぁぁぁ!!)
絶叫のあと念話は完全に断たれた。
「ちょっと! どうしたの! お願い応答して!」
何度ルキナが叫んでも、返答が帰ってくることはなかった。
集落で治療に従事していたアサム達の周囲で無数に輝くのは転移魔術の陣。
そこから現れたのはゴブリンであった。
だが普通のゴブリンではない、身長が高く、極めてスタイルが人間に近い。
そして手にしている武器もかなり上質なものであった。
「ご、ゴブリン? でも通常の個体じゃない」
アサムが声をあげた。
「然り、我々は普通のゴブリンではない」
一匹のゴブリンが語り始める。
普通のゴブリンは人語を理解できるほどの知能を持ち合わせていない。
しかし、ここにいるゴブリンは完璧な言葉を口にしている。
「我々はゴブリンG。魔王様より力を授かることで、知恵と強靭な肉体を手にした存在よぉ」
そして、そのゴブリンGはアサムをギョロリと睨み付けた。まるで目的のものを見つけたように。
「集落の中に魔王軍は来ないと思っていたか?」
「迂闊すぎたな」
「ここは全て戦場だぜ」
嫌らしくジリジリと迫ってくるゴブリン達。
ただのゴブリンなら、ここの者達だけでもどうにかできるであろう。
しかし相手は、頭も冴え、屈強な肉体をしたゴブリンG。とても対処できそうにはない。
「よるなゴブリンども!」
ルナは勇気を振り絞って、有刺鉄線を巻き付けた杖を振り上げた。
その行動に大弓を持った二匹のゴブリンが反応した。
ルナに向けて矢が放たれる。大弓から射られた二本の高速の矢が彼女を貫く寸前。
「ルナさん! あぶない!」
アサムがとっさに突進するように飛びつき、ルナを押し倒した。二人は地面に倒れこむ。
矢は外れたかに見えた。
「……くっそう」
悔しげな声をあげながら起き上がるルナ。
しかし、彼女は自分の顔が温かいもので濡れていることに気づいた。
それに手を触れると、真っ赤な液体であった。
「……これって、まさか……」
彼女がその温かい液体の正体を理解したとき、横で倒れているアサムが悲鳴をあげた。
「あ゛あぁぁぁ!!」
矢は外れていなかった。高速の矢はアサムの左肩口と左大腿の肉を、ひどく抉っていたのだ。
「アサム!」
ルナは彼の傷を確認した。出血が多く、処置しなければ危険かもしれない。
だがゴブリンどもは、それを許さない。
「その小僧は使い道がある。そいつの仲間のせいで魔王軍は、大打撃だ。小僧を人質にすれば、連中もおとなしくなるはずだ」
アサムを奪わんと、武器を手にして魔物達が嫌らしく詰め寄ってくる。
ルナはアサムを抱き寄せると声を荒げた。
「近づくな! 誰が貴様らなどに渡すか! この子だけは、命にかえても……」
しかし無慈悲にゴブリンどもは寄ってくる、ゴブリンとは非常に下劣な存在。
アサムを奪われたら人質だけでなく、何をされるかなど分かったものではない。
「ホアァァー!!」
その時、おかしな雄叫びのようなものが響き渡った。
そして、それはいきなり登場する。
「ごはぁ!!」
ゴブリンG達の最後部で悲鳴があがった。
その場にいた全員が、声のしたほうへと顔をむけた。
そこに佇むのは、胴体にポッカリと穴があいたゴブリン。あけられた穴からドボドボと内臓を溢して倒れた。
そして、そのゴブリンの後ろに黒い姿があった。
それは、まん丸目を怒りで充血させ、相当に興奮しているのか息づかいが荒い陸竜。
「……べ、ベーン」
「ゴギャアァァァァ!!」
痛みをこらえて、その陸竜の名を呼ぶアサム。
その一言が起爆剤になったのか、ベーンは咆哮を轟かせた。
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