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最終魔戦

起動超人出陣す!

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 幹部や新型魔物達が移転してきた位置から集落を挟んで反対側の遠く。
 そこには蟻の大群のごとく多種多様な魔物の集団で溢れていた。
 雑魚魔物のゴブリン、巨体を誇るトロール、獰猛さと怪力を持つオーガ、翼と毒の尾をしならせるワイバーン、そして最後方には体高三十メートルはあろうゴーレム。
 その総計は千を軽々と越えている。
 集落一つ攻めるには、あまりにも常軌を逸した数である。それだけ、魔王は激怒しているのだろう。
 それに比べ、集落側の戦力は百と少々と言ったところ。
 傍から見れば、どう考えても勝ち目がない光景であった。

「グギャアッ!」

 一匹のゴブリンが号令と思わせる叫びをあげた。
 そのとたん地鳴りのような音が響く。
 魔物大群が洪水のように押し寄せて来たのだ。
 最前列をいくのはゴブリンであった。
 ゴブリンは小型魔物の分類だが、数がそろうと中々の迫力である。さらに奴等の持つ武器は、確り磨きあげられており普通のゴブリンでないのはたしかだろう。
 そして、その軍勢を迎え撃とうとするのは、毛玉人、エルフ、ダークエルフ、ドワーフ、ハーピーの多種族の即席の戦力。そして起動超人と、それを操る少女。

「クサマ! なぎはらって! 十指機関砲じゅうれんぽう!」
「ン゛マッ!」

 ナルミが懐中時計型声紋コントローラーに語りかけると、巨大なる機械仕掛けの超人が声を発した。
 クサマは方膝をズシリと地につけると、両腕を伸ばし指先を先頭を駆けるゴブリン達に向けた。
 そして指先から、高速の砲弾が放たれた。
 轟音が幾度も鳴り響く。
 クサマの指に搭載された機関砲は攻撃魔術を遥かに凌ぐ威力を持ち、それを連射することができる。液体装薬のため薬莢は発生しない。
 さらに人工頭脳による照準で正確にゴブリンを撃ち抜く。
 ……どころの話ではなく、血飛沫にかえてしまった。それだけにとどまらず、衝撃波の影響で着弾位置周辺のゴブリンまで吹き飛ぶしまつであった。

「……うわぁ、さすがにオーバーキルだよね? やっぱり魔物用の武装じゃないなぁ……」

 クサマの指先から放たれた砲弾は超音速マッハ三にも達した。本来なら対宇宙生物用の火器。
 これを受けたゴブリン達は粉々になり、後方の魔物達もたまらず足を止めた。

「つうか、本当に何なんだ? このゴーレムみてぇなのは?」
「……なんかの飛び道具だとは思うが、目で見えなかった」
「並の魔術なんかじゃ比較にもならねぇ」

 周囲の人々は三十メートルを越える、巨兵を見上げて呟いた。
 砲弾一発でも通常魔術の破壊力をはるかに凌ぐ。
 彼等から見れば、魔術よりも強力な飛び道具をばらまいたようにしか見えていないのだ。

「ようし! みんな突っ込むぞ!」
「さっきの攻撃でゴブリンどもは、混乱している! 今がチャンスだ!」

 ドワーフとエルフが声を張り上げた。
 さっきの掃射で魔物の突撃は停止して、あたふたとしているのだ。
 しかし。

「みんな待って! あせらないで」

 突っ込もうとした戦士達をナルミは引き止めた。

「まだ、敵の戦力を消耗しきれてない。今、突っ込んでも囲まれるよ。もう一発、お見舞いする!」

 ナルミは冷静だった。
 機関砲によりひるませることはできたが、主力クラスの魔物は、ほぼ無傷。今、突撃するのは得策ではなかった。
 もっと戦力を消耗させるため、ナルミはクサマに指示を出す。

「クサマ! 八連装誘導弾はちれんばくそう!」
「ン゙マッ!」

 ナルミの指示に従順に返答したクサマは肩部の装甲を開く。
 そして、両肩合わせて計十六門の発射口から精密誘導弾が次々と射出された。
 無論のこと誘導弾は、高速かつ正確に魔物の軍勢に向かっていた。
 そして強烈な爆炎が横一線に広がり、多数のゴブリンや主力クラスの魔物達が吹き飛んだ。
 魔物達の死骸や肉片が天高く舞い上がる。
 この第二波の攻撃により魔物の軍勢は総崩れになり、こちらが突撃する時が来た。

「しゃあっ! 行くぞ!」
「今度は、我々が魔王軍を攻める番だ!」

 武器を手にした、あらゆる種族達が大声を発し駆け出す。
 剣、斧、棍棒などを振り回しながら混乱する魔物達の中に突っ込み、各々自慢の武器を振り下ろす。
 魔物達の叫びと鮮血が飛び交う。
 クサマの火器が相当に効いたためか、魔物達はまともに抵抗できずに餌食に成り果てていく。
 しかし数だけは、今だに魔物達のほうがはるかに上。後方にもかなりの数がうごめいていた。
 そして、最後尾には巨大なゴーレム。

「クサマ、あたし達はあのゴーレムを叩くよ!」
「ン゛マッ!」

 ナルミはクサマの手に飛び乗ると、敵軍の最後方に移動するように伝えた。
 クサマは斥力場を発生させ、その千トンを越える巨体をみるみる上昇させていく。
 上空からナルミは敵の軍勢を見下ろした。
 クサマの火器で前衛は大きく削れたが、後方はまだまだ健在。
 多勢に無勢ゆえに、囲まれれば危険だ。
 そして、その軍勢の中でも最後尾にいるゴーレム達は切り札であろう。
 ナルミは、そう思いながらゴーレム達に目を向ける。

「いくらなんでも大きすぎるよ」

 本来ゴーレムは大きくとも七、八メートル程だ。しかし、視線の先にいる個体は三十メートルにもなる。
 明らかに普通のゴーレムではないだろう。

「きっと、魔王の力によるものだよね」

 戦いが始まる前に、魔王軍に従える魔物達は魔王によって力を授けられていると聞かされていた。
 ゆえに、あれほど巨大なゴーレムになったのだろう。
 このサイズでは、おそらく集落の戦力では太刀打ち不可能だろう。
 ならば、このゴーレム達を相手するのは、彼しかいない。

「ン゙マッ!」

 クサマは降下して、ゴーレム達の前に着陸する。そして、進行を阻止するように立ちはだかった。
 機械の巨大超人と六体の岩石の巨兵、無機質な巨人同士の戦いが火蓋を切った。 
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